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Wi-Fi 7ルーターは“値下がりを待つ”が正解と言えない理由。Wi-Fi 7で知るべき3点も解説
2024年2月5日 06:22
2023年末に320MHzが解禁され、国内メーカーのバッファローからも対応モデルが発表となった「Wi-Fi 7」。国内でのWi-Fi 6対応製品の発売が2018年12月(ドラフト版:ASUS RT-AX88U)だったので、約5年ぶりのメジャーな規格変更となる。現状のWi-Fi 6/6Eとの違いについて簡単にまとめつつ、今買うべきなのか?を検討してみよう。
(1) Wi-Fi 7は何がスゴイのか?
(2) Wi-Fi 7最大の魅力「MLO」
(3) PCやスマホの320MHz幅接続は「今は」不可
(4) 低価格モデルは期待通りの性能が出ない可能性
Wi-Fi 7は何がスゴイのか?
Wi-Fi 7は、これまでのWi-Fi 6/6Eの後継となる最新のWi-Fi規格だ。
規格と言っても、正式なものではなく、業界団体のWi-Fi Allianceが定めた互換性を示す認証プログラムなので、どちらかというと愛称のようなものとなる。
正式には、IEEE 802.11beという規格になっており、以下のように規格上は最大46Gbpsを実現可能な無線LANの方式となっている。
Wi-Fi 6/6E | Wi-Fi 7 | |
---|---|---|
規格 | IEEE 802.11ax | IEEE 802.11be |
最大速度 | 9.6Gbps | 46Gbps |
周波数帯 | 2.4/5/6GHz(6E) | 2.4/5/6GHz |
帯域幅 | 20/40/80/160MHz | 20/40/80/160/320MHz(6GHzのみ) |
変調方式 | 1024QAM | 4096QAM |
ストリーム数 | 8ストリーム | 16ストリーム |
MLO (Multi Link Operation) | - | 対応 |
もちろん、規格上のフルスペックで通信するには、16ストリーム(16本のアンテナ)が必要なので商品として現実的ではないため、通常は4ストリーム対応で11.5Gpbsとなるのが一般的だ。
それでも、従来のWi-Fi 6/6Eが製品レベルで最大4.8Gbps(同じく4ストリーム)だったので、最大で2.4倍(6GHz帯)ほどの速度向上が見込める規格となっている。
技術的には以下の3つがポイントとなる。
- 4096QAM(4K QAM)
- 320MHz幅
- MLO(Multi Link Operation)
詳細は以下を参照してもらうとして、今回は簡単に速度ベースで違いを解説する。
以下の図は、4ストリーム(MIMOによる空間多重4系統)の場合のWi-Fi 6/6EとWi-Fi 7の速度の違いを示したものだ。Wi-Fi 7の高速化要因の2つ「4096QAM」と「320MHz幅」によって、どのように速度が追加されているのかを示している。
4096QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)は、データを変調するときの効率を示したものと考えるといい。従来のWi-Fi 6では搬送波あたり1024QAMで最大10bitのデータをやり取りできる仕様だったが、Wi-Fi 7では4096QAMによって最大12bitのデータをやり取りできる。
つまり、10bit→12bitで1.2倍の高速化が実現できる。図版のように、Wi-Fi 6/6Eでは1ストリームあたり1,201Mbpsが最大となるので、これが1.2倍され1,441Mbpsになるわけだ。
続いて、320MHz幅は、データを搬送する際に利用できる電波の帯域幅が倍になる。つまり1ストリームあたり、(1,201+240)×2で2,882Mbpsとなる。今回、バッファローから発売されたWXR18000BE10Pもそうだが、4ストリーム対応モデルの6GHz帯の速度が11,528Mbpsとなっているのは、こうした仕組みとなる。
なお、320MHz幅は6GHz帯でのみ許可されているので、5GHz帯を利用する場合は4096QAMの分のみ高速化されることになる。
このように、Wi-Fi 7の特徴はシンプルに高い速度が実現できる点にある。もちろん、規格の趣旨としては、遅延を減らし、医療やVR、自動車などのさまざまな分野に応用しやすくするという点もあるが、消費者としてもっとも分かりやすいメリットは、このような速度向上が期待できる点にある。
Wi-Fi 7最大の魅力「MLO」
このようにベースとなる速度が向上するWi-Fi 7だが、実は最大の特徴と言えるのは、もう1つの「MLO(Multi Link Operation)」にある。
これは、簡単に言えば、複数の周波数帯を利用する技術だ。以下の図のようにさまざまな使い方が想定されているが、やはりインパクトが大きいのはすべての帯域を束ねて高速化する方法だ。
実際、この方法は現状の製品レベルでも高い効果を発揮できており、実際の速度テストでも6~7Gbpsという驚異的な通信速度を無線で実現することも可能になっている。
このため、Wi-Fi 7ルーターを複数台利用したメッシュ環境や、今後登場するであろうWi-Fi 7ルーター+Wi-Fi 7中継器という構成で威力を発揮する。
なお、技術的にはMLOはPCやスマホでも利用可能だが、内部スペースの問題や消費電力の問題で商品化されるのは困難だと思われる。医療機器などに組み込まれる可能性はあるが、一般的にはメッシュでの利用になるだろう。
PCやスマホの320MHz幅接続は「今は」不可
気になるPCやスマホなどのクライアントの対応状況だが、本校執筆時点(2024年1月29日)では「正式に」Wi-Fi 7対応を表明しているPCやスマホは存在しない。
Core Ultra搭載の一部PC(MSI「Prestige 16 AI Evo B1M」)やGoogle Pixel 8/8Proなど、海外ではWi-Fi 7対応として販売されている製品は存在するが、スペック表では日本国内ではWi-Fi 6/6Eとなっている。
Wi-Fi 7対応のIntel Wi-Fi7 BE200/202などのモジュールも流通しているが、これもハードウェアとしてはWi-Fi 7対応だが、現状のドライバでは320MHz幅で接続することはできない。
4096QAMが使えれば、従来のWi-Fi 6の2,402Mbps→2,882Mbpsと1.2倍の高速化は実現できるが、320MHz幅の利用は、今後のドライバアップデートやファームウェアアップデートが必要になる。
はっきりと断言することはできないが、Wi-Fi 7の場合、技適の同番申請が可能と考えられるため、Wi-Fi 6Eのときよりもドライバやファームウェアでの対応はしやすいと考えられる(番号が変わらないため表示義務のやり直しの負担がない)。このため、ハードウェア的に対応しているPCやスマホであれば、近いうちに対応ドライバやファームウェアがリリースされる可能性が高い。
低価格モデルは期待通りの性能が出ない可能性
結局のところ、Wi-Fi 7対応ルーターを買うかどうかという話になるが、購入をおすすめできるのは以下の2つのパターンとなる。
(1) MLOによる超高速Wi-Fi 7メッシュを構築したい人
前述したようにWi-Fi 7のMLOの威力は絶大だ。よって、屋内に隈なく、超高速なWi-Fi環境を構築したいという人には、予算さえ許せば、絶対におすすめできる。現状のWi-Fi 6/6Eのハイエンドモデルを買える予算があるのであれば、もう少し追加してWi-Fi 7対応モデルを買ったほうが幸せになれる。
(2) 最新PC/最新スマホを活かしたい人
Core Ultraシリーズや最新スマホなど、ハードウェア的にWi-Fi 7に対応しているデバイスをすでに持っている場合は、Wi-Fi 7ルーターを購入する価値がある。
ただし、実際に購入するのは、対応ドライバや対応ファームウェアが登場するのを確認してからのほうがいい。対応すれば、320MHz幅の5,764Mbpsで接続できるようになる。
もちろん、価格が高いというのは、現状のWi-Fi 7対応ルーターの課題ではあるが、 Wi-Fi 7に関しては価格が下がった(価格の安いモデルが登場した)からと言って“買い”だとは言えない。
なぜならば、従来のWi-Fi 6/6Eは、ハイエンドがトライバンド(6/5/2.4GHz対応)、エントリーモデルがデュアルバンド(5/2.4GHz対応)のような分け方が可能だったが、Wi-Fi 7のメリットは、前述したように6GHz帯で320MHz幅が使えることとMLOが使えることなので、デュアルバンド対応ではこのメリットが活きてこない。
デュアルバンドでも2.4GHzと5GHzでMLO可能だが、2.4GHz帯は混雑によってあまり速度が期待できない。MLOは、空いていて、320MHz幅が使える6GHz帯が使えてこそ意味がある。
今までは、Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eの違いは、「空いている6GHz帯使えるかどうか」だった。このため、ハイエンドモデルではなく、エントリーモデルを選んでも、さほど大きな違いはなかった。
しかし、今後Wi-Fi 7では、ハイエンドは320MHz幅もMLOも使える高速モデル、エントリーは320MHz幅もMLOもない言わば「Wi-Fi 6+」のような存在という格差が生まれる可能性が高い。
なので、価格低下を期待して待ったとしても、期待通りの性能のモデルが登場するとは限らず、結局ハイエンドモデルを選んだほうがいいという話になりかねない。
個人的には、今回のWi-Fi 7に関しては、様子見をする必要はなく、予算さえ許せば購入することをおすすめしたいところだが、高すぎると感じるのであれば、現状のWi-Fi 6/6Eのリーズナブルなモデルを買うのもありだろう。