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メッシュWi-Fiルーターと中継器の違いは?何が速いの?バックホールでかなり変わるその実力、松竹梅の3機種で比較
2023年10月3日 06:21
複数台のアクセスポイントを連携させることで、通信エリアを広げたり、接続可能台数を増やしたりすることができるメッシュWi-Fiルーター。手軽にWi-Fi環境を改善できることから人気だが、一般的なWi-Fiルーターや中継機に比べると価格が高く、その違いも分かりにくい。ここでは、TP-LinkのメッシュWi-Fiルーター3モデルをピックアップし、どのような違いがあるのかを検証してみた。
(1) 1万円から10万円オーバーまで幅のあるメッシュWi-Fiルーター
(2) 2台セットのメッシュで生きる「Wi-Fi 7」
(3) TP-Linkの松竹梅3機種をピックアップ
(4) メッシュWi-Fiルーター3機種のスペックの違い
(5) 【検証】戸建てとマンションで速度テスト
(6) 現実的なのはWi-Fi 6E
1万円から10万円オーバーまで幅のあるメッシュWi-Fiルーター
メッシュWi-Fiルーターは、複数台のアクセスポイントを組み合わせることで、通信エリアを拡大できる製品だ。
メッシュWi-Fiルーターの場合、一般的なWi-Fiルーターと異なり、たいていは2~3台のセットで販売されており、ルーターとして稼働するメインの機器と、電波の届きにくい場所へと通信を中継するサテライト機器によって、家中をくまなくカバーするWi-Fi環境を構築できる。
「メッシュ」という言葉の通り、本来は、3台以上を組み合わせた際に、アクセスポイント間をメッシュ状に相互接続できるのが特徴で、万が一どこかの通信経路が遮断された場合でも、別の経路を使って通信を維持できるようになっている。
一般的な2台構成の場合、こうしたメッシュならではのメリットが生まれない。そのため事実上、中継機と変わらないが、本来はこうしたメッシュならではの柔軟な経路設計が可能な点がメリットとなる。
ただし、最近では中継機にもメッシュ機能が搭載されるようになってきたため、機能的な違いはほぼなくなりつつある。実質的には、最初からセットになっているのがメッシュ、後から追加購入するのが中継機、というマーケティング的な意味合いで使い分けがなされている状況だ。
メッシュ対応製品は、メーカーによって取り組み方が大きく異なり、今回取り上げたTP-Linkや同じく海外メーカーのNETGEARなどは豊富なモデルをラインナップしているが、国内メーカーでは専用モデルを用意するというよりは、既存のWi-Fiルーターにメッシュ機能を搭載する方向となっている。
このため、メーカー横断的にモデルを分類することが難しいが、TP-Linkのモデルで分類するとすれば、以下のようになる。
TP-Link製ルーターの価格帯ごとの違い | |
---|---|
1万円以下 | Wi-Fi 5対応の廉価モデル |
2万円前後 | Wi-Fi 6対応のデュアルバンドモデル(2.4+5GHz) |
3~5万円 | Wi-Fi 6/6E対応のトライバンドモデル(2.4+5+6GHz) |
10万円以下 | Wi-Fi 6E対応のトライバンド高性能モデル(2.4+5+6GHz) |
10万円以上 | Wi-Fi 7対応の最新鋭モデル(2.4+5+6GHz) |
一般的には、価格的にも手に取りやすい2万円前後のモデルが人気だが、後述するテスト結果から見ても分かる通り、デュアルバンド対応機は性能的に不利になるケースがある。
個人的には、アクセスポイント間を無線でつなぐ専用の「バックホール」を設定できるトライバンドモデルの利用を強くおすすめする。中でもWi-Fi 6E対応モデルは、バックホールに空いている6GHz帯を利用できるため、通信エリアの拡大や安定性の向上のみならず、実効速度も向上させやすい。
2台セットのメッシュで生きる「Wi-Fi 7」
なお、純粋に性能を求めるのであれば、かなり高価だが最新のWi-Fi 7に対応したモデルは文句なしにおすすめだ。
現状のWi-Fi 6/6Eの後継となるWi-Fi 7は、正式にはIEEE 802.11beと呼ばれる規格で、現在もまだ規格の策定が行なわれている最中となる。正式策定は2024年が見込まれており、今販売されているのものは技術的な仕様がほぼ固まったドラフト版となる。
Wi-Fi 7では、さまざまな新技術が採用される予定となっているが、そのうちの320MHz幅に関しては、法令対応が必要となっており、本稿執筆時点では日本では利用できない(おそらく2024年に入るのではないかと予想される)。このため、4096QAM変調(搬送波あたりの伝送可能データを10bit→12bit化)、およびMLO((Multi-Link Operation)、MRU(Maximum Receive Unit)などの技術のみでスタートする。
このうちのMLOは、まさにメッシュ向けと言える機能だ。MLOは簡単に説明すると複数帯域を束ねて通信する技術だ。従来、個別利用していた2.4GHz、5GHz、6GHzの各帯域を束ねて、10Gbpsクラスの通信が可能になる。
Wi-Fi 7に対応したスマートフォンやPCはまだ存在しないため、MLOが活躍するシーンはない。しかしメッシュの場合、同じWi-Fi 7対応機がセットになっているため、アクセスポイント2台の間の通信、つまり前述したメッシュのバックホールとしてWi-Fi 7(4096QAMおよびMLO)を利用できる。
この恩恵がとてつもなく大きい。従来のメッシュでは、基幹となるバックホールが干渉や混雑で速度が落ちるケースも少なくなかったが、MLOによって複数帯域を束ねることで、有線並み、否、有線以上のバックホールを構築可能で、超高速なメッシュWi-Fi環境を堪能できる。予算さえ許せば、現状最善の選択肢と言える。
TP-Linkの松竹梅3機種をピックアップ
それでは、実際に候補となる3製品を見ていこう。前述したように、今回はメッシュモデルのラインナップが豊富なTP-Linkのルーターをピックアップした。すべて2台セットのモデルとなっている。
【松】Deco BE85(2パック) 実売13万円前後
Deco BE85は、日本初のWi-Fi 7対応製品。ハードウェア的には、11,520Mbps(6GHz)+8,640Mbps(5GHz)+1,376Mbps(2.4GHz)に対応しているが、日本の法令では160~320MHzの帯域の使用が許可されていない(将来的にファームウェアアップデートで対応可能と予想される)。
そのため、現時点で利用可能な速度は5,760(6GHz)+5,760(5GHz)+1,376(2.4GHz)Mbpsとなる。アクセスポイント間のバックホールにMLOを利用可能で、5,760+5,760+1,376=12,896Mbpsを利用可能。
サイズはかなり大きいが、デザインがシンプルで底面積も広くないため、設置場所は意外に選ばない。とにかく性能重視のユーザー向け。
【竹】Deco XE75(2パック) 実売3万4,000円前後
Deco XE75は、Wi-Fi 6Eに対応したトライバンドメッシュWi-Fiルーターながら、実売価格が3万円台とコストパフォーマンスに優れた製品。
Wi-Fi 6Eの6GHz帯をアクセスポイント間のバックホールとして利用できるのが最大の魅力。中継用とクライアント接続用の帯域を分けられるうえ、周囲で5GHz帯を利用している場合でも混雑を避けて、安定した中継路を確保できる。
サイズもさほど大きくないうえ、デザインもシンプルなためバランスのいい製品。
【梅】Deco X50(2パック) 実売2万3,000円前後
Deco X50は、Wi-Fi 6対応のメッシュWi-Fiルーター。2,402Mbps(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)のデュアルバンドとなるため、中継用のバックホールとクライアント接続の帯域を共有することになる。
2万円台のメッシュWi-Fiルーターとしては性能が高い方だが、基本的にあまり広くない環境、かつ接続台数もさほど多くない環境向け。
メッシュWi-Fiルーター3機種のスペックの違い
まずは、スペックを比べてみよう。以下が、上記3製品のスペックだ。
Deco BE85 | Deco XE75 | Deco X50 | |
---|---|---|---|
実売価格 | 13万円前後 | 3万4,000円前後 | 2万3,000円前後 |
対応規格 | Wi-Fi 7 | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6 |
バンド数 | 3 | 3 | 2 |
160MHz対応 | 〇 | 〇 | 〇 |
2.4GHzの最大速度 | 1,376Mbps | 574Mbps | 574Mbps |
5GHzの最大速度 | 5,760(8,640)Mbps ※カッコ内は320MHz認可後の速度 | 2,402Mbps | 2,402Mbps |
6GHzの最大速度 | 5,760(11,520)Mbps ※カッコ内は320MHz認可後の速度 | 2,402Mbps | - |
2.4GHzのチャネル | 自動選択 | 自動選択 | 自動選択 |
5GHzのチャネル | 自動選択 | 自動選択 | 自動選択 |
6GHzのチャネル | 自動選択 | 自動選択 | 自動選択 |
2.4GHzのストリーム数 | 4 | 2 | 2 |
5GHzのストリーム数 | 4 | 2 | 2 |
6GHzのストリーム数 | 4 | 2 | - |
アンテナ | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 |
WPA3 | 〇 | 〇 | 〇 |
メッシュ | 〇 | 〇 | 〇 |
LAN | 10Gbps×2+2.5Gbps×2 | 1Gbps×3 | 1Gbps×3 |
USB | USB 3.0×1 | - | - |
ファーム自動更新 | 〇 | 〇 | 〇 |
セキュリティ | HomeShield | HomeShield | HomeShield |
VPNサーバー | OpenVPN/PPTP/L2TP | OpenVPN/PPTP/L2TP | OpenVPN/PPTP/L2TP |
サイズ | 128×128×236mm | 105×105×169mm | 110×110×114mm |
最初に注目したいのは、やはり速度だ。松のDeco BE85は、Wi-Fi 7対応となるため、ワンランク上の速度を実現できている。もちろん、スマートフォンやPCなど、既存のWi-Fi 6/6E対応製品はこの速度でつなげることはできず、端末上は5GHzで2,402Mbpsや2.4GHzで576Mbpsとなる。
このため、スマートフォンやPC上でつながる速度は、今回の3モデルはどれも同じだ。スマートフォンは1,201Mbpsまたは2,402Mbps、PCは2,402Mbpsが最大速度となる。
違いが出るのは、先にも触れたバックホールで、Deco X50は5GHz帯の2,402Mbpsをバックホールとクライアントで共有するが、Deco XE75は6GHz帯の2,402Mbpsを専用バックホールに、Deco BE85はMLOによって合計12,896Mbpsをバックホールに利用できる。
このほかの違いとしては、有線LANのスペックにも注目したい。竹のDeco XE75と梅のDeco X50は1Gbps×3ポートとなっているが、Deco BE85は10Gbps×2、2.5Gbps×2と豪華だ。10Gbpsのポートは、通常のRJ-45に加え、SFP+にも対応しており、この排他で接続することが可能だ。
最終的にインターネットや家庭内のNASなどにつながるのは有線LANとなっており、ここに家中の機器のトラフィックが流れ込むことになる。このため、バックホールと同様に有線LANの速度も重要になる。
【検証】戸建てとマンションで速度テスト
それでは、気になる性能を比較してみよう。今回は、Wi-Fi 6対応のPCをクライアントとして接続した。このため、どの製品もクライアントの接続速度は最大2,402Mbpsで同じとなる。ポイントはバックホールの違いがどう影響するかだ。
3階建て戸建て住宅でのテスト
このテストでは、3階建ての木造戸建て住宅の1階に1台目を、2台目を3階の階段近くに設置した。1階と3階の各機器は、らせん状になってはいるものの階段を通じて、ほぼ真上に位置しており、間に障害物が少ない場所を選んで設置している。
この状況で、1階、2階、3階入り口付近、3階窓際(もっとも遠い場所)の4カ所でiPerf3による以下のコマンドで速度を計測している。
./iperf3 -c 192.168.1.140 -t10 -i1 -P10
./iperf3 -c 192.168.1.140 -t10 -i1 -P10 -R
この環境で注目してほしいのは3階の2カ所の結果だ。2階までは1階にあるアクセスポイントに接続されるため、メッシュではない単体のWi-Fiルーターと接続形態とは同じになる。3階以上の環境ではじめて3階に設置したアクセスポイントからバックホールを通って1階まで中継される。この性能が製品の違いとして現れるはずだ。
圧巻はWi-Fi 7対応のDeco BE85(松)だ。MLOによるトータル10Gbps近いバックホールの恩恵で、3階でも1Gbpsオーバーを実現できている。この値は、有線バックホール(LANケーブルでアクセスポイント同士をつないだ場合)よりも高速なので、かなり優秀だ。
グラフを見ると分かるが、2階での計測結果よりも、3階での結果の方が高い。これこそMLOによるバックホールの威力と言える。
続いては、6GHz帯をバックホールとして使える竹のDeco XE75だ。この3階の結果も、もっとも遠い3階窓際で370Mbps前後となかなか速い。空いている6GHz帯をバックホールで使えるため、通信も安定している印象だった。価格を考えると、この製品が現実的な選択肢と言えそうだ。
最後の梅となるDeco X50だが、これは今回比較した2製品に比べると値は低くなる。しかしながら、3階で200Mbpsオーバーをコンスタントに実現できているので、実用性はまったく問題ない印象だ。
ただし、前述したようにDeco X50はデュアルバンドとなるため、接続する機器が増えたり、5GHz帯が周囲と干渉したりすると、それが全体に影響しやすい。コンパクトで入門用としては完成度が高いが、個人的にはもう少し予算を追加して、竹のDeco XE75を買うことをおすすめする。
マンションでのテスト
続いて2LDKのマンションでのテストだ。建物の構造が鉄筋コンクリートなので電波が通りにくい状況となる。こちらの環境では、サテライトを廊下に設置して、各部屋および廊下で速度を計測している。
結果としては、前述した戸建てよりも全体的な値が高く、こちらの環境の方がメッシュの効果がよく表れている印象だ。
注目は「梅」となるDeco X50が健闘している点だ。長距離でも下りで400Mbpsを超えているので、価格を考えるとこのクラスで十分と言える。ただし、部屋1のルーター近くから、廊下に出たすぐの時点で、速度が900Mbps前後から500Mbps前後まで落ちている。
やはりデュアルバンドの場合、バックホールを共有するデメリットが速度に表れやすい。今回の検証はクライアントが1台なので、影響は少ないが、台数が増えるとパフォーマンスが物足りなくなる可能性が高い。
現実的な選択肢は、はやり「竹」のDeco XE75だろう。マンションのような電波を通しにくい環境で6GHz帯のバックホールの性能がどこまで落ちるかが気になったが、今回のテスト環境では扉などをうまく使って電波が伝わる環境のため、きっちり実力を発揮できている。
長距離でも700Mbpsオーバーとかなり速いので、複数台の同時接続でも快適さが失われにくいと想定できる。価格を考えてもこの製品はお買い得だ。
Wi-Fi 7の「松」Deco BE85は、マンションでも超ド級の速さが目立つ。家中ほぼ1Gbpsで、有線を超えてしまっている。もはや無線環境の「あがり」という印象だ。
参考として、サテライトの位置を変えた結果も載せておこう。
現実的なのはWi-Fi 6E
以上、松竹梅の3種類のメッシュWi-Fiルーターを実際にテストしてみたが、やはり価格が高くなるほど性能も向上する印象だ。
現実的な選択肢としては、Wi-Fi 6E対応のDeco XE75がおすすめだが、今回の結果を見るとWi-Fi 7対応のDeco BE85の破壊力の高さに感心させられる。もはや有線いらずといってもいい性能で、同じメッシュWi-Fiルーターと比べるのが気の毒な印象だ。
デュアルバンド対応モデルも、「電波の届く範囲を広げる」という目的であれば悪くない選択だが、実効速度も上がるとは限らず、逆に単体よりも低くなるケースもあり得る。なので、個人的にはトライバンドを強くおすすめする。単体モデルに比べて価格が高くなりがちなので、後悔しないようにじっくりと検討してほしい。