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テムザック、クモ型ロボット「SPD1」。下水道を群れで点検

 サービスロボット専業の株式会社テムザックは2022年11月8日、下水道点検の作業効率化を助ける多脚歩行式ロボット「SPD1」を開発したと発表し、東京・千代田区で「新型ワークロイド クモ型ロボット『SPD1』発表会」を開催した。ロボットはクモに似た外見で、8脚で歩行する。単体でも群れでも動作する。操作はゲームコントローラで行なえる。

下水道管渠内調査用 多脚歩行ロボット「SPD1」

「SPD1」

 下水道管渠(下水道管とマンホール)は1970年代頃から急激に整備され、現在は老朽化している。全国で下水道管渠の総延長は約49万km。そのうち総延長の5%の約2.5万kmの下水道管渠は標準耐用年数の50年を経過している。さらに10年後は8.2万km(17%)、20年後は19万km(39%)と今後は急速に増加する。一方、下水道工事現場では慢性的な人手不足で、点検や修繕が完了する見込みが立っていないのが現状となっている。

 「SPD1」は、その点検用のロボット。サイズは21×25×25cm(基本モデル)。重さは約3.5kg。オプションとして上部カメラ(Raspbwrry Pi Camera V2)や360度カメラ(XDV360)を搭載できる。電源はケーブル供給(DC 12.5V)。通信も有線LANケーブルを使用する。

下水道管渠点検をめぐる社会背景
ロボットのスペック
群れで行動することも単体で動くことも可能
8本脚で管の内径にそって歩行する
側面
裏面

 既存の点検機器の多くがタイヤ走行式であるのに対して、多脚歩行方式を採用。脚を管の内径に沿わせることで、異なる直径の管に1台で対応する。ロボットは単体でも群れでも行動可能で、群れの場合は1台目が前方確認、2台目が調査箇所記録、3台目が必要箇所作業といった形で役割分担する。

テムザックは実用サービスロボット「ワークロイド」で社会貢献を目指す

株式会社テムザック 代表取締役社長 川久保勇次氏

 テムザックではさまざまな場所で必要とされる労働(サービス)を代替する実用的なサービスロボットを「ワークロイド」と名付けて、労働環境を改善するロボットの開発を行なっている。このロボットはテムザックのいう「ワークロイド」第1弾となる。

 株式会社テムザック 代表取締役社長の川久保勇次氏は、同社の事業を「ワークロイドの開発・製造・販売」と紹介。「これからはロボットを作るだけではなくいかに広めるか。ロボットを文化として発信させていただくためにも本店を京都に移動した」と述べた。同社はこのほか、災害レスキューや警備、モビリティなどを手掛けている。いろいろなロボットを手がけることが「本当に役立つロボットを使ってもらえる近道だと思っている。我々はその先頭を突き進む覚悟」と語った。

さまざまな分野のロボットを手がけるテムザック
労働の代替を行なうロボットをテムザックでは「ワークロイド」と呼んでいる

 続けて、株式会社テムザック 代表取締役議長の髙本陽一氏は「産業用ロボットだけでは人を助けることができない。ワークロイドが人を助けるもの」と語り、そのコンセプトを紹介した。農業や建設、介護、警備、災害救助、保守点検などの業界において、募集しても人が集まらない仕事を助けるもので、単品ではなく群れで活動するようなロボットだという。これを新しい機械として捉え、同社では「ワークロイド」と呼んでいる。

株式会社テムザック 代表取締役議長 髙本陽一氏

 テムザックでは2018年に積水ハウスと共同開発した建築施工ロボットを発表した。今回の多脚点検ロボットのほか、さらに建築、農業、漁業などさまざまな分野で活躍できるロボットをどんどん発表していくという。そしてユーザー目線でワークロイドを考える「一般社団法人ワークロイドユーザーズ協会」を紹介し、そこからニーズを汲み上げて、他社も含めたメーカーとのマッチングも行なっていくと述べた。

 髙本氏は「ロボットという単語を捨てて、『ワークロイド』ということで進めていきたい」と強調した。

人が集まりにくい業界の仕事を助けるロボット
2022年をワークロイド元年としたいとのこと

2023年度に製品化予定

SPD1を紹介するテムザック 代表取締役社長 川久保勇次氏

 テムザック 代表取締役社長の川久保氏は、多脚歩行式の点検ロボットの開発経緯について「関西圏の会社の方から、既存機器の課題を伺った。現在の機器では見たい箇所が見られない。現在の機器は1台で何でもこなすために重たくなっていて、細い管は入りにくくなかなか普及してないとのことだった。そこで堆積物や汚水の影響を受けにくいものの開発を行なった」と述べた。

 下水道管は細くなったり太くなったりする。そこに対応するため足を開くことでφ200の管やφ300の管にも対応する。ロボットは群れでも単体でも稼働する。今後はカメラ以外のセンサーや作業可能なアームの追加なども検討する。小型化することで、1台が壊れても別のロボットで作業を継続させられるというメリットもあるという。

既存の点検機器ではまだ対応できない場所がある
「SPD1」は足を広げたり縮めたりすること管の内側に沿う

 簡単操作を重視し、ゲームコントローラーを使うようにしたのも現場からの要求によるものだという。重さ約3.5kgは下水道点検ロボット単品では最軽量に近い。バッテリ搭載ではなく電源ケーブルを引きずることにしたのも現場からのニーズとのこと。1日の作業距離は200mくらいを想定。

 今回公開されたものはプロトタイプで、これから2022年度は実際の下水道管調査現場で実証実験を行なったあと、2023年度には製品モデルの発表を予定する。外観はより実用的なものに変わる予定だが、もともとの遊び心も残したいとのこと。ロボット一式の最終販売価格の目標値は600万円。ロボットのアフターケアは国内で行なう。2024年度以降は、下水道点検以外の調査・作業市場への水平展開も狙う。

 川久保氏は「まだまだ人が亡くなることもある危険な現場は多い。少しでもきつい作業を少なくして、きついところは人がロボットをオペレートする新しい就業形態を作りたい」と語った。

実際の現場への適用・検討はこれから
今後の予定。2023年度製品化予定