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天の川中央の巨大ブラックホールの撮影に成功

いて座A*(出典:EHT Collaboration)

 国際研究チームイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーションは12日、地球規模の電波望遠鏡ネットワークを使用し、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*」の撮影に初めて成功したと発表した。

 天の川銀河の中心にあるいて座A*は、地球から約2万7,000光年離れた距離にあり、見かけの大きさは、月の上に置かれた直径8cm程度のドーナッツほどの大きさしかない。

 これを撮影するために、研究チームは世界各地の8つの電波望遠鏡を結んだEHTと呼ばれる観測ネットワークを作り、仮想的な直径が地球サイズの望遠鏡を作り上げた。そしてこのEHTを使い、いて座A*を複数晩に渡って観測し、カメラで長時間露光するようにして何時間もかけてデータを取得した。

 今回の撮影で重要な役割を果たしたのは、日本が国際協力のもとで運用に参加しているアルマ望遠鏡(チリ)。日本が参加しヘイスタック観測所が主導した国際チームが開発した最先端の装置を通し、何十ものアンテナが1つの巨大なアンテナとして合成され、EHTで最も高い観測局になったという。

 このアルマ望遠鏡による感度と精度の高い観測により、ブラックホールの周りのガス運動によって、いて座A*の明るさが観測中どのように変化し、EHTの観測データにどのように影響しているのかを詳細に調べられ、いて座A*の代表的な構造を画像化できたとしている。

 いて座A*は、先だって世界で初めて撮影された、5,500万光年離れた「M87」と呼ばれる銀河の中心にある巨大ブラックホールと見た目は似ているが、質量は1,000分の1以下。いて座A*もM87巨大ブラックホールも、周りにあるガスはほとんど光速に近い速度で運動するが、M87ブラックホールの周囲をガスが1周するのには数日から数週間必要であるのに対し、いて座A*は数分しかかからず、周囲のガスの明るさや模様が観測中に激しく変化するため、鮮明な写真を撮影するのが困難であり、研究者は新しい高度なデータ処理手法を開発しなければならなかった。

 今回、80の研究機関の300名以上の研究者の知を集結し、複雑な手法を開発。画像化のみならず、スーパーコンピュータを駆使してデータを組み合わせて分析し、前例のない規模のブラックホールの数値シミュレーション画像を多数作成し、観測データと比較して、5年間に渡って緻密に解析を行なった。

 具体的には、EHTの観測によって得られた数PBものデータから、最終的な画像や物理的な解釈に至るまでの全工程でスーパーコンピュータを駆使して大規模な計算を行ない、画像化の際に20万通り以上のパラメータの中から、最適な数千の組み合わせが選ばれた。

 研究チームは、M87と、いて座A*という2つのブラックホールの画像が得られたことにより、ブラックホールを比較/対比する機会が得られ、この新しいデータを用いて、巨大ブラックホール周りでのガスの振る舞いに関する理論やモデルのさらなる検証が始められた。このような研究は銀河の形成と進化において重要な役割を果たすだろうとしている。