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天の川を秒速120kmで撃ち抜く「弾丸」。野良ブラックホールの可能性が見えてきた

~慶應大らが発見

突入モデルに従った、Bullet形成過程の模式図

 ブラックホールとは、太陽のような恒星の質量の大きなものが核融合し尽くした後に、重力崩壊を起こし、1点にまで収縮した天体である。その重力は、あまりにも強大であるため、ブラックホールに近付いた物質は、例え光でも逃れることができない。つまり、ブラックホールは光などの電磁波を発しないため、観測することが困難だ。

 周囲に他の天体などがある場合は、その運動や、ブラックホールに吸収される物質の運動を観測することで、間接的にブラックホールの存在を確認できる。しかし、約137億年と言われる宇宙の年齢や、物質の量などを考えると、この天の川銀河には1億~10億ものブラックホールが存在しているはずと予測されるが、実際にブラックホール候補の天体として認識されているモノは60個ほどにすぎない。それは、大多数のブラックホールが伴星などを伴わない「野良ブラックホール」として存在しているからだと考えられている。

 そんな、観測することが極めて困難な野良ブラックホールの痕跡を、このほど慶應義塾大学大学院理工学研究科の山田真也氏と同理工学部物理学科の岡朋治教授らの研究チームが発見した。

 同チームは、太陽から約1万光年の距離にある超新星残骸W44の観測を通じ、W44に付随する分子雲中に、超新星残骸の膨張運動からは大きくかけ離れた、空間的にコンパクトな高速度成分を2013年に八件。「Bullet(弾丸)」と名付けられた、この直径約2光年の高速度成分は、天の川銀河の回転方向とは逆方向に120km/sの速度幅を示していた。

(a)超新星残骸W44方向のCO J=3-2スペクトル線強度(カラー)と1.4GHz連続波強度(等高線)の分布。(b)銀緯-0.472°におけるCO J=3-2スペクトル線強度の銀経-速度図。(c-f)Bullet 部分の銀経-速度図

 今回、国立天文台ASTE 10m望遠鏡と野辺山45m電波望遠鏡を用いて、分子スペクトル線による詳細なイメージング観測を行なったところ、詳細な空間・速度構造が分かった。具体的には、質量が7.5太陽質量で、運動エネルギーは10^48ergで、年齢は5,000~8,000年となる。この値は、これまで認識されているいかなる種類の天体でも説明が不可能だ。

 こういったことから、Bulletの駆動源としてブラックホールが本質的な役割を果たしており、それは伴星を持たない単独のブラックホールである可能性があるとの帰結を導いた。

 今回の成果により、野良ブラックホールの新たな観測手段が発展することが期待される。