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【懐パーツ】1チップ60コアの夢を実現した「Xeon Phi 5110P」

Xeon Phi 5110P

 このところ急激なCPUコア数が増加している。2018年頃まで、CPUは過去約10年間にわたって4コアをメインストリームに据え置かれてきたが、AMD Ryzenの登場により急速にコア数が増加。今や8コアが高性能デスクトップPCのスタンダードで、ハイエンドセグメントではRyzen Threadripper 3990Xで、ついに64コアに到達した。つい2年前に、筆者は3万円で10コアXeonの環境を手に入れ、「さっさとコア数を増やしてくれ」とぼやいていたのもつかの間、AMDがあっさりやってのけたのである。

 だが、1チップのメニーコアx86はじつはAMDが初というわけではない。Intelは2013年に「Xeon Phi」を投入しており、すでに60コアに達成していたからだ。今回、最上位だったXeon Phi 5110Pを、わずか3,000円(送料で1,100円ほどかかったが)で購入できた。こうしたHPC向け製品は、個人ではとくに使うアテはないのだが、普段お目にかかれないし、気になるのも確かなので買ってみた次第である。

 Xeon Phi x100シリーズはCPUではなく、CPUと協調して動作するコプロセッサだ。PCI Expressで接続されるので、イメージとしてはGPUに近い。だが、Xeon Phi x100はホストのOSとは別に、ボード上で別途Linuxが動作していて、プロセッサを制御している。PCに接続すると、PCのなかにもう1つPCがあるといったイメージだ。まあ、今どき別のOSが走っているデバイスは少なくないが、ホストOSからユーザーがSSH経由で明示的にLinuxと通信できるのはユニークである。

 さて、はじめて手にするXeon Phi 5110Pだが、見た目的にはファンがないビデオカードのようだ。実戦投入するには、何らかの手段でファンを取りつけなければならない。その前に、ボードがどうなっているのか、実物に興味があったので、とりあえずバラしてみた。ただ、そこそこ年数が経っていることもあり、グリスが固まってしまってなかなか外れなかった。とりあえずPCに取りつけて稼働させ、ある程度熱が溜まったところで外すことにした。

 ヒートシンクを外してとりあえず目につくのは、非常に強固なバックプレートと、銅をふんだんに使ったヒートシンクだ。Xeon Phiプロセッサに載せられたヒートシンクは銅製で独立しており、その周囲を別のアルミ製フィンを備えたヒートシンクが囲む。その周囲のヒートシンクは、GDDR5メモリの上を通過するように銅製ヒートパイプがU字型に回り込んでおり、相当排熱に気を配っていることがわかる。

 続いてボードに目を移すと、大きなプロセッサコアが中央に鎮座しているのがわかる。IntelはXeon Phi x100シリーズのダイサイズは明らかにされていないが、ヒートスプレッダの大きさから推測するに、メインストリームのGPUよりははるかに大きそうだ。海外で殻割り(ヒートスプレッダを除去)したユーザーのレポートによると、720平方mm台だという。

 メモリはエルピーダの2Gbit GDDR5「EDW2032BBBG」が表裏に16枚ずつ搭載されている。本機のメモリ容量は8GBで、512bitのバス幅で接続されているが、当時この広帯域と大容量を実現するために、表裏に搭載せざる得なかったのだろう。

 電源は左右に分かれており、合計12フェーズの構成。電源のPWMコントローラは、IR3541(4+1フェーズ、Intel VR12対応)とIR3538(8フェーズ、Intel VR12対応)。PWMコントローラのあいだに挟まっている「ICS9LRS3187B」は、ルネサスのプログラマブルタイミングコントロールハブである。

 背面に実装されているNXPの「LPC2365FBD100」は、Arm7プロセッサを内蔵した組み込み向けアプリケーションプロセッサ。Xeon Phi x100ではボード上で別のLinux OSが走っているが、このプロセッサを利用していると思われる。

 ボード上にはこのほか、VCoreとVDDQ電圧を検出するポイントが用意されているなど、意外と芸が細かい。全体的にみれば、さすがサーバー向けということもあり、豪華な作りという印象だ。

ボード背面。タンタルコンデンサが多数見える
化粧カバーやフルレングスブラケットを外したところ。このヒートシンクの形状からするに、上部から風を当てて冷却するのは難しいだろう
NXPの「LPC2365FBD100」はArm7プロセッサを内蔵した組み込み向けのアプリケーションプロセッサだ
ヒートシンクを外したところ
ヒートシンクは2ブロック構成
GPUのヒートシンクは銅製で、ベイパーチャンバー構造となっている
メモリの上をヒートパイプがぐるっと回る構造
VRM部のヒートシンクにもヒートパイプを備えており、側面の銅製フィンに熱を伝える
カードのエッジ部は背面のプレートと銅で接続されており、背面の熱をヒートシンク側に伝導しているようだ
カード表の熱伝導剤をすべて除去したところ
こちらはカード背面。とにかくGDDR5メモリに囲まれている
PCI Express補助電源コネクタ側に6フェーズの電源を備えている
後部にも5フェーズの電源が見える
電源のPWMコントローラはIR3541(4+1フェーズ、Intel VR12対応)とIR3538(8フェーズ、Intel VR12対応)
Xeon Phi 5110プロセッサとメモリのアップ

 ひととおり分解を終えたところで、グリスを塗り直し、実際に動かしてみた。まず注意したいのは、Xeon Phiを使うのにあたって、BIOSが「Above 4G Decoding」に対応する必要がある点。これはドライバが4GB以上のメモリ空間にアクセスするために必要なものだ。基本的にシステム対応していても、32bit OS互換性のためにオフにされており、オンにするためにはBIOSでその設定項目が用意されている必要がある。

 もう1つは、Xeon Phi 5110Pはサーバー向けに設計されたパッシブ冷却のため、自作PCにおいてはなんらかの手段で強制的に冷却をする必要がある点。試しに5110Pに風の流れが沿うように12cm角ファンを前面に適当に設置してみたが、ものの数分で過熱し、保護機構が動作して5110P自体がシャットダウンしてしまった。

 そこで、5100Pのフルレングスブラケットを用いて、オウルテックから販売されている山洋電気製の8cm角ファン「SF8-S5」をバンドで固定し、風をすべて送り込むよう堅い紙でダクトを設置したところ、アイドル時で40℃台を維持し、安定動作した。

 Xeon Phiを起動させるだけなら、Windowsのほうが楽だ。実際、Windows 10の環境において、Intel MPSSソフトウェアを入れるだけで問題なく動作した。動作確認や温度監視なども問題なく行なえた。

自作したファンダクト。硬めの画用紙を貼り合わせただけだ
フルレングスをエミュレートするブラケットにファンをタイで縛り付け、ダクトにセロテープで固定
このかたちにしてみたが、それでもファンブレードの隙間から少しの風が逆流してしまう。静圧の高いファンをおすすめしたい
底面はPCI Expressコネクタを回避するようにエアガイドをつける。さもないと風の多くがこちらから漏れ出てしまう
アイドル時40℃台をキープできた

 しかしいざ活用してみようと思うとなかなかハードルが高い。Xeon Phi x100シリーズ向けに用意されたダウンロード可能なアプリは皆無と言ってよいほどなく、ソースコードからコンパイルしようと思って「Parallel Studio XE 2020」を試用してみたが、なぜか「Comp-CLのライセンスがない」というエラーが出てコンパイルできなかった。おそらく過去のバージョンでサポートが切れているためだろうが、旧バージョンはすでにダウンロード提供が終了しているため詰んだ。

 ボード上ではLinuxが動作していて、なおかつ単なるx86のプロセッサなので、x86用LinuxアプリをXeon Phi用にコンパイルして転送してネイティブ実行すれば使えなくもない。先述のとおりボードとはPuTTYなどのソフトを使ったSSH通信が可能であり、ボード上のLinuxを自由に操れる(なお、ローカルグループポリシーエディターが必要なので、実質WindowsはPro限定。またSSHの公開鍵と秘密鍵の生成が必要)。使い方に関しては公式のドキュメントが充実しているので、ここであえて紹介はしない。しかし、使えたところでこれといったメリットは皆無であり、そこまでして使ってみたいアプリは(ベンチマーク以外)ないので、これ以上深く突っ込まないことにしておく。

 Xeon Phi x100シリーズはスパコン「天河二号」に使われていて、かつて世界一を記録したのである。個人では使い道がほとんどないと言えども、そこにシビれる! あこがれるゥ! ので、コレクション用に買ってみた、という話でした。