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東大物性研究所が世界初となる「1,200テスラ」の磁場生成に成功
2018年9月19日 18:38
東京大学物性研究所は18日、屋内で制御された磁場として世界最高となる、1,200テスラの磁場の発生に成功したことを発表した。
これは、東京大学物性研究所の嶽山正二郎教授と松田康弘准教授の研究グループが、物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設で整備してきた、1,000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置で観測されたもの。
室内での実験かつ高度に制御された磁場としては、これまでの世界最高記録である730テスラ(2011年)、および985テスラ(2018年)を大幅に更新した。
磁場は精密制御が可能な物理環境の1つで、電子の軌道とスピンに直接働きかけることができる。1,000テスラ領域の磁場では、物質中の電子の運動を1nmスケールで閉じ込めたり、非常に重い電子を磁場で制御できるため、新機能を解明するプローブとして、物性研究の未知の領域開拓のために、物性測定が可能な強磁場発生装置が求められてきた。
強磁場発生の方法としては、大きく「磁束濃縮法」と「一巻きコイル法」があり、一巻きコイル法は、一巻きのコイルに大電流を瞬時に流して超磁場を発生させるもので、実験が容易ながら300テスラ程度の磁場が限界となる。プラズマフォーカスやパルスレーザーの強力な電磁場を用いる方法などもあるが、磁場発生時間と空間が極端に制限されるため、物性研究の実用には適さず、現在のところ、300テスラ以上の磁場を発生するには磁束濃縮法しかなく、同研究グループでもこれを採用している。
磁束濃縮法は、あらかじめ発生させておいた磁束を濃縮して超強磁場を得るもので、濃縮のために爆薬を用いるものを「爆縮法」、電磁気的手法によるものを「電磁濃縮法」と称する。
爆縮法では、ライナーと呼ばれる呼ばれる金属円筒リングを用いて、その中に閉じ込めた磁束をTNT(トリニトロトルエン)高性能爆薬で超高速に収縮することで超強磁場を得る。爆破力が大きいため、シベリア平原や米ロスアラモスなどで野外実験が行なわれていたが、得られる磁場に再現性がなく、精密物性測定に適さないという問題がある。
いっぽう電磁濃縮法は、ライナーを円周方向の電流を使って高速圧縮し、比較的大きな空間(直径10cm/長さ20cm)にあらかじめ発生させておいた数テスラの初期磁場を濃縮することによって、最終的に小さな空間(直径10mm程度)に超強磁場を発生させるというもの。
同研究グループは、2011年に始まった文科省最先端研究基盤事業「次世代パルス最強磁場発生装置の整備」計画の下、1,000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置を物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設に新規導入、整備し、2018年1月に全システムを完成させている。
電磁濃縮による超強磁場発生は、主コイルとその中にセットした金属ライナー、初期磁場の3つから構成され、主コイルに瞬間的に大電流を流すことで実現されるが、今回の設備では、瞬間的放電能力を引き上げるべく、コンデンサ電源(Kashiwa-II)を新しく作り上げ、主コンデンサバンクの最大充電電圧を50kVに引き上げており、コンデンサバンクから放電された電流は、480本の高電圧ケーブルによって集電板に集められ、主コイルへ導かれる。
主コイルは超強磁場を発生させるためのもので、2011年に嶽山教授によって開発された銅内張りコイルが用いられている。
研究では、主コンデンサバンクの充電エネルギーは3.2 MJ(8ユニット、45kV)で、初期磁場の大きさは3.2テスラとし、発生した磁場強度は、ピックアップコイルによる電気的計測とファラデー回転による光学的計測を同時に実施。
実験の結果、ライナーの収縮にともなって、放電開始から40.3μ秒後に600テスラ超、40.7μ秒後あたりで1,200テスラに到達。解析の結果、ライナーの収縮速度は5km/sに達していることが分かったという。この秒速5km(時速18,000km)という速度は、火星の重力圏からの脱出速度とほぼ等しい速度となる。
今回1,200テスラが発生できた磁場空間のボーア直径は、シミュレーションから3mm程度と推定されている。
同研究所によれば、装置全体の最適化された設計によって、コンデンサ電源からコイルへのエネルギー伝達効率が上がり、コイル電流の立ち上がり速度が大幅に改善されたことで、発生磁場の大幅な強度増大を実現でき、1,000テスラ以上の超強力な磁場を安定して発生できるため、これによって1,000テスラ領域での極限的な超強磁場環境での物性計測が安定して実現可能になったとしている。