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【懐パーツ】Athlon XPマザーの決定版! SiS735を搭載したECSの「K7S5A」

 僕「皆さんマザボ何を使っているんですか?」
 Fさん「TyanのTiger MPでデュアルCPU環境構築中だけど、今はK7S5A」
 Tさん「僕もK7S5Aだよ」
 Sさん「あれ? そうなの、それ俺も使ってるんだけど」
 Nさん「は? 俺もK7S5A……」
 Mさん「マジで? 俺んちもK7S5A」
 僕「……僕……もK7S5Aなんっすけど……」
 5人「オマエモカー」

 上はフィクションではない。筆者の前の会社での実話だ。たまたま1つの会社に所属した6人の自作PCユーザーが、同じマザーボードを使っているというのは、偶然にもほどがあるだろう。今回ご紹介するECSの「K7S5A」は、そんな思い出の品である。

 K7S5Aが売れた理由は「最強のコストパフォーマンス」の一言に尽きる。K7S5Aに採用されたチップセット「SiS735」は、それまで分かれていたノースブリッジとサウスブリッジを1チップに統合した画期的な製品だった。これによって大幅なコストダウンと性能向上を実現したのである。

 実際、当時Athlon向けのマザーボードは1万円台半ば~2万円台だったが、筆者がK7S5Aを購入した時は1万円を切っていた。その一方で、ノースブリッジ-サウスブリッジのインターコネクトに8本の独立信号線を束ねた「Multi-Threaded I/O Link(MuTIOL:ミューティオール)」を採用し、合計1.2GB/sという広帯域を実現したのである。

 当時、IntelチップセットもVIAチップセットも、ノース-サウス間の接続は266MB/sだったので、これがいかに圧倒的な数値であるかはすぐにお分かりいただけるだろう。特にマルチタスク環境で多くのデバイスを同時に使った場合に威力を発揮するとされており、性能面で他社製品を圧倒した。

 一方で、メモリにSDRAMとDDR SDRAMを両方サポートするのも特徴。このためK7S5Aにもそれぞれのメモリスロットが2基ずつ用意されており、最初は低価格、または手持ちのSDRAMを流用し、DDR SDRAMの価格が下がったらそちらに移行するといったことも容易であった。

 K7S5Aは2001年8月に発売された。当時を振り返ると、IntelがPentium 4を2000年末に発表/発売したが、高クロックであるにも関わらず一般的なアプリケーションではAthlon、場合によってはPentium IIIですら遅れを取った。Intel 850という新しいチップセットを必要とし、RDRAMという新しいメモリを使用する必要があった。さらに、2001年10月には既にSocket 478への移行が明らかにされていた

 一方でAMDはSocket Aを継続的に拡張し、2001年10月にPentium 4より低クロックながら高性能を実現したとされるAthlon XPを投入。この後微細化が進み高クロックを達成、それによって性能の優位性を保った。

 つまり、当時Intelの最新環境の導入には莫大なコストがかかる上に、すぐにSocket 478に移行されてしまうことが分かっていた。Socket 423のPentium 4をあえて選ぶ意味はなかったのである。一方で、TualatinのPentium IIIも登場したが、旧製品のイメージは拭えなかった。自作PCはAthlon XPが最良の選択肢だったと言える。

 Athlon XP向けにはVIAのKT266 Proという、より高性能なチップセットがあったが、価格面でK7S5Aに刀打ちできなかった。これが、筆者が初めての自作PCでK7S5Aを選んだ理由でもあり、市場でK7S5Aが一番売れた理由だとも言える。

 さて、マザーボードの部品に目を向けてみると、チップセットの1チップ化により、全てSiS735を中心とした配線がなされており、非常に洗練された印象を受ける。AGPスロットは1基で、PCIスロットは5基と多い。AGPスロットの上にあるのはAMR(Audio Modem Riser)スロットであるが、AMRを使った拡張カードは全くと言っていいほど流行らなかった。

 水晶発振器はHOSONIC ELECTRONIC製、クロックジェネレータはICS製の「9248CF-199」、ネットワークコントローラはRealtek製の「RTL8201L」、オーディオコーデックはAvance Logic(Realtek)の「ALC100P」、スーパーI/OはITE製の「IT8705F」、シリアルポートドライバ/レシーバはSTMicroelectronicsの「ST75185C」、BIOSのROMチップはWinbond製である。

 電源周りは、Fairchild製のPWMコントローラ「KA7500B」を中心に3フェーズで構成されている。今回入手した製品は、コンデンサとMOSFETの修理の痕があった。おそらく経年劣化で膨張したり焼損したりして、ユーザーが自前で修理したと思われる。当時のマザーボードは電源回路の品質があまり重視されなかったほか、ヒートパイプによる冷却があまり採用されておらず、ヒートシンクとファンによって排出された熱は電源回路を直撃していたため壊れやすかったのである。

 ストレージインターフェイスはUltraATA/100×2、FDDコネクタ×1。バックパネルにはUSB×2、パラレルポート、シリアルポート、Ethernet、音声入出力、ゲームポート、PS/2×2などを装備している。

 曲者はオンボードのUSBピンヘッダ。実は当時USBのピンヘッダは規格によって統一されておらず、メーカーによってバラバラだった。K7S5Aのピンヘッダ配列は今のマザーボードと共通なのだが、配列はマニュアルに記載されておらず、ホームページで公開されたのはかなり後だったと記憶している。そのため筆者が入手したPCIブラケットのUSB拡張コネクタを繋いだところ、回路が焼損してしまい、これが壊れたとは知らずに売ろうと店舗に持っていったところ焼損だと判明、「買い取るなら10円のジャンクです」と言われたのは良い思い出である。

 さて、そんな筆者にとって思い出いっぱいのK7S5A。「これだけ有名なら皆知っているだろう」と目の前のパワレポ編集者に見せたところ、最初に帰ってきた反応が「喋るマザーですか?」である。さすが“サムライの誘惑”(ECSがK7S5Aに付けたあだ名)じゃあさとう珠緒のインパクトに勝てなかったか。かくいう筆者もさとう珠緒のファンだったので欲しかったけど。

黒い基板が印象的である
このヒートシンクの下にSiS735がある。今回外そうとしたが外れなかった
Socket Aを採用し、Thoroughbred、Palomino、ThunderbirdコアのAthlon/Athlon XPをサポートする
メモリはSDRAMとDDR SDRAM両対応
SDRAMとDDR SDRAMを両方サポートするため、異なるメモリのためのクロックジェネレータが2つ用意されているようだ。こちらはSDRAM側で、ICS製の「9179AF-19」
こちらはDDR SDRAM側の「93716AF」
水晶発振器はHOSONIC製
ベースクロックを生成するジェネレータはICS製の「9248CF-199」である
オーディオコーデックはAvance Logic製の「ALC100P」。後にRealtekブランドに統一される
Realtekのネットワークコントローラ「RTL8201L」
物理層はLANKom Electronics製の「LF-H50X」
シリアルポートドライバ/レシーバはSTMicroelectronicsの「ST75185C」
Winbond製のBIOS ROMチップ
IT製スーパーI/O「IT8705F」
Fairchild製のPWMコントローラ「KA7500B」
MOSFETは修理の痕が残されている
コンデンサも交換の痕が。コンデンサを取り付けた後にMOSFETをはんだ付けしたためか、表面に焼けた跡がある
バックパネルインターフェイス
拡張スロットは合計7基。PCIスロットが5基は素晴らしい
AGPスロットはユニバーサルタイプで切り欠きがない
多分CNRとともに最も使われなかったであろうスロット、AMR
IDEコネクタはUltraATA/100対応で2基、FDDコネクタは1基
今や標準だが、当時は曲者だったUSBピンヘッダ