イベントレポート
【DRAM編】Intelが展望する2014年のDRAMトレンド
(2013/9/19 06:00)
Intelのマイクロプロセッサまたはチップセットが主記憶としてどのようなDRAMをサポートするかは、DRAMの製品トレンドに大きな影響を与える。当然ながらDRAMの次期主力製品がどのようなものになるかは、Intelが単独で決めることはできない。Intelが大手DRAMメーカーとの会合を重ねることで、方向性を決めていくことになる。
昨年(2012年)9月にサンフランシスコで開催されたIDFでIntelは、薄型ノートPC「Ultrabook」の主記憶用DRAMを中心に、PC用DRAM製品トレンドを技術講演トラックで解説した。今年(2013年)9月のIDFでは、その続編に相当する技術講演トラックが設けられた。講演タイトルは「Memory and Intel Products」である。
PC向けのDDR3/DDR3L/DDR3L RS系列は高速化が進む
講演では昨年と同様に、DRAMを「DDR3/DDR3L/DDR3L RS系列」と「LPDDR3系列」の大きく2つに分けて性能のロードマップを示した。まずは2012年の講演で、2013年をどのように予測していたかを振り返ろう。
DDR3/DDR3L/DDR3L RS系列に関するロードマップは、速度、シリコンダイ当たりの記憶容量、DRAMモジュールの記憶容量を展望した。
1.5V電源のDDR3系列の速度は2012年において最大1,866MT/sec、市場での主流は1,333MT/secだった。2013年には最大速度は変わらないものの、市場で主流の速度は1,600MT/secに向上すると予測していた。1.35V電源のDDR3L系列の速度は2012年に最大1,600MT/sec、市場での主流は1,333MT/secだった。2013年には最大速度は変わらないものの、市場で主流の速度は最大速度と同じ、1,600MT/secに上がると見ていた。
シリコンダイ当たりの記憶容量は、2012年に最大容量が4Gbit、市場での主流が2Gbitであるのに対し、2013年の第2四半期からシリコンダイ当たりの最大容量が8Gbitに拡大すると予測していた(大手DRAMベンダー4社中の1社だけが8Gbitシリコンダイの量産に入ると見ていた)。市場で主流となる記憶容量は2013年第3四半期から、4Gbitに増えるとみていた。
そしてDRAMモジュールの記憶容量は、2012年には最大容量が8GB、市場での主流が4GBだった。それが2013年第3四半期からは最大容量が16GBに拡大し、主流の容量は8GBに倍増すると予測していた。
これらの予測に対し、今回(IDF 2013)の講演では高速化の勢いが強まり、容量拡大の勢いは弱まった。1.5V電源であるDDR3系列の速度は、2013年に最大1,866MT/sec、市場での主流が1,600MT/secである。昨年の予測通りに推移している。この状態は2014年第1四半期も変わらない。1.35V電源であるDDR3L系列の速度は、2013年に最大1,866MT/sec、市場での主流が1,600MT/secである。昨年の予測(最大1,600MT/sec)に比べるとやや高速化の進みが早い。この状態は2014年第1四半期も同じである。
シリコンダイ当たりの記憶容量は、2013年に最大と主流ともに4Gbitであり、2014年第1四半期も変わらない。昨年の予測に比べると、大容量化の動きが鈍い。DRAMモジュールの記憶容量は、今年後半の段階で最大と主流ともに8GBである。2014年第1四半期もこの状況は変わらない。昨年の予測(最大16GB)に比べると、最大容量が増えていない。
モバイル向けのLPDDR3系列は
LPDDR3系列のロードマップは、速度と、シリコンダイ当たりの記憶容量を展望した。2012年に公表されたロードマップでは、速度は2012年に最大と主流ともに1,600MT/secであり、2013年も変わらない。シリコンダイ当たりの記憶容量は、2012年に最大と主流ともに4Gbitである。2013年第4四半期には、最大容量だけが8Gbitに拡大する。
これらの予測に対し、今回の講演では、速度が2013年に最大1,866MT/sec、市場での主流が1,600MT/secである。DDR3L系列と同様に、昨年の予測に比べると最大速度の向上が目立つ。シリコンダイ当たりの記憶容量は、2013年第4四半期に最大容量が8Gbitへと拡大する。主流の容量は4Gbitのままである。この容量拡大時期は、昨年の予測通りだ。
システムの性能や規模による搭載DRAMの違い
Intelはまた、同社のマイクロプロセッサを内蔵したシステムの、主記憶用DRAMをシステムの種類ごとに示した。デスクトップPCではDDR3系列またはDDR3L系列のDRAMが使われる。速度はハイエンド品が1,866MT/sec、ミッドレンジ品が1,600MT/sec、エントリー品が1,333MT/secである。ノートPCではDDR3L系列またはLPDDR3系列が使われる。速度はハイエンド品とミッドレンジ品が1,600MT/sec、エントリー品が1,333MT/secである。
サーバー/ワークステーションではDDR3系列またはDDR3L系列のDRAMが使われる。速度は1,866MT/secまたは1,600MT/sec、1,333MT/secと幅広い。タブレット(Atom Z3000プロセッサ内蔵品)にはDDR3L系列またはLPDDR3系列が使われる。速度はDDR3L系列が1,333MT/sec、LPDDR3系列が1,066MT/secとやや低めになる。
モバイルDRAMと汎用DRAMの価格差が縮まる
それから、モバイルDRAM(LPDDR3系列)と汎用DRAM(DDR3L/DDR3L RS系列)の価格について、調査会社IHSのデータを引用しながら、見通しを述べた。昨年のIDFでは、4GBモジュール換算で汎用DRAMの価格が2013年初頭の約25ドルから、同年の年末には約20ドルに下がると予測していた。またモバイルDRAMの価格は4GBモジュール換算で2013年初頭に50ドル弱であり、同年の年末に約25ドル強に低下すると見ていた。
しかし今年のIDFでは、最近のDRAM価格の高止まりを反映し、価格水準が引き上げられた。2013年第3四半期(2013年7月~9月期)時点における価格(4GBモジュール換算)は汎用DRAMが約30ドル、モバイルDRAMが40ドル弱である。昨年のIDFにおける予測に比べると、10ドルほど高値に修正されている。
今回の講演では、DRAM価格の低下傾向を2015年末まで予測した。2014年第4四半期(2014年10月~12月期)での価格は汎用DRAMが25ドル~26ドル、モバイルDRAMが28ドルであり、2015年第4四半期(2015年10月~12月期)での価格は汎用DRAMが23ドル、モバイルDRAMが24ドルとなる。汎用DRAMとモバイルDRAMの価格差は徐々に縮まっていく。言い換えると、DRAMメーカーはモバイルDRAMの生産数量(bit数換算)を増やし、汎用DRAMの生産数量はあまり増やさない。結果としてモバイルDRAMの生産コストが下がり、価格差が縮まるというシナリオである。
DDR3L RS系列とLPDDR3系列の主な違い
DDR3系列とDDR3L RS系列、LPDDR3系列の大きな違いは電源電圧と消費電力にある。1.5Vの電源電圧で動くDDR3系列に対し、電源電圧を1.35Vに下げることで消費電力を低減したのがDDR3L系列である。そしてDDR3L系列の中でリフレッシュ電流の低いシリコンダイだけをスクリーニングして製品としたのが、DDR3L RS系列になる。したがって動作時の消費電力では、DDR3L系列とDDR3L RS系列に基本的に違いはない。待機時の消費電流のほとんどを占めるセルフリフレッシュ電流では、DDR3L RS系列はDDR3L系列の半分未満と低くなる。
LPDDR3系列は、電源電圧を1.2V(コア電圧)とさらに低くするとともに、消費電流を下げるために仕様を見直したDRAMである。消費電力は動作時と待機時ともに、DDR3L系列よりも低い。特にセルフリフレッシュ電流は、DDR3L RS系列の約半分にとどまる。
DDR3L系列とLPDDR3系列の電気的な仕様を比較した結果も、Intelは示した。いずれも速度が1,600MT/secの製品である。注目すべきは、コマンド入力周波数(CMD Frequency)の違いである。LPDDR3系列では、DDR3L系列の半分の周波数でコマンドを入力する。これは同じ速度の場合、LPDDR3系列の方がコマンド入力のタイミングに余裕があることを意味する。ただしデータ書き込みとデータ読み出しのタイミング条件で両者はほぼ同じであり、信号波形の余裕度についても大きな違いはない。
薄型ノートPCやタブレットなどは32bit幅のDRAMを選択
LPDDR3系列のDRAMでもう1つ重要なのは、データバスが32bit幅の語構成だけを製品化していることだ。64bitのメモリチャンネルを構成するのに必要なチップ数は、2チップで済む。2チャンネルの64bitメモリバスでも4チップで済むので、実装に必要な基板の面積を節約できる。
これに対してDDR3L系列(およびDDR3L RS系列)はデータバス幅が16bit幅の語構成が製品の主流であり、64bitチャンネルの構成に4チップを必要とする。64bitのメモリバスを2チャンネル実装するときは、最低でも8チップを用意しなければならず、実装に必要な面積が大きめになる。薄型ノートパソコンでは、このことはあまり好ましくない。DDR3L系列でも32bit幅の製品を選択して基板面積を節約することが望まれる。
このように見ていくと、DRAMの次期製品は低消費電力化と高速化の両立を強く志向していることが分かる。シリコンダイ自体の記憶容量を拡大する勢いは鈍い。システム自体の総記憶容量が大きなデスクトップPCやサーバーなどが、モバイル機器よりも大容量化の要求が弱くなっている。これはモバイル機器で主記憶を大容量化しようとしたときに、実装面積の制限が強いためにシリコンダイの容量を拡大せざるを得ないという事情によるものだろう。