福田昭のセミコン業界最前線
DRAM開発の主役から外されるPC向けDRAM
(2013/5/14 00:00)
半導体メモリの標準規格を策定している米国の業界団体JEDECは、メモリ技術に関する講演会を不定期に世界各地で開催している。最近ではサーバー用DRAMに関する講演会「JEDEC DDR4 Workshop」を今年(2013年)2月6日~7日に開催した。
そのJEDECがモバイル機器とモバイル機器用メモリの動向に関する講演会「JEDEC Mobile Forum 2013」を、2013年5月1日~2日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンタクララで開催した。講演者はJEDECの会員企業で、Samsung ElectronicsやSK Hynix、Micron Technology、Qualcomm、ARM、NVIDIA、東芝など。DRAMベンダーやNANDフラッシュメモリベンダー、プロセッサベンダーが講演していることが分かる。
コンピュータの主役はPCからスマートフォンへ
2日間の講演を通じて明らかになったことをまとめると、以下のようになる。
まず、コンピューティングデバイスの主役がPCから、スマートフォンやメディアタブレットなどに交代しつつあること。デスクトップPCとノートPCの稼働台数(インストールベース)の合計値は、2013年第2四半期(2013年4月~6月)に、スマートフォンとメディアタブレットの稼働台数(インストールベース)の合計値に追い抜かれたとみられている。2013年通年でも、スマートフォンとメディアタブレットの合計値がPCを上回る。これは史上初めてのことだとされる。そして今後はPCの稼働台数はあまり伸びなくなるのに対し、スマートフォンとメディアタブレットの稼働台数は今後も順調に伸びていく。この結果としてわずか2年後の2015年には、インストールベースではスマートフォンとメディアタブレットの合計値がPCの2倍に達するとの予測をSamsungが挙げていた。
販売台数で見ると、スマートフォンとPCの格差はさらに広がる。2016年におけるスマートフォンの販売台数は16億台、メディアタブレットの販売台数は4億2,000万台、そしてPCの販売台数は3億2,000万台という予測をSamsungは紹介していた。
スマートフォンの販売台数が拡大を続ける大きな理由は、「エントリーレベル(Entry Level)」と呼ばれる50ドル~150ドルの安価なスマートフォンが今後、台数を急激に伸ばすと期待されていることにある。ARMはスマートフォンを価格が400ドル以上の「スーパーフォン(SuperPhone)」、200ドル~350ドルの「ミッドレンジ(Mid Range)」、50ドル~150ドルの「エントリーレベル」に分けて市場のトレンドを論じた。スーパーフォンがスマートフォンの半数近くを占める現状から、エントリーレベルが既存のフィーチャーフォンを置き換える形で台数を伸ばし、2017年にはスマーフォンの出荷台数の半数近くをエントリーレベルが占めるようになると予測していた。
一方、PCの出荷台数は伸び悩んでいる。2013年の出荷台数は前年比5%減の3億2,100万台になるとの予測をSamsungは示していた。2012年の出荷台数が前年比2%減だったので、2年連続のマイナス成長となる。
PC用DRAMの市場規模は縮小へ
次に明確になったのは、DRAMベンダーの開発態勢の変化だ。DRAMベンダーが開発するメインストリーム製品は、PC用DRAMからモバイル機器向けDRAM(以下は「モバイルDRAM」)へと移行しつつある。理由は簡単で、近い将来にモバイルDRAMの市場規模(金額ベース)がPC用DRAMの市場規模よりも、はるかに大きくなるからだ。
PC用DRAMの市場規模は今後は主に、PC 1台当たりが搭載する主記憶の容量の増加によって拡大する。台数ベースの拡大があまり見込めないので、搭載容量の増加に期待するしかない。しかし今後は、搭載容量の増加もそれほどは期待できないと、DRAMベンダーは考えている。
Samsungは、2005年~2009年にPC1台当たりの主記憶容量は年率44%で急増したと説明した。具体的には、2006年には主記憶容量はわずか0.8GBだった。それが2010年には、3倍強の3.1GBに増加した。ところが2010年~2014年の主記憶容量の増加ペースは、年率10%にとどまる。一方、2010年~2014年のPC出荷台数の増加ペースは、年率4%とSamsungは推定している。すなわちビット数に換算すると、年率で14.4%増になる。
これが何を意味するかというと、2010年のビット需要を100と仮定すると、2014年のビット需要は175であり、75%増にすぎないということだ。この間にDRAMチップの平均的な記憶容量が2倍に増えると、チップ数ベースの需要は減ってしまう。DRAMチップの単価がほぼ同じ水準で推移すると仮定する(実際にはその可能性は低くない)と、PC用DRAMの市場規模は縮小するということだ。DRAMベンダーにとってPC用DRAMは、もはや成長市場ではない。成熟市場である。
今後も成長が期待できるモバイルDRAM市場
これに対してモバイルDRAM市場は、最近になって急速に市場規模を拡大してきた。そして今後も、確実な成長が期待できる。
モバイルDRAMの主役である携帯電話端末(スマートフォンを含む)は、比較的順調に出荷台数を伸ばしてきた。特に最近は、フィーチャーフォンの出荷台数があまり伸びなくなっているのに対し、スマートフォンが高い伸びを示している。Samsungは、2006年~2010年の出荷台数は携帯電話端末全体では年率7%と堅調な伸びであったのに対し、スマートフォンは年率39%と高い伸びを達成したとのデータを見せていた。スマートフォンの成長は2010年以降もとまらず、2011年の成長率は62%、2012年の成長率は51%という、物凄い急成長ぶりを見せつけている。2013年も31%と高い成長率が期待されている。
スマートフォンの成長を出荷台数で見ると、2011年は4億7,000万台、2012年は7億1,000万台、そして2013年は9億2,700万台となる。2年で2倍近くに増えていることが分かる。
ARMの推定はさらにアグレッシブだ。2013年のスマートフォンの出荷台数を10億台と予測する。そして2015年には15億台となり、2017年には18億台を超えると予測する。
スマートフォン1台が搭載する主記憶(DRAM)の容量も過去、急速に増えてきた。ARMは過去に携帯電話端末とスマートフォンがどの程度の主記憶を搭載してきたかを具体的な製品例で示した。2004年のモデルでは主記憶容量が32MBであったのに対し、2008年のモデルでは8倍の256MBに急増した。2011年モデルでは主記憶容量は1GBに増え、2013年モデルでは2GBに達した。
2013年のPCが搭載する主記憶の平均容量が4GBで出荷台数が3億2,000万台とすると、総容量は12億8,000万GBになる。そして2013年のスマートフォンが搭載する主記憶の平均容量を1.5GBと仮定すると、出荷台数が9億台以上と予測されているので、総容量は15億5,000万GBに達する。今年とは限らないが、近い将来に記憶容量ベースの需要でスマートフォンがPCを上回ることは、ほぼ確実だと分かる。そしてその差は今後、さらに広がっていく。
開発順位はモバイル、サーバー、そしてPCに変化
DRAMの用途別ビット需要の割合を「PC向け」、「サーバー向け」、「モバイル向け」、「そのほか」に分けて2010年から2013年までどのように変化してきたかの推定値をSamsungは示していた。この推定によるとPC向けが占める割合は2010年に62%と、半分を超えていた。このときサーバー向けは15%、モバイル向けは11%だった。
そこからPC向けの割合が減少し、サーバー向けとモバイル向けの割合が増加する。2013年にはPC向けは最大用途を維持するものの、割合は37%と下がる。モバイル向けは30%に増えるが、先ほどの検討結果とは異なり、PC向けをビット需要ではまだ超えない。そしてサーバー向けは20%に増えると予測されている。
現在のPC向けDRAMの主力品種はDDR3タイプのDRAMである。しかし現在のところ、DDR3Lといった低電圧版を除くとPC向けDRAMの将来像はあまり明確ではない。モバイル向けDRAMでは現在の主力品種であるLPDDR2タイプの次がLPDDR3タイプになることは既定路線と化している。2013年中には、LPDDR3を搭載したスマートフォンあるいはメディアタブレットの新製品が投入される模様だ。
そしてこれまではPC向けと仕様を共用してきたサーバー向けでは、性能をDDR3タイプの2倍に高めたDDR4タイプを導入する方向である。DDR4タイプは当面、PCに載る予定がない。
こうやって見ていくと、DRAMベンダーの新製品開発順位は明らかに変わってしまった。かつてはPC向けが開発の主力だった。いまや開発順位のトップはモバイル向けである。2番目がサーバー向けとなり、PC向けは3番手に下がってしまった。この状況はここしばらくは、変わりそうにない。