【IDF 2012レポート】
2012年と2013年で様変わりするUltrabookの搭載DRAM

会期:9月11日~13日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンフランシスコMoscone West



 薄型ノートPC「Ultrabook」に搭載されるDRAMの種類は、2012年モデルと2013年モデルで大きく変化する。これまではスマートフォンとメディアタブレットに使われてきたモバイルDRAMを、2013年モデルからUltrabookに取り込む。IDF 2012では、IntelがUltrabookのメモリサブシステムを展望し、大手DRAMベンダーのSK HynixがUltrabookを含むモバイル機器向けDRAMの動向を議論した。スタンバイ時の電力消費をさらに低減すべく、メモリサブシステムが進化する。

 低消費電力を重視した次期DRAMのオプションは基本的に3種類ある。1つは、DDR3LタイプのSDRAM。DDR3タイプの低電圧版で、DDR3では1.5Vの電源電圧を1.35Vに下げたタイプである。もう1つは、DDR3L-RS(Reduced Standby)タイプのSDRAMで、DDR3Lタイプで自己リフレッシュ(セルフリフレッシュ)電流を大きく下げたもの。待機時消費電流が減少する。最後は、LPDDR3タイプのSDRAMである。LPDDR3タイプは次世代のモバイルDRAMで、現行のスマートフォンやメディアタブレットなどが搭載しているLPDDR2タイプの高速版となる。

Intelの講演で示された低消費電力DRAMの位置付け。縦軸がコスト(価格)、横軸がパワーセービング(低消費電力)。DDR3L-RSタイプはDDR3タイプよりも消費電力が低く、価格がわずかに高い。LPDDR3タイプは消費電力が最も低いものの、価格が高くなるSK Hynixの講演で示された低消費電力DRAMの位置付け。縦軸が待機時消費電力、横軸がコストの優位性、斜めの軸が性能。DDR4-RSタイプはDDR4タイプのセルフリフレッシュ電流低減版であり、正式な製品発表はされていないLPDDR2タイプとLPDDR3タイプの主な仕様。このスライドは2011年6月に開催されたMobile Memory Forumで示されたもの

●Ultrabookの2012年モデルはDDR3Lが主役
Intelが示した、Ultrabookの2012年モデル(Ivy Bridge搭載品)における主記憶用DRAMの選択肢

 IntelがIDF 2012で示したUltrabookの主記憶に関するロードマップは以下のようなものである。まず2012年モデル(Ivy Bridge搭載品)は、メモリコントローラがDDR3LタイプとDDR3L-RSタイプ(およびDDR3タイプ)をサポートすることから、この2者が主記憶の主流となる。

 そして、コストを重視するモデルではDDR3Lタイプの2Gbit品、実装占有面積の削減を重視するモデルではDDR3Lタイプの4Gbit品、待機時消費電力の低減を重視するモデルではDDR3L-RSタイプの2Gbit品または4Gbit品、入手しやすさを重視するモデルではDDR3Lタイプの2Gbit品が選択肢になるとIntelはIDF 2012で説明した。

●待機時消費電流を大きく下げたDDR3L-RSタイプ

 DDR3Lタイプは以前から製品化されていたが、DDR3L-RSタイプが製品化されたのはつい最近のことだ。SK Hynixは9月12日にDDR3L-RSタイプの製品化を発表した。SK HynixがIDF 2012で示したスライドでは、2012年の下半期に量産を開始する計画になっている。そしてIDF 2012の翌週である9月18日に、大手DRAMベンダーのMicron TechnologyがDDR3L-RSタイプの量産開始を発表した。なおMicronが以前から「DDR3Lmタイプ」として開発を明らかにしていた低消費電力版DRAMが、製品ではDDR3L-RSの名称となった。

 DDR3L-RSタイプは、シリコンダイそのものはDDR3Lタイプと等しい。スクリーニング(テスト)によってセルフリフレッシュ電流(IDD6)の値が低いシリコンダイを抜き出し、DDR3L-RSタイプとして販売する。このため製造コストの増加は、DDR3Lと比べて10%以内に収まる予定となっている。記憶容量は2Gbitと4Gbitで、語構成はx16bitが基本となる。4Gbitのシリコンダイを2枚まとめて1個のパッケージに収納した8Gbitのx32bit品も製品化される。

 肝心のセルフリフレッシュ電流(IDD6)の値だが、DDR3LタイプはIDD6の値がかなり高い。製品仕様(保証値)だと2Gbit品で10mAを超え、4Gbit品で20mAを超える。これがDDR3L-RSタイプだと2Gbit品で3mA以下、4Gbit品で6mA以下に下がる。

 上記の値は、製造技術の違いを含んでいる可能性が高い。まったく同じシリコンダイだと、DDR3Lタイプに比べてDDR3L-RSのIDD6は半分くらいに下がる。IDD6の値をあまり下げすぎるとスクリーニングで採れるシリコンダイの割合が下がり、コストが上昇する。このあたりはバランス取りを要求される。

Intelが示したDDR3L-RSタイプの概要SK Hynixが示したDDR3L-RSタイプの消費電流。DDR3Lタイプに比べると待機時消費電流が70%も減るとしているが、これは製造技術の違い(3xnmのDDR3Lと2xnmのDDR3L-RS)を含んでいると思われる

●Ultrabookの2013年モデルはLPDDR3タイプを採用へ

 続いて来年の2013年モデル(Haswell搭載機)では、メモリコントローラがDDR3L(DDR3L-RSを含む)タイプとLPDDR3タイプをサポートするようになることから、LPDDR3タイプが選択肢に加わる。

 そして、コストを重視するモデルではDDR3L(DDR3L-RSを含む)タイプの2Gbit(x8bit)品あるいは4Gbit(x8bit)品、実装占有面積の削減を重視するモデルではLPDDR3タイプの4Gbit(x32bit)品、待機時消費電力の低減を重視するモデルではLPDDR3タイプの4Gbit品、入手しやすさを重視するモデルではDDR3LタイプとLPDDR3タイプの両方が選択肢になるとIntelはIDF 2012で説明した。

 なおSK HynixもUltrabookの2013年モデルが載せるDRAMの候補に、LPDDR3タイプとDDR3Lタイプ(DDR3L-RSタイプを含む)を挙げていた。

Intelが示した、Ultrabookの2013年モデルにおける主記憶用DRAMの選択肢SK Hynixが示した、Ultrabookの2013年モデルにおける主記憶用DRAMの選択肢

 LPDDR3タイプでは、セルフリフレッシュ電流(IDD6)が大幅に下がる。Intelは4Gbit品で1.8mA、SK Hynixは8Gbit品(デュアルダイ品)でさらにアグレッシブな1.9mAという値を見せていた。これらの値は、DDR3L-RSタイプの半分に満たない。

Intelが示したLPDDR3Lタイプの概要SK Hynixが示したLPDDR3タイプの消費電流

●モバイルDRAMがUltrabookに載る意味

 LPDDR3タイプは本来、スマートフォンやメディアタブレットなどのモバイル機器向けに開発され、標準の技術仕様が策定されたDRAMである。現行世代のスマートフォンやメディアタブレットなどはLPDDR2タイプのDRAMを採用している。次世代のスマートフォンやメディアタブレットなどでの使用を想定して開発されたのがLPDDR3タイプである。

 モバイルDRAMであるLPDDR2タイプは、PC用DRAMと実装形態に大きな違いが存在する。PC用DRAMでは標準的な実装形態であるメモリモジュールが、モバイルDRAMには存在しない。モバイルDRAMの基本的な実装形態はPoP(Package on Package)である。SoC(System on a Chip)パッケージの上にモバイルDRAMパッケージを重ねる。あるいは、実装基板(マザーボード)にモバイルDRAMパッケージを直付けする。

 Ultrabookでは外形の薄型化と実装占有面積の削減のため、メモリモジュールを使わず、DRAMパッケージをマザーボードに直付けする実装形態が主流になっている。すなわち主記憶容量は拡張しない。メモリモジュールを使うPCにLPDDR3タイプは採用しにくいが、直付けが前提ならば話は別だ。LPDDR3の採用によってメディアタブレットに近い待機時消費電流をメモリサブシステムで実現できる。

 LPDDR3タイプの採用により、メモリサブシステムの待機時消費電力は大幅に減少する。Intelが4GBのメモリサブシステムで消費電力を比較したところ、DDR3Lタイプが75mW前後あったのに対し、DDR3-RSタイプでは35mW前後と半分に下がり、LPDDR3タイプでは13mW前後とさらに大幅に下がる。Windows 8がサポートするConnected Standbyを実現するには、LPDDR3タイプの採用が望ましい。

 問題は製造コストで、同じ記憶容量で比較するとLPDDR3タイプのシリコンダイは20~30%ほど、DDR3L(およびDDR3L-RS)タイプよりも大きくなる。価格差はもっと大きく、2倍を超える。この価格差がかなり縮まらない限り、LPDDR3タイプの採用は進まないだろう。

Intelが示した、メモリサブシステムの待機時消費電力の比較DRAM価格の推移予測。市場調査会社IHSのデータ

●サーバー向けのDDR4タイプを2014年モデルのUltrabookへ

 このほか、サーバー向け次世代DRAMとして開発が進んでいるDDR4タイプを、Ultrabookにも載せる提案をSK Hynixが講演していた。DDR4タイプのSDRAMは2013年に量産が始まるとされる。このDDR4タイプからセルフリフレッシュ電流の低いシリコンダイを取り出し、「DDR4-RSタイプ」としてUltrabookの2014年モデルに載せようというものだ。

 SK Hynixの講演によると、DDR4-RSタイプの読み出し電流と書き込み電流はDDR3L-RSタイプに比べて25%減少し、セルフリフレッシュ電流は5%減る。

 DDR4-RSタイプは、Micron Technologyも9月19日に開発を表明している。サーバー専用と思われていたDDR4タイプが一転して薄型ノートPCのUltrabookにも載ることになるのだろうか。行方を見守りたい。

SK Hynixが示した、2012年~2014年のUltrabook用メモリSK Hynixが示した、DDR3L-RSタイプとDDR4-RSタイプの消費電流

(2012年 9月 24日)

[Reported by 福田 昭]