イベントレポート
次世代メモリをアジアが、次世代プロセスを欧米が牽引
~VLSI技術シンポジウム前日レポート
2019年6月10日 12:06
半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム」が今年(2019年)もはじまった。日程は6月9日(日曜)~14日(金曜)の6日間、会場は京都の「リーガロイヤルホテル京都」である。
「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成される。1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。開催地は、西暦の奇数年が日本の京都(会場は「リーガロイヤルホテル京都」)、偶数年が米国のハワイ(会場は「Hilton Hawaiian Village」)というのが最近の通例となっている。
VLSI技術シンポジウムとVLSI回路シンポジウムの日程はほぼ等しい。メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)は6月11日(火曜)~13日(木曜)に開催される。6月9日(日曜)と6月10日(月曜)はプレイベント、6月14日(金曜)はポストイベントを予定している。
投稿論文数は187件、採択論文数は74件、採択率は40%
ここからは、「VLSI技術シンポジウム(Symposium on VLSI Technology)」の概要をご説明しよう。なお「VLSI回路シンポジウム(Symposium on VLSI Circuits)」の概要は、別のレポートでご紹介するのでご了承されたい。
VLSI技術シンポジウムでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は187件である。京都開催だけで比較すると前回(2017年)が160件、前々回(2015年)が171件と漸減傾向にあった。今年は投稿論文が増え、漸減傾向に歯止めがかかった。また注目すべきは、昨年2018年のハワイ開催における投稿論文数186件をわずかに超えたことだろう。過去のVLSI技術シンポジウムではハワイ開催の投稿論文数が京都開催を上回ってきたからだ。
発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は、74件である。採択率は40%であり、過去5年でまったく変わっていない。競争率だと2.5倍になる。
投稿論文の件数はトップが米国、2位が台湾、3位が中国
投稿論文の件数(投稿件数)を国・地域別に見ると米国がもっとも多く、49件を数える。この投稿数は、昨年のハワイ開催における米国の投稿数48件とほぼ同じであり、前回の京都開催における投稿数36件の1.36倍に相当する。米国についで投稿論文数が多いのは台湾で、37件を数える。その次は中国で、28件の投稿数がある。
日本の投稿論文数は16件である。前年のハワイ開催では26件、前回の京都開催では16件だった。京都開催だと日本の投稿件数が少なくなる傾向が見て取れる。
採択件数の上位は米国、台湾、日本の順
採択論文数(採択件数)を国・地域別に見ると、これも米国がもっとも多く、24件に達する。前年のハワイ開催が20件、前回(一昨年)の京都開催の15件だったので、2年連続で増加した。米国に続くのは台湾の16件である。台湾も2年連続で採択件数増加した。前年のハワイ開催は9件、前回(一昨年)の京都開催は8件だった。
日本の採択件数は9件で、3位に付けた。ただし前年の13件、前回京都開催の10件からは減少している。投稿件数が28件と多い中国は、採択件数になると2件とまだ少ない。
大学が採択件数でも半数を超える、日本の大学が貢献
次は大学と企業(および研究機関)による論文数の比較である。最近は、投稿件数では大学が多く、採択件数では企業が多い、という傾向が続いていた。しかし今年は、投稿件数と採択件数の両方とも、大学が過半数を占めた。投稿件数を前年と比べると大学が増加したのに対し、企業が減少したのが響いた。
大学の投稿件数は117件、採択件数は38件で採択率は32%とあまり高くない。企業(および研究機関)の投稿件数は70件、採択件数は36件、採択率は51%である。
大学と企業の採択件数を地域別に見ていくと、アジア地域における大学が存在感を示している。米国では大学の採択件数が11件、企業の採択件数が13件で、企業が多い。欧州は大学が3件、企業が7件でこれも企業が大半を占める。
これに対してアジアでは、大学の採択件数が24件、企業の採択件数が16件となっている。大学の採択件数が企業よりも多い。大学の採択件数が企業よりもとくに多いのは、日本とシンガポールである。日本は大学が7件、企業が2件、シンガポールは大学が4件、企業が1件となっている。
機関別の採択件数トップはひさびさにIBMが奪取
発表機関別の採択件数は、IBMが8件で最多となった。前年までトップの常連だったベルギーの研究機関imecは7件で、わずか1件の差で2位に下がった。前年に2位だったSamsung Electronicsは、今年は3位とランクダウンした。なお3位の採択件数は4件で、SamsungのほかにTSMCなど4つの機関が入っている。日本の採択件数は、東京大学が3件でもっとも多い。
技術分野別での採択件数はメモリ、プロセス、AIが多い
技術分野別の投稿件数と採択件数を見ていこう。投稿件数の技術分野は「メモリ」が38件でもっとも多く、それから「デバイス物理と特性、モデリング」が26件、「新コンピューティング(AI向けデバイスなど)」が25件、「プロセス」が21件と続く。
採択件数の技術分野は投稿件数と同様に「メモリ」がもっとも多い。件数は18件である。それから「プロセス」が13件、「新コンピューティング(AI向けデバイスなど)」が10件、「デバイス物理と特性、モデリング」が9件と続く。
注目すべきは「新コンピューティング(AI向けデバイスなど)」分野である。採択件数は2017年が5件、2018年が6件だったのに対し、2019年(今年)は10件と大幅に増えている。
採択論文の技術分野と、発表の国・地域には関連がかなり強い。「メモリ」は日本が5件、韓国が2件、台湾が4件、中国が1件となっており、アジアで12件とメモリ全体の3分の2を占める。「プロセス」は米国が5件、ベルギーが3件と欧米で6割強に達する。
「新コンピューティング(AI向けデバイスなど)」は逆に広がりが大きい。台湾が3件、米国が2件、そのほかは1件にとどまっている。
パネル討論会で半導体の産業と製造の行方を議論
ここからはサブイベントについてふれよう。VLSI技術シンポジウムでは6月10日の夜に1件、それから11日の夜にも1件のパネル討論会を予定している。10日夜のパネル討論会はVLSI回路シンポジウムとの合同で開催される。討論のテーマは「The Semiconductor Industry at a Tipping Point: What’s Next?(転換点を迎えた半導体産業 : 次に来るのは何か)」である。ムーアの法則が効力を失い、最先端の製造技術を有する企業がごくわずかになっている。一方で半導体の起業数が大きく減少しつつある。このような事実を踏まえ、半導体産業の未来を議論する。
11日夜のパネル討論会は、VLSI技術シンポジウム単独の開催である。テーマは「What Will the Foundries of the Future Do?(未来のファウンダリは何をすることになるのか)」であり、製造技術の今後10年とファウンダリ事業のありかたなどを議論する。
VLSI技術シンポジウムのメインイベントである技術講演会(6月11日~13日)では、4月のプレビューレポート(6月開催のVLSIシンポジウムでIntelがBitcoinマイニングチップを発表)ですでにご報告したように、興味深い研究成果が相次いで発表される。具体的な内容は順次、現地レポートでお伝えするので、ご期待されたい。