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鉄を用いたリチウムイオン電池正極材料の容量が約2倍に。低コスト化に期待

逆蛍石型リチウム鉄酸化物Li5FeO4(左)と今回開発した準安定相(右)の結晶構造。赤、黄緑、茶色の球はそれぞれ酸素、リチウム、鉄原子を表す。準安定相では各原子の位置が等価に配列した逆蛍石構造を形成している(出典: 東北大学)

 東北大学多元物質科学研究所名古屋工業大学は17日、鉄を用いたリチウムイオン電池正極材料の高容量化に成功したと発表した。東北大学多元物質科学研究所の小林弘明講師、本間格教授、名古屋工業大学大学院工学研究科中山将伸教授らの研究グループによる研究成果。

 リチウムイオン電池の正極材料として、レアメタル(コバルトやニッケルなど)の代わりに鉄を用いた材料を作る試みのひとつ。鉄を用いた正極材料としてはすでにリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が実用化されているが、レアメタルを材料とした正極と比べてエネルギー密度(単位質量もしくは単位体積当たりに取り出せるエネルギーの値)が低く、より高いエネルギー密度の正極材料開発が課題となっていた。

 今回、研究グループが正極材料として用いた逆蛍石型リチウム鉄酸化物(Li5FeO4)は、そのままではリン酸鉄リチウムと同程度の(もしくはそれよりも低い)エネルギー密度しか得られない材料だが、近年になって材料となる鉄と酸素両方のレドックス反応(酸化還元反応。化合物間で電子の授受がある反応のこと)を活用する方法が発見されたことで、正極材料として注目を集めている。

 研究グループでは逆蛍石型リチウム鉄酸化物の正極が低い容量しか出せない原因を「結晶構造の歪み」と考え、メカニカルアロイング(異なる物質の粉末を固相のまま衝突/混合させる合成方法)と呼ばれる低温合成法によって構造歪みを抑制した準安定相の結晶を合成。この結晶の正極特性を評価したところ、充放電時の負荷が大きく低減して、リン酸鉄リチウム正極の約2倍にあたる300mAh/gの可逆容量を示したという。

 鉄を用いた正極材料がレアメタルと同等の性能を示すに至れば、リチウムイオン電池の低コスト化と、サプライチェーンの不安定化リスクを回避できる可能性がある。また今回見出された材料設計の指針はリチウムイオン電池だけでなくナトリウムイオン電池などの次世代蓄電池や高機能触媒材料開発にも応用可能としており、低炭素化社会や地球温暖化対策への貢献が期待される。