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物流現場で腰と腕をサポートする「ATOUN MODEL Y+kote」の実証実験開始

 株式会社ATOUNは、2020年10月6日、物流大手の鈴与株式会社大井総合物流センターでATOUN製パワードウェア「ATOUN MODEL Y」と腕アシストユニット「+kote」を活用する実証実験を開始すると発表し、現地で記者会見を行なった。

 機械による一律の対応、すなわち自動化が困難な手作業での荷捌作業の負担を軽減することを狙い、効果的な運用方法を探る。導入台数は1台。実証実験期間は2カ月を予定している。

腰サポートタイプは2018年から累計販売台数700台

腰をサポートするのが主な用途

 ATOUNはパナソニックの社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」で2003年6月に設立されたベンチャー。パナソニック、三井物産など5社が出資している。「あうん」の呼吸で動くロボット技術を活用する事で、年齢・性別問わず働ける「パワーバリアレス社会」を創ることを経営理念としている。

 2018年夏から販売している「ATOUN MODEL Y」はバックパックのように背負って着用する装着型アシストスーツ。カーボン樹脂フレーム製で重量は約4.5kg(リチウムイオンバッテリ込み)。体幹の動きを角度センサーで検出して着用者の動作意図を推定、腰部のモーターを回転させて腰部への負担を軽減する。とくに全体的な疲労度を減らすことを考えており、腰にかかる負担を比較的疲れにくい大腿部に逃す。利用対象者は身長150〜190cmの人。

 重量物を持ち上げるときに腰を伸ばすように体を持ち上げる「アシストモード」のほか、モーターをオフにする「歩行モード」、物を下ろすときに体をゆっくりと下げるサポートをして中腰姿勢を支える「ブレーキモード」の3つの作業モードを自動で切り替える。作業者を邪魔しない作業性が評価され、「ATOUN MODEL Y」は株式会社JALグランドサービスや工場、建設現場、土木工事現場などで用いられている。販売価格は約70万円、累計販売台数は700台。

リュックのように背負って着用する
慣れれば1人で20秒程度で着用可能とのこと

腕サポートユニット「+kote」

デモの様子

 2021年1月から発売予定で、10月現在は先行予約受付中の「+kote」は腕用のアシストユニットで、指先につけるセンサーによって握力を測定、「MODEL Y」上部に搭載されたモーターがリストホルダーに取りつけたワイヤーを巻き取り、手首を引き上げる。引き上げた状態でロックできるだけでなく、シンプルな構造のため、作業者の自由な動きを妨げることがないという。

 「MODEL Y」に腕アシストユニット「+kote」を併用することで、腰と腕をアシストすることができる。最大アシスト力は、腰部10kgf+両腕12kgfとなる。また、荷物の持ち上げを固定的に保持することもできる。「ATOUN MODEL Y + kote」の重量は約6kg。稼働時間は約2.5時間。実勢価格は100万円程度を想定している。

 アシストなし、「MODEL Y」着用、「ATOUN MODEL Y」着用で、30分間の重量12kgの飲料ケースを上げ下ろしするときの作業で比較すると、いずれも、「ATOUN MODEL Y」着用が荷物運搬回数が高かったという。

腕の力をサポートする「+kote」。握ると腕が引き寄せられる
背中上部のモーターで巻き上げる
手を広げた状態では動きを妨げない
引き寄せた状態で腕をロックすることができるため運搬が楽になる

人の動きを妨げることなく力をサポート

株式会社ATOUN 代表取締役社長 藤本弘道氏

 株式会社ATOUN代表取締役社長の藤本弘道氏は、「腰だけではなく腕の負担を減らしていきたいという声が以前からあった」と述べた。2021年1月から「MODEL Y」は腕サポート付きとなしの2ラインナップで展開されることになる。そして「本当の使いやすさは現場の声に応えて開発していきたいと考えている」と語った。また、「バネやゴムなどサポートタイプには動きにくいという欠点があり、ロボット制御によって動きやすさを実現している点が最大の特徴だと考えている」という。

鈴与株式会社3PL事業推進室次長 會田晃司氏

 鈴与株式会社3PL事業推進室次長の會田晃司氏は、「袋状のものやケース状のもの、長尺ものなど多種多様なものがある物流現場は機械化が難しく人の作業負荷が大きい。全国3拠点に腰モデルをすでに導入しているが、今度は腕をロックしてくれる機能がある。作業者の負担がどれだけ減るのか、安全性、作業効率などを検討しながら導入を進めていきたい」と語った。

 鈴与では、とくに「同じ姿勢のまま長時間作業する場所では効果がある」と判断しているという。4.5kgのスーツを背負ったときは最初は重たいと感じるが、使っているうちに機械と人が同期してきて気にならなくなり、翌日以降の筋肉痛がなくなったという声が寄せられた。鈴与の70拠点の半分くらいに今回の実証実験で予定しているものと同じ作業があり、効果があれば順次導入を狙う。

株式会社ATOUN技術開発部次長 中野基輝氏

 技術特徴はATOUN技術開発部次長の中野基輝氏が紹介した。「腕をアシストするにはいくつかの方法があるが、さまざまな荷物に対応しながらいかに人を助けるかが重要になる。腕の部分をワイヤー式にしたことで、上半身の動きを阻害せずにアシストすることができる。手のひらのセンサーで握力を把握しアシストすることができる。片腕6kg、両腕で12kgのアシストができる」と紹介した。今後、実際の現場での効果を測定して、作業効率や作業性、安全性などを検証する。

 デモでは重さ25kgの岩塩の袋を運ぶところが紹介された。着用するとかなり楽になるため、作業する姿勢なども最初から変わってくるとのことだった。実証実験は一人の作業員が長時間着用して、効果を検証する。

デモの様子。実際の作業は1人が行なっている
重さ25kgの岩塩。実際に人が積んでいるとのこと