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日本マイクロソフト、視覚障碍者の“眼”となるSeeing AIの日本語版をiOSで提供開始

日本語版Seeing AI

 Microsoftは12月3日、視覚障碍者向けトーキングカメラアプリ「Seeing AI」日本語版をiOS向けに無料で提供を開始した。

 Seeing AIはスマートフォンのカメラを介し、周囲の風景を認識したり、レストランのメニューを読み上げたり、近くに誰がいるかなどを音声で知ったりすることができるアプリ。MicrosoftのクラウドAI技術であるCognitive Servicesが使われており、リアルタイムに即座に対象物の結果が得られるようになっている。

 日本マイクロソフトは本日が国際連合が定めた「国際障害者デー」であり、12月9日にかけて障碍者週間としてさまざまな取り組みが行なわれることから、この日に合わせて日本語版のSeeing AIを公開した。これに合わせ、これまで英語版のみ提供されていたSeeing AIは全部で6言語対応となり、70カ国でダウンロード可能となった。

 また、今回の発表にともない、日本マイクロソフト株式会社は、都内にてメディア向け説明会を開催。同社プリンシパルアドバイザーの大島友子氏が登壇し、日本語版Seeing AIの説明を行なった。

日本マイクロソフト プリンシパルアドバイザーの大島友子氏
Microsoftが目指すアクセシビリティ

 大島氏はMicrosoftが30年以上にわたって“アクセシビリティ”を提供してきており、障碍者から得たWindowsを利用したいという声が発端となり、研究開発を重ねて搭載されていったという経緯を語った。身近なもので言えば、音声読み上げ機能であり、マウスを使わずにキーボードのみで操作を完結させる機能などだ。

 MicrosoftはCognitive ServicesというクラウドAIを運用しており、膨大な学習済みのデータを外部からアクセス可能にすることで、さまざまな用途に向けてAIの回答を迅速に提供可能にしている。

 Seeing AIはCognitive Servicesを利用するものの1つであり、同アプリを起動してスマートフォンをなにかの物体にかざせば、それがどういったものであるかをCognitive Servicesに渡して解析を行ない、一瞬で結果を表示する。目に障碍を抱えるユーザーがスマートフォンを介して、世界にアクセスできるようになっている。

Seeing AI
搭載機能

 機能としては、映っている文字を即座に読む「短いテキスト」、文章を読み上げる「ドキュメント」、バーコードを読んで価格を教える「製品(※現時点では日本語が使えない)」、目の前に誰がいるか教える「人」、目の前に映っているものを教える「風景」、どの硬貨や紙幣かを教える「通貨」、ものの色を教える「色」、電気の点灯状態を教える「ライト」を搭載。

 このうち、「短いテキスト」、「人」、「色」、「ライト」に関してはアプリ自体が持っているデータベースを使用するため、オフラインでも利用できるようになっており、回答は一瞬。そのほかの機能についてはいったん写真を撮ってからデータを送るため、それでも十分早いと言えるが、前者に比べれば微妙に時間を必要とする。

 なお、「人」に関しては有名人であればAIがデータベースとして持っているが、一般人としての自分の家族などは登録が必要。当然その家族の顔データはCognitive Servicesに登録されるわけではなく、そのスマートフォンでのみ利用できるデータとして扱われる。

 今回、30歳のときに全盲になりながら一般社団法人 セルフサポートマネージメントを運営するなどの社会活動をしている石井暁子氏も発表会に登壇。昨年より英語版のSeeing AIを使われていたとのことで、全盲者の視点からSeeing AIの利便性を語った。

 石井氏は同じ一般社団法人に務める旦那さんと、3歳の娘さんがおり、目が見えなくても仕事や子どもの世話、家事などを行なっている。Seeing AIを使うことで冷蔵庫のなかにあるものや、同じような容器に入っている調味料の見分けなどができ、ほかにもさまざまなことが1人だけでできるようになったことから、目が見えていたころのような感覚を取り戻せたという。

一般社団法人 セルフサポートマネージメント 代表理事の石井暁子氏
「短いテキスト」の利用。会議室の番号などの読み上げに使用している
「ドキュメント」の利用。まだまだ紙で資料を渡されることも多く、この機能を利用して書かれている文字を読み上げる
「人」の利用。どういった人か誰が映っているかを判断
「風景」の利用。子どもが静かにしててなにをしているかわからなくても、状況を説明してくれる
「色」の利用。子どもの服選びに
「ライト」で電気が付いているのかどうかがわかる。以前は娘さんが電気を消したと見せかけて、じつは寝ずに遊んでいたこともあったそうだ

 石井氏はSeeing AIのアプリが簡素に作られており、目が見えなくても慣れてしまえば、操作を誤らずに使用可能と述べており、1つのアプリでいくつもの機能が集約されているのがとても便利という。普段われわれは強く意識することはないが、アプリにはそれぞれ異なるUIが採用されており、目が見えない人からするとその違いを覚えたり、使い分けたりするのがたいへんとのことだった。

 MicrosoftはSeeing AIといった取り組みだけでなく、障碍者向けのAIを使った助成プログラムとして「AI for Accessibility」を実施しており、障碍者に向けたAI活用のソリューションをサポートしている。今回日本で初めてAI for Accessibilityを受賞したとして東京工業大学の「PuCom」と合同会社シーコミュ「AIミミ」も紹介された。

Microsoftの助成プログラム「AI for Accessibility」

 PuComはALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者でも瞳孔の径を測ることで応答を判断するというもので、一方のAIミミは聴覚障碍者が講演会などに参加してもその内容がわかるようにAIが音声のテキスト化を行なうというものとなっている。それぞれCognitive Servicesを利用している。

東京工業大学「PuCom」
合同会社シーコミュ「AIミミ」

 このほか、日本マイクロソフトは障碍者向けのゲームコントローラ「Xbox Adaptive Controller」を日本で近日中に発売することを発表。同コントローラはXboxまたはPCで使用できる。

Xbox Adaptive Controllerが国内でも発売

 大島氏はこうしたCognitive Servicesを使って収益化を図ることは現状考えておらず、まずはCognitive Servicesを認知してもらい、サービスを使ってもらうことが大切だとした。

 なお、Seeing AIのAndroid版の展開は考えられていないとのことで、その理由としてはAndroidではデバイスごとに仕様がさまざまであるため、高品質なサービスの提供が難しいということだった。