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いまやAIは「毎日触れるもの」に
~日本マイクロソフト、PFNとの協業の成果を解説
2018年1月18日 18:16
日本マイクロソフト株式会社は18日、都内にてプレス向けラウンドテーブルを開催した。
ラウンドテーブルでは、同社執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏が、米MicrosoftでAI部門を統括するHarry Shum氏が2017年12月13日に行なったイベントの発表内容についての解説などを行なった。
榊原氏はまず、Harry Shum氏がイベントに「Everyday AI」と題していたことに触れ、今までなら「AI for Everything」といった文言を使っていたが、今は日常的に触れるモノという段階になったと語った。
Microsoftでは、AIについて、基礎研究からAI製品、既存製品へのAI組み込み、AIプラットフォームの構築、ビジネスソリューションへのAI導入といった5つの分野に集中して投資を行なっているとした。
さまざまな分野での取り組み
同社のAIサービスとなる「Cognitive Service」は、76万人以上の開発者がソリューションに採用しているという。
Microsoftも、Cognitive Serviceを活用し、同社では視覚障碍者のため、カメラで得た視覚情報を音声化するアプリ「Seeing AI」を提供している。なお、現在はiOS版のみで、日本のApp Storeからは利用できない。
こちらはアップデートで貨幣や色彩の認識、明るさ検知に対応したという。
そのほかのニュースとしては、自然言語解析ツール「LUIS (Language Understanding Intelligent Service)」と、チャットボットサービス「Azure Bot Service」の一般提供開始が発表されている。
コミュニティとの連携では、まず深層学習フレームワーク間の標準フォーマット「ONNX (Open Neural Network Exchange)」について、対応フレームワークが増加し順調に進んでいると榊原氏は説明した。
AWSと共同開発するオープンソースの深層学習インターフェイス「Gluon」もアップデートが進んでおり、カナダのAIスタートアップMaluubaの買収なども行なっているとした。
Microsoft GraphはAPIの拡充が進み、今後はビジネスデータと組み合わせて、多くのAIを活用したアプリ/成果の実現に繋がっていくと語った。
Office 365では、AIを活用し、Wordに社内専門用語や略称を判別/定義してくれる「Acronyms」、Excelに表の内容を理解しグラフをサジェストしてくれる「Insight」などの機能が追加されるとした。
医療でもAIを活用
そのほか、AIに関連し、遺伝子検査企業である、Adaptive Biotechnologiesとパートナーシップを締結している。
同社は血液サンプルから免疫細胞の解読を行なっている企業で、免疫細胞と抗原をマッチングして治療に役立てるという。
医療関連では、遺伝子編集の分野でもAIの活用が行なわれている。Microsoftは10日(米国時間)に、「CRISPR」でAIを使って結果を予測するためのツール開発について発表している。
CISPRはClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatの略称で、遺伝子の塩基配列のうち、免疫系に関わる部分を指す。ここでは文脈上、遺伝子編集技術としての「CRISPR/Cas9システム」を指していると見られる。
このCRISPR/Cas9システムを用いて、遺伝子の特定部分を切断、入れ替えることで、画期的なガン治療などが実現できると目されているが、同システムには、標的外の部分も切断してしまうオフターゲット作用があるという。
Microsoftが「Elevation」と称して開発したツールは、そのオフターゲット効果を学習させ、AIに予測させるというもの。Elevationと、同時に開発されたオンターゲット効果を予測する「Azimuth」はともにオープンソースで、Azure上で無償公開されている。
シミュレーションや社会問題の解決
Microsoftの研究開発部門であるMicrosoft Researchでは、現実世界を模した仮想空間「AirSim」の開発が進められているという。
もともとはドローンの飛行実験用で、今では自動車や船舶の自律操作AIを学習させる環境になっているという。
衝突や落下なども仮想空間で行なうことで、現実世界で同じ試験を行なうよりもコストや時間の削減に繋がるとした。
弊誌でもお伝えしているが、「Stanford Question Answering Dataset(SQuAD)」を使った文章読解力テストで人間を超えるスコアを記録したことも紹介された。
Preferred Networksとの協業
榊原氏は、AIについて、パートナーシップや社会問題へのコミットメントも投資の一貫として行なっていると説明。
同社のAI開発では、ポリシーとして「人々を支援するもの」であること、「万人のためのもの」であること、「信頼できる技術」に基いていることの3つが求められるという。
これを厳守するため、社内には「Aether Advisory Committee」としてレビューボードが設置されているという。なお、AetherはAI and Ethics in Engneering and Researchの略称だ。
社会問題では、「AI for Earth」プロジェクトがあり、地球全体で取り組むべき水資源や気候変動、生物多様性の問題などをAIを使って解決していくため、今後5年間で5千万ドルを投入していくという。
「Partnership on AI」では、IBMやAWS、Google(Alphabet, DeepMind)、Facebookに加え、Appleも参加。現在は30社程度が参加しており、ソニーもその1つだという。
Partnership on AIでは、誤作動した場合にも問題を認識し、修正できるように、AI同士の会話プロトコルを人間が理解できるよう可読性を確保させるといった取り組みや、ベストプラクティスの共有などを進めているとした。
榊原氏は、2017年5月発表のPreferred Networks(以下PFN)との協業についての進捗状況も説明。
協業を通じて、前述のONNXにPFNと同社の開発するフレームワーク「Chainer」が参加することを発表した。
ONNXは、異なる深層学習フレームワーク間で、AIモデルの相互運用性の実現を図るという取り組みで、これによって学習と推論を異なるフレームワークで実行するといった利用が可能になるという。
協業の成果としては、AzureのData Science Virtual Machine (Data Science VM)にChainerがプリインストールされたことも挙げ、それによって日本におけるData Science VMの利用量が4倍に増加したという。
Chainerはマルチノードで学習速度を大幅に高速化できるのも特徴だが、Azureでもマルチノードに対応し、InfiniBand搭載のGPUクラスタを使って、128 GPU上でシングル比で100倍の学習速度向上を実現しているとした。
PFNとの協業と同時に設立された深層学習コミュニティ「Deep Learning Lab(DLL)」では、3年で5万人の人材育成を掲げていたが、半年で1,700人がセミナーなどに参加しており、現在国内の深層学習コミュニティとして最も勢いがあるところまで成長したと語った。
事例紹介として、アイシン・エィ・ダブリュがカーナビの描画異常検知にAIを使用している例、マネックス証券が文章校正ツールの作成にAIを利用した例などが紹介された。
今後は、各業種、業態に応じた会を設置し、事例情報の共有や、深層学習ソリューションの紹介などと行なっていきたいという。
またDLLでは、有料セミナーとしてハンズオンを開催しているが、これには10回で計150人が参加。3日間で20万円という価格ながら、満足度100%という結果を得られているという。
このハンズオンについても、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度(Reスキル講座)」の認定を取得し、「DEEP LEANING LAB “ACADEMY”」として2018年から全国展開を予定。4月より受講費用の7割について補助を受けられるようになり、さらなる受講層拡大を見込んでいるとした。