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東北大ら、有機分子のスピン移行に初めて成功

(a)鉄(II)フタロシアニン分子の構造、(b)白金表面に吸着した鉄(II)フタロシアニン、(c)細線デバイスの概念図、(d)X線吸収分光結果、(e)理論計算結果と(d)との比較

 東北大学大阪大学東京大学分子科学研究所高輝度光科学研究センターらによる研究グループは、初の有機分子におけるスピン移行に成功したと発表した。

 不揮発性メモリ(MRAM)やロジック回路など、電力を使わずに情報を維持する技術の開発において、電子が持つ磁石のような特性であるスピンと電荷を組みあわせた「スピントロニクス」が注目されている。

 スピンを演算に利用するためには、スピン状態のコヒーレンスをマイクロ秒程度に保つ必要があり、これがピコ秒程度と短い金属磁石では量子演算への応用が難しい。一方で、分子中のスピンはこの条件を満たせるが、スピンの制御や電子の状態を電気的に検出/制御する手法が確立されていなかった。

 研究グループでは、鉄(II)フタロシアニン分子を厚さ6nmの白金の表面に吸着させて、細線デバイスに加工。デバイス上で鉄(II)フタロシアニン分子のスピンが保持されていることを大型放射光施設「SPring-8」のX線を用いた測定で確認した。

スピンホール磁気抵抗効果の測定結果。鉄(II)フタロシアニンのスピン方向を電流が平行の場合(条件A)と垂直の場合(条件B)

 次に、この細線デバイスの電気抵抗の変化を外部磁気の向きを変化させながら測定すると、磁場の方向によって抵抗の変化が確認された。これはスピンホール磁気抵抗効果特有の現象で、白金で生成されたスピン流から、鉄(II)フタロシアニン分子にスピンが移行したものと考えられる。これにより、電流によって有機分子の持つスピンを制御可能なことが明らかになった。

 今回の研究は、金属磁石だけでなく有機分子でもスピン移行が可能なことを示した初の実証例で、有機分子を利用した量子コンピュータのビット初期化などに応用が可能だとしている。