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【詳報】Win32アプリが動く“ARM版Windows 10”はフル機能搭載の完全なるWindows 10

~デモでPhotoshopを動作させる

 Microsoftは12月8日~9日(現地時間)の期間で、開発者向けイベント「WinHEC Shenzhen 2016」を中国深セン市内のホテルで開催している。

 初日の基調講演では、Microsoft Windows & Devices担当上級副社長 テリー・マイヤーソン氏が登壇して、同社のデバイス開発の戦略などを説明した。

 この中でマイヤーソン氏は「現在PCセグメントでは、2in1デバイスのような機器が急成長している。特に若い世代を中心にコネクティビティや、より長時間のバッテリ駆動時間を望む声が少なくない。我々はそうした声に応えて、ARM版のWindows 10をQualcommとともにリリースしていきたい」と述べ、同社がARM版のWindows 10を投入することを明らかにした。同氏はARM版Windows 10を来年(2017年)に投入するとしており、Qualcommの複数のSoCで動作する予定。

フルネイティブのARM ISAに対応したARM版Windows 10。x86エミュレータでWin32アプリを実行

 現地時間午前9時半から行なわれたWinHECの基調講演は、前半は割と低調な内容でスタートし、聴衆もこのまま内容がないまま終わるのかと思い始めていた頃、マイヤーソン氏が突如インパクトのある発表を始めた。それが、ARM版Windows 10という隠し球だ。

ARM版Windows 10が発表
ARM版Windows 10のデモを行なうマイヤーソン氏

 MicrosoftはARM向けのOSと言えば、Windows 10 Mobileや組み込み向けなどで、PC向けではARMバージョンを用意してこなかった(Windows 8世代ではWindows RTと呼ばれるバージョンが用意されていたが、Windows 10になると同時にRTは終了した)。

 しかし、今回発表したARM版Windows 10は、そのWindows RTとも異なるフル機能を搭載したネイティブARM OSとなるWindows 10だ。機能はx86/x64版のWindows 10と同じく、完全な機能を備えており、Windowsエクスプローラー、タスクマネージャー、Cortana、Edgeなどは現行のx86版Windows 10と同等である。

 マイヤーソン氏のデモでは、実際にタスクマネージャーを開いてCPUの負荷率を見たり、エクスプローラーでファイルを開いたり、Edgeの機能を利用してWebブラウズをしたり、ペンモードにしてペンで手書きメモをとったりと、Windows 10で行なえる標準的な操作を実演した。

 マイヤーソン氏によれば、これらの標準機能は「ARMネイティブで作られている」とのことで、OSのカーネル部分も含めてARM向けのバイナリとして実行されている。なお、デバイスマネージャーから、このARM版Windows 10が64bit ARM(ARMv8)に基づいていることも確認できている。

ARM版Windows 10のデバイスマネージャー。Enterprise版のInsider Previewとなっている。メモリは4GBで、64bit版であることが分かる
このようにシステムのプロパティも表示できる
エクスプローラー
タスクマネージャの表示
Microsoft Edge
Microsoft Edgeの手書きモードももちろんサポート
ビデオ再生

 Windows 8世代のWindows RTとの違いは、デスクトップアプリの実行が許可されていることだ。Windows RTでは、デスクトップアプリの実行はWindows RT標準のアプリ(メモ帳など)かOffice RTのみで、サードパーティのデスクトップアプリを実行することができなかった。

 しかし、新しいARM版Windows 10では、「ARMネイティブのバイナリを実行することもできるし、エミュレータを通してWin32アプリを実行することもできる」との通り、アプリベンダーが作成したARMバイナリのデスクトップアプリを実行することもできるし、バイナリトランスレータと呼ばれるCPUの命令セットを変換しながら実行するソフトウェアを介して、x86向けに作られたWin32アプリのバイナリを実行することもできるという。

バイナリトランスレーションの機能を利用してWin32アプリのAdobe Photoshopを実行している様子
こちらもWin32のMicrosoft Wordを実行している様子

 気になるのはそのバイナリトランスレーションの速度だが、デモでは代表的なサードーパーティ製Win32アプリと言えるPhotoshopをそのバイナリトランスレーション機能を利用して実行している様子が公開された。

 ただ、デモで見せられたのはメニューの表示程度で、実際に写真をレタッチする様子が表示されたわけではない。マイヤーソン氏によれば「プログラムのうち、グラフィックスの部分はCPUに依存しないように書かれていることが多く、例えばDirectXなどを呼び出して実行していれば速度低下はあまり感じないだろう。しかし、CPUに関しては変換が入るので当然速度低下はある。ただしそれはアプリによりけりで、3D CADのようなCPUに対して高負荷なアプリであれば厳しいが、そうではなくもう少しカジュアルなアプリやビジネスアプリなどであれば問題ないと思う」と説明している。

Qualcommは複数世代のSoCで積極的にサポートしていくと明らかに

 ステージには、Qualcomm Technologies 上級副社長 兼 Qualcomm CDMA Technologies 社長 クリスチアーノ・アモン氏が登壇し、Qualcommのサポート状況などについて説明した。アーモン氏によれば「我々はこのWindows 10を複数製品で、長期間に渡ってサポートしていく」として、今後Qualcommが重要なプラットフォームとしてARM版Windows 10を積極的にサポートしていくことを明らかにした。

Qualcommとのパートナーシップを強調
HPのElite X3を手に説明するQualcomm Technologies 上級副社長 兼 Qualcomm CDMA Technologies 社長 クリスチアーノ・アモン氏

 アモン氏はHPが発売したWindows 10 Mobile搭載のスマートフォンとなるElite X3を示し、「今回のデモに利用したタブレットは、このElite X3に採用されているSnapdragon 821とまったく同じSoCを利用して行なわれている」と述べ、現在のSnapdragon 821でx86バイナリトランスレータも含めた機能が実現できるとアピールした(ただし、デバイスマネージャ上ではSnapdragon 820と表示されていた)。

 今回の基調講演ではどのQualcommのSoCが利用可能かは明らかにされておらず、例えばミッドハイ向けのSnapdragon 600シリーズなどでサポートされるのかなどは今後の情報公開を待つ必要があるだろう。

QualcommとフルWindows 10