Ubuntu日和

【第9回】標準のデスクトップ環境に慣れないなら、さまざまなフレーバーを試してみよう!

 第8回ではGNOMEをモデルにデスクトップ環境の解説した。また他にも多数のデスクトップ環境が存在することを示唆した。

 今回は続きとしてその多数のデスクトップ環境を紹介するのだが、果たしてそのデスクトップ環境はUbuntu上で簡単に使用できるのか、という問題が出てくる。

 そのあたりはどうなっているのか、細かく見ていこう。

公式リポジトリ

 第4回のおさらいになるが、Ubuntuでは公式リポジトリが用意され、パッケージのダウンロードができる。

 ということは、各デスクトップ環境のパッケージが公式リポジトリに用意されていれば、Ubuntuでも使用できるということになる。

 あらかた想像がつくと思うが、公式リポジトリには各デスクトップ環境のパッケージが用意されている。コンポーネントはすべて「Universe」だ。すなわちCanonicalが公式にサポートがあるのはGNOMEだけで、他のすべてのデスクトップ環境はコミュニティによってメンテナンスされている。

Ubuntuフレーバー

 リポジトリにパッケージが用意されているということは、Ubuntuをインストール後追加で各デスクトップ環境のパッケージをインストールすると動作することにはなる。ただしこれは面倒だし多数のパッケージがインストールされることになるので、好ましい状態ではなくなる。

 ではどうすればいいのかというと、Ubuntuのようにインストールできる状態のライブイメージを配布すればいい。

 そのような考えはUbuntuプロジェクト発足直後からあり、公式派生版ともいうべき「Ubuntuフレーバー」(以下フレーバー)が用意されることになった。

 最初は後述するKubuntuから始まり、多くの場合主にデスクトップ環境が異なっている。

 フレーバーはUbuntuと同じようにインストールできるライブイメージで提供され、インストーラが同じものもある(違うものもある)のでUbuntuをインストールした経験があればとっかかりやすい。

Ubuntuと同じインストーラ(Ubiquity)のフレーバー(Ubuntu MATE)
Ubuntuとは違うインストーラ(Calamares)のフレーバー(Kubuntu)

 Ubuntuと同じ日にフレーバーもリリースされるが、フレーバーはサポート期間が3年間と短いので、LTSを使用している場合は2年ごとのアップデートが必須になる。

フレーバーとRemix

 フレーバーは「公式派生版」であり、フレーバーとしてリリースされるためにはUbuntuコミュニティによって認定される必要がある。

 非公式の派生版ではあるものの、フレーバーに準じるものは「リミックス」と呼ばれることが多い。多数の独自パッケージを用意し、Ubuntuとは一線を引いてリリースしている派生版も多数存在するが(Linux Mintなど)、こちらは「リミックス」とは呼ばれない。

 Ubuntu Japanese Teamがリリースしている「Ubuntu日本語Remix」が顕著で、Ubuntuに最低限の変更を加えてリリースされている。それらの変更点は、さまざまな理由ですべてUbuntuには取り込まれなかったものだ。

Ubuntuフレーバーの紹介

 ではUbuntuフレーバーを採用しているデスクトップ環境とともに紹介していこう。

Kubuntu

KDE Plasmaのデスクトップ
さまざまなウィジェットを追加できるだけでなく、右上の「Get New Widgets」から追加もできる

 第8回にもあるように、現在KDEというデスクトップ環境はリリースされていない。よってKubuntuはフレームワークのKDE Frameworks、デスクトップシェルのKDE Plasma、アプリケーションのKDE Gearの3つに分かれてリリースされている。この3つを組み合わせてデスクトップ環境としている。

 Kubuntu 22.04 LTSを例にすると、KDE Frameworks 5.92.0、KDE Plasma 5.24.4、KDE Gear 21.12.3を採用している。

 同じく第8回にあるようにオープンソースデスクトップ環境の老舗で、完成度も高くGNOMEとおおむね同等の機能を提供する。対応アプリケーションも豊富で、特にKritaは当初KDE用アプリケーションとして開発されたものの、現在はWindowsでのユーザーも多い。

 特にKDE Frameworksに依存しないQtアプリケーションも多いので、Qt/KDEアプリケーションを使用する機会が多いのであればKubuntuを試してみてもいいだろう。

Xubuntu

Xfceのデスクトップ
XubuntuにはSynapticというパッケージマネージャーがインストールされている。Ubuntuソフトウェアとは違いリポジトリにあるすべてのパッケージをインストールできる

 XubuntuXfceというデスクトップ環境を採用しているフレーバーだ。

 Xfceもなかなかに老舗でGTKベースだが、GNOMEよりもシンプルでできることが少ない分、ハードウェアリソースをあまり食わないのが特徴だ。Raspberry Pi用のUbuntuはリリースされているが、メモリが少ない場合はXubuntuを選択するのもいいだろう。少し古いPCにインストールするのにも適している。

 また幸か不幸かリリースペースが遅く、あまり変化がない。とにかく今動いているものをそのまま使い続けたいというニーズにも合っている。Xfce自体に大きな変化はなくても、Xubuntuとしては通常通りのスケジュールでリリースされている。

Lubuntu

LXQtのデスクトップ
GTKとQtで同じテーマを設定すればツールキットの違いをあまり意識することはなく、そんな設定ができるようになっている

 Lubuntuは少し面白い特徴のあるフレーバーで、もともとはLXDEというデスクトップ環境を採用していた。LXDEのツールキット変更にあたり、LXQtというデスクトップ環境が開発されることになり、LubuntuもLXQtに移行した。

 LXQtはその名の通りツールキットにQtを採用したデスクトップ環境だ。機能もシンプルで独自のアプリケーションもあまり用意していない。

 LXQt自体は日本語環境での使用に問題ないものの、Lubuntuは多言語化にはあまり力を入れておらず、そのままで日本語環境を使用できない。いくらか手間をかける必要があるが、本記事では省略するので専門誌を当たって欲しい。

Ubuntu MATE

MATEのデスクトップ
現在選択肢ている背景(壁紙)とその前後はAIで生成したクラゲとのことだ

 Ubuntu MATEMATE(マテ、と読む。「マテ茶」のマテ)デスクトップ環境を採用したフレーバーだ。

 第8回に書いたが、MATEはGNOME 2系列の最終バージョンから派生したデスクトップ環境だ。ルック&フィールはあまり変えず、中身を新しくしていくという野心的なプロジェクトだ。当然各アプリケーションも同じポリシーで開発されている。

 GNOME 3.0がリリースされたのは2011年4月なので、それ以前にリリースされたUbuntu(10.04 LTSなど)を触ったことがあるのであれば、見覚えがあるかもしれない。

在りし日のUbuntu 10.04 LTS。さすがにUbuntu MATEのほうが新しく見える

 GNOMEはバージョンが上がるとカスタマイズの余地が少なくなっていくという特徴があり、細かいカスタマイズを行ないたい場合はGNOMEよりMATEを選択するといい。デスクトップのレイアウトをカスタマイズできるツールが付属しており、簡単にWindows風やmacOS風に変更できる。

「MATE Tweak」を使用すると簡単にパネルレイアウトを変更できる。これはWindows風で、(本誌の読者であれば解説は不要だと思うが)RedmondはMicrosoft本社の所在地だ

 実はUbuntu MATEはフレーバーの中でもかなり活発に開発されており、Ubuntuのユーザーインターフェイスが合わない場合には次に試してみるといいだろう。

Ubuntu Cinnamon Remix

Cinnamonのデスクトップ
カスタマイズも簡単にできるようになっており、アプレットやテーマはインターネット経由で取得して適用できる

 22.04 LTSのリリース時点では非公式派生版だが、22.10ではフレーバーになるべく進んでいるのがこのUbuntu Cinnamon Remixだ。

 Cinnamonは前出のLinux Mintで開発されているデスクトップ環境で、GNOME 3系列の古いバージョンから派生している。もともとアプリケーションはGNOMEのものを使用していたが、現在は独自のアプリケーションをいくつか用意している。第8回にあるヘッダーバーを採用したアプリケーションを忌避しているようだ。

 ルック&フィールは今回紹介したデスクトップ環境の中で一番Windowsに近いので、とっつきやすいだろう。

 Ubuntu Cinnamon RemixとLinux Mintは同じCinnamonデスクトップを採用しているが、特色は全くことなる。特にリリースポリシーは大きく異なり、Linux MintはUbuntuのLTSをベースにリリースしているが、Ubuntu Cinnamon Remixは通常のリリース(中間リリースとも呼ばれる)をベースにリリースしている。すなわちUbuntu 22.10ベースのLinux Mintはリリースされず、Ubuntu Cinnamon Remixは(希望的にはフレーバーになって)リリースされる。

 またLinux Mint独自ツールもUbuntu Cinnamon Remixでは不採用で、Ubuntuに準じるツールを採用している。

そのほかのフレーバー

 ほかにも3つあるフレーバーについて簡単に紹介する。

  • Ubuntu Budgie…GNOMEのデスクトップシェルをGNOME ShellからBudgieに置き換えたフレーバー
  • Ubuntu Studio…各種クリエイター向けパッケージが揃ったフレーバー
  • Ubuntu Kylin…中国語圏向けフレーバー。デスクトップ環境はMATEから分岐したUKUIを採用する

 このように多数のデスクトップ環境とフレーバーがリリースされているので、UbuntuやGNOMEはちょっとな……という読者にはこの中からお気に入りの一品を見つけ出してほしい。