Ubuntu日和

【第8回】デスクトップ環境ってなんだろう?

 Ubuntuを紹介する記事には、しばしば「UbuntuはGNOMEデスクトップ環境を採用している」のような説明を見かける。ではGNOMEとは、デスクトップ環境とは何なのだろうか。そしてGNOME以外にもデスクトップ環境は存在するのだろうか。今回はそんな話だ。

 なお「GNOME」は通常「ノーム」と読むが、デスクトップ環境の場合は「グノーム」と読む。これがなぜかの解説は行なわないが、今回は最低限これだけ覚えてくれれば問題ない。

使いやすいGUIってなんだ

 非常にざっくりした質問だが、使いやすいGUIとは何だろうか。

 人は得てして絶対的な使いやすさ(難易度)よりも慣れているほうが使いやすいと思い込む傾向がある。とはいえ筆者の主観的な意見であり、その手の論文を読んだわけではない。

 仮にこれが真だと仮定すると、使いやすいGUIは慣れたGUIということになる。

 世の中には無数のGUIアプリケーションがあり、これが全部バラバラの操作で1つ1つ覚えなくてはいけないということになったら、おそらく大変使いくく感じるであろう。反対にある程度操作感が統一されていれば、あまり多くのことを覚えなくても使いやすいと感じるはずだ。

 ここで思い出されるのがWindowsのリボンインターフェイスである。ジャンルの違うアプリケーションでも、統一した(≒慣れた)GUIであれば使いやすいはず、という思想のもとで作られてものであると推測しているが、あまり使いやすいという話は聞こえてこない。やはりツールバーにアイコンがたくさんものに慣れているということなのだろうか。

Windows 10にインストールされているアプリケーションのいくつかはリボンインターフェイスを採用している。Windows 11だと少々退行しているように見えるのでWindows 10にした

 とはいえ、つまるところ今回はそういう話である。

オープンソースデスクトップ環境の登場

 ここで話は20世紀に戻る。第1回にもある通りLinuxのリリースが1991年で、その後開発が進んでクライアントOSとしても使用できなくはない状態になってきて、GUIアプリとかも出てきたが、Linuxと同じオープンソースかつ統一的なGUIで操作できる環境を整えたいと考えた人たちが出てきた。

 そこで開発を開始したのがKDEである。当時CDE(Common Desktop Environment)というオープンソースではない(プロプライエタリな)デスクトップ環境があり、この「C」を「K」に変えたものだ。この命名は、その後登場する数多のKDE対応アプリケーションに影響を及ぼしていくが本題ではないのでさておく。

 統一的なGUIを開発するには、GUIのライブラリがあるといい。このGUIライブラリは特に「ツールキット」あるいは「ウィジェットツールキット」と呼ばれている。

 KDE使われたのはQtというツールキットだが、これは当時無料で使用できたもののオープンソースではなかった。すなわちプロプライエタリであった。

 これもオープンソースではしばしば起こることだが、プロプライエタリなツールキットを使用するのはけしからんということでオープンソースのツールキットを使用してデスクトップ環境を開発する人たちが現れた。そこで開発されたのがGNOMEである。

 オープンソースのツールキットとは具体的にはGTK(GIMP ToolKit)だ。もともとはその名の通りGIMPのために開発されたものだが、当初開発されていたものは破棄されて「GTK+」として新たに書き直された。しかし近年この「+」は取られて正式名称が「GTK」となっている。GTKとGTK+という表記を混在してもわかりにくくなるだけなので、ここでは「GTK」という表記で統一する。

 そしてKDE 1.0は1998年7月12日、GNOME 1.0は1999年3月3日にリリースされた。

デスクトップ環境に必要なもの

 デスクトップ環境にはツールキットだけがあればいいわけではない。ツールキットの他にもライブラリは必要だ。といいつつGTKはわりと多機能で(正確には後に開発されたさまざまなライブラリを取り込んでいって)、他に多くのライブラリを必要としない。

 「デスクトップ環境」というからにはデスクトップを操作する必要があり、これは特別に「デスクトップシェル」と呼ばれている。GNOMEではGNOME Shellを採用しているが、他のものに変更できる。換言すると、GNOME ShellでなくてもGNOMEは使用できる。

 あとは当然だがアプリケーションも必要だ。その中でもキーとなるアプリケーションはファイルマネージャーだろう。

 Windows 3.1のことを知っている読者はあまり多くないかもしれないが、その名も「ファイルマネージャー」というファイルマネージャーが採用されていた。実は現在も使用できる。正直なところエクスプローラーと比較すると使いにくい。おそらくだが、Windows 95が爆発的に普及したのはエクスプローラーの採用も理由の1つと思ってしまう。

 GNOMEのファイルマネージャーは「ファイル」(Files)というが、以前は「Nautilus」という名称だった。「Nautilus」はGNOME 1.0ではなく2001年4月にリリースされたGNOME 1.4から追加された。それ以前はGNOME Midnight Commanderというファイルマネージャーを採用していた。当時のLinux雑誌で確認してみるとMidnight CommanderというファイラーをGNOMEで使用できるようにしたものだった。やはりGNOME専用に開発された「Nautilus」のほうが使いやすく、1から開発したことにより拡張が容易だったわけだ。

GNOME 1.4で動作しているGNOME Midnight Commander

 偶然なのか歴史の必然なのかは分からないが、他のデスクトップ環境もファイルマネージャーには力を入れている。中にはファイルマネージャーの開発から始めたものもあるくらいだ。

デスクトップ環境が提供する統一感

 では具体的にデスクトップ環境を使用することによってどのような統一感が得られるのであろうか。

 今回はGNOMEに絞っていくつか紹介していく。もちろん他のデスクトップ環境が全てこのような機能を実装していることは意味しない。

ヘッダーバー

 ツールキットやその他ライブラリを揃えたらそれだけでGUIの統一感が図れるのかといわれると決してそのようなことはない。その答えとしてGNOMEはHIG(Human Interface Guidelines)というドキュメントを公開している。

 現在のHIGに沿って開発されたアプリケーションを並べてみると、デザインの統一感に気づく。

ヘッダーバーを採用したアプリケーションをいくつか

 そう、タイトルバーとツールバーが一体となっているのである。そしてメニューアイコンの数は少なく、右側には必ずハンバーガーメニューがある。このバーはヘッダーバーと呼ばれている。

 リボンインターフェイスと同じく、ジャンル違いのアプリケーションでも同じデザインとなっているが、何でもかんでもハンバーガーメニューを開かないといけないのは面倒に感じるという場面も多い。

オンラインアカウント

 オンラインアカウントに関しては第6回で紹介したので繰り返さないが、設定ツールでアカウントを登録するとその情報が保存され、自動的に「ファイル」にショートカットを追加する(など)という挙動になる。この統一(というか透過)的な挙動もデスクトップ環境によってもたらされるものだ。

ダークテーマ

 「設定」の「外観」で「暗い」を選択すると、ダークテーマが適用される。実際に反映されるのは個々のアプリケーション、すなわちツールキットによるものだが、ワンクリックで設定できるのはデスクトップ環境のおかげだ。

ワンクリックでダークテーマに変更でき、即座に反映される

デスクトップ環境とアプリケーション

 これまで見てきた通りデスクトップ環境(の開発プロジェクト)はアプリケーションの開発も行なっている。ということはAデスクトップ環境向けに開発されたBアプリケーションをCデスクトップ環境で使いたいということも生じてくる。

 これは技術的には可能だがあまりおすすめできることではない。なぜなら1つのアプリケーションをインストールするために無数の依存するパッケージをインストールする必要があるからだ。

1つのパッケージをインストールするために無数のパッケージのインストールが必要になっている

 なので昔は「混ぜるな危険」といわれていたが、現在は第4回で紹介したようにユニバーサルパッケージングシステムが存在する。具体的にはsnapパッケージになっているものを使用するといい。

 現に筆者はUbuntu 22.04 LTSのGNOMEでOkularを使用し、定期購読している『DOS/V POWER REPORT』などのPDFを読んでいる。正確にはsnapパッケージではなくFlatpakパッケージをインストールしており、比較的バージョンアップが早いので重宝している。

OkularでDOS/V POWER REPORTのPDFを開いているところ

今回紹介したものの現状

 せっかくなので昔話に出てきたさまざまなソフトウェアの現状を紹介していこう。

GNOME

 GNOMEはその後リリースポリシーを変更し、毎年3月と9月にリリースすることとした。Ubuntuのリリースが毎年4月と10月なのは、この影響を受けている。

 バージョン2から3へ上がる際にさまざまな変更があり、そのタイミングの前後でMATEデスクトップ環境Cinnamonデスクトップ環境といった派生版がリリースされている。

GTK

 現在は4系列の開発が主として行なわれており、10月にリリースされるUbuntu 22.10ではいくつかのアプリケーションが4をベースに開発されたものの採用が決まっている。

Nautilus→Files

 当初NautilusはEaselという企業によって開発されていた。塩田紳二のLinuxWorld Conference & Expo会場レポートの一番下に貴重な画面写真が残っていたので見て欲しい。

 ドットコムバブルの崩壊によりEaselは倒産したものの、名称の変更も含め現在に至るまでさまざまな変更を経て開発が継続している。

KDE

 現在はKDEというデスクトップ環境はリリースされておらず、フレームワークのKDE Frameworks、デスクトップシェルのKDE Plasma、アプリケーションのKDE Gearの3つに分かれてリリースされている。この3つを組み合わせてデスクトップ環境としている。

Qt

 Qtはその後オープンソースライセンスも選択できるようになった。開発の主体(企業)はさまざまな変遷を経て現在はThe Qt Companyとなっている。

 マルチプラットフォームという特徴は開発当初から一貫しており、さまざまなアプリケーションがQtをベースに開発されている。著名なものとしてはVirtualBoxVLCWPS Officeなどがある。いずれもWindowsとUbuntuの双方で動作する。

GIMP

 かなり早い段階でGTKとGIMPは完全に分かれて開発が行なわれており、GTKのバージョンは4まで上がっているものの、GIMPで採用しているGTKのバージョンはまだ2のままだ。GTK 3を採用したGIMP 3の開発も進んでいるため、近いうちにリリースされることを期待したい。

CDE

 誤解を恐れずいえば商用UNIXの衰退とオープンソースデスクトップ環境の開発が進んだことによりCDEの重要性は低下していった。SolarisがGNOMEを採用してからかなりの月日が経っている。現在はオープンソースとなって公開されているので、使用しようと思えばできるが全くお勧めしない。