笠原一輝のユビキタス情報局

不可能に思えたさらなる軽量化を実現した「Xperia Z4 Tablet」開発者インタビュー

 みなさんにとって、タブレットとはどういうイメージの製品だろうか? おそらくPC Watchの読者にとっては、生産性を上げるデバイスとしてのPCに対して、コンテンツを閲覧するためのデバイスという位置付けではないだろうか。

 しかし、今その認識が、製品を送り出す側も、そして使う側のユーザーにおいても変わりつつある。タブレットをPCの替わりとして使おうするハードウェアメーカー、サービスプロバイダーが増えているのだ。例えば、MicrosoftはOfficeを従来はWindowsプラットフォームのみに提供していたが、現在ではiOSとAndroid向けにも提供を開始しており、それらを利用することで、タブレットを生産性を上げるためのデバイスとして利用する利用例が増えてきている。

 今回紹介するソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(以下ソニーモバイル)のXperia Z4 Tabletもそうした製品の1つで、標準でMicrosoft OfficeのAndroid版(Word/Excel/PowerPoint)がプリインストールされているほか、Bluetoothキーボードがオプションで用意されている。注目したいのは、これが単なるキーボードではなく、簡単にアプリを切り替えたりという使い方も可能になる点だ。これにより、普段はコンテンツを閲覧するためのタブレットとして利用し、ちょっとした出張にキーボードとセットで持って行って、仕事にも使うことが十分可能になる。

 今回、Xperia Z4 Tabletを開発したソニーモバイルの企画担当者、開発担当者に話を伺ってきた。

左からソニーモバイルコミュニケーションズの玉木浩氏、櫻井敬久氏、荻田猛史氏、増山翔平氏、北森裕紹氏

Xperia Z4世代のタブレットとして企画されたXperia Z4 Tablet

Xperia Z4 Tablet、本体カラーは白と黒の2種類。ただしキーボードは黒のみとなる

 今回のXperia Z4 Tabletの商品品企画を担当したソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社UXデザイン&企画部門の北森裕紹氏によれば、「Xperia Z4 Tabletで目指したかったのは、よりスマートなPCスタイルという新しい使い方を提案しながら、タブレットとしての楽しみ方も追及した1つの完成形」という点。Xperia Z4 Tabletは、2014年のXperia Z2 Tabletの後継になる。というのも、Xperia Z3世代では、Xperia Z3 Tablet Compactという8型が投入され、10型製品は発売されなかったためだ。

 北森氏によれば「Xperia Z4 Tabletという商品名にしたのは、スマートフォンのXperia Z4とのコンセプト、進化の共通性を表現している」とのこと。確かに、Xperia Z4 Tabletは同時期に発売されたXperia Z4と共通している部分が多い。デザイン性、ハイレゾ対応やBluetoothの新しいコーデックであるLDAC(エルダック、一般的にBluetoothのA2DPで使われているSBCに比べて最大約3倍の情報量で伝送できるコーデック)に対応しているなどのソフトウェア面、そしてSoCがQualcomm Snapdragon 810で、MIMOに対応したWi-Fi、LTEはCAT6のキャリアアグリゲーション対応(ただし実際のモデムのスペックは通信キャリアにより異なる)などハードウェア面でも共通点は多い。

 Xperia Tablet Z4の一番の注目点は、長時間使えるスタミナを備えつつも、手も疲れず、持ち運びもしやすい軽さだ。モデルにより異なるものの、約389g(Wi-Fiモデル)/約393g(セルラーモデム内蔵モデル)と、Xperia Z2の約426g(Wi-Fiモデル)/約439g(セルラー内蔵モデル)より30~40g程度軽い。Xperia Z2 Tablet自体が、10型級のディスプレイを搭載したタブレットとしては最軽量の部類だっただけに、さらなる軽量化が実現されたのは注目に値する。

薄型軽量と使い勝手の良さにバランスに配慮したキーボードの設計

Xperia Z4 Tabletのキーボード。日本語配列だが、キートップにカナ文字は書かれていない。タッチパッドも用意されている

 キーボードはオプションではあるが、かなり作り込まれている。商品企画担当の増山翔平氏は「商品企画として心掛けたのは、タブレット単体ではコンサンプション(消費)デバイスとして、キーボードを付けた時はPC的に利用できるデバイスとして、それぞれが完成された形で両立できる事です」と説明する。

 本体側にはドッキングのための機構(コネクタや位置決めのための突起と穴など)は何も用意されておらず、一見するとなぜくっついているのか不思議な構造となっている。この点についてハードウエア部門機構設計担当の玉木浩氏は「キーボード側にも、本体にもドッキング用の穴は用意していません。キーボードはオプションでご購入されないお客様もいると考えたからです。それでもユーザビリティのためにワンタッチで取り付け、取り外しができる構造にしました」と説明する。

 キーボードに用意されている溝にはラバーが入っており、そのラバーにより挿入されたタブレットを保持する仕組みになっている。本体とのデータのやりとりはBluetoothが利用されており、特に電気的なコネクタなどはない。ラバーのギザギザを下向きに入れることで、(メーカーとしてはそういう使い方を保証しないが)逆さにしても取れない構造になっている。こうした構造だと、位置が合わずに何度も抜いたり挿したりするものも多いが、Xperia Z4 Tabletの場合には左右にガイドが切ってあり、そこに合わせて挿入すると、簡単に嵌まる。

キーボードの溝の部分。ラバーが入っており、ぎざぎざが下向きについていることでがっちり固定している。左右にはガイドが切ってあり、すっと位置決めができる

 このオプションキーボードは、最薄部分で3.4mmと薄型に作ってあるほか、ドッキングさせるとクラムシェルのように閉じられる。玉木氏によれば薄型を実現しながら、必要な強度を確保するのはかなり難しかったという。

Xperia Z4 TabletにオプションのBluetoothキーボードを取り付けたところ。ほぼクラムシェル型PCのような形状になる
キーボードを取り付けた状態でディスプレイを閉じたところ

 内部的には格子状のリブ構造を取っており、素材はガラスが40%入っている強化プラスチック。快適な打鍵感を維持するために、キーボードの裏側には大型の鉄板が入っており、打鍵する際にしならない。また、キーボードはタブレットよりも軽く、そのままだと本体の重みで後ろに倒れてしまうので、重量があるバッテリと基板を手前側に配置することでバランスを取っているなど、見えないところでさまざまな工夫が加えられているのだ。キーピッチはウルトラポータブルなノートPCと同程度となる17mm、ストロークは1.2mmとなっている。

 キーアサインにもこだわっており、Androidのナビゲーションキーを3つ並べているほか、PCと同じ感覚で使えるようにファンクションキーはF1~F12が用意されている。タッチパッドについても、マルチフィンガーの機能などPCであたり前の機能を搭載している。戻る、ホーム、タスク切り替えの3つのボタンがあることで、素早くアプリケーションの切り替えができる。

キーボードを開けたところ。手前側に基板とバッテリが入っており、バランスがいい
キーボードの底面、底面には格子状のリブがあり、それもキーボードの強度強化に役立っている
キーボード側と鉄板。キーボードの下にこの鉄板が入っていることで、強い打鍵があってもそれを受け止めて、キーボードがしなることを防ぐ
Androidのハードウェアボタン、Altの右から戻る、ホーム、タスク切り替えとなる

 また、普通のファンクションキーが使えるということは、PC版ATOKでF6(ひらがな)、F7(カタカナ)、F8(半角/全角)、F9(アルファベット変換)の機能を多用しているユーザーにとっては嬉しい話だ。実機にATOK for Androidをインストールして試してみたところ、F6~F9などが利用できることを確認できた。Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリケーションを利用する際は、限りなくPCで作業する感覚に近い状態で作業ができるだろう(Xperia Z4 Tabletに搭載されている日本語入力ソフトウエアPOBox Plusでも、F6~F9などは利用可能)。

キーボードが接続されると、このような専用メニューが表示され、キーボードからアプリの起動などの操作するのが容易になる
メニューに表示されるアプリケーションはユーザーが調整できる
日本語IMEのATOK for Androidでカタカナ変換しているところ。PCで使い慣れたF7を押してカタカナ変換できる。このほか、F6、F8、F9などを利用可能

バッテリの配置方法に工夫し、薄軽を極めたXperia Z2 Tabletよりもさらに薄軽を実現

 使い勝手の良いキーボードは、Xperia Z4 Tabletの最大の特色の1つと言っていいと思うが、タブレット本体に関してもさまざまな工夫がされている。その1つである、さらなる軽量化には大きな障壁があった。

 ハードウエア部門機構設計担当の櫻井敬久氏は「Xperia Z2 Tabletは我々エンジニアにとっては、あらゆることをやりきった完成体だと考えていた。そこからさらに薄型、軽量化をと言われたので正直最初は無理だと思っていた」と明かす。

 通常、ここまで薄く、軽くすると、それ以上軽量化をするには、タブレットで最大の重量を占めているバッテリの容量を削るぐらいしか考えられないのだが、6,000mAhとXperia Z2 Tabletと同容量のバッテリを搭載している。つまり、今回のXperia Z4 Tabletではそれ以外の部分で頑張ったということだ。

 Xperia Z4 Tabletでは、Xperia Z3 Tablet Compactで採用したバスタブ構造を採用している。バスタブのように縁と底面を一体的に成型し強度を出し、そこにバッテリ、マザーボードなどを配置し、最後は液晶ディスプレイで蓋をすることで強度を出す。

 櫻井氏によれば、Z3 Tablet Compactではセルを1つにしてバッテリそのものをストレスメンバー(補強部品)にすることができた。しかし、Z4 Tabletではバッテリの容量的にセルはどうしても2つにせざるを得なかった。そうすると、節ができてしまい、そこを起点にして折れてしまうので、ストレスメンバーにすることができない。そこで、バッテリチームと相談し、Z2 Tabletまではセルとセルの間にあったバッテリの基板をストレスメンバーにできるような場所に移動し、2つのセルをできるだけ近付けることで強度に寄与するように設計した。

 メーカーにバッテリが供給される場合、通常はセルと基板はセットで納入される。ソニーはバッテリ部門を持っており、そこに融通が利く。その利点を生かし、こういう変則的な設計ができた。結果、400gを切る軽さを実現できた。

 細かいことだが、Xperia Z4 Tabletでは、オプションキーボードを想定し、従来は横にした時に下部に来ていたオーディオジャックを上部に移動したり、スピーカーの位置を見直すなど細かな調整を行なった上で、従来の製品の製品では樹脂だったオーディオジャックの口(クチ)周りの筺体は金属に変更されている。これは、本体の薄さをZ2 Tabletの6.4mmから6.1mmへと薄型化したことや狭額縁になったことでオーディオジャックがZ2 Tabletよりも外側(電源やボリュームキーのある側面側)へ近付いた結果、樹脂よりも強度の高い金属で入口を保護してやる必要が出てきたためだ。

下がXperia Z4 Tablet、上がXperia Z2 Tablet。Xperia Z4 Tabletは、セルとセルの間にあった基板を移動して、全体的にバッテリの占める割合が小さくなっている。
Xperia Z4 Tabletではスピーカーの位置も上部に移動するなど、細かな改善が多数されている

 キャップレス防水も特徴の1つで、これも機構設計的には難易度が非常に高い。キャップを利用するタイプの場合には、キャップ自体が防水機構になっているが、キャップレスの場合には、コネクタ部分から入ってくる水を筐体側で防ぐ必要がある。一方、防水機構をがっちり作ってしまうと、本体がねじられた際にそこから壊れてしまう。そこで、コネクタ部分の穴にゴムをはめ、若干余裕を持たせることで、圧力を受け流すようにした。

 なお、このキャップレス防水、当たり前だが、水中でコネクタ部分に電気が流れていると、回路がショートしてしまう可能性がある。そこで、USB端子の電気の流れはソフトウェア制御となっており、使う時にはユーティリティを利用して端子を有効にする必要がある。

キャップレスな防水を実現している
USB機器を有効にするには標準で用意されているソフトウェアで通電を行うな必要がある

屋外でも見やすい高解像度ディスプレイと水がついても操作できるタッチパネルを採用

 Xperia Z4 Tabletのもう1つの特徴は、液晶ディスプレイだ。10.1型でWQXGA(2,560×1,600ドット)という高精細な液晶パネルを採用している。ハードウエア部門ディスプレイ担当の荻田猛史氏によれば、今回のパネルでは屋外の見え方にこだわっており、屋外で見やすいように明るさを40%ほど増している。また、ピクセルごとにコントラストを変える機能を、ソフトウェア的に実装しており、人間の眼に明るく見えるように工夫している。

 ただ、見やすい液晶はユーザーとしては嬉しいのだが、高解像度で明るい液晶となると、バッテリ駆動時間への影響が心配される。過去にも、iPadがRetinaになった時が最たる例だが、高解像度化に伴い消費電力が上がり、搭載バッテリ容量を増やして重くなったり、バッテリの容量は変わらず駆動時間が短くなってしまったりということがよくあった。

 荻田氏によれば、今回の製品用に新規に開発した液晶パネルは解像度は上がっているものの、バックライトの輝度を必要以上に上げないで済むように透過率を上げ、駆動用ICの数も減らすした。それにより、ビデオ再生では17時間という長時間駆動を実現できた。

 また、これはスマートフォンのXperia Z4と共通の機能だが、ディスプレイに水がついてもタッチ操作ができる仕組みが導入されている。通常の防水の機器の場合、ディスプレイが水に濡れてしまうと、タッチ操作ができなくなる。これは、一般的なタッチがいわゆる静電容量方式という、指が画面に触れたときに発生する微弱な電気を感知して動作しているためで、水がつくと同じように微弱な電気が発生し、誤動作してしまう。そこで、同社は新しいタッチICを使い、データ解析を元に水と指のの違いを判別できるようにしている。

Xperia Z4世代の特徴である濡れていても操作できるタッチパネル

Androidをとるか、Windowsとるか

 最後に筆者の感想を付け加えて記事のまとめとしたい。以前までは業務用途であれば実質Windowsだけが選択肢という状況だったが、それは徐々に変わってきており、Microsoft OfficeやATOKなど、Windowsユーザーが使っていたソフトウェアがAndroidにも揃いいつつある。OneDriveユーザーであれば、AndroidでもPCとさほど変わらない感覚で作業を行なうことが可能になりつつある。

 とは言え、基本的にAndroidはWindowsと違ってアプリケーションが全画面でしか表示されないため、アプリの切り替えがややまどろっこしいのだが、Xperia Z4 Tabletにはオプションキーボードのタスク切り替えのボタンのほか、Alt+Tabでも簡単に切り換えられ、快適に作業することができた。また、F6~F10を利用して変換できるのも、PCユーザーにはありがたい。

オプションで用意されるキーボードを利用すると、Alt+TabというWindowsで慣れ親しんでいるキーでもタスク切り替えできる

 タブレット+キーボードという組み合わせとしては、AndroidにもWindowsにも同等の製品がある。その差はAndroidではゲームや、電子書籍など余暇用のアプリケーションが充実しており、Windowsには仕事用のアプリケーションが充実しているという点が大きい。従って、どちらを選択するかは、ユーザーにとってどちらの比重が重いのか次第だろう。

 キーボードまで入れると、Wi-Fiモデルで9万円弱と、決して安いとは言えないが、一度あのキーボードを使ってしまうと、他のAndroid用キーボードではちょっと満足できなくなることは確実だ。普段は電子書籍やゲーム、音楽プレーヤーなどとして利用し、時々仕事でOfficeが使えればいいと考えているユーザーであれば、Xperia Z4 Tabletとオプションのキーボードという選択肢はお薦めできる。

(笠原 一輝)