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HPがオンデバイスAIエージェント「HP IQ」を発表、2030年には推論の半数がローカルに
2026年3月27日 06:05
HPは、米国ニューヨーク市において年次イベント「HP Imagine 2026」を開催した。HP Imagineは最新製品を発表する場で、暫定CEOのブルース・ブラウサード氏ら同社幹部が基調講演に登壇し、新ノートPC/デスクトップPCなどの多数の新製品を発表した。
この中で、2025年はAI推論全体の5%でしかないオンデバイス処理が、2030年までに50%になると見通しを明らかにした。また、オンデバイス上で処理が行なわれるエンタープライズグレードのAIエージェント「HP IQ」を発表し、そのデモを行なった。
今のHPは転換期にあり、AIが変革を加速しているとブラウサード暫定CEO
2月3日に、それまでHPをリードしてきたエンリケ・ロレスCEOは退任を発表。次のCEOが決まるまでの暫定CEOとして、取締役会のメンバーであるブルース・ブラウサード氏が就任したことを発表した(その後ロレス氏はPayPalのCEOに就任することが明らかにされている)。
ブラウサード氏は「私が暫定CEOに就任してから約60日が経過し、顧客、従業員、メディアなど多くの関係者とお話をさせていただいた。その中で再確認したのは、HPの歴史であり、文化であり、そして顧客との信頼関係だ。今HPは非常にエキサイティングな転換期にある。ご存じのようにAIという技術進化の流れの中で、技術のブレイクスルーが次々と起こっており、それにより変化のスピードは加速している」と述べ、AIの進化により、ITやHP自体の進化が加速されていると説明した。
その上で、「HPでは、AIは人とともに働くパートナーであると位置づけている。たとえば小売であれば、店内のカメラとAIモデルにより顧客の購買履歴や嗜好を把握し、販売員に次に取るべき最適なアクションをリアルタイム提供する。医療であれば、AIにより音声、映像、医療機器の信号をAIが常時解析し、医療スタッフは臨床に集中できる。空港のセキュリティであれば、生体認証とAIモデルを組み合わせ、旅行履歴やパターンを加味した確率的なリスク評価を行なうことで、個々の顧客に特化した検査レベルをリアルタイムで決定するなどが考えられる」とし、AIにより、よりスムーズな顧客体験や生産性を高めることが可能になり、そうした未来に対応したソリューションが必要だと述べた。
2025年にはAI推論の5%に過ぎなかったオンデバイスAIが50%を占めるようになる
HP最高戦略・変革責任者のプラカシュ・アルンクンドラム氏は、同社のAI戦略に関して説明を行なった。なお、HPは基本的にPCや周辺機器(モニターやプリンタ)、Web会議システム(Poly由来の製品)といったエッジ(クライアント)向けのソリューションを提供する企業で、話の中心はこちら。AI向けハードウェアで主流になっているデータセンター向けはHPE(Hewlett Packard Enterprise)が提供しているため、触れられていない。
アルンクンドラム氏は「HPの基本戦略は3層構造になっている。1層目はAI PCやプリンタなどの充実したエッジデバイス。2層目がデバイス間の連携で、ユーザーがほかのユーザーや周辺機器などと連携が容易にできるようにする。そして最上位層に、それを実現するために必要なWXPなどのクラウドベースの管理層を設けている。今回はそれらを実現するために、HP IQを発表する」と述べ、HP IQが重要な戦略製品だと説明した。
HP IQは、基本的にはデバイス上(オンデバイス)のSoCに搭載されている、CPU、GPU、NPUなどの各種プロセッサを利用してAIの処理を行ないながら動作するAIエージェント、あるいはエージェント型AIになる。
そうしたオンデバイスのAIを活用するメリットとして、インターネットにデータを送ってから応答を待つ必要がないため遅延が小さいこと、そして現在クラウドベースのAIで課題となっているAIをトークン単位(AIをGPUなどで演算する時の演算単位)で処理する時のコスト(1トークン処理するのに必要な値段)、そしてデータ管理の主権性(データの所有者がデータの使い方を決めるということ)などと説明した。
「今エンタープライズではクラウド偏重からエッジを活用しようという動きが進んでおり、我々はAIの未来はハイブリッドにあると考えている」と述べ、2025年はAI推論のうちの5%をオンデバイスなAIが占め、残りの95%はクラウドベースだが、2030年にはそれが半々になると説明し、エンタープライズはそれに備えてPCを選択する必要があると説明した。
必要に応じてCPU、GPU、NPUを選択して処理を行なうHP IQ、ローカル処理ができるAIエージェント
そうしたHPが今回発表したのが、オンデバイスでAIエージェント/エージェント型AIとして動作する「HP IQ」だ。HP IQには、ローカルで動作するAIモデルとして200億パラメーターのGPT-OSSモデルが採用されており、LMMとして応答したり、AIエージェントとして動作する。
HP IQには大きく3つの機能があり、1つ目はChatGPT、CopilotやGeminiといったクラウドベースで提供されているプロンプトベースのAIチャットボットと同じような機能で、2つ目がAIにユーザーの指示ないしは自動的に処理を行なわせるAIエージェントの機能、最後にNearSenseと呼ばれる周囲にあるデバイスと自動的にあるいはユーザーの許可を得てつながって強調して動作する機能だ。
HP IQはPCの上部に表示される独自のUIを用意しており、ユーザーがそこをクリックしたり、ファイルを読み込ませたりすると動作が開始される。たとえばPDFファイルを読み込ませると、ChatGPT、CopilotやGeminiなどで見慣れたプロンプトが表示されて、そこにそのファイルを元にしてほしいことを入れて処理をさせることができる。
基本的にこの機能はローカルで動作しており、情報漏洩のリスクに敏感な企業などはローカル処理のみに設定して利用することができる。この設定はトグルスイッチで設定可能で、ローカルのみにした場合には一切インターネット側に出て行かない。ただし、その場合にはLMMのデータが学習された段階までの情報しか反映されないため、その後に起きた最新ニュースなどの情報は更新されない。そうした最新の情報を含めて答えを得たい場合には、インターネットに出て行って検索することを許可する必要がある。
また、画面の左側には、以前に記録したミーティングの記録(ノート)が表示される。ミーティングの文字起こしを参照したり、要約を見たり、さらにAIに依頼して、ほかの言語に翻訳してもらうなどが可能になっている。
画面の右側には、HP IQのもう1つの機能であるNearSenseが認識できるデバイスやほかの同僚のPCなどが表示される。たとえば同僚にファイルを送りたいときには、ファイルを同僚のPCにドラッグ&ドロップするだけでよい。
そうしたファイルの転送ができるかどうかなどは、組織側でまとめて設定しておくことが可能で、IT担当者が制御できることも特徴だ。なお、ファイルを受信するかどうかは、受信する側でも選択が可能で、もちろんセキュリティ的に問題があると判断すれば許諾せずに拒否することもできる。
また、今年(2026年)の夏あたりに予定されているPolyのビデオカンファレンス用カメラのファームウェアアップデートにより、Polyのカメラが認識できるようになり、ユーザー自身がそれを利用する権限があれば、クリックするだけで利用することが可能になる。
なお、こうしたオンデバイスの処理は、NPUだけで行なわれているわけではない。デモではGPUが動作していて処理する様子が確認できた。HPによれば、処理によりCPU、GPU、NPUのすべてを利用するということで、NPUだけと制限するよりは効率が良さそうに見えた。
HPによれば、HP IQはまずは北米で提供開始される。当初北米に限られるのは、動作検証やUIの言語が英語のみの対応になっているからだそうで、AIモデルそのものは多言語化がされており、UIや動作検証などが済めばほかの言語にも提供される可能性があるということだった。
対応となるPCはEliteBookの2025年~2026年型の一部モデルで、Copilot+ PC(HPだとNext Gen AI PCがついている製品)だけでなく、Copilot+ PCの要件となる40TOPSの性能を満たしていないNPUを搭載したノートPCなどでも利用できるモデルがある(前述の通り、NPUだけでなく、GPUなども利用されるため)。また、1月のCESで発表されたEliteBoard G1a Next Gen AI PCやEliteDeskの一部モデル、ワークステーションなども対象になっている。
暗号化鍵を盗める可能性があるdTPM攻撃に対処するTPM Guard
別記事でも紹介した通り、HPはこのImagine 2026に合わせて、CESで発表したEliteBook X G2シリーズ以外の一般法人向けノートPC全ラインナップ(EliteBook 8/EliteBook 6/ProBook 4)を発表した。
その発表に合わせて、「HP TPM Guard」と呼ばれる、TPM保護機能を発表した。TPM Guardは、ハードウェア的にdTPM(SoCとは別に、メインボード上に搭載されている単体のTPMチップ)の暗号化鍵を盗もうとする攻撃に対処するソリューションになる。
今、多くのノートPCで、Windows標準のストレージ暗号化機能であるBitLockerが使われるようになっている。そのBitLockerでデータを暗号化するときに使われているのが、TPMに格納されている暗号化鍵になる。Windows OSでは起動時にこの暗号化鍵を読み込んで、ブート領域の暗号化などを解除してOSがブートする仕組みになっている。仮にTPMの暗号化鍵を読み込めない場合、あるいはBIOSなどが書き換えられてしまった場合などの場合、BitLockerは回復キーと呼ばれる48桁の数字を入れなければOSがブートしないようになっている。48桁の回復キーを毎回いれるのはかなり面倒なので、TPMの存在が非常に重要だ(Windows 11の要件でもある)。
このTPMは、コンシューマ向けのノートPCの場合には、SoCに内蔵されているfTPMあるいはpTPMと呼ばれるTPMが利用される。しかし、法人向けのノートPCでは、過去のTPMやTPMを利用するソフトウェアとの互換性を重視するため、基板上にdTPMを搭載するのが一般的だ。
問題は、起動時にOSがTPMの暗号化鍵を要求して、TPMがOSにそれを戻すプロセスが暗号化されていないことだ。このため、ノートPCの基板から生えているピンにAmazon.comなどで20ドル程度で販売されているデバイスを購入して「ごにょごにょ」すると、TPMの暗号化鍵を攻撃者が入手することが可能なのだという。
もちろんこの攻撃をするためには、PCに物理的にアクセスしなければいけないため、ネットワーク越しに行なわれるサイバー攻撃よりはハードルは高いといえる。しかし、従業員がノートPCをなくしてしまい、それを悪意をもった攻撃者が入手したら、BitLockerの暗号化を解除して企業の機密データにアクセスできてしまう。これは、IT管理者にしたら悪夢のシナリオだろう。
そこで、HP TPM Guardでは、SoCベンダー(AMD/Intel/Qualcomm)とTPMベンダー、そしてHP自身のファームウェアを改良することで、電源がオンになってTPMの暗号化鍵をOSなどが参照する前に、CPUとTPMを結ぶバスを暗号化する。仮にTPMのデータ線に物理的にアクセスされても、暗号化鍵を読み取れないようにする。とても、シンプルなソリューションだが、その効果は絶大だ。
なお、このdTPMへの物理的な攻撃は信号線が基板上に露出しているdTPMでなければできない。このため、SoC側のfTPM/pTPM、あるいはMicrosoft Pluton(Plutonも一種のfTPM/pTPMだ)のようにSoC内部にあるTPMを利用している場合には、SoCのチップ剥がして、配線に割り込む必要などがあると考えられ、難易度が高い。TPMをBitLockerの暗号化にしか使っていないという場合には、そちらに切り替えるのも1つの手だろう(ただしその場合には一度暗号化を解除して、BIOSセットアップなどで、dTPMからfTPM/Plutonなどに切り替えるので、案外と大変なので安易にはやらない方がいいが)。
この、TPM GuardはEliteBookの一部モデルで今夏から提供される計画で、BitLockerの安全性を高めたいと考えているIT担当者にとっては要注目のソリューションだ。
開発意向表明が行なわれたHP版DGX Stationの筐体などが公開される
このほかに、HPはImagine 2026に合わせて発表した、ゲーミングPC、ワークステーションPCなどのデスクトップPC、プリンタなどを展示した。それらは以下の写真で紹介していく。























































