笠原一輝のユビキタス情報局
ブランド名を「FMV」にシンプル化したFCCLに、その意図を聞く
2025年1月16日 12:27
富士通クライアントコンピューティング(以下FCCL)は、1月16日に東京都内で記者会見を行なっており、同社の最新PC製品を発表している。
この中でFCCLは、これまでのノートPC「LIFEBOOK」、デスクトップPC「ESPRIMO」というブランド名称を、すべて「FMV」で統一していくことを明らかにした。ノートPCは「FMV Note」、デスクトップPCは「FMV Desktop」となり、FMVをより前面に打ち出したブランド名になる。
富士通クライアントコンピューティング株式会社 マーケティング本部 本部長 藤田博之氏は「シンプルで分かりやすく、時代にあった価値観で、日本ローカルのPCメーカーとして日本のお客さまに寄り添ったブランドになりたいという思いを込めてFMVというブランド名を採用した」と、新ブランド名の導入について説明した。
グローバルでは、HPやDellもより簡素化したブランド名のスキームを導入するなど、一般消費者や一般法人などのエンドユーザーがすぐに理解できる仕組みの導入が進んでおり、今やそうした「シンプルなブランド名」がPC業界のトレンドになりつつある。
LIFEBOOK、ESPRIMOなどのサブブランドを排除。FMV Note、FMV Desktopとシンプル化
FCCLは、富士通のPC事業部が2016年に富士通の子会社として独立した企業だったが、2017年にレノボ・グループに売却され、現在はレノボ・グループの1社でありながらも、富士通ブランドの傘の下でPCを販売するかたちで事業を行なっている。その特徴は、グループ企業(100%子会社)の島根富士通が島根県出雲市に持つ自社工場でPCを生産するという、日本生産にこだわったPC事業を展開していることだ。
FCCLは、本日2025年モデルとなる一般消費者向けPCの新製品を発表しているが、同時に新しいブランド戦略に関しても発表した。これまで富士通時代も含めたFCCLの製品には、FMVという大きなブランド名と、「LIFEBOOK」、「LOOX」、「ESPRIMO」といったサブブランドが利用されてきた。ノートPCであればFMV LIFEBOOK、タブレット型の2-in-1であればFMV LOOX、デスクトップPCであればFMV ESPRIMOといったかたちだ。
今回FCCLは、そうしたサブブランドを廃止することを決定。ブランド名は「FMV」のみとして、その後ろにノートPCであれば「Note」、デスクトップPCであれば「Desktop」を付与したかたちに変更する。
また、シリーズ名も従来は軽量ノートPCであれば、「UH」、液晶一体型デスクトップPCであれば「FH」などの2文字になっていたが、今後はそれぞれ「U」、「F」などのアルファベット1文字に変更する。従って、これまで「FMV FLIFEBOOK UH」と呼ばれていたシリーズは、「FMV Note U」というよりシンプルで分かりやすいシリーズ名に変更されることになる。
それに合わせてFMVのロゴ自体にも手が加わえられ、これまで使われてきた、FMVの3文字のうちVだけがやや大きな文字で表示されるブランドロゴから、FMVの3文字とも同じ大きさのよりシンプルなロゴへと変更される。
なお、一般法人向け製品のブランド名は従来通りだ。というのも、一般法人向けの製品は、FCCLが製造などを担当しているが、販売を行なっているのは富士通本体で、ブランド名も富士通自身が決めることだからだ。法人向けの製品は、一般消費者向け製品に比べて息が長く、すぐにブランド名を変えるという訳にもいかないと考えられるので、こちらに関しては、しばらくの間は現状のブランド名が続いて行くと考えられるだろう。
「コロナ禍でPCの役割が見直され、新しいユーザーが増えたこと」がシンプル化の背景に
藤田氏によれば、FCCLが「FMV」をより強調させるようなシンプルなブランドスキームを採用した背景には、PC市場の置かれている環境の変化があるという。
「コロナ禍前にはPCはオワコンだなどと言われていたが、コロナ禍ですべて変わり、従来PCを使っていたユーザー層でなくても、PCは重要なデバイスだという認知が広がった。その結果、これまで我々がアクセスできていなかったようなお客さまがPCをご購入いただくという例が増えてきている」と、藤田氏は今回のブランド変更のきっかけを語る。
藤田氏の言う通り、コロナ禍がPCメーカーにとって追い風になったことは、2020年にPC出荷台数が大きく伸びたことからも明らかだ。JEITAの統計では、2018年度(2018年4月~2019年3月)が739万8,000台、2019年度(2019年4月~2020年3月)が947万5,000台、2020年度(2020年4月~2021年3月)は1,208万3,000台と大きく増えている。2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号の騒ぎがあって、2020年4月には緊急事態宣言が発出されたことなどを考えれば、2020年度の急成長が、コロナ禍が要因であることは明白だろう。
コロナ禍の結果、リモートワークやテレワークなどと呼ばれる、オフィスに縛られない働き方が一般的になり、そのリモートワークを行なうのに必要なデバイスがPCであるという認識が広がり、もはやPCをオワコンという人はいなくなった。それがここ数年の変化である。
藤田氏によれば、その結果として、これまであまりPCに興味がなかったユーザー層も、PCに興味を持ち、購入するようになってきているのだという。たとえば、そうした新しいユーザー層の代表がZ世代(Gen Z)と呼ばれる若年層のユーザーだという。
これまでのFCCLのPCというと、ファミリー向けないしは世界最軽量のノートPCで弊誌の読者のようなリテラシーの高いユーザーにPCを提供するメーカーというイメージが強かったと思う。しかし、Z世代と言われる生まれたときからPCやSNSのようなテクノロジーに囲まれて育った30歳以下の若年層は、正直これまでなかなかアクセスできていなかったことは否定できないだろう。
藤田氏は「そうした若年層のユーザーはシンプルで、コスパ、タイパなどを重視している。シンプルで分かりやすいブランドが必要だと考えたのは、そうしたことも影響している」と説明した。
今回FCCLはブランドをFMVに統一するだけでなく、社内の若手社員がコンセプト検討から実際の製品に落とし込むまで担当した新製品「FMV Note C」を発表している。このFMV Note Cは、Z世代のシンプルさを重視するという観点から筐体のデザインもシンプルでクリーンなものになるなど、これまでのFMVの良くも悪くもIT機器というデザインとはかなり一線を画している。
また、ノイズを抑えるためにファンレス設計にするなど、いかにもFCCLらしい技術的なトライも行なっている。「でも、それだと性能が下がってしまうのではないのか?」というようなやぼな質問はやめておこう。そういう筆者のようなテックな人はターゲットではない製品なのだから。
PC産業は規模の経済で、出荷数を増やすことはPCメーカーにとっては非常に重要なことだ。その意味で、このFMV Note Cは、FCCLにとって戦略製品と言ってよいだろう。
ブランドスキームのシンプル化はPC業界のトレンドに
もちろんこうした「FMV」へのブランド変更は、別にZ世代にだけアピールしたいからという訳ではなく、これまでのFMVユーザーに対しても意味がある変更だ。藤田氏は「シンプルで分かりやすく、時代にあった価値観で、日本のPCメーカーとして日本のお客さまに寄り添ったブランドになりたいという思いを込めて、FMVというブランド名を採用した」と、ブランド変更の狙いと説明した。
シンプルで分かりやすくというのは、別にFCCLだけが言っているのではなく、PCメーカーのグローバルなトレンドだ。DellやHPがすでに同じようなブランドのシンプル化を導入している。
HPは2024年の5月に一般消費者向けをOmniBook、一般法人向けをEliteBookの2つのブランドに集約し、EliteBookであれば「Ultra、X、8、6、4、2」というグレードを示すアルファベットまたは数字との組み合わせで製品名を展開することを決定。同時に発表されたSnapdragon X Eliteを搭載したノートPCから順次展開している。
DellはCES 2025のタイミングで、一般消費者向けをDell、一般法人向けをDell Pro、一般法人向けでかつワークステーション向けをDell Pro Maxとした、シンプルなブランド名スキームの導入を発表している。
こうしたHPやDell、そして今回のFCCLのブランドスキーム変更に共通するのは「シンプル」というワードだ。HPならPavillion、Envy、Dragonfly、DellならXPS、Inspiron、Lattitude、Inspiron、FCCLならLIFEBOOK、ESPRIMOなどのサブブランドは、PCに詳しい、本誌の読者のようなリテラシーが高いユーザーであればおなじみのものだし、その違いもある程度はすぐに分かるだろう。
しかし、PCに詳しくないユーザーが、PCを買おうというときには、まずそのPavilion、XPS、LIFEBOOKというのが何なのかということを理解することから始めないといけない。それがシンプルかと言われればそうではないだろう。それが「FMV Note」であれば、FMVというブランドのノートPCなのだなとすぐに分かる。それがブランドのシンプル化の意味になる。
従来のブランド名に思い入れがあるユーザーにとってはそれがなくなるのは残念なことだし、従来のブランドスキームになれていたユーザーにとっては慣れるまで少々は時間がかかるかもしれない。だが、これからPCを初めて購入するというユーザーが増えていかなければ、PCの産業としての発展は期待できず、じり貧になってしまう。そう考えれば、こうしたシンプル化されたブランド名の導入は、回り回って従来のユーザーにもメリットがあると筆者は考えている。
14型のクラムシェル型Copilot+ PCとして世界最軽量を実現した「FMV Note U」
そうしたZ世代向け製品、そしてこれからPCを買うユーザー層を重視して分かりやすく、シンプルなブランドスキームを導入するFCCLだが、決して従来のPCユーザーを忘れている訳ではない。その何よりの証拠が、今回FMV Note Cと同時に発表されるFMV Note Uだ。
FMV Note Uは、従来は「LIFEBOOK UH」の製品名で呼ばれていた製品で、2024年に発売されたCore Ultra シリーズ1(Meteor Lake)搭載のWU2シリーズの後継にあたる。大きく言うとSoCがCore Ultra 200V(Core Ultra 7 258V)に変更され、メモリは32GB、ストレージは512GBのSSDを搭載するというスペックになっている。ディスプレイは14型WUXGA(1,920×1,200ドット)で、外寸は308.8×209×15.8~17.3mm、重量は約848gとなる。
この重量848gというのは、14型ディスプレイを搭載したクラムシェル型ノートのCopilot+ PCとしては世界最軽量になる。CES 2025では、ASUSがSnapdragon X Eliteを搭載したZenbook A14が軽さ900gないしは980gというスペックだと明らかにし、これを「14型ディスプレイを搭載したクラムシェル型のCopilot+ PCとしては世界最軽量」(2024年12月31日時点、ASUS独自調査結果)とアピールしていたが、FMV Note Uは早くもそれ以上の軽さを実現したことになる。
なお、Zenbook A14のスペックを確認すると、バッテリ容量は70Whと48Whの2つのモデルがあり、900gの方は容量が48Whの時の重量だと考えられる。それに対してFMV Note Uは64Whで848gだ。バッテリの重量は容量にほぼ比例するので、そのことを考慮すると、FMV Note Uがいかにすごいかよく分かるし、より長時間バッテリ駆動が可能になると言える。
なお、今回は、バッテリの容量を半分(31Wh)に減らして634gを実現したFMV Zeroの後継は登場していない。Core Ultra 200Vになってアクティブ時の消費電力が減っており、この半分の容量でもそれなりの時間をバッテリで利用できるようになると考えられることから、今後そちらのCore Ultra 200V版の登場にも期待したいところだ。