笠原一輝のユビキタス情報局
去りゆくはずのWindows 10に「Copilot」が実装。でも、なぜ?
2023年11月17日 03:00
Microsoftは11月15日(現地時間、日本時間11月16日)から同社の年次イベント「Ignite 2023」を、米国シアトルでの対面ないしはバーチャルで開催している。初日の午前には、サティヤ・ナデラCEOなど同社幹部が登壇した基調講演が行なわれる。
その翌日となる11月16日には、PCユーザーにとっては非常に重要な発表が行なわれた。それは「Copilot in Windows(in preview)」(日本語では「プレビュー版Copilot in Windows」)をWindows 10にも実装し、そのプレビュー版がWindows InsiderのWindows 10(version 22H2)リリースプレビューにまもなく提供開始予定であることが明らかにされたのだ。
だが、Microsoftは4月の段階で、Windows 10は提供中の22H2が最後の機能アップデートになると発表していた。なぜMicrosoftはその方針を変えてまで「Copilot in Windows」のWindows 10への実装に踏み切ったのだろうか?
4月のMicrosoftの説明では、Windows 10への機能アップデートの提供は22H2で終了……というはずだった
今年の4月に出た以下のニュースを覚えておられるだろうか?
このニュースの内容を簡単にまとめると、Microsoftは同社のBlogを更新して、クライアント版Windowsのロードマップを更新し、Windows 10に関しては1年に1度提供される機能アップデート(Feature Updates)は、その時点で最新版だった22H2で最後で、今後は月例セキュリティアップデート(Monthly Security Update)のみが提供されると明らかにして、Windows 11への移行を奨励するという話だ。
Microsoftにすれば、新しいバージョンであるWindows 11を出して、ハードウェアの要件を満たせばという前提条件はつくものの、無償でアップグレードできる以上、今後の新しい機能はWindows 11のみに搭載しますというのは、かかる開発コストを考えれば当然の選択だろう。2つのバージョンに同じ新機能を搭載するのであれば、何のために新しいバージョンを出したのかということにもなり、23H2がWindows 11だけに提供されるようになったというのは自然な流れと言える。
仮に新しい機能は欲しいと思っているけど、まだWindows 10を使っている人がいれば、早めにWindows 11へ移行した方がいいですよということだ。そして、同時にWindows 10のEoS(End of Support、月例セキュリティアップデートも提供されなくなるサポート終了時期)が2025年10月14日であることが再度告知されており、それ以降も使い続けたい場合には、その前にWindows 11への移行が奨励されている。
ユーザーの声を反映して実装。ただしWindows 10のEoSの予定には変更なし
ところが、今回はその方針とは矛盾する発表が行なわれた。Windows 11にのみ提供されてきたプレビュー版「Copilot in Windows」を、Windows InsiderのWindows 10(version 22H2)リリースプレビューにまもなく提供開始することが明らかにされたのだ。リリースプレビューとはWindows Insiderのうちでもっとも製品版に近いものになり、プレビュー版Copilot in WindowsがWindows 10の製品版にもそれほど間を置かず展開されることを意味している。
Copilot in Windowsの実装は、MicrosoftがCTR(Controlled Feature Rollout)と呼んでいる、22H2や23H2のような大規模な機能アップデートとは別に新機能を提供する仕組みを通じて提供されることになる。確かに22H2がWindows 10の機能アップデートでは最後という4月の発表を「スレスレ」で守っているとは言えるが、ややモヤモヤすることも否定できない。
Microsoftによれば、このプレビュー版Copilot in WindowsはHomeとProのみに展開され、Microsoft 365のサブスクリプションに基づいて提供されているBusinessやEnterprise、Educationなどに関してはまもなく提供される計画だ。もちろんそれらのSKUでは、企業がMDM(Intuneなど)でWindows Updateの展開を管理しているので、展開するかどうかは企業のIT担当者が選択することができる。
なお、Windows 11ではハードウェア要件が引き上げられており、対応するのは比較的新しめのCPU、メモリ4GB、720p以上。それに対してWindows 10は、CPUは1GHz以上、メモリは32bit版で1GB、64bit版で2GB、800×600ドット以上のディスプレイとなっており、Windows 11の要件に比べると緩い。
しかし、Windows 10でCopilot in Windowsを動かす要件としてはメモリ4GB、720pのディスプレイと、CPUを除きWindows 11に近い要件が必要になる。
とはいえ、現実的にはWindows 10でも最低でも8GBのPCがほとんどで、どんなに少なくとも4GBメモリというここ数年の状況を鑑みれば、そうした要件の変更は現実的にはあまり意味がないだろう。
利用できるCopilot in Windowsの機能は基本的にはWindows 11のそれと同等だ。ChatGPTベースのBing Chatの機能がブラウザを必要とせず利用でき、かつWindowsの設定などもCopilot in Windowsに聞くと、設定の必要なところを開いてくれるという機能などを利用することが可能だ。
Microsoft Windowsマーケティング担当副社長 エロン・ウッドマン氏は「Copilot in WindowsをWindows 11を導入して以来、Windows 10でもCopilot in Windowsを利用したいという声をたくさんいただいた。それを受けて今回の実装に至った」とWindows 10にCopilot in Windowsの実装をした理由を述べている。
しかし、同時にWindows 10のEoSが2025年10月14日になるという計画に一切変更はないとも強調した。「Microsoftとしては引き続きWindows 11への移行をユーザーに促していくという姿勢は変わらない。従って、Windows 10のEoSは2025年10月14日という計画に変更はない。あくまでその期間までWindows 10をつかうユーザーに対して、Copilot in Windowsを提供するというのが今回の発表だ」(ウッドマン氏)と述べ、今回のWindows 10へのCopilot in Windows実装が、Windows 10のEoSが延期される可能性はないとした。
現在のMicrosoftに最優先事項は「Microsoft Copilot」の普及
MicrosoftがWindows 10のEoSに変更はないと強調したのは、今回の発表が「Windows 10 EoSの延期につながる」と捉えられることを恐れているからだろう。筆者も、MicrosoftにはWindows 10のEoSを延期する考えはないと思う。しかしそう思われる危険性を理解していながら、なぜ今回Windows 10にCopilot in Windowsを実装することを決めたのだろうか?
それは、単純に優先順位の問題だ。優先順位とは何かと言えば、それはMicrosoftが今、もっとも普及させたい製品やサービスは何かということだ。それがCopilot in Windows、もっと言えば、より大きな傘になる「Microsoft Copilot」の普及だ。
Microsoft Copilotは、OpenAIとのパートナーシップの元でMicrosoftが提供しているLLM(大規模言語モデル)などの最新のAIモデルを利用したAIサービスの総称。その傘の下に、Windows OSに統合されたCopilotであるCopilot in Windows、Microsoftの生産性向上ツール(ローカル/クラウド)であるMicrosoft 365にCopilot機能を拡張するMicrosoft 365 Copilot……などを展開している。
つまり、Copilotブランドをほぼ全てのMicrosoftの製品やサービスに実装していくというのが、今のMicrosoftにとっての最優先事項になっている。
そうした背景には、Microsoftが強力にタッグを組んでいるOpenAIとのパートナーシップのもとで開発されているGPTベースのLLM(大規模言語モデル)などの機能を利用して、従来は人間が手動やっていたような作業をAIに置き換えるものだ。
たとえば異なる言語の翻訳、音声からの文字起こし、文章の要約、資料を探して根拠となる数字を引っ張ってくる……そうした時間がやたらとかかるような作業を、人間の代わりにやってくれて、ユーザーの生産性を引き上げる機能をCopilotと呼んでいる。人間に変わってAIが秘書のように、あるいは副操縦士のように代わりになってくるから「Copilot」という呼び方をしているのだ。
MicrosoftはそうしたCopilotをさまざまなレイヤーで実装しようとしている。実際今回のIginiteでは
- Microsoft 365 Copilotのアップデート
- Microsoft Copilot Studio
- Microsoft Copilot for Service
- Copilot in Microsoft Dynamics 365 Guides
- Microsoft Copilot for Azure
- Bing ChatとBing Chat EnterpriseのブランドをCopilotに変更
- エンタープライズ版Copilot in WindowsもCopilot in Windowsに統一される
などなど、多数のCopilot関連の発表が行なわれている。まさに「MicrosoftはCopilotの会社になる」というのが今の同社の姿勢だ。Microsoftの最優先事項がCopilotであり、その文脈においての「Windows 10へのCopilot in Windowsの実装」だと考えるのが正解だろう。
確かにMicrosoftはWindows 11への移行を促しているが、現時点では特に日本のビジネスPCの現場などでは、まだまだWindows 10のままになっているPCがたくさんあるのも否定できない事実。とにかくCopilotを普及させたいMicrosoftにとって、まだまだ多くのインストールベースがあるWindows 10にCopilot in Windowsを導入しようと考えるのはうなずける判断だ。EoSまでの期間が約2年(正確には23カ月)しかないとしても、Copilotを利用するユーザー数を増やすという意味でWindows 10にCopilot in Windowsを導入するというのは理に叶っているだろう。
それがWindows 10のユーザーに対して「EoSの延期があるのではないか」疑心暗鬼を生むとしても、だ。だからこそ、Microsoftは「EoSに変更はない」というメッセージを明確に出しているのだろうし、それは守られるだろうと考えるのはそのためだ。
既にMicrosoftはWindows 7の時に1度“狼少年”になっているので、それを反面教師として大分前から周知徹底を行なうことで、Windows 8では確実にEoSは実行されたし、今回のWindows 10のEoSもこれだけ周知徹底しているし、これだけ強く延期はないといっているので、さすがにそれ(延期)はないだろうというのが筆者の考えだ。
Windows 10のビジネスPCを使っている企業は、その前に取り組むべきことがある
このようにWindows 10のEoSは2025年10月14日で変わらないとMicrosoftは再度強調したが、その前に多くの企業にとっては、別の期限がやってくることは知っておいた方がいい。
具体的にはWindows 11 Proのダウングレード権を行使してWindows 10をプリインストールしたPCの提供は、来年(2024年)3月31日で終了することだ。既にOEMメーカー向けのプリインストール版Windows 10ライセンスの提供は終了しており、現在提供されているのはWindows 11 Proのプリインストールライセンスとして用意されているWindows 10へのダウングレード権を行使しているという建て前を活用してのWindows 10プリインストールなのだ。その権利が行使できる期限が、2024年3月31日なのだ。
もちろん、メーカー在庫や店頭在庫などは残るため、そこからしばらくは購入できる可能性はあるが、たとえばCTOでスペックを自由に決めて買うことなどは、原則的に4月1日以降はできなくなる。
そのため、Windows 11への移行は2段階で考えておく必要がある。まず来年の4月1日以降は例外を除きWindows 10プリインストールの新規PCは入手が難しくなると考えておく。そのため、4月1日以降は新しく購入するシステムがWindows 11になっている状況に対応する必要がある。
そして2025年の10月14日には、Windows 10のEoSを迎える。ここに変更はないとMicrosoftが強調している以上、これは確実にやってくると考えて備えておきたい。