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Wordの翻訳機能がいつの間にか高精度に!AI文字起こし+Word翻訳は現状最高の組み合わせ
2024年1月5日 06:28
最近のIT業界で、最大の話題が「生成AI」であることを否定する人はまずいないだろう。IT業界で生成AIを「副操縦士(Copilot)」と呼び、人間を補助する存在と位置づけてサービスを展開している企業は多い。Microsoftもその一社であり、“Copilot”をブランド名にしているのも周知の事実だ。
そんなMicrosoftが提供するワープロソフトのWordに、実は結構便利な機能として「ドキュメントの翻訳」という機能が用意されていることは意外と知られていない。これを利用することで、それなりの精度で英語から日本語などへの全文翻訳が行なえるようになっているのだ。
ここでは、ドキュメントの翻訳機能がいかに有用であるかを紹介していきたい。
文字起こしと翻訳は「時間ばっかり取られる作業」
生成AIやAIについて有益だ、有害だ……などさまざまな議論があるが、筆者は“いまのところ”、AIとはしょせん人間が使う道具に過ぎないと判断しており、道具として非常に有益だと考えている。時間ばかり取られる全然クリエイティブでも何でもない作業を、AIが代わりにやってくれることで、筆者自身の生産性が向上するからだ。
筆者のような文筆業の仕事における「時間ばっかり取られる作業」を大別すると、以下の2つが挙げられる。
- 文字起こし
- 異なる言葉の翻訳
文字起こしというのは、たとえば取材の現場において、基調講演の登壇者などと後で「言った、言わない」でもめないように、記録として残す音声録音を文字に起こす作業のことだ。
こうした録音の文字起こしは、最近では一般のビジネスパーソンでも会議などで普通に行なっていると思うが、それを文字化するとなると録画時間の数倍かかるというのが相場だろう。
正直、筆者は文字起こし作業が大嫌いだった。たとえば1時間の録音を起こすのに3~4時間という膨大な時間がかかって、その間はほかの作業ができなくなるからだ。
しかし、数年前からこれに関しては革命的と呼んでよいツールが登場して、すでにほとんど文字起こしをすることはなくなっている。
それがAIを利用した文字起こしツールで、英語では「Otter」、日本語だと「LINE CLOVA Note」というのが最近の筆者のお気に入りである。
いずれもスマートフォンのアプリで録音し、それをオンタイム(Otter)ないしは録音後(CLOVA Note)にクラウドへアップロードしてから、音声から文字への変換が行なわれる形になる。
言語で使うツールを分けているのは、Otterは英語しか対応していないし、CLOVA Noteは日本語の変換はすばらしいが、英語がイマイチという状況だからだ。
このAI文字起こしツールが登場してから、ほとんどの取材時の録音はこうしたツールを利用している。もちろん、録音時の状況(たとえば会場がうるさいなど)が悪いと文字起こしの精度は落ちたりする。
その意味では、最後の手段として人間の耳で起こせるようにしておく必要が完全になくなったわけではないが、最近は日々精度が上がってきており、ほとんどその必要はなくなりつつある。
Wordの翻訳機能がびっくりするぐらい良くなっている
そして「時間ばかり取られる作業」のもう1つの代表が、他言語から日本語への翻訳作業だ。
PC Watchの読者であれば、筆者が本誌において、CPUやGPUなどの半導体関連、そしてPCメーカーへの取材を行なっていることを知っているだろう。そのため、海外の企業の方にお話しを伺う機会も多い。
もちろんその場合は、英語で取材することになる。筆者は英語での基本的な読み書きや会話には特に困らないのだが、当然のことながら英語で読み書きするよりも、日本語で読み書きする方が圧倒的に速くて生産性が高い。
そこで、海外での取材内容を記事にする時などには、先ほど紹介したOtterで文字起こしした内容を日本語に変換して読み直したり、そこから要点を抜き出したりと再構成している。
そんな作業にもってこいなのが、最近お気に入りの「Microsoft Word」を利用する方法だ。
利用方法は非常に簡単、まずはその英語の文章をWordで開いておき、メニューから「校閲」-「翻訳」-「ドキュメントの翻訳」の順に選んで、右側に「翻訳ツール」というのを表示させる。
そこで、翻訳元の言語-自動検出、翻訳先の言語-日本語になっていれば、あとは「翻訳」のボタンを押すだけ。これで、英語の文章が日本語に翻訳されてしまうのだ。
実際、筆者は以下のような英語文章を日本語に翻訳させてみた。実はこの文章は、12月6日に米国で行なわれたAMDのリサ・スーCEOの講演の冒頭部分だ(掲載記事)。英語はOtterで文字起こしした英語文書、そして日本語の翻訳はWordの翻訳機能を利用したものだ。
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Otterでは、PCのWebブラウザで同社サイトにアクセスすると、過去に文字起こししたデータを閲覧できる。メニューからWord形式やPDF形式で出力できるので、Word形式で出力してPCに保存し、それを開いて翻訳すればいい。
なお、Webサイトでは文字起こしした箇所と録音を連動して確認できるので、どこか文字起こしが十分ではないと感じたら該当の部分だけ聞き直して文字起こしを直したりも可能。
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「1,500億人以上」が「1,500億ドル」であるという致命的なミスや句読点の場所などを除くと、ほとんど問題なく翻訳できていることが分かる。もちろん、いくつか「ん?」と思うところはあるが、そこは結構脳内変換で補えるレベルだ。
なお、この機能はMicrosoftアカウントで契約できる一般消費者向けのMicrosoft 365と、Entra ID(旧AADアカウント)で契約できる法人向けのMicrosoft 365のどちらのWordでも同じように利用できることを確認している。いずれの場合も最新バージョン(バージョン2312、Build17126.20078)に更新済みで利用している。
ここシリコンバレーからご参加の皆さん、そして世界中からオンラインでご参加の皆さん。この1年は、私たちの業界において、あらゆる新製品や革新的なビジネスが生まれ、非常にエキサイティングな年でした。しかし、今日はすべてAIについてです。今日発表する新しいAIソリューションや、皆さんと共有したいニュースがたくさんありますので、さっそく始めましょう。
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上記は有償のサービスとして提供されているDeepLで変換したもので、さすがに日本語の文章としてより洗練されている。ちゃんと「1,500億ドル」と表記されているなど、翻訳として優れているのが分かる。
だが、筆者にしてみれば、概要さえつかめればいいし、仮に自分の記事に組み込むとしても自分で直すので、この程度の差であれば、Microsoft 365の料金に含まれて(感覚的には無償で)利用できるWordの翻訳で十分ではないかと感じている。
AIによるさらなる進化に期待
このように、Otterによる英語の文字起こし、それにWordの翻訳機能、この2つを活用することで、かつては数時間~半日かかっていた文字起こし+翻訳といった作業がわずか数分で済むようになっている。こうしたAIの機能こそ、「副操縦士」と呼ぶのにふさわしいと思うのだが、いかがだろうか?
利用コストについては、Otterはひと月に1,200分(20時間)まで文字起こし可能なProプランを契約すると、月額10ドルないしは年額119.99ドルとなる。
WordはMicrosoft 365として年間契約しているので、料金はその一部となる。Microsoft 365 Personalなら1万4,900円だ。付け加えると、この翻訳機能はMicrosoftが提供しているMicrosoft 365向けの生成AI機能「Copilot for Microsoft 365」用ではなく、ごくごく一般的なWordの機能として提供されている。
なお、現時点では日本でCopilot for Microsoft 365が利用できるのは、日本マイクロソフト社内か日本マイクロソフトが提供している「Copilot for Microsoft 365アーリーアクセスプログラム」に参加している企業やボリュームライセンス契約している企業だけで、年額/月額でMicrosoftのWebで契約している中小企業などにはまだ提供されていないからだ。
とは言え、生成AIのモデルを使わなくても、Wordの翻訳はすでにここまで進化している。その意味ではCopilot for Microsoft 365が使えるようになれば、さらなる進化が期待できるだけに、Copilot for Microsoft 365の動向も要チェックだ。