笠原一輝のユビキタス情報局

“七変化”する2画面ノート「Yoga Book 9i」

Yoga Book 9i 13IRU8

 レノボ・ジャパン合同会社が日本で販売開始を明らかにした「Yoga Book 9i 13IRU8」は、2枚の13.3型OLEDパネルを採用したデュアルディスプレイを折りたたんで収納できるユニークな2画面PCだ。

 「Yoga Book」の名前に恥じないユニークな「バーチャルキーボード」を利用し、単体でクラムシェル型ノートPCとしても利用可能。そして付属のBluetoothキーボードを利用してのより普通なクラムシェル型ノートPCの使い方も可能と、文字通り七変化に機能を変化させて使える。

 そうしたYoga Book 9iの海外モデル(キーボードが外国向けのモデルだが、技適マークがあり国内での利用には問題がない)の貸出を受けて、テストする機会を得たので、その利用感などを紹介していきたい。海外モデルを利用してのレビューとなるため、日本で販売されるモデルとはキーボード以外にも違いがある可能性があることをお断わりしておく。

YOGA BOOKのコンセプトを継承しつつ七変化できるように進化

Yoga Book 9iの2つのディスプレイ

 “Yoga Book”というと読者の皆さんにとってはどんな製品を思い浮かべるだろうか……筆者がこのYoga Book 9iの製品名を聞いた時に最初に思い出したのはこれだった。

 2016年の秋にドイツで開催されたIFAで初めて公開された「YOGA BOOK」は、2面のうち1面が10.1型のディスプレイ、もう1面がワコムの電磁誘導方式のタブレットになっており、ペンタブレットとしても使えるほか、スイッチを押すと隠されていたキーボードの表示が浮き上がって「Halo Keyboard」と呼ばれるタッチキーボードとして使えるというユニークな構成になっていたのだ。OSはWindowsとAndroidの2つの選択肢が用意されており、メモリ4GB、ストレージ64GBというスペックだ。

 Yoga Book 9iは、YOGA BOOKの特徴である2画面構成というコンセプトは受け継いでいるが、両方が13.3型OLEDパネルのディスプレイになっているところが最大の違いだ。従来のYOGA BOOKと同じように2つ目のディスプレイをタッチキーボードとして使えるのが、それはあくまでソフトウェア的に実現された仮想キーボードだ。

 こうした構造をもっているため、Yoga Book 9iは以下のようにさまざまな形に変形して利用できる。

その1:2画面見開き(縦)

 2画面をフラットに見開いて付属のスタンド(外付キーボードのカバーになっている)を利用して縦方向に立てて、手前にキーボードを置いて利用するモード。中央に線は入るが、大画面の外付ディスプレイのように利用できる。Webブラウザなどは、下側のディスプレイまで画面を延長することが可能で、写真のように縦長のディスプレイとしても利用可能。

その2:2画面見開き(横)

 2画面をフラットに見開いて付属のスタンドを利用して横方向に立てて、手前にキーボードを置いて理由するモード。こちらも中央に線が入るが、大画面の外付ディスプレイのように利用できる。

その3:物理キーボードを2画面目に吸着してクラムシェル型ノートPCのように利用する

 付属している外付キーボードは、Bluetooth接続で本体と通信できるほか、マグネットで2画面目に吸着して、まるでクラムシェル型ノートPCのように利用できる。キーボードを奥に置くと手前には仮想タッチパッドが表示され、キーボードを手前に置いた場合にはウィジットが表示される仕組みになっている。

その4:物理キーボードをとりはずして、2画面目には仮想キーボードを表示させて本体だけでクラムシェル型ノートPCの使い方

 片手4本指、両手8本指でタッチすると、「Lenovo virtual keyboard」と呼ばれる仮想キーボードと仮想タッチパッドが表示される。それを利用してクラムシェル型ノートPCのように使える。

その5:テントモード

 2画面のテントモードという特色を活かして、たとえばプレゼンテーションの画面をユーザーに見せて、自分は操作側でスピーカーズノードをみながらプレゼンテーションするという使い方が可能だ。

その6:タブレットモード

 もちろん2画面をフラットにしただけの大画面タブレットとしても利用することが可能だし、1画面だけにして普通のWindowsタブレットとしても利用が可能。

その7:タブレットモード+物理キーボード

 そんな大画面はいらないなら、1画面と物理キーボードという使い方もできる。基本的にはキーボードを2画面目にマグネットで吸着しても同じ使い方が可能で同時に仮想タッチパッドを使えるのでそちらお勧めだが……

 このように、文字通り“七変化”に使えるのがYoga Book 9iの特徴と言える。

完成度が高い仮想キーボードと仮想タッチパッド

Lenovo virtual keyboardとbottom virtual touchpad

 今回Yoga Book 9iを実際に触ってみて分かったことは、「Lenovo virtual keyboard」と呼ばれる仮想キーボード、そして「bottom virtual touchpad」と呼ばれている仮想タッチパッドの完成度が高く、使い勝手が良いことだ。

 仮想キーボードと仮想タッチパッドは画面いっぱいに表示され、奥が仮想キーボード、手前が仮想タッチパッドという配置になっている。ユニークなのは仮想タッチパッドで、通常のノートPCのように中央だけをタッチパッドにすることも可能だし、手前の全面をタッチパッドにすることもできる。

 もちろん後者の場合はパームレストがなくなるので、そのあたりはユーザーの入力方法次第だろう。筆者個人としては中央だけがタッチパッドになっている方が使いやすいと感じた(切り替えは左端に表示される両矢印のボタンを押すだけと、ワンタッチで行なえる)。

 仮想タッチパッドの方は、普段から物理ボタンをあまり使わずにタッチパッドを使っている人なら違和感なく利用できる。たとえば、クリックは物理ボタンでなくワンタップやダブルタップ(マウスの左ボタン相当)、2本指のタップ(マウスの右ボタン相当)で操作しているユーザーにとって、物理的なタッチパッドとの差は、パッドが堅いかやや柔らかいかの違いでしかない。

 確かに手前の物理ボタンを利用しているユーザーにとっては、正直仮想タッチパッドのボタンはイマイチ使いにくいかもしれないが、そう感じるなら、タップに乗り換えてみると違和感なく使えるようになるだろう。

 なお、タッチパッドは別途「floating virtual touchpad」という浮遊型の仮想タッチパッドも用意されており、画面の任意のところに表示させて仮想タッチパッドとして利用できる。

 仮想キーボードの方は、従来の仮想キーボードと比較してものすごく使いやすいかと問われれば、そうとは言えない。最大の課題は、物理的なキーボードのように「入力した」という確実なフィードバックがないことだ。

 確かに本製品でもハプティックを利用した応答はある。それにより画面をタッチしたというのは指に伝わってくるのだが、それが押そうと思っていたキーを押したことによるフィードバックかどうかは分からないのが、現状のこうした仮想キーボードの最大の弱点になる。それに関しては基本的には変わっていないが、それでもこれまで触ったこうしたキーボードの中では一番使いやすかったと感じたことは言い添えておきたい。

仮想キーボードと仮想タッチパッドの動作。タッチジェスチャーで呼び出して、タッチで終了することが可能
Webブラウザを2画面に展開してスクロールといったものをジェスチャーで操作できる

 なお、仮想キーボード+仮想タッチパッドは、片手4本指を両手(つまり両手8本指)で同時に2画面目をタッチすると表示される(タスクバーの通知領域に表示されているアイコンからも起動できる)。

 実際に使ってみた感覚としては、電子メールの返答やWebブラウザで検索しながらWebサイトを見る程度であれば十分使えるが、ワープロやプレゼンツールなどでガッツリ入力したいというのには向いていないと感じた。

満足できないなら物理キーボードを使えばいいじゃない?

物理キーボードを手前に置くと奥側にはウィジットが表示される
物理キーボードを奥にすると、手前に仮想タッチパッドが表示される

 だが、心配ご無用。キーボードを利用して高効率に文字入力をしたいと思うなら、付属の物理キーボードの活用を考えたい。付属の物理キーボードは「Yoga Book 9 Bluetooth KB」という名称で、その名の通りBluetoothで本体と接続する。

物理キーボードと手前に置いた時、奥に置いた時の動作の様子

 ユニークなのは、本体の2画面目にマグネットで吸着して位置を固定できるということだ。物理キーボードは2画面目の手前と奥、両方の位置に吸着できる。奥に吸着させた場合には、手前の画面には仮想タッチパッドが表示され、物理キーボード+仮想タッチパッドというハイブリッドな形で利用できる。その使用感はクラムシェル型ノートPCと何1つ変わるところはない(ただし、本製品ではキーボードを挟んだまま画面を閉じることはできないため注意)。

仮想タッチパッドを、手前全部をタッチパッドにしたところ
タッチパッド左はメモパッドとしても利用でき、付属のペンでメモを取れる

 もう1つの使い方は、物理キーボードを手前に置いて、奥の画面にウィジットを表示させるものだ。天気やニュース、リソースメーターなどが標準で用意されており、いちいちタスクマネージャーやニュースアプリなどを起動させなくても、余って部分で表示できるのは便利だ。ただし、仮想タッチパッドは使えないので、別途マウス、もしくは1画面目のタッチ機能を利用してウィンドウ操作やスクロールなどを行なう必要がある。

物理キーボード
キーボードケース
キーボードケースがスタンドに変形する

 Yoga Book 9iがユニークなのは、その物理キーボードのケースが、本体のスタンドを兼ねていることだ。このスタンドはキーボードを包むように降りたたむことが可能で、出先に持って行く時にはキーボードのケースとして活用できる。そして出先では組み立てると、本体を横ないしは縦において、大画面のモバイルディスプレイのように利用できる。

 この時、キーボードはスタンドの先端にマグネットで吸着して固定することも可能だし、もちろん固定しないで切り離して、使いやすい距離において利用することもできる。

弱点はやや重めの重量と短めなバッテリ駆動時間

 このように、Yoga Book 9iは2画面PCやフォルダブルPCと呼ばれるPCの中ではかなり完成度が高いが、弱点もある。1つは重量であり、そしてもう1つは電力食いのOLEDディスプレイが2つあることで影響を受けた、短いバッテリ駆動時間だ。

本体+キーボード+フォリオケースで1.776kgという重量
本体のみの重量
キーボードの重量
スタンド 兼 キーボードの重量
キーボード+フォリオケースの重量
本体+キーボードの重量

 重量はカタログ上のスペックでは1.34kgからとなっており、筆者が実機で計量してみると1.33kgだった。さらに物理キーボードが242g、スタンド 兼 キーボードケースが195gあるので、計算すると

  • 本体+キーボード+フォリオケース=1.776kg
  • 本体+キーボード=1.58kg

となる。外出時にスタンドは使わないことにして、本体と物理キーボードだけを持っていくとしても約1.6kg弱という重量になり、日本では常識的な1kg前後のモバイルノートPCに比べるとやや重いことは否めない。

 本製品が重くなっている理由は2つある。1つは言うまでもなくディスプレイが2つあるため、強化ガラスのような重量物が増えたこと。そしてもう1つは、その2つのディスプレイでシステム全体の消費電力が増えたため、その分バッテリを増やさないといけなかったことだ。通常のモバイルノートPCでは50Wh前後のバッテリを搭載しているが、本製品では80Whのバッテリを搭載している。

 現代のノートPCでもっとも電力を消費しているデバイスはディスプレイであり、現状、OLEDは低電力IPS液晶などに比べて消費電力が高い。そのOLEDを2枚搭載している本製品が、実用的な駆動時間を達成するためにより、大きなバッテリが必要になったのは想像に難しくない。

 実際、Lenovoが公表したスペックはMobileMark 2018で10時間となっており、80Whのバッテリを搭載しているにしてはやや短めだ。ただ、実際のバッテリ駆動時間に近い結果を出すMobileMark 2018で10時間ということは、1日のうちの稼働時間(8時間)は超えて使えることになるので、十分なバッテリ駆動時間とも言える。

 なお、2画面のバッテリの輝度はそれぞれ別個に設定できるので、たとえばキーボード側として使う2画面目は輝度を落とすなどの使い方をすれば、もう少しバッテリ駆動時間を延ばすことができるだろう。

CPUは9Wではなく15Wの第13世代Core Uで、性能は一般的な薄型ノートPC並み

 そうした弱点はあるものの、Yoga Book 9iはいわゆる2画面PC、フォルダブルPCと呼ばれている製品の中で、新しい使い方を提案するという意味で非常に価値がある製品だと筆者は思う。

外箱
OOBE(Out of Box Experience)もカスタマイズされており、2画面目にメッセージが表示される
本体の左側面にはUSB Type-C(Thunderbolt 4対応)が1つ
本体の右側面にはUSB Type-C(Thunderbolt 4対応)が2つ

 しかも、実は見逃せないポイントとして、この製品のSoCが第12世代Coreプロセッサ Uシリーズ(9W)ではなくて、第13世代Coreプロセッサ Uシリーズ(15W)になっていることを挙げたい。

 フォルダブルPCでは、CPUが小型のHDIパッケージになっているTDP 9WのUシリーズが採用されるのが一般的で、Lenovo自身の「ThinkPad X1 Fold Gen 2」も第12世代Coreプロセッサ Uシリーズ(9W)になっていた。

 それに対して本製品は、Core i7-1355UないしはCore i5-1335Uが採用されており、TDP 9Wの第12世代Coreと比較するとより性能は高くなっている。より高性能が必要なビジネスパーソンやクリエイターにとって、これはうれしいポイントだと言える。

 なお、そのほかのスペックとしては16GB(LPDDR5x-6400)、ストレージは512GBないしは1TBのSSD(M2.2242)となっている(日本でどのようなスペックの製品が投入されるかは別途発表時のリポートをご参照いただきたい)。

 原稿執筆時点では日本の価格は分からないが、米国のモデルでは

  • Core i7-1355U/16GB/512GB/Windows 11 Home:2,000ドル(税別、1ドル=147円換算で29万4,000円)
  • Core i7-1355U/16GB/1TB/Windows 11 Home:2,100ドル(税別、同30万8,700円)

という価格設定になっている。安いというわけでもないが、ものすごく高いというわけではない。つまり、絶妙な価格設定になっていると言える。

この状態で外付けキーボードをドッキングしていると、膝の上でも安定して利用できる

 筆者個人としては、これはこれでありなのではないかと感じた。

 1つには、デタッチャブル2in1、つまりSurface Proのようにキーボードを分離する形の弱点だった、膝上で使う時の不安定さをこのYoga Book 9iであれば回避できると感じたからだ。物理キーボードをマグネットで2画面目に吸着して利用するスタイルであれば、膝の上に2画面目が来ることになり、安定して操作できる。机がないところでも安定して操作するという意味で、デタッチャブル2in1よりも使い勝手がよい。

 また、電車の中で少し出してメールするぐらいなら、物理キーボードはバッグの中にしまったまま本体だけ出して仮想キーボードで入力するというのもありだろう。

 そうしたこれまでとは違った、新しいノートPCの使い方が本当にできるような製品が出てきた、それがYoga Book 9iを触った後の正直な感想だ。