笠原一輝のユビキタス情報局
VAIO Zを上回る部分もある最新のVAIO SX12/SX14。その秘密をVAIO開発陣に聞く
2021年10月13日 13:00
VAIO株式会社は、10月13日に12.5型ディスプレイを採用したVAIO SX12(VJS124)、14型ディスプレイを採用したVAIO SX14(VJS144)の個人向けモデルとその法人モデルを発表した。その詳細に関しては、別途発表に関する記事をご覧いただくとして、本記事ではVAIO開発陣にオンライン取材して分かったVAIO SX12、VAIO SX14の内部構造や特長などに関して触れていきたい。
VAIO SX12(以下SX12)、VAIO SX14(以下SX14)は12.5型、14型のディスプレイを搭載したメインストリーム向けの製品で、従来モデルでは第10世代Coreプロセッサ(Ice Lake)を搭載していたのに対して、今回のモデルでは第11世代Coreプロセッサに変更され、性能が大きく強化されている。
それに加えて、今回のSX12およびSX14では、VAIOが2月に発表して3月から販売を開始しているフラグシップモデルの「VAIO Z」(VJP141)の特長だった「曲がるカーボン」や「新機構のキーボード」、「電源と一体型のタッチセンサー」といった特長を継承。
さらに、上位モデルのVAIO Zの特長を受け継ぎながら、SX14ではインセルタッチとデジタイザペンに対応したカスタマイズが可能になる、新しくノイズキャンセリング機能を搭載するなどしており、使い勝手の点でも強化されている。
曲がるカーボン、キーボード、タッチパッドなどのVAIO Zの特長を受け継いでいるVAIO SX 12/SX14
VAIO株式会社 マーケティング本部 プロダクトマネージャの柴田雄紀氏は、「今年(2021年)の3月に発売を開始したVAIO Zは、弊社製品の中ではフラグシップという位置付けの製品になり、とがった製品をお客さまにお届けするという役割だけでなく、次世代の技術を先行開発するという役目を持っていた。
今回発表するVAIO SX12、VAIO SX14はメインストリーム向けの製品になるが、VAIO Zで培った技術を展開し、お客さまに入力しやすいキーボードや、オンラインミーティングで使いやすいマイクやスピーカーを提供する製品となる」と述べ、SX12およびSX14はVAIO Zで先行開発した技術を受け継ぐ製品であると説明した。
今回発表されたSX12/SX14は多くの点でVAIO Zの特長やコンポーネントを引き継いでいる。具体的に同じ14型ディスプレイを採用しているSX14とVAIO Zを比較しみると下表のようになる。
赤で表示しているのがVAIO ZがSX14に比べて上回っているところ、黄はほぼ同等ないしは同等、そして緑はSX14が上回っている機能やスペックとなる。なお、参考までにSX14の旧モデルのスペックも同時に掲載している。
Z(VJZ141) | SX14(VJS144) | SX14(VJS143) |
---|---|---|
第11世代Core H35(Tiger Lake-H35)/TDP 35W | 第11世代Core(Tiger Lake-UP3)/TDP 12-28W | 第10世代Core(Ice Lake-U )/TDP 15W |
デュアルファン+ヒートパイプ | シングルファン+ヒートパイプ | シングルファン+ヒートパイプ |
最大32GB | 最大32GB | 最大32GB |
最大2TB(PCIe 4.0/M.2 2280) | 最大2TB(PCIe 4.0/M.2 2280) | 最大2TB(PCIe 3.0/M.2 2280) |
4K UHD/フルHD | UHD/フルHD(インセルタッチ/ペン)/フルHD | 4K UHD/フルHD |
曲がるカーボン | 曲がるカーボン | カーボン |
曲がるカーボン | 樹脂 | 樹脂 |
曲がるカーボン | アルミ | アルミ |
曲がるカーボン | 樹脂 | 樹脂 |
USB TypeーC(TB4)×2/HDMI/ステレオミニ端子 | USB TypeーC(TB4)×2/USB-A×2/Gigabit Ethernet/HDMI/ステレオミニ端子 | USB TypeーC(TB3)×1/USB-A×3/Gigabit Ethernet/HDMI/ステレオミニ端子/SDカード/VGA |
- | 標準搭載 | - |
フルHD/IR(Hello対応) | フルHD/IR(Hello対応) | フルHD/IR(Hello対応) |
電源スイッチ一体型 | 電源スイッチ一体型 | 搭載 |
搭載 | 搭載 | - |
5GNR Sub6 | LTE-A(Cat.9)下り最大450Mbps | LTE-A(Cat.9)下り最大450Mbps |
Snapdragon X55 5G modem/Telit FN982m/Nano SIM | Snapdragon X20 LTE modem/Telit LN960A9/Nano SIM | Snapdragon X12 LTE modem/Telit LN940A9/Micro SIM |
19mmピッチ/1.5mmストローク/バックライト(日本語/英語/文字表記なしオプション) | 19mmピッチ/1.5mmストローク/バックライト(日本語/英語/文字表記なしオプション) | 19mmピッチ/1.2mmストローク/バックライト |
2ボタン付高精度タッチパッド | 2ボタン付高精度タッチパッド | 2ボタン付高精度タッチパッド |
搭載 | 搭載 | - |
53Wh | 53Wh | 42.9Wh |
320.4×220.8×12.2~16.9mm | 320.4×222.9×13.3~17.9mm | 320.4×222.7×15~17.9mm |
約958g~ | 約999g~ | 約999g~ |
ブラック/シグネイチャーブラック | 勝色/オールブラック/アーバンブロンズ/ブライトシルバー/ファインホワイト/ファインブラック | ブラック/シルバー/ブラウン |
これを見ておもしろいことに気付かされるのは、VAIO Zの方がハイスペックで高機能だということは赤の数で分かるのだが、緑もあるようにいくつかの点でSX14の方が上回っていることだ。
そして、黄色、つまりVAIO Zの機能や性能などをSX14が引き継いでいる部分が最も多く、柴田氏の言う通りVAIO Zで実装された新機能がSX14などにも適用されている。
1つ目のVAIO Z由来の技術としてはVAIO Zで採用された「曲がるカーボン」が、SX12/SX14でもAカバー(ディスプレイの天板部)に採用されていることだ。
曲がるカーボンとは、熱プレス製法(熱を加えてプレスすることでカーボンの板を製造する方法)で作られるカーボンを曲げる製造手法のこと。一般的にドライカーボンと呼ばれるオートクレープと呼ばれる「窯」で焼き上げる製法であれば、カーボンを曲げて仕上げるのは難しくない。
そうしたドライカーボンはレーシングカーやボーイング787の主翼や胴体部分などに利用されているが、製造コスト的にはレーシングカーや飛行機といった高付加価値の工業製品には適するが、ノートPCのような量産で比較的安価な製品にはコスト的に見合わないのだ。
そこでVAIO Zでは熱プレス製法でもカーボンを曲げられるようにし、それをAカバー(ディスプレイ天板)に、そしてBカバー(ディスプレイ面)にも、Cカバー(パームレスト部分)にも、Dカバー(底面カバー)にも採用している。そのように4面カーボンとすることで、VAIO Zでは軽量さを実現しながら剛性を確保している構造になっている。
しかし、そうした4面カーボンは言うまでもなくコストは高い。一番安いモデルでの20万円台後半というノートPCとしては高い部類の製品であるVAIO Zではそれが許されるが、SX12/SX14は一番廉価なモデルでは10万円台の前半になるというメインストリーム向けの製品であり、4面カーボンなどという豪華な部材は普通に考えて難しい。
そこで、SX12/SX14ではAカバーはVAIO Zと同じようにカーボンになっているが、Cカバーがアルミに、BカバーとDカバーは樹脂になっている。違いは大きく言えばBカバー、Cカバー、Dカバーがカーボンではないということになる。
しかし、Aカバーのカーボン素材の天板は、VAIO Zに利用されたのと同じ「曲がるカーボン」が利用されている。VAIO ZではAカバーの底部(つまりディスプレイを開いた時に下部に来る部分)の左右にオーナメントを装着するという形になっているが、SX12/SX14では底部がオーナメントに覆われる形になっている。
VAIO株式会社 テクノロジーセンター メカ設計部 メカ設計課 メカニカルプロジェクトリーダー 長崎竜希氏によれば、「カーボンを底部まで曲げていくが、オーナメントをカーボンに曲げに併せて装着することでデザインに繋がりをもって表現したいと考えた。オーナメントはアルミ素材で検討していたが、光沢やサンドブラストなど様々なデザインや色を試し、最終的にこのデザインに落ち着いた」という。
なお、従来のSX12/SX14では今回モデルと同じように狭額縁になっているが、従来モデルでは樹脂で液晶モジュールを守る形状になっていた。
しかし、長崎氏によれば今回のモデルでは「ラバーを追加して液晶モジュールを守っている。細かい変化だがこれを追加することで従来モデルよりも、より液晶モジュールの破損を守ることができるようになっている」とのこと。従来モデルの設計でも強度の基準はクリアしているそうだが、今回のモデルでは念には念を入れて追加した形になる。
キーボード、タッチパッド、バッテリなどVAIO Zでの特長がそのままSX12/SX14の特長に
ノートPCの重要な選択ポイントの1つと言えるキーボードやタッチパッドなどもVAIO Zの特徴を受け継いでいる。
VAIO株式会社 テクノロジーセンター プロジェクトリーダー課 プロジェクトリーダー 江口修司氏によれば「SX14、SX14ともに基本的にはVAIO Zのキーボードを受け継いでいる。ただし、SX12に関してはキーボードの左端の列(筆者注:Tab、CapsLock、Shiftなど)だけは若干キーピッチが狭くなっている。これは底面積がSX12の方が小さいためだ」との通りだ。
SX12は左端の列のピッチがやや狭くなっている以外は、VAIO Zのキーボードと構造やバックライトなどの仕様は同等だ。VAIO Zのキーボードでは、従来のVAIOのキーボードが1.2mmストロークだったのに対して、1.5mmストロークとより深いストロークに変更されており、入力がより快適にできるよう変更されている。
最近では薄型化のためにストロークを犠牲にするのが“流行”だが、VAIO Zのキーボードではそれとは逆にストロークを深くすることを選択しているのだ。
また、キートップも中央部がややへこんでいるデザインになっており、こちらも指になじむデザインになっている。実際に従来のキーボードと比べてみると、圧倒的に打ちやすくなったキーボードがSX12、SX14でも採用されているということだ。
VAIO Zでも用意された「かな文字」なしの日本語キーボード、キートップの刻印を薄く印字している「隠し刻印」が選べるのも同様で、そうしたほかのPCと違ったデザインを求めるユーザーのニーズに応える仕様になっていることもうれしい点だ。
タッチパッドもVAIO Zで採用された「約70×110mm」(ボタン込み)と大型の高精度タッチパッドが採用されているのも同様で、やはりVAIO Zと同じように2ボタンが用意されている。現在のノートPCではボタンレス(正確に言うと隠しボタンになっている)のタッチパッドが主流になりつつあるが、依然としてボタンが欲しいというユーザーは多いようで、そうした声に応えた形となる。
また、バッテリの容量がVAIO Zと同容量になっている点もうれしいところだ。従来のSX12/SX14のバッテリは42.9Whとなっており、14型のノートPCとしては小さいとも言えないが、大きいとも言えない容量だった。
しかし、今回のSX12/SX14ではVAIO Zと全く同じ53Whのバッテリを搭載しており、バッテリ駆動時間が大きく延びた。同じフルHDモデルで比較した場合、旧SX14(VJZ1431、35Wh)では約21~22.7時間となっていたのが、約30時間に増えている(いずれもJEITA測定法2.0による)。
もちろんJEITA測定法2.0は現在となっては実利用環境とはやや乖離が大きく、実際の利用時間は2分の1~3分の1程度と考えられるが、仮に厳しく見積もって3分の1だとしても10時間程度は利用できる計算になる。
新しく搭載されたAIノイズキャンセリング機能、旧来のVAIO Zモデルには適用できず
このようにVAIO Zの特長を受け継いでいるSX12/SX14だが、逆にVAIO Zを上回っている部分もある。それがAIノイズキャンセリングとインセルタッチ/AESペン対応(オプション)、さらにはインターフェイスにUSB-AやGigabit Ethernetなどがあることだ。
AIノイズキャンセリングの機能は、ソフトウェアにより実現されている。具体的には「VAIOの設定」というツールの最新版となる「Version 2.1.20180.0」が標準で搭載されている(既に同バージョンはMicrosoft Storeで公開されている)、その中に従来のVAIO Zなどのモデルでは存在していなかった「サウンド」というタブが用意されており、そこでノイズキャンセリング機能を設定することができる。
具体的には「マイク入力のAIノイズキャンセリング」と「スピーカー出力のAIノイズキャンセリング」という2つの設定が用意されている。前者は自分の声を自分のPCで拾って相手に届けるときにノイズを低減する機能になり、後者は相手の声などをSX12/SX14の内蔵スピーカーで再生する時に相手のノイズを低減して再生する機能となる。
前者は自分の声を相手にクリアに届けるために、後者は相手のノイズがひどい時に自分が聞きやすくするための機能と言い換えればいいだろう。
なお、今回のSX12/SX14ではCPUが第11世代Coreになっているため、AI推論のアクセラレーター機能であるGNA(Gaussian & Neural Accelerator) 2.0が利用できるが、VAIO株式会社 テクノロジーセンター PCシステム設計部 システムソフト課 ソフトウェア プロジェクトリーダー 古谷和之氏によれば「CPUの負荷は数パーセントで、性能に大きな影響を与えるとは考えられないため、今回GNAは利用していない」との通りだ。
なお、実はSX12/SX14に利用されているカメラやマイクのモジュールはVAIO Zと共通でハードウェアに関しては同じになるので、既存のVAIO Z(VJZ141)でもAIノイズキャンセリングの機能が使えても良さそうだが、古谷氏によれば使えないという。
「既存のVAIO Zのお客さまには申し訳ないのだが、ハードウェア側の制限で既存のVAIO Z向けにAIノイズキャンセリングの機能は利用できない。というのも、従来のVAIO Zではマイクがコーデック側に繋がっていたが、今回のSX12/SX14、そして勝色のVAIO Z(筆者注:今回同時に発表されたVJZ142)ではPCH側にマイクを接続している。AIノイズキャンセリングを実現するためにはそうした変更が必要だったため、残念ながら従来のVAIO Zのお客さまにこの機能を提供することは難しい」という。
タッチ/ペン対応のインセルタッチフルHDが追加。USB-A/Gigabit Ethernetも装備
また、ディスプレイの解像度は、店頭向けはフルHD(1,920×1,080ドット)のパネルが採用されており、VAIOストアやソニーストアでのCTO時には4K UHD(3,840×2,160ドット)が選択できるという構造は基本的には同じだ。ただし、今回のモデルではそれに加えてインセルタッチ/ワコムAESペンに対応したフルHDという新しい選択肢が追加されている。
江口氏によれば「従来ペンと言うとイラストレーターのようなプロユースの利用が一般的だった。しかし、最近ではテレワークなどが一般的になってくるに従い、PDFの書類に画面上で直接サインしたいというニーズが出てきている。同じように保険会社の営業さんが顧客にサインをデジタルで求めるなどのアプリケーションも増えてきており、そうしたニーズに対応するためオプションとして用意した」とする。
ただ、インセルタッチという液晶モジュールにタッチとデジタイザのセンサーを統合しているパネルを採用しているため、厚みなどは0.2mm程度の違いしかないため、タッチありとタッチなしでディスプレイ部の厚みを変えるなどの必要はなかったそうだが、ディスプレイのコントローラ基板部分はやや大きくなってしまうため、そこの構造を若干工夫する必要があったそうだ。
なお、VAIO SX12/SX14はIntelが規定する使い勝手に優れたノートPCのブランド「Intel Evo platform」に準拠した製品となり、ブランドのシールが製品などに貼られることになるが、UHDやインセルタッチのフルHDを搭載したCTOモデルは対象外となる。
これは、インセルタッチではないフルHDパネルはIntelが規定するLPDT(Low Power Display Technology、フルHDで1W以下の消費電力を実現する取り組みのこと)に準拠したパネルになっているが、UHDとインセルタッチに関してはそうではなく、ややLPDT準拠のパネルに比べると高めの消費電力になっているため、Evoの基準を満たせないからだという。
このあたりは、機能や消費電力はトレードオフの関係にあるので致し方ない部分で、高解像度が必要な人は4K UHDを選び、バッテリ駆動時間重視な人はフルHDを選ぶなど、ユーザーがニーズによって選べば良いだろう。
そして3つ目のSX12/SX14が上回っている部分はインターフェイスの充実だ。VAIO ZではUSB Type-C(Thunderbolt 4)が2つ、HDMI、ヘッドフォン端子しか用意されていないというシンプルな構成になっている。それに対してSX12/SX14はそれに加えてUSB Standard A(以下USB-A)が2つ、Gigabit Ethernet端子が1つ追加されている。
VAIO株式会社 テクノロジーセンター メカ設計部 メカ設計課 メカニカルプロジェクトリーダー 曽根原隆氏は「VAIO Zに関しては最先端ということでUSB Type-Cが2つという構成になっていたが、SX12/SX14ではUSB-Aを2つとGigabit Ethernet端子を追加している。これはユーザーの利用シーンを見ていくと、メインストリーム向け製品では必要だと判断したからだ」と述べ、特にビジネスユーザーが求めるUSB-AとGigabit Ethernetに関しては残したと説明する。
VAIO ZではUSB Type-Cが左右に1つずつ置かれる配置になっているが、SX12/SX14ではUSB Type-Cは右側に2つ、そしてUSB-Aが左右に1つずつという構成になっている。
曽根原氏によれば「VAIO ZのようにThunderbolt 4に対応したUSB Type-Cを左右に置くとハイスピードのハーネスという高コストにならざるを得ないというコスト面の事情もあるが、ユーザーの使い勝手を考えると、マウスを繋ぐ右側とそれ以外のデバイスの左側とUSB-Aが左右にあった方がいいと考えてこうした構造にした」とする。もちろんメインストリーム向け製品ということでコストと相談という事情もあったそうだが、ユーザーの利用シーンを考えるとUSB-Aが両側にある方がベストだと考えたとのことだった。
ただ、従来のSX14(VJZ143)と比較すると、SDカードとVGA(ミニD-Sub15ピン)がない。この点に関しては「確かに最初のSX14を出した時にはまだSDカードとVGAは必要だったが、最近の調査ではSDカードとVGAの優先順位はかなり落ちてきており、それを反映して今回のモデルでは落とした」(江口氏)との通りだ。
既にビジネスシーンでもHDMI入力をもっていないプロジェクタの方が珍しくない現状だし、カメラもスマートフォンを利用するユーザーが増えているという現状を考えると納得できる判断だろう。
VAIO Zの強みはデュアルファンやH35などの搭載によるより高いクロック周波数を長時間維持できること
なんだかこう書いてくると、SX12/SX14はVAIO Zの良いところを多く受け継いでいて、逆にVAIO Zを選択する意味がなくなってくるのではないかと感じてしまうかもしれない。しかし、そこは心配ご無用、明らかにVAIO Zが上回っている点もちゃんとある。
例えばVAIO Zは4面フルカーボンであることは既に紹介したが、それ以外にも熱設計を含む性能、そしてセルラー通信などに関してはVAIO Zが明らかに上回っている。
まずCPU自体の熱設計の枠が異なっている。VAIO Zに採用されているのも、SX12/SX14に採用されているのも第11世代Core(Tiger Lake)なのだが、VAIO Zに搭載されているのはH35と呼ばれるTDPが35Wに設定されている上位グレードで、今回のSX12/SX14に搭載されているのはUP3と呼ばれるTDPのレンジが12~28Wに設定されているメインストリーム向けのグレードだ。
ただし、今回のSX12/SX14では、「Core i7-1195G7」という今年のCOMPUTEX Taipeiで発表された追加SKUを搭載することができる。
このCore i7-1195G7は「Tiger Lake Refresh」のコードネームで呼ばれていたもので、C0ステップと呼ばれる新しいリビジョンのダイ(Intelではそのダイの履歴をステップと呼んでいる)を利用して製造されている。
Core i7-1195G7の特長はIntel Turbo Boost Max Technology 3.0の対応で最大5GHzで動作し、さらにGPUのブースト時のクロックが1.4GHzに引き上げられている点だ。
要するにCPUの回路などにも改良が入ったため、より高クロックで動くようになったものということになる。実際、VAIO Zに採用されているCore i7-11375Hは、CPUは同じ最大5GHzだが、GPUに関しては最大1.35GHzまでとなっており、GPUのクロックだけを見ればCore i7-1195G7の方が高くまで回る仕様なのだ。
では、Core i7-1195G7を搭載したSX12/SX14の方が、性能が高いのかと聞かれると、そうではないとVAIO株式会社 テクノロジーセンター PCシステム設計部 システム設計課 エレクトリカル プロジェクトリーダー 平加憲作氏は説明する。
「VAIO ZとSX12/SX14の熱設計での最大の違いは、前者がデュアルファンであり、後者がシングルファンであることだ。それにより、熱設計の余裕はVAIO Zの方が高く、VAIO Zの方はずっと比較的高いクロックで動き続けるのに対して、SX12/SX14に関してはそれに比べるとやや下がったところで落ち着くまでの時間が早い」(平加氏)という。
要するにVAIO Zはより高いクロックでずっと安定して動き続ける時間が長いが、SX12/SX14に関しては放熱できる余裕がVAIO Zに比べると少ないため、クロックがある程度のところまで落ちてくる時間が早いということだ。このため、PCを使っている時間トータルで見ると、VAIO Zはより高い性能を発揮するのに対して、SX12/SX14はそこまでいくことができない。
ただし、それはあくまで上位モデルのVAIO Zと比較した場合であって、「このSX12/SX14もVAIO TruePerformanceに対応しており、他社の同クラスの製品に比べればより高い性能を発揮する」との通りで、同クラスの製品に比べればより高いクロックで動き続ける設計になっている。
実際その熱設計のパラメータも、PL1、PL2などの数値は動的に変えられるようになっているという。基板上のセンサーで温度などを常にモニタリングし、その時点で最適なPL1、PL2の値を設定しながら動作するという仕組みになっている。それもより効率の良い熱管理を可能にしているということだった。
また、ヒートパイプは3本になっており、2本はCPUを冷やすため、もう1本は電源回路を冷やすために利用されている。平加氏によれば「以前のモデルでは電源回路は冷却しない構造になっていたため、電源回路が想定よりも熱くなり、それに起因する性能のペナルティーが大きかった。そこで、今回のモデルからは電源も冷やしよりCPUが性能を発揮させやすいように設計している」とのことで、そうした設計を施していることも、他社の同クラスの製品に比べて高い性能を発揮できる理由だと説明した。
なお、VAIO Zもそうであるように、SX12/SX14も、Dカバー(底面カバー)のネジを外して、ディスプレイとCカバー(キーボードカバー)の隙間に指を入れると、簡単にCカバーが外れて基板部にアクセスすることができる。
このため、SSDの交換などは比較的容易になっている。個人向けのモデルであれば保証が切れた後、あるいは法人向けの製品でVAIOのトレーニングを受けた企業内の担当者などがSSDを自分で交換するは容易だ。こうしたメンテナンス性の良さもVAIO Zのそれを引き継いでいる。
SX12、SX14にはLTEのみのTelit LN960A9が選択される、3CAで下り最大450Mbps
そしてもう1つのVAIO Zの強みは、セルラー回線の方式だ。両者ともオプションとしてセルラーモデムを選択できるが、通信方式はVAIO Zは5GNRまで対応(4G/3Gも利用できる)のに対して、SX12/SX14は4G LTE(カテゴリ9)までの対応となっている。
江口氏によれば「SX12/SX14がLTEまでの対応になっているのは1つにはコストで、5Gのモデムの価格はSX12/SX14にはふさわしくない価格になっているし、かつアンテナもシステム側に持ってこないといけないなどを勘案すると、その面でもメインストリームのお客さまにはデメリットが大きいと判断した」とする。
確かに、VAIO Zではアンテナはディスプレイの上部と、キーボード下部の左右の4カ所に置かれている。モジュールも高く、そうしたアンテナのコストも高いと考えると、メインストリーム向けの製品として不適当というのは江口氏の言う通りだろう。
また、5Gの通信は確かに高速なのだが、その分消費電力も高いという課題もある。これは新しい通信方式が登場したときには常に課題となることで、LTEも出始めの頃はそうした問題を抱えていた。
技術がこなれ、モデムチップの製造技術なども進化することで消費電力は段々と下がっていくが、まだ5Gが出始めの今ではそうした課題を抱えていることは否定できない。
そう考えれば、LTEを選んだというのもメインストリーム向けとしては納得できる話だ。
ただ、今回のSX12/SX14ではモデムのモジュールは新しくなった。従来モデルではTelitのLN940A9だったのが、今回のモデルではLN960A9へと変更されている。違いはモデムチップがSnapdragon X12 LTE modemだったのが、Snapdragon X20 LTE modemへと変更されていることだが、LTEのカテゴリ9(3xCAで450Mbpsまで)という仕様は変わっていない。LTEの対応バンドは表2の通りだ。
SX12/SX14対応 | NTTドコモ | KDDI | ソフトバンク/Y!mobile | 楽天モバイル |
---|---|---|---|---|
1 | ○ | ○ | ○ | - |
2 | - | - | - | - |
3 | ○ | ○ | ○ | ○ |
4 | - | - | - | - |
5 | - | - | - | - |
7 | - | - | - | - |
8 | - | - | ○ | - |
12 | - | - | - | - |
13 | - | - | - | - |
14 | - | - | - | - |
17 | - | - | - | - |
18 | - | ○ | - | - |
19 | ○ | - | - | - |
20 | - | - | - | - |
25 | - | - | - | - |
26 | ○ | ○ | - | - |
28 | ○ | ○ | ○ | - |
29 | - | - | - | - |
30 | - | - | - | - |
32 | - | - | - | - |
38 | - | - | - | - |
39 | - | - | - | - |
40 | - | - | - | - |
41 | - | ○※ | ○ | - |
66 | - | - | - | - |
※バンド41はWiMAX2+用でWiMAX2+に対応した機器でしか利用できないため、SIMフリー機では事実上利用できない
なお、eSIM(組み込み型のSIM、ソフトウェア的に契約情報を書き込んでSIMカードとして利用できる機能)の実装は今回も見送られている。
VAIOの柴田氏によれば「既に技術的にはレディになっており、いつでも機能を提供できる状況にある。しかし、弊社としては現状VAIO SIMを物理カードで提供しているというビジネス戦略上の問題もあり、eSIM機能は有効にしていない。将来的には有効にすることも検討にしている」とのことだった。
既にスマートフォンではeSIMは当たり前になりつつあるし、物理SIMカードに加えてもう1枚SIMカードを使えるという意味もあるので、近い将来の製品ではぜひ有効にしてほしいものだ。
絶対性能を重視ならVAIO Z、コストとのバランスやインセルタッチ、USB-Aなどを重視ならSXシリーズ
以上のように、今回VAIOが発表したSX12、SX14は、同社のフラグシップ製品であるVAIO Zの特長を受け継いでいるだけでなく、AIノイズキャンセリング、インセルタッチ、USB-AやGigabit Ethernet端子などむしろSX12/SX14の方が上回っている部分もある。
それなのに、VAIO Zに比べると安価に設定されており、メインストリーム向けのVAIO Zが欲しいよと思っていたユーザーにとっては朗報と言えるだろう。
ただ、ではVAIO Zを選ぶ意味がないのかと言えば、そうではないことは説明してきた通りだ。特に性能面でのVAIO Zのアドバンテージは大きく、熱設計がより充実しているため、CPUがより高いクロックで長い時間動作し続けられるという点は明快なメリットと言える。また、5Gを選択できるという点や、4面カーボンといった素材面でのメリットもVAIO Zの特長だ。
ではSX12/SX14はどうかと言えば、SX12という12.5型ディスプレイのモデルがあり、できるだけ軽量なVAIOが欲しいユーザーや、性能はCore i7-1195G7とVAIO TruePerformanceで十分であり、それに使いやすいキーボードやタッチパッド、さらに充実したインターフェイスが欲しいというユーザーであれば、今回のSX12/SX14を選べば良いだろう。