福田昭のセミコン業界最前線
液体冷却SSDや量子メモリ、永久ストレージなど話題豊富なFMS 2026
2026年8月6日 06:14
8月5日午後も9つの講演セッションが同時並行に進む
半導体メモリとストレージに関する世界最大のイベント(講演会兼展示会)「フューチャー(オブ)メモリアンドストレージ(FMS: the Future of Memory and Storage)」が今年(2026年)も、8月4日から6日に米国カリフォルニア州シリコンバレーの会議場「サンタクララコンベンションセンター(SCCC: Santa Clara Convention Center)」で開催される。7月21日付けの本コラムではFMSの基礎知識と基本スケジュール、基調講演などを説明した。続く7月23日付けの本コラムでは8月4日の一般講演セッション、さらに7月28日付けの本コラムでは8月5日午前の一般講演セッションで実施予定の講演やパネル討論会などを紹介してきた。
今回は8月5日の午後3時30分に実施予定の一般講演セッションを説明する。分野別に9つのセッションが同時並列に進む。午前と同様に、かなりの忙しさだ。
AI推論システムはNANDフラッシュを積極的に活用へ
最初に説明するのは「Mission City Ballroom」で実施する「AI & ML Applications(人工知能とマシンラーニング)」分野のセッションである。4件の講演を予定する。
始めにPhisonが「Improving AI performance and reducing DRAM foot-print with Flash(フラッシュメモリを利用したAI性能の改善とDRAM容量の抑制)」と題して講演する。AI推論システムのメモリ階層に大容量のフラッシュメモリを導入することで、推論性能が向上するとともに、必要なDRAM記憶容量を減らせることを示す。
次にSandiskが「Online Inferencing of Optimal Memory Parameters: AI-Driven Read Thresholds(最適なメモリパラメータをオンラインで推論する: NANDフラッシュの読み出しにおける適切なしきい値をAIが推定)」と題して講演する。「ART(AI-Driven Read Thresholds)」と呼ぶ、NANDフラッシュメモリの最適なしきい電圧をAIがオンラインで推定する仕組みを提案する。軽量なマシンラーニングモデル(オフライン学習済みモデル)を搭載したASICエンジンが、数ナノ秒と短い遅延時間で推論を実行する。
それからMicron Technologyが「SNIA AI Data Workloads Technical Working Group addressing the challenges in benchmarking and validating storage for AI(SNIAが設立した「AIデータワークロード技術作業グループ」: AI向けストレージのベンチマークと検証における課題に対処)と題し、ストレージの業界団体SNIAが設立した技術作業グループ(TWG)「SNIA AI Data Workloads Technical Working Group」の取り組みを説明する。TWGはAI向けストレージの作業負荷を定義し、性能評価用ツールを提供していく。
最後にSandiskが、「When VRAM Isn’t Enough: Storage-Centric Context Management for LLMs(VRAMの容量が不十分な場合の対策: 大規模言語モデルにおけるコンテキスト管理)」と題して講演する。KVキャッシュの長大化によるVRAMの容量不足を補う単純なストレージ管理ではなく、分析とシミュレーションを活用したストレージ管理によってデータの断片化を抑制してテールレイテンシ(極端に長い遅延時間)の突発的な発生を防ぐ仕組みを提案する。
エンタープライズSSDクラスタの性能を長期にわたって維持
次は「Ballroom A」で実施する「Data Center Storage & Memory(データセンターのストレージとメモリ)」分野の講演セッションを紹介しよう。4件の講演を予定する。
最初にPure Storage(現在はEverpure)が「Designing for Failure: Minimizing Operational Disruption in Large-Scale Flash Systems(障害を前提とした設計: 大規模なフラッシュシステムの業務中断を最小化する)」と題し、フラッシュストレージにおける障害発生の影響を最小化し、システムを迅速に復旧する手法を論じる。
続いてMarvellが「Can't Live Without Them! What Is Next for HDDs?(HDDなしでは生きられない。HDDの次なる展開は)」との少し変わったタイトルで講演する。データセンターのストレージに占めるHDDの比率(記憶容量換算)は依然として高く、約70%を占める。SSDは約20%、そのほかは磁気テープなどとされる。HDDのドライブ容量は今後も拡大が見込まれるものの、性能(読み出しスループット)はほとんど上昇しない。講演では、大規模HDDシステムにおける性能の向上手法を述べる。
それからMacronixが「Dual-tier RAID: A Tier-Aware Software RAID for Modern IO Workloads(デュアルティアRAID(DT-RAID): 最新のI/Oワークロードに対応した階層認識型ソフトウェアRAID)」と題して講演する。入出力の作業負荷を監視することによってアプリケーションを修正することなく、データのアクセス頻度をリアルタイムで推定し、高速なストレージ階層(たとえばSLC領域)あるいは高密度なストレージ階層(TLC領域あるいはQLC領域)に振り分ける。
最後にSandiskが、「Maintaining Performance Through Device Lifecycle(デバイスの寿命を通してその性能を維持する)」と題してエンタープライズSSDによるストレージシステムの性能を長期間にわたって維持する手法を提案する。個々のドライブについて冗長領域の利用状況やオーバープロビジョニング領域の活用状態、書き込み累積容量の変化、OCP(Open Compute Project)定義のログなどを体系的に利用して経年劣化を継続的に把握する。ドライブの寿命が近づいて性能が急激に低下する前に、ドライブを負荷の高い用途から負荷の低い用途へと割り当てを変える。このようにしてストレージシステム全体の性能を維持する。
次世代SSDの放熱では液体冷却が候補に
ここからは「Ballroom B」で開催する「SSD Technology(SSD技術)」分野のセッションを報告する。4件の講演を実施する。その中で3件は次世代SSDの放熱技術を論じる。
始めにSolidigmとNVIDIAが共同で、「Thermal Evolution for Next-Generation SSDs: From Air to Liquid Cooling and Enabling AI Inference at Scale(次世代SSDに向けて進化する熱管理: 空冷から液冷への進化がAI推論の大規模化を実現)」と題して講演する。PCIe Gen6とPCIe Gen7に相当する最新SSDあるいは次世代SSDの放熱方式として強制空冷と直接液冷、液浸冷却を比較する。
次にIBMが「Maximizing E3: How to Build a Really Big E3.L 2T SSD(E3の可能性を最大化する: 超大容量E3.L 2T SSDの構築方法)」と題して講演する。エンタープライズ用およびデータセンター用ストレージの寸法規格EDSFF(Enterprise and Datacenter Standard Form Factor)の中で体積と許容電力が最大のフォームファクタ「E3.L 2T」をフラッシュストレージに適用することで、ニアラインHDDと比べて高性能・省面積、高耐久でしかも費用対効果に優れた高密度ストレージを実現できることを示す。
それからMicron Technologyが「Staying Cool in the Storage Neighborhood(最新SSDと次世代SSDの放熱技術を展望)」のタイトルで講演する。次世代SSD向け放熱技術としての液体冷却と強制空冷に対する同社の見解を述べるとともに、両技術の課題を解説する。
最後にSK hynixが「Beyond Air Cooling: Assessing the Stability SSD in Immersion Cooling(空冷の先へ: 液浸冷却SSDの安定性を評価する)」と題して講演する。SSDの放熱に液浸冷却を適用するときの包括的な評価結果を示す。単相の冷却液と二相の冷却液を比較し、電気的な性能の変化や外観上の違いなどを分析し、SSDの信頼性に影響する要因を特定した。
AIアクセラレータ間の高速接続規格「UALink」を解説
次は「Ballroom C」で実施される「Industry Association(業界団体)」分野のセッションを紹介する。午後3時30分から午後4時35分の予定でパネル討論会を開催する。討論のテーマは「The Future of AI Scale-Up: Latest Advancements in UALink Technology(AI大規模化の将来像: UALink技術の最新動向)」である。
UALink(Ultra Accelerator Link)は、GPUやASICなどのAIアクセラレータ間を高速かつ低遅延で接続するオープンな標準規格であり、業界団体のUALinkコンソーシアムが規格策定と普及に取り組んでいる。パネル討論会ではコンソーシアムの会員企業代表が、ネットワーク内集約処理や管理機能、チップレットなどの最新規格を解説する。
量子メモリと量子コンピューティングを基礎から最新状況まで解説
ここからは「Ballroom D」で実施する「Other Memory Technologies(そのほかのメモリ技術)」分野のセッションを説明する。このセッションでは3件の講演を予定する。
最初にGlobal Quantum Intelligenceが「Quantum Memories are Nothing Like your Father‘s Memory Devices(量子メモリは従来のメモリと根本的に異なる)」と題して講演する。量子メモリが従来のメモリと根本的に異なるのは、記憶に「量子ビット(キュービット: qubits)」と呼ぶ量子的なビット(0と1の間にあるすべての状態)を利用する点にある。講演では量子メモリを構成する技術や物理的な原理、現在の開発状況などを解説する。
次にIBM Researchが「Towards fault-tolerant quantum computing through the lens of quantum memory(フォールトトレラントな量子コンピューティングの実現を、量子メモリの視点から考える)」とのタイトルで講演する。量子コンピューティングは本質的に不良(誤り)の発生が避けられないことから、「量子誤り訂正(QEC)」技術による誤り訂正が不可欠となる。講演では従来のメモリやストレージなどの誤り訂正とQECの類似点と相違点を示す。それから最新のQECアルゴリズムを説明する。
最後にBioNym Consultingが「Foundations of Quantum Computing(量子コンピューティングの基礎知識)」と題し、量子コンピューティングの基本的な概念である「重ね合わせ(Superposition)」と「量子もつれ(Entanglement)」を平易に解説する。
ストレージ規格NVMeの最新動向を解説
次は「Ballroom E」で開催する「Networks & Connections(ネットワークと接続)」分野のセッション内容を紹介する。4件の講演を予定する。いずれもNVMe(NVM Express)に関するものだ。
始めにキオクシアが「NVMe Technology: The Command Set for High Bandwidth AI, Cloud and Enterprise Applications(NVMe技術: 広い帯域幅を要するAI用途やクラウド用途、エンタープライズ用途に対応したコマンドセット)」と題し、NVMe標準規格のロードマップを説明する。「Subsystem Migration(サブシステムマイグレーション)」や「QoS(Quality of Service)」など、新たに追加された機能も解説する。
続いてSamsung Electronicsが「Flexible Virtualization with NVMe Exported NVM Subsystem Templates (or... “Faking NVM Subsystem for Fun and Profit”) (「NVMe Exported NVM Subsystemテンプレート」による柔軟な仮想化(あるいは「楽しくて得するNVMサブシステム・エミュレーション」))」と題し、同テンプレートを使ってNVMサブシステムをフルに仮想化する手法を述べる。
それからSolidigmが「Deploying Host Addressable Subsystem Local Memory (SLM)(ホストがアドレス可能なSLMの導入)」と題して講演する。NVMe技術規格として承認された技術提案(TP4184)「Host Addressable Subsystem Local Memory(ホストアドレッサブルSLM)」の概要を説明する。
最後にMicrosoftが「NVMe-oF Support in Windows(WindowsにおけるNVMe-oF(NVMe over Fabrics)のサポート)」と題し、TCP(Transmission Control Protocol)およびRDMA(Remote Direct Memory Access)をサポートする、Windowsの「NVMe-oFイニシエータ」のアーキテクチャと実装を解説する。
ストレージ階層の増設(2次階層)とデータ保存の最適化
ここからは「Ballroom F」で実施する「Storage Tiering(ストレージの階層化)」分野のセッションを報告する。5件と多くの講演を予定する。講演当たりの時間は10分と短い。
最初にFurthur Market Researchが「Scarcity Creates Value(希少性が価値を創り出す)」と題し、エンタープライズ市場におけるメモリとストレージの異常な不足と価格高騰の構造を分析し、2050年までのエンタープライズ向けストレージ市場を展望する。
次にSeagateが「Innovative Storage Tiering for Effective AI Related Data Management - Secondary Storage(効率的なAI関連データ管理に向けた革新的なストレージ階層化: 2次ストレージ)」と題し、同社が開発してきた熱アシスト磁気記録(HAMR)技術による超大容量HDDが記憶容量の持続的な拡大によって今後もAIやクラウドなどのインフラを支えることを示す。
それからIBMが「The Year of Tape(テープの年)」と題して講演する。すべてのストレージユーザーにとってテープ記憶技術が重要な理由を説明し、IBMにおけるAIとテープの連携を述べる。
続いてCerabyteが「A new secondary storage tier(2次ストレージ階層を実現するガラスベース記憶技術)」と題し、ガラスベースの高密度記録メディア「セラミック・データ・ストレージ」を提案する。ガラス表面に微細なピット(データビット)の列をレーザーで形成する。半永久的な記録を可能とする。
最後にSphotonixが「Innovative Storage Tiering for Effective AI Related Data Management - Secondary Storage(AI関連データの効率的な管理に向けた革新的なストレージ階層化― 2次ストレージ)」と題して講演する。タイトルはSeagateの講演とまったく同じであり、何らかの間違いかと疑ったが、真偽は判明していない。
講演内容は、現在のストレージハードウェアの生産は製造能力の拡張が難しく、この状態では需要の急拡大に対応できないというもの。データ記録媒体の生産を持続的に拡大する枠組みの構築や、ストレージ階層にデータを保存する手法、永続的に記憶可能なストレージメディア(ガラスなど)の検討、などが必要だとする。
最新DRAMの複雑かつ困難な検証作業を容易に
ここからは「Ballroom G」で8月5日午後に実施される「DRAM」分野のセッションを紹介する。4件の講演を予定する。
始めにETH Zurichが「PuDHammer: Experimental Analysis of Read Disturbance Effects of Processing-using-DRAM in Real DRAM Chips(PuDHammer: 実在DRAMチップを使用してProcessing-using-DRAMの読み出しディスターブを実験的に解析)」と題して研究成果を発表する。
次にCadence Design Systemsが2件の講演を続ける。1件目は「Analytical Framework for Optimal Sample Point Delay Calculation for Signal I/O BuffersDRAM(信号I/Oバッファに向けた、最適サンプリング点遅延算出のための解析的フレームワーク)」と題し、高速DRAMチップのタイミング校正(キャリブレーション)を簡便に実施する手法を提案する。2件目は「Comprehensive Coverage Framework for LPDDR6 Feature Validation: Navigating Complex Modes and Reducing the Verification Closure(LPDDR6の機能検証に向けた包括的なカバレッジ・フレームワーク: 複雑な動作モードに対応する効率的な検証作業)」と題し、LPDDR6 SDRAMの高度かつ複雑な動作モードを高い効率で検証する手法を提示する。
最後にIBMが「Memory Quality key requirements for future AI Infrastructure(将来のAIインフラにとってカギとなるメモリの品質要件)」と題して講演する。DRAMとNANDフラッシュメモリの信頼性・品質管理にとって近い将来に不可欠となる品質要件を解説する。
ハイパースケール向けメモリとストレージの事業機会と課題
5日午後の最後は「Ballroom H」で実施される「Business Strategies & Memory Markets(事業戦略とメモリ市場)」セッションの概要を説明しよう。この時間帯(午後3時30分から午後4時35分)はパネル討論会を予定する。
討論のテーマは「Enterprise Panel - AI at Hyperscale: Challenges and Opportunities for Memory and Storage for AI(エンタープライズ分野のパネル討論会: ハイパースケールにおけるAI、AI向けメモリとストレージの課題と機会)」である。Microsoft Research、Google DeepMind、Amazon Web Services、Meta Platformの代表者が登壇する。
ここまで、8月5日午後の一般講演セッションを紹介してきた。現地では8月4日に講演会と展示会が始まっている。半導体メモリ大手ベンダーによる基調講演がとても参考になったので、本コラムの次回以降では基調講演の概要を紹介したい。ご期待されたい。




















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