福田昭のセミコン業界最前線

東芝が開発中の40TB大容量HDD技術とは

 東芝デバイス&ストレージ(以下は東芝)は、12枚という多くの磁気ディスク(プラッタ)を3.5インチHDDに収容する技術を開発/検証するとともに、この技術をベースにした40TBクラスの3.5インチ大容量HDDを2027年に市場投入する計画であると、2025年10月14日に公式発表した。

 また本開発成果の技術概要を同年10月17日に神奈川県川崎市で開催されたシンポジウム「Zettabyte時代の到来: 技術革新と応用の最前線」(主催: 日本HDD協会(IDEMA JAPAN))で報告した。東芝による講演のタイトルは「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」、講演者はストレージプロダクツ事業部の木土拓磨氏である。

シンポジウム「Zettabyte時代の到来: 技術革新と応用の最前線」の会場となった「Shimadzu Tokyo Innovation Plaza」(神奈川県川崎市殿町)の案内板。2025年10月17日に筆者が撮影

 筆者は日本HDD協会のご厚意によって報道関係者としてシンポジウムの聴講を許された。講演内容は報道関係者を含めて録画や配布などが禁止されている。本レポートに掲載した画像(講演スライド)は、講演者である木土氏および東芝デバイス&ストレージと、主催者である日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

2017年の10TB品から2024年の24TB品まで順調に記憶容量を拡大

 東芝はHDD大手3社の一角として、データセンター向け3.5インチ大容量HDDの開発を積極的に進めてきた。10TB製品を開発した2017年から、24TB製品を開発した2024年までの概略を以下に示す。

 2017年6月に従来型磁気記録(CMR: Conventional Magnetic Recording)方式と空気封止/7枚プラッタによる10TB品を出荷すると、同年12月にはヘリウム封止を採用してプラッタの枚数を9枚に増やしたCMR方式の14TB品を開発。半年で記憶容量を1.4倍に高めたことになる。

 2019年1月には、CMR方式と9枚プラッタ、ヘリウム封止という14TB品と同様の要素技術で記録密度(面密度)を高めた記憶容量16TBのHDDをサンプル出荷した。

東芝が開発してきた3.5インチニアライン向け大容量HDD技術(2017年~2024年)。同社のニュースリリースから筆者がまとめたもの

 2021年2月には、東芝としては初めてエネルギーアシスト磁気記録(EAMR: Energy Assisted Magnetic Recording)方式を採用して面密度を高めた記憶容量18TBのHDDを開発し、同年3月にサンプル出荷を開始した。EAMR技術には、同社が独自開発した磁束制御型のマイクロ波アシスト磁気記録(FC-MAMR: Flux Control Microwave Assisted Magnetic Recording)技術を選択している。磁気媒体の記録フォーマットはCMR方式、プラッタ枚数は9枚、ドライブ筐体の封止用気体はヘリウムと、前世代の16TB品と磁気記録技術以外の要素技術は変わっていない。

 2022年10月には、FC-MAMR記録方式でプラッタの枚数を10枚に増やした記憶容量20TBのHDDを開発して同年10~12月期にサンプル出荷を始めた。翌2023年9月には、従来型磁気記録で面密度を高めた10枚プラッタの22TB品を開発してサンプル出荷を開始した。このことは、垂直磁気記録/CMR方式の面密度向上が継続していることを示した。

 2024年9月には、FC-MAMR記録方式とCMR方式、10枚プラッタで記憶容量が24TBのHDDを開発し、サンプル出荷を開始した。現在はこの製品系列(MG11シリーズ)がCMR方式の最大容量品となっている。

2028年に45TB超、2029年に55TB超を目指す

 「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」と題した10月17日の講演で最初に目を引いたのは、データセンター向け大容量HDD(3.5インチニアラインHDD)の開発ロードマップである。スライドには、2024年から2029年までの最大記憶容量と、磁気記録技術、プラッタ枚数が記されていた。

東芝によるデータセンター向け大容量HDDの開発ロードマップ。2025年10月17日に開催されたシンポジウムの講演「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」のスライドから

 磁気記録技術には、2つのエネルギーアシスト磁気記録を駆使する。1つは東芝で従来から量産実績のあるMAMR技術、もう1つは熱アシスト磁気記録(HAMR: Heat Assisted Magnetic Recording)である。なお東芝は2024年5月にHAMRの書き込み技術と瓦磁気記録(SMR: Shingled Magnetic Recording)の記録媒体フォーマット、10枚プラッタの組み合わせで32TBの3.5インチHDDを実証したと公式にアナウンスしていた。同時に発表したMAMR技術とSMR方式の組み合わせによる磁気記録では、11枚のプラッタと信号処理の改良を加えて31TBを実証したとしているので、研究レベルの面密度ではHAMRがMAMRを上回っていたと分かる。

 開発ロードマップではMAMRが10枚プラッタで2025年に33TB、2027年に11枚~12枚プラッタで40TBを目指す。CMRとSMRのどちらかは不明だ。HAMRは11枚プラッタで2026年に40TB超、2028年に45TB超が目標となっており、12枚プラッタで2029年に55TB超を目指す。こちらもCMRとSMRのどちらであるかは分からない。

12枚プラッタを5つのコア技術で実現

 そして東芝は、3.5インチHDDのフォームファクタに12枚のプラッタを収容する技術の概要を報告した。開発した技術およびその改良で、13枚のプラッタまでは同一のフォームファクタに内蔵可能だとする。仮に2.4TB/ディスクのプラッタ(CMR方式と従来書き込みでSeagate Technologyが商用化済み)であれば、13枚で31TBの大容量HDDを実現できることになる。

12枚プラッタを実現した5つのコア技術(要素技術)。2025年10月17日に開催されたシンポジウムの講演「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」のスライドから
3.5インチHDDのフォームファクタに12枚のプラッタを収容した5つのコア技術(要素技術)。2025年10月17日に開催されたシンポジウムの講演「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」から筆者がまとめたもの

 12枚のプラッタを内蔵させた5つの要素技術(コア技術)は以下の通りだ。

  1. 磁気ディスクの基板材料を従来のアルミニウムから今回はガラスに変更した。ディスクの剛性が向上するとともに、質量が軽くなった
  2. 磁気ディスク1枚当たりの高さを低減した。詳細は不明だが、開発世代ごとに8%ずつ低くしてきたとする
  3. 磁気ディスクを構成するすべての部品で設計を見直し、可能な箇所で薄くした
  4. 回転体(磁気ディスクなどの回転部分)を軽量化した。基板材料の変更とそのほかの改良(詳細は不明)によって回転体の質量を12%低減した
  5. 磁気ディスクの積層部分の高さを変えずに、筐体の一部を肉厚化。モーターによる機械的な衝撃を18%減らした

2010年代にプラッタ枚数は4枚から9枚に急増

 講演では、3.5インチHDDが内蔵するプラッタ枚数の推移と磁気ディスク当たりの記憶容量の推移にもふれていた。プラッタ枚数は2010年代に、急速に増加した。2010年代前半に4枚から6枚に増え、最多では7枚に至る。2010年代後半はヘリウム封止技術によってプラッタの枚数は9枚に増えた。

 2020年代前半は、2010年代に比べるとプラッタ枚数の増加ペースが鈍い。2022~2023年に10枚、2024年に11枚である。

 一方、磁気ディスク当たりの記憶容量は、2010年代にCMR方式で1TBから2TBに増加した。2020年代にはSMR方式が追加され、最大容量品はSMR方式、次の容量品がCMR方式という図式ができあがった。2020年代半ば以降はいずれの方式も3TBを超え、4TBに近づく。

3.5インチHDDが内蔵するプラッタ枚数の推移と磁気ディスク当たりの記憶容量の推移。2011年~2027年までの製品(計画を含む)ベース。なおプラッタ枚数のプロットは、HDD大手の3社で色分けしていると見られる。筆者の推定では、橙色が東芝、青色がSeagate Technology、緑色がWestern Digitalとなる。2025年10月17日に開催されたシンポジウムの講演「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」のスライドから

熱アシスト書き込み(HAMR)の導入によって55TB超を狙う

 東芝が開発を発表した12枚のプラッタを収容する技術は、MAMR技術と組み合わせることで40TB級の3.5インチHDDを2027年に製品化する計画だ。そして開発した技術は、HAMR技術と容易に組み合わせられる。2025年10月14日付けで東芝が公表したニュースリリースによると、HAMR技術と12枚プラッタの組み合わせで、さらに大きな記憶容量を実現しようと目論む。

HAMR技術と組み合わせた模式図。熱アシスト書き込み用半導体レーザーを容易に搭載できる。2025年10月17日に開催されたシンポジウムの講演「Zettabyte時代を支えるストレージ技術: 東芝のソリューション」のスライドから

 磁気媒体への記録方式はCMRとSMRの両方が考えられる。この点は明示されていない。先述の開発ロードマップからは、HAMR技術と12枚プラッタによって55TBを超える記憶容量を2029年以降に製品化するのが目標となっていた。10月14日付けリリースで触れていたのは、この「55TB超」品を指すとみられる。将来が楽しみだ。