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「DaVinci Resolve 15」で4K HDR映像を快適に編集するのに必要なのはCPUコア数? ビデオメモリ?

~Blackmagic Design、映像エディターの小林譲氏とともにプロ向けPCの仕様を徹底吟味

 特定用途において、コストパフォーマンスに優れたPCとはどのようなものか、そしてそれを取り巻く周辺機器の必要性を、専門家やライター、およびじっさいにPCを製造するパソコン工房、PC Watchがともに検討。現実にPCを製品化していくとともに、周辺機器およびその活用を幅広く紹介するこのコーナー。

 今回のテーマは、とくに映像のカラーコレクション用途ではハリウッドをはじめとする映画産業で事実上の標準として利用されている動画編集ソフト「DaVinci Resolve 15」で4K HDR映像を快適に編集するマシン。ソフトの開発元であるBlackmagic Designと、CMやドラマ、映画なども手がける映像エディターの小林譲氏に協力をいただき、まずは、どのような仕様が求められるのかを探った。

前バージョンから300以上の新機能を搭載したDaVinci Resolve 15

若杉:今回は、「DaVinci Resolve 15」を使う上で、PCのスペックとして、どういった部分が重要になるかという知見について話し合います。小林さんも「DaVinci Resolve 15」を現役で使っていらっしゃるので、その知見を踏まえたお話をお聞きできるかと思います。そのうえで、後編ではパソコン工房さんに実際にPCを試作していただき、検証を行ないます。

 小林さん、まずは軽く自己紹介をお願いします。

映像エディターの小林譲氏

小林:はい、普段はフリーランスでエディターをやっています。もともとは株式会社イマジカにエディターとして勤務していました。「DaVinci Resolve」はバージョン11くらいのときから、「Adobe Premiere」や「Final Cut」など別の編集ソフトと連携して、カラコレ(カラー・コレクション)の工程でよく使っています。

 時期として2013年くらいには、すでにTVドラマなどのカラコレはすべてDaVinci Resolveでこなしていました。最近は編集もDaVinci Resolveで行なうという個人的なチャレンジもしていて、編集からカラコレまでDaVinci Resolveでこなした作品も何本かあります。

 今回のテーマは、4K HDR映像の編集用ということで、最近では素材は4Kで撮影されているのがわりと当たり前になってきています。そんななか、ディレクターやプロデューサーと一緒に作業をすることもあり、全体的な性能はとても重要です。

 それはどういうことかというと、たとえば家で1人で作業をしていて「レンダリングが重いな」というのは、まあ我慢できるんですよ。と言うのも、ちょっとお茶でも沸かし待っていればいい。でも、プロデューサーやディレクターさんがそばにいる状況での作業となると、やっぱり待たせてはいけないと思いますよね。

若杉:今回のターゲットユーザーとして、基本的には、小林さんのように業務で映像作品やCM、TV番組などの制作に使うためのハイスペックマシンを考えています。ただ、DaVinci Resolveもバージョン15になって、かなり多機能になって、いろんなことができるようになってきています。そんななかで、今回は、カット編集、カラーコレクション、エフェクトの追加あたりがおもな作業というのを想定していて、たとえば新機能の3Dについては、今回は対象外としたいと思っています。

 では次に、DaVinci Resolveについても、簡単にご紹介ください。

ブラックマジック株式会社の矢島史也氏

矢島:DaVinci Resolve 15は、8月13日に正式版をリリースしました。旧バージョンの14からは、300項目以上の新機能があります。新機能のみの解説マニュアルですら282ページ、正式版のマニュアルは2,600ページを超えるような規模のソフトウェアになりました。

 なぜ15で新機能がそんなに増えたかというと、いままでは別になっていた「Fusion」というVFX(合成)ソフトを完全に統合したためで、14で統合した「Fairlightタブ」という音声編集機能のブラッシュアップや、カラーグレーディングの新機能が増えたことも挙げられるでしょう。

 さきほど、小林さんから「ほかの人の時間を無駄にしたくない」というお話がありましたが、DaVinci Resolve 15では編集、VFX、カラーグレーディング、オーディオという動画編集にかかわるすべての作業が1つのソフトでできるので、クリエイティブな作業に集中できるという利点があります。

 今までは編集で別のソフトを使い、カラーコレクション・グレーディングでDaVinciに持ってきて、その後、音声をレンダリングしたものをタイムラインに乗せて、CG合成して書き出し、というときに、互換性の問題が生じていました。

 このとき、以前のソフトで編集した内容や、グレーディングの内容が新しいソフトでもちゃんと引き継がれているかどうかを確認する作業が必要だったのですが、DaVinci Resolveであれば、書き出しと確認の作業も必要なく、編集やカラーグレーディングや音声編集を行なうことができます。

 DaVinci Resolveでは従来から、メディアを読み込むときに中間コーデックを基本的に使用しないので、カメラで撮ったファイルを読み込んで、すぐに開いて編集することが可能です。そういった部分でも、待ち時間がありません。

 全部の作業を1人でやる方もいらっしゃると思いますが、音声は音声さん、カラーグレーディングはカラリストさんといった風に分担して作業する場合でも、1つのプロジェクトを複数人で同時に扱えるコラボレーション機能があるので、「誰かがファイルを触っているから今はこのファイル触れないな」ということがなくなります。リアルタイムに、同時進行的にできるので、ファイルコピーや共有のための作業も必要なくなりますよね。

 そういったことのできる環境がDaVinci Resolveでいよいよ整ったとことで、われわれはこれを「働き方改革」と呼んでいます(笑)。そういうわけで、映像業界のタイトな労働環境にもぴったりのソフトウェアになったのではないかと考えています。

ミーティングはブラックマジックのオフィスにて行なった

若杉:DaVinci Resolveは、無償版もありますよね。無償とはいえ9割方の機能が使えるということで、入門で試しに使うのにも適していますね。

矢島:最近DaVinci Resolve 15のパッケージ版ができたのですが、そこには、カラーグレーディング機能説明として「Hollywood's Favorite Corrector」と書かれています。ハリウッドの人が一番使っているカラーグレーディングソフトですね。それが有償版でも33,980円で使っていただけます。サブスクリプションなども不要です。

32コアも出始めたイマドキのCPU環境

若杉:ではここからは、実際にどのあたりのハードウェアの性能が必要になるかについて、順番にお聞きしていきたいと思います。前提としては、さきほど申し上げたとおり「4K HDR」素材があって、それに対してカット編集、カラコレ、エフェクトを行なうという想定です。

 まずはCPUについて、どういう作業のときに負荷が高くなるかというところを矢島さんにお聞きします。

矢島:DaVinci Resolveの処理の流れは、まずストレージから素材クリップを読み込んで、CPUとメインメモリの間で計算してデコードします。デコードして非圧縮のRGBデータになったものをGPUメモリに転送して、GPU上でグレーディングやエフェクトなどを施し、最後にレンダリングして映像として出力するといったプロセスです。

 CPUとメインメモリはデコードを担当します。CPUは書き出すときのエンコードでも使います。なので重いコーデックを使うときにはCPUの性能が必要になります。代表的なものではたとえば「XAVC」や「H.264」など時間方向にも圧縮がかかっているようなコーデックですと、コア数の多いCPUが効いてきます。

 逆に「Prores」や「AVC-Intra」のようなIntra系のものでは、比較的CPUのコア数は少なくても大丈夫です。あとは非圧縮のデータですね。「DPX」とか「連番のTIFFデータ」だとCPU性能は必要ありません。

DaVinci Resolveの処理フローと必要なハードウェア

若杉:CPUは、コーデックにもよるがコア数は多い方がいいということですが、クロックよりもコア数という話でしょうか?

矢島:「同じ世代ならコア数が多い方がいい」という差になります。基本的には、今までの経験でいうと、Intelのプロセッサー・ナンバーの数字通りに性能が上がっていく感じですね。Xeonだとちょっと複雑に入り組んでいるのですが、やはり数字が大きいほうが、デコード/エンコードで性能は出ますね。

若杉:第2世代Ryzen Threadripperのように、32コアまでの多コアを積んでいるCPUも出てきています。これまでの一般的なPCに積まれているCPUは8コアまでだったわけですが、そこまでコア数が増やしても、リニアに性能向上が期待できるものなのでしょうか?

矢島:CPUのコア数については、弊社が2017年のInter BEEで「DeckLink 8K Pro」という製品を発表して以来、私も「8K 60pがいけるマシン」というのをずっと研究してきたのですが、その結果、8k 60pの再生には少なくとも12コア必要で、グレーディングも16コアはないとまともにできないことがわかりました。つまり16コアがミニマムなのです。

 なので、第1世代のRyzen Threadripperでぎりぎりいけるかな、というところが、第2世代になって、いよいよ本格的に「8K」が現実的な価格でできるのかなと思っています。それまではXeonで組まなくてはいけなかったわけで、CPUだけで100万円とかそういう世界だったので、今はかなり8Kが近づいてきた感があります。

若杉:4K HDR素材くらいであれば、8コアくらいでも十分だったりはしますか?

矢島:編集で60fpsで再生したい映像を編集しているときには、60fpsで再生できればいいので、8コアでも十分ですが、書き出す作業でエンコードする時には、8コアでは書き出し速度が上がらないということが起こります。

 32コアになると、CPUのボトルネックが解放されて、今度はGPUやストレージの性能を気にする世界に入ってきます。今までは4K 60pのエンコードでは、素材の実時間の2倍とか3倍かかっていました。速くても1.数倍で、実時間より短くなることはなかっのが、クリップ時間の半分でエンコードできる可能性が見えてきますね。

4k 60pなら最低でもGeForce GTX 1080 Tiが必要

若杉:次にGPUなのですが、これはエフェクトなどの演算に使われているんですよね。

矢島:そうですね。現行のバージョンなら、「Resolve FX」という内蔵エフェクトは、すべてGPUに対応しています。あとは、手ブレ補正機能の「カメラスタビライザー」もGPUに完全対応したので、解析時間が速くなりますね。今までも速かったという評価はいただいていましたが、もっと速くなります。

若杉:具体的には、たとえば今のGeforce GTX 10シリーズで言うと、どれくらいのクラスが望ましいのでしょうか。

矢島:4K 60pを本気で扱うのであれば、少なくともGTX 1080 Tiは欲しいところですね。それ未満では厳しいかと。

小林:「60pの壁」ってありますよね。

矢島:そうなんですよ。4k 30pは実現できるんですが、60pはハードルが高いんです。

若杉:DaVinci ResolveはマルチGPUにも対応していますよね。

矢島:ほとんどのエフェクトはマルチGPUに対応しますが、「時間的ノイズリダクション」と「オプティカルフロー」という一部のエフェクトだけは対応していません。それに外部のオープンFXもマルチGPUに対応していません。そういうところがあるので、今回の用途だと基本的にビデオカードは良いものを1枚選んでいただくのがいいと思います。

 たとえば「ちょっと安くしたい」とか「余ってるから」という理由でGeforce GTX 1070以下のビデオカードを2枚積むのはお勧めしません。まずはGeforce GTX 1080 Tiを買って、なおも性能が足りないならもう1枚追加するのがいいでしょう。

 また、ビデオカードを2枚、3枚と増やしていっても、トータルのGPUメモリが増えた扱いにはならないんですよね。8K 60pの素材を扱うなら、ビデオメモリは少なくとも16GBはないといけないのですが、ビデオメモリ8GBのビデオカードを2枚挿しても、OSからは8GBとして認識されます。

 GPUメモリは、メインメモリからそのままデータを引っ張ってくるので、たくさん必要です。解像度やフレームレートによって変わってきますが、たとえば4K 60pの映像を編集したければ、最低でも8GBはないと、「Memory Full」エラーが出てしまいます。

若杉:GeForce RTX 20シリーズのNVLink SLIであれば、2枚刺しでビデオメモリも倍にできると言われていますね。

矢島:そうですね。Quadroでもできると言われているし、NVLinkの登場によって、GeForceでもマルチGPUによってビデオメモリを増やせるかもしれません。

 まだ試していないので、もしかするとGeForce RTXではだめで、Quadro RTXのみという可能性もありますが、GeForceでもいけるなら、Geforce RTX 2080 TiとRyzen Threadripper 2990WXの組み合わせで、8k 60pが100万円以内で扱えるかなと思っています。

パソコン工房:われわれも今回はその辺りを想定していて、Ryzen Threadripper 2990WXにどのビデオカードを組み合わせるか、といったところですね。なるべく最新のものを使いたいので、ビデオカードならGeForce RTX 2080か、GeForce RTX 2080 Tiのどちらかを考えていたのですが、今のお話を聞いている限りですと、Tiじゃないとビデオメモリの容量が足りないのかなとは思いました。

若杉:GeForce RTX 2080 Tiのビデオメモリって11GBでしたっけ?

パソコン工房:RTX 2080 Tiは11GBですね。それより多くのビデオメモリが必要となると、Quadroが必要になります。

DaVinci Resolveが使うメインメモリは、最大で12GB

若杉:では、もしビデオメモリ11GB×2で22GBとして使えると仮定すると、メインメモリもそれ以上、たとえば24GBくらいは必要になってくるということですよね。

矢島:DaVinci Resolveの仕組み上、そのくらいまでしか使わないようになっているので、それくらいで足りると思います。

パソコン工房:最大でもそのくらいまでしか使わないんですか?

矢島:もともと、DaVinci Resolve 14まではそうだったんですよね。「システムメモリの使用容量」という設定で、最大12GBまで設定できました。もう1つ「システムメモリの半分の容量」も選べたのですが、こちらも設定の上限が12GBなので、たとえばメインメモリを32GB積んでいたとしても、DaVinci Resolveが使う上限は12GBでした。

 DaVinci Resolve 15ではFusionが統合されたので、もう少し多くのメモリを設定できるようになっています。ですがVFXのレンダリング用で、動画編集で使えるメインメモリの量は変わっていません。ので、システムメモリとして24GB以上積んでも、DaVinci Resolveにとっては事実上効果がありません。

非圧縮データでは1.5GB/sが求められるストレージ

若杉:ストレージなんですが、4K映像では仕様上100~400Mbpsあたりのビットレートが求められますが、いまはHDDでもシーケンシャルなら100MB/sは出るので、足りてるとは思うんですよね。でも、複数の素材を並列的に読み込みながらやるってなると、ある程度ランダムアクセス速度も必要になるのではないでしょうか。

矢島:ワントラックという意味では、HDDでも足りるコーデックは多いですが、やはりトランジションとかを掛けたりするときに2トラック使うこともありますので、HDDではランダムアクセス速度が足りなくなることはあると思います。4Kの編集になると、少なくともSATA接続のSSDは必須でしょう。

 4Kも、Proresの4:2:2になってくると、800Mbpsくらいにはなるので、ワンストリームでもHDDだと苦しいですよね。

若杉:SATAは6Gbpsが上限なのですが、局面によっては、もっと速いNVMeが求められるシーンもあるということですか?

矢島:必要になるというか、使い方次第なところもあります。たとえば、待ち時間なく、読み込んですぐに編集に取り掛かれるフローになっているのですが、中間コーデックを使いたいけど、CPUにあまりお金をかけられないというときには、ストレージから中間コーデックデータを読み込んでデコードして、デコードし終わったものを非圧縮で書き出していただければ、CPUに負荷がかからないので、後でグレーディングするときには、フルレートで再生できる可能性が出てきます。

 でもそのときにはストレージの速度が必要になります。4K 60pで非圧縮になると、だいたい1.5GB/sくらい必要になるので、NVMeが望ましいですよね。

 欲を言えば、SSDのRAIDとか、あるいはHDDを10本、20本使ったRAIDが欲しいところです。そうすれば、CPUは安く済ませることができるでしょう。

若杉:容量は、素材の長さ次第ではありますよね。

矢島:そうですね。たとえばRAWデータなら、256GBで10分しか撮れないとかもザラなので、そうすると1TBあっても、40分から1時間くらいがせいぜいなので、番組を作るってなると難しいですよね。CMならいけるかもしれませんが。

小林:余談ですが、2014年くらいに「InterBEE」(国際放送機器展)で、4K 60pで音楽PVを作ろうという企画があったんですね。その時はRAIDを組んだものの、60pで読み込めず、30pで作業する羽目になりました。それでも、グレーディング後に書き出した映像はきちんと60pでいけたので、最終的には成功したかたちになりましたが。今ではコンシューマ向けPCで問題なく4K 60pを編集できるものが組めるようになってるんですね。

若杉:大きなサイズのデータを扱う時って、データはいったん大容量のHDDに置いておいて、必要なときにSSDにコピーして作業するフローなんですか?

小林:業務用途だと、収録した素材は、ほぼかならず中間コーデックを使ってオフライン画質に変換されます。それはエディターが関わる以前に、撮影・収録しているスタッフがワークフローとして組み込んでいるからです。9割以上そうなっています。なので、僕の手元に届く段階では、基本的に中間コーデックの素材になっていて、かならずしも毎回非圧縮を扱うわけではないです。

若杉:ということは、データサイズ的にはそこまで大きくない?

小林:中間コーデックデータは大きくないですが、オンライン作業をすると急に大きくなります。だから、理想は中間コーデックと本画質がリンクで紐づけされていて、いつでも本画質を確認できることです。それは中間コーデックでもいいし、「最適化したメディアを生成」(Optimized Media機能)のように、オフライン画質の映像に相当するファイルが自動的に生成されていてもいい。ワークフローのなかでは、最高画質のものが再生されなくても大丈夫です。

 ですが、これも先ほどお話ししたとおり「対お客様」、お金を払ってくれている顧客が目の前に座っている状況になると、それが真逆のセオリーになるんですよね。常に最高画質の映像をお見せしないと、納得されないということがあります。コマ落ちでもしようものなら、すぐに苦情を言われてしまう。なので、最高画質で再生してもコマ落ちしてほしくないし、レンダリングするときも時間をかけたくないし、作業が終わったらすぐに書き出しに戻ってほしい。とにかく待ち時間を減らしたいんですね。

 よく言われる「クリエイティブ」って、それだけ聞くと鼻につくかもしれないですが、ディレクターさんとかは、その場の思いつきがすぐに視覚化されると「のってくる」わけですよ。エディターもそう。「あれってどんな風になるかな?」って話したときに、画面上で「こんな感じですかね?」というのが現れてくると、すごくわくわくするんですよ。それが「ちょっと待ってください」なんて手が止まってしまうとダメなんですね。エディターの腕の見せ所ではあるのですが、それには性能も必要なわけです。

エディターが必要とするディスプレイやインターフェイス、サイズ感

若杉:では次に、作業で使うディスプレイについて。4K HDRの素材を編集するにあたって、どういったものを使うかの話に移ります。プロの方はもちろん、きちんとしたマスターディスプレイを使われていると思うのですが、編集するPC側のディスプレイは、HDRがないと困るとか、4K解像度は欲しいとか、逆にフルHDでも編集はできるとか、その辺のスペックについてお聞きしたいと思います。

小林:4K編集をやるのであれば、フルHD解像度だとつらいと思います。編集段階でも、マスクを切るとか、ズームをしてゴミを消すとか、肌を直すという細かな作業をやります。それを縮小されていない解像度で確認できるというのはやはり重要です。素材の解像度未満のディスプレイは、作業は難しいです。

 HDRに関してはあまり経験がないので想定できないのですが、最終的な出力がHDRになっていれば、編集側には必須ではないのではないでしょうか。

若杉:PCの筐体についてはいかがでしょうか。クリエイターの目線で、本体に求める大きさや静音性、インターフェイスなどについてお聞きしたいです。さきほどの話だと、出先で作業することもあるそうなので、ノートPC前提で考えられているという雰囲気はありましたが。

小林:僕はCMやTV、音楽系と色々業界を渡っているのですが、いまは「どこでも仕事ができる」ことがより求められる時代になっていますね。制作会社さんとか代理店の方とかは、「今日はここでやるけど、明日は別のところでやりましょう」という風に、こちらの作業環境のことを考えてくれないことが多くて、そうなると持ち運べることは武器になると思います。4k 60pの編集まではできなかったとしても、移動先で相当のことができるスペックを持ち運べるというのは強いです。

若杉:高性能が前提なので、持ち運べるサイズであれば、デスクトップもありうるということですよね。

小林:それはもちろんです。この間もCMの収録立ち会いがあったのですが、僕のやる作業は、収録された素材をそのままSDIから直接送ってもらいながら編集することでした。撮影機材から出ているSDI信号をBlackmagicの「Ultra Studio」経由でMacBookに取り込んで、編集し、俳優さんに見てもらう、ということをやっていました。

 このときは、結局MacBookだと性能が足りなくてカクカクでした。そんなときに、デスクトップ型でも、車に詰めて持ってこられたりしたらかなり良いんじゃないかなと思います。「移動先で4Kを編集する」という前提で作ってみるのも面白いかもしれませんね。

パソコン工房:ノートPCや小型のPCも用意できると思います。インターフェイスは、USB以外にも必要でしょうか。

矢島:Thunderboltがあれば入出力インターフェイスであるUltra Studioは繋がりますね。

小林:DaVinci Resolveを動かして、外部ディスプレイで見ようと思ったら、そこは絶対に含まれなければいけませんよね。単にDaVinci Resolveが動けばいいというものではなく、マスターディスプレイ出力もできないと。

若杉:Thunderbolt 3は必須に近いくらいの感じになってくるわけですね。

矢島:4K 60pの素材を扱うとなると、Thunderbolt 3があれば、高速な外部ストレージを使って、そのまま編集できるメリットもありますね。

若杉:ここまでで、ひとまずスペックの部分は見えてきたと思います。今後は、パソコン工房さんの方で検証してみて、いけそうだという判断であれば、スペックを確定させて、小林さんにマシンを見ていただく流れになります。

若杉:小林さんの立場からすると、編集が終わって、エンコードの部分にコストをかけるよりは、編集にかかわる部分にコストをかけたいものですか?それとも、両方について同等くらいには性能を確保したいものなのでしょうか?

小林:目標をどこに置くかにもよりますが、結論から言えば、どちらも、ですね。

 たとえば僕が4K XAVCの60pを定期的に納品するという作業をしていたときは、書き出しに10時間くらいかかっていました。それはTV番組だったのですが、1フレームでもエラーが混在していたらやり直しという、なかなかシビアな仕事でしたが、その時間って結構なコストですよね。制作者からすれば「書き出しに1日分お金を取られた」と感じると思うんです。

 逆に言えば、フルHDで制作する映像作品やCMの場合、「できました」という段になったら、お客さんがその場でデータを持ち帰ることもあるんですが、お客さんがいま待ってもいいと思えるような速度って、クリップの実時間以下なんです。たとえば1時間番組が完成して、書き出すまでの待ち時間を聞かれたときに、実時間よりちょっと少ないくらいなら待ってくれますが、実時間の3倍かかりますだと、「じゃあやめときます」となりますね。

 ほとんどの作品はフルHD納品がまだまだ主流なので、だいたいのお客さんは、作業終わりには欲しい、というか完成データをもらえるものだと思っている。それが4K 60pでも実現できれば、また新たな時代が来るなあと思えますね。

 繰り返しになってしまいますが、一人で作業しているなら、書き出しに10時間かかろうが、寝てればいいんですが、目の前にお客さんがいたり、作業時間そのものにコストがかかっている場合は、シビアさが全然違ってくるのです。

【後編に続く】