西川和久の不定期コラム

Snapdragon 7cを搭載したLTE対応の11型2in1 Chromebook!「HP Chromebook x2 11」

HP Chromebook x2 11

 日本HPは10月7日、Snapdragon 7cを搭載する11型の2in1 Chromebook「HP Chromebook x2 11」を発表した。LTEモデルとWi-Fiモデルがある中、前者が編集部より送られて来たので試用レポートをお届けしたい。

最近になって登場し出したSnapdragon 7c搭載Chromebook!

 これまでChromebookと言えば、Intelの安価なCeleronやPentiumを搭載したエントリーモデルが多く、一部Core i搭載のミドル~ハイエンドだった。また筆者の知る限りIntelプロセッサ搭載機でLTE対応モデルは無かったような気がする。

 そのような中、最近になってARM版Windowsで使われていたSnapdragon 7cをChromebookで採用するモデルが何機種か出てきた。Lenovo「IdeaPad Duet 5 Chromebook」、Acer「Spin 513」、Dynabook「Chromebook C1」、HP「Chromebook x2 11」などとなるだろうか。Lenovo以外はLTE対応モデルも用意されている。

 Snapdragon 7cは8c(8cxのバリエーション)と同時期に発表され、もともとARM版Windowsをターゲットにしたものだ。SoCの番号からも分かるように7cはエントリー、8cはメインストリーム向けとなる。

 ARM版Windowsと違い、Chromebook(Chrome OS)は、ユーザーがバイナリプログラムを直接インストールする方法はなく(Linux環境を除く)、ChromeはChrome Webストア、AndroidはPlayストアからのみ。ベースがARMなのでこれらの環境がARM版なのは当然として、Intel版より優位があるとすればAndroidアプリだろう。

 Androidは一時期Intelプロセッサ搭載モデルが多く出たため、アプリはARM/Intel両方のバイナリを含んだものをリリースしていたが、昨今ではARMのみのものが多く、SoCがARMだとネイティブで作動するためパフォーマンスが期待できる。

 もう1つの優位点は言うまでもなく先に挙げたLTE対応だ。SoC内にLTE関連も含まれており、Intelよりハンドリングは容易だ。一斉にLTE対応モデルが出てきたのも頷ける。

 今回ご紹介するHP「Chromebook x2 11」は以下の通り。LTE対応モデルとなる。

HP「Chromebook x2 11」の仕様
SoCQualcomm Snapdragon 7c (8コア/最大2.4GHz)、GPUにAdreno 618を内包
メモリ4GB(Wi-Fiモデル)/8GB(LTEモデル)
ストレージeMMC 64GB(Wi-Fiモデル)/128GB(LTEモデル)
OSChrome OS
ディスプレイ11型IPS式 2,160×1,440ドット(3:2)、光沢、400nit、sRGB 100%、Gorilla Glass 4
ネットワークWi-Fi 5、Bluetooth 5.0、LTE(Nano SIMスロット)
インターフェイスUSB 3.0 Type-C×2(DP Altモード、USB PD対応)、microSDカードスロット、前面500万画素/背面800万画素カメラ、指紋センサー、 Bang & Olufsen デュアルスピーカー
サイズ/重量本体サイズは252.5×176.6×7.55mm(幅×奥行き×高さ)/560g(本体のみ。キーボード搭載時1.03kg)
バッテリ駆動時間最大11時間
その他着脱式キーボード/キックスタンド付属、USIペン対応(別売り)
カラーバリエーションナチュラルシルバー(本体)+シェイドグレー/Wi-Fiモデル、ナチュラルシルバー(本体)+ナイトティール/LTEモデル
税込価格8万2,500円(Wi-Fiモデル)、9万9,000円(LTEモデル)

 SoCは先に書いた通りQualcomm Snapdragon 7c。8コアのKryo 468で最大2.4GHz、GPUにAdreno 618を内包している。LTEモデルだとメモリは8GB、ストレージはeMMC 128GB。OSはChrome OS。

 ディスプレイは11型IPS式の2,160×1,440ドット(3:2)。光沢あり、400nit、sRGB 100%、GorillaGlass4と、なかなかのパネルを搭載している。外部出力用としてType-C(DisplayPoert 1.2)が使用可能だ。

 ネットワークは、Wi-Fi 5、Bluetooth 5.0、LTE/Nano SIMスロット。インターフェイスは、USB 3.0 Type-C×2(DP Altモード、USB PD対応)、microSDカードスロット、前面500万画素/背面800万画素カメラ、指紋センサー、Bang & Olufsen デュアルスピーカー。Wi-Fi 6と3.5mmジャック未対応が残念な部分か。

 本体サイズは252.5×176.6×7.55mm(幅×奥行き×高さ)。重量は本体のみだと560g、付属のキーボード/キックスタンド装着時1.03kg。バッテリ駆動は最大11時間。オプションでUSIペンにも対応する。

 税込価格はWi-Fiモデルで8万2,500円、LTEモデルで9万9,000円。正直なところエントリー向けのSnapdragon 7c搭載機でこれは少々高い気がする。-1万円(以上)程度が妥当ではないだろうか。参考までに米国ではWi-Fiモデルが599.99ドル。先に挙げた同じSoC搭載機も含め総じてChromebookの国内価格は高めだ。

前面パネル中央上に500万画素前面カメラ。写真からは分かり辛いが左右縁上側にスピーカー用のスリット
斜め後ろから。自由な角度(最大170度)に調整できるキックスタンド兼の背面カバー付属。磁石で本体に固定する
左側面/下側面。左側面にNano SIM/microSDカードスロット、音量±ボタン、Type-C×2。下側面にキーボード用コネクタ
右側面/上側面。右側面は何もない。上側面に指紋センサー兼の電源ボタン
キーボードは着脱式のJIS準拠(78キー)。タッチパッドは1枚プレート式
キーピッチは実測で約17mm。仕様上は約17×17mm、キーストローク:約1.3mm
裏。右上に800万画素背面カメラ
横から。Type-Cのコネクタから結構薄いのがわかる
重量は実測で572g。
ACアダプタのサイズ約92×32×26mm(幅×奥行き×高さ)、重量168g、出力5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A(45W)
キックスタンド/キーボードを外したところ。着脱式のキーボードは一般的だが、背面カバー兼キックスタンドは珍しい? 合わせて実測で468g。本体に装着すると1,040g。1kgを気持ち超える
キックスタンド/キーボードを付けて閉じたところ。本体のシルバーとカバーのブルーがマッチする
Nano SIM/MicroSDカードスロット。Snapdragon 7c搭載Chromebookの特徴とも言えるLTE対応。手前microSD、奥Nano SIM
もちろん縦にも対応。ただしスピーカーは横左右2つなので縦ではステレオにならない

 筐体はフルCNCアルミニウムによるユニボディで質感はなかなか良い。本体のみだと実測で572g。iPad Pro 11(LTEモデルで468g)などと比べると若干重いが、片手でも楽々持ち上がる。付属のキーボードとキックスタンドは合わせて468g。磁石で本体に装着する。合体時は1,040gと1kgを気持ち超え、流石にこの状態で片手だと少々ズッシリ感じる。

 前面はパネル中央上に500万画素前面カメラ。写真からはわかりにくいが左右縁上側にスピーカー用のスリットがある。裏は右上に800万画素背面カメラ。左側面にNano SIM/microSDカードスロット、音量±ボタン、Type-C×2。下側面にキーボード用コネクタ。上側面に指紋センサー兼の電源ボタン。右側面には何もない。

 付属のACアダプタはType-C/PDだ。サイズ約92×32×26mm(幅×奥行き×高さ)、重量168g、出力5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A(45W)。もちろん該当するほかのPD対応ACアダプタでも充電可能。

 付属のキーボードとキックスタンドは未使用時には完全に本体から分離することができる。この色がナイトティール。キーボードはありがちなパターンだが、キックスタンドが裏カバー兼になっているのは珍しい。傾きは最大170度。

 11型のディスプレイはI1 Display Proなどで測定する手段がないため、詳細は不明だが、仕様上は400nit、sRGB 100%。実際見た感じも最大輝度は明るく、発色もなかなか正確。IPS式なので視野角も広い。アスペクト比3:2で16:9より縦が長く個人的には好み。調べたところ先にあげたSnapdragon 7c搭載Chromebookで3:2なのは本機のみ(フルHD以上の2,160×1,440ドットも含め。Dynabook Chromebook C1は何とHD)。この点は本機の魅力だ。

 ただ昨今、多くの処理がChromebookで可能になったものの、I1 Display Proなどを使った画面の色合わせができない。ここまでパネルのクオリティが高いとこうした欲が出てしまう。何とかして欲しいところか(外部ディスプレイ接続時も同様)。

 発熱は使用した範囲では気にならなかった。サウンドは3.5mmジャックがないのは残念だがBang & Olufsenをうたっているだけあってなかなか良い。パワーも50%で煩いほどだ。ただし2スピーカーなので横位置のみのステレオとなる。

 付属のキーボードはJIS準拠(78キー)。主要キーのキーピッチは実測で約17mm(仕様上は約17×17mm、キーストローク:約1.3mm)。[Enter]キーの周囲がピッチが狭くなるものの、このサイズなので仕方ないところ。打鍵感は結構カッチリしており、このタイプにありがちなフワフワ感もなく良好。できればバックライトが欲しかった。タッチパッドは1枚プレート式だ。設定でスクロールをWindows/macOS式に変更できる。パームレストも含め、面積はそれなりだが、特に使い難いことはない。

 前面500万画素、背面800万画素のカメラは、前面はHD程度の解像度が多い中、500万画素あるため結構細かいところまで映る(ビデオ最大HD 1944p)。発色もまずまず。ビデオ会議であれば1ランク上の映りが期待できる。背面は解像度は高いものの、色に深みがなく平面的な感じだ。ただしマクロはかなり寄れる。どちらも背景をぼかすモードはない。

 このように11型のタブレットとして見た時は高級感があり、画面、サウンドもハイクオリティ。キーボードとキックスタンド装着時は1kgほどになるが、その分、しっかり作られており使い勝手は良い。加えてオプションであるがUSIペンが使用可能。うまくまとめられた1台に仕上がっている。

簡単なセットアップ、Windowsに近い操作、普段使いには十分以上のパフォーマンス

 セットアップはネットワークに接続後(通常はWi-Fi)、Googleアカウントを入力すればほとんど終わりと簡単。またこの時、既に同じアカウントでChrome OS使用中の場合はその環境を引き継ぐことができる。

 ロック画面とログインは、パスワード、PIN、そして指紋認証。設定のセキュリティとプライバシー > ロック画面とログイン > 指紋を編集から行える。指紋を編集をクリックするとパスワードを求められるので入力、以降は画面キャプチャの通りだが、特に難しい部分はない。

セキュリティとプライバシー > ロック画面とログイン
セキュリティとプライバシー > ロック画面とログイン > 指紋を編集
指紋の設定完了
セキュリティとプライバシー > ロック画面とログイン > 指紋

 初期起動時、“Chromebookへようこそ”のパネルを表示(アプリは使い方・ヒント)。新機能の項目では最近追加された機能を確認できる。いろいろあるが、AirDropと同等のニアバイシェア、Androidスマートフォンを直接制御(テザリングをChromebookから設定など)、など、初期バージョンはChromeしか動かなかったOSが徐々に便利になっている。

 タスクバーは左右下に設定可能(なぜか上にはできない)。左端の丸いアイコンをタップするとメニュー表示、右端は通知パネル。ほとんどWindowsと変わらないので戸惑うことはないだろう。

 Chrome OSのバージョンは執筆時94.0.4606.124(32ビット)。32bitと言うのちょっと意外だが、今回の構成だと特に問題はない(メモリも増設できない)。128GBのストレージは29.5GB使用中(若干のアプリ、画面キャプチャを含む)だ。

初期起動直後(使い方・ヒント)
メニュー
通知パネル
Chrome OSのバージョンは執筆時94.0.4606.124(32ビット)
ストレージ128GB中29.5GB使用中(若干のアプリ、画面キャプチャを含む)
設定 > ネットワーク。Wi-Fiに加えモバイルデータがある
設定 > ネットワーク > モバイルデータ
設定 > ネットワーク > モバイルデータ > SIM。APNにOCNモバイルONEが自動的に設定されていた

 設定はブラウザのChromeと多くは同じだが、主にハードウェア、Android、Linux関連が増えている。今回その中でも特筆すべきはLTE対応の部分だ。長らくChrome OSを触っているが、この項目は初めて。ネットワーク > モバイルデータ > SIMと3階層になっており内容を確認/設定可能だ。

 今回は手持ちの関係からOCNモバイルONEのNano SIMを使用したが、APNを設定するまでもなく、自動的に開通した。DBか何かを持っているのだろうか? これが可能ならAndroidでも対応して欲しいところ。

 主なプリインストールのソフトウェアは、「Chrome」、「Playストア」、「ファイル」、「Google Meet」、「Google Chat」、「Google Playムービー&TV」、「Playブックス」、「カメラ」、「Photos」、「設定」、「使い方・ヒント」、「手書きメモ」、「Chrome描画キャンバス」、「ウェブストア」、「HP QuickDrop」、「Concepts」……っとあっさりしている。

 HP QuickDropはスマホなどほかのデバイスと写真などを共有するアプリ(使用するデバイスにもアプリが必要)、Conceptsは“無限に自由自在なスケッチング”と謳われてるアプリで、iOS/iPadOSやWindowsなどいろいろなOSに対応している。画面キャプチャでは分かりにくいので、興味のある人はサイトYouTubeを参考にして欲しい。

 あとは好みに応じてChrome WebストアやPlayストアからアプリなどをインストールすることになる。この辺りはブラウザのChrome、もしくはAndroid搭載機と同じなので戸惑うことはないだろう。逆に普通にできてしまうので、これなら楽! っと思うかも知れない。

Playストア@Androidアプリ
ファイル。microSDカードはExternal Drive、SMBでNASへも接続可能
手書きメモ。USIペンで使いたいアプリ
Chrome描画キャンバス。〃
仮想デスクトップ
Linuxも動く

 ベンチマークテストは簡易式だが、GeekBench@AndroidとGoogle Octane 2.0を使用した。GeekBenchはSingle Core 597、Multi Core 1,689。Google Octaneは22,131。GeekBench Browserから近いSoCを調べるとSingle CoreはSnapdragon 765G、Multi CoreはSnapdragon 720Gとなるだろうか。

 Google Octaneは少し前に扱ったmotorola edge 20@Snapdragon 778G 5Gが22,081と同じレベルだ。いずれにしても7系なので腑に落ちる……っと言ったところか。ちょうど最近のスマホでSnapdragon 7系搭載機は、爆速ではないものの、普段使いなら十分と思う使用感に本機はよく似ている。

GeekBench(1/2)。Single Core 597、Multi Core 1,689
Google Octane 2.0は22,131

 バッテリ駆動時間は明るさと音量を50%、AndroidアプリのVLCを使いWi-Fi経由でフルHDの動画を再生した。駆動時間は約8時間半。仕様上最大11時間なのでテスト内容を考えるとまずまずの結果だろう。


 以上のようにHP Chromebook x2 11は、Snapdragon 7c/8GB/eMMC 128GB、11型2,160×1,440ドット(3:2)のパネル、そしてLTEを搭載し、キーボード/キックスタンドを着脱できる2in1だ。

 ルックス抜群、合体時で約1kg、パネルの発色、サウンドは標準以上、サイズの割に使いやすいキーボード、背面/前面カメラも(ノートPCも含め)同クラスのカメラと比較すればまずまず……と、魅力的にまとまっている。オプションであるがUSIペンに対応しているのもポイントが高い。

 唯一価格面が少し残念だが、Snapdragon 7c搭載、そしてLTE対応のChromebookを探しているユーザーにお勧めできると言えよう。