第18回「テスターメーカーに訊く」



 電子工作に必須の道具は何でしょう? 我々は第一にテスターやDMM(Digital Multi Meter)などの計測器だと考えています。ニッパーやハンダゴテも重要ですが、たとえばブレッドボードとジャンプワイヤを使った工作では、これらの工具さえ必要としないケースがあります。しかし、回路のチェックやデバッグのため、テスターの類はなくてはならないツールです。

 そこで今回はテスターメーカーを訪ね、テスターに関するさまざまなお話を伺いました。取材先は現場計測器の総合メーカーである「三和電気計器」です。赤い小文字の“sanwa”ロゴで馴染み深いメーカーですね。

三和電気計器株式会社の羽村工場を訪ねました。受付近くには、sanwaのアナログテスター第1号機(UNIVERSAL TESTER)をはじめとする代表的な製品が置かれています。この1号機は'41年(昭和16年)生まれです
sanwaは創業68年の歴史ある計測器メーカー。ビンテージものも多々保存されています。この機種は'50年代に発売された名機SP-5の後継機、SP-6D('68年製)です。SPシリーズは「ロータリスイッチ式でポケット型」という特徴からベストセラーになりました
こちらは2009年10月中旬に発売された最新型DMMであるPM33。DMMとクランプメーターの機能を併せ持つハイブリッド機です。詳しくは後述します
お話をいただいた三和電気計器株式会社の方々。左から開発技術部の髙橋秀典氏、参与の田村繁夫氏、開発技術部の藤井元氏です。和やかな雰囲気で同社の歴史や製品についてご説明くださいました。

 sanwaは'41年(昭和16年)に創業された計測器メーカーです。「三和」の名は、三兄弟(鴨下利一郎氏、鴨下英策氏、鴨下尚武氏)で事業を立ち上げたところから生まれたそうです。鴨下英策氏の「テスターを世の中に広く普及させたい」という思いから、上記のアナログテスター第1号機(じつは電圧/電流/抵抗値を測れるアナログマルチテスターです)が生まれ、その後68年にわたり多種多様な現場で使われる計測器を進化させてきました。

 さて、このように歴史深いメーカーに来て、さあ何から伺おうか? と考えましたが、工場内に通された途端、我々はズラリと並ぶ新旧の計測器群に目を奪われました。我々が生まれる前から使われていた各種テスターが保管/展示されていたのです。まずはそれらのテスターについて訊いてみました。

取材場所となった部屋には、新旧のsanwa製テスターが並んでいます。上の段に見えるのはピンジャック式のテスター。計測レンジ変更などをテストリードのプラグ差し替えで行ないます
ロータリースイッチ式の古いテスターも多々あります。どれも重厚な作り。アナログメーターの美しさも健在です
写真に見えるN-501は“電池を必要としない2μA超高感度メーター”を採用したテスターです。サイドのウッドパネルもカッコイイですね
ピンジャック式のP-2('50年/昭和25年)。テストリードを挿す位置により測定モードやレンジを切り替えるアナログマルチテスターです
小型普及型の301-Q('56年/昭和31年)。パネル面には文字が刻印され、塗料が流し込まれています。ビンテージの風格がありますね。ロータリースイッチ式で、使い方は現在のアナログ式テスターとほぼ同様です
斬新な外観を持つF-7TR('60年/昭和35年)。回転リング式ロータリスイッチテスターと呼ばれ、アナログメーターの真下(内部)にレンジ切り替え機構を持ちます。本体上部のロータリースイッチを回すと、アナログメーター下部にある計測モード/レンジの目印が切り替わります。本体四方に見える止めネジのような部分は、テストリードを挿すジャックになっています。50年近く経った現在見ても、洗練されたスタイルですね
sanwaは自動車(エンジンなど)の測定器も作っています。写真は「チュンナップテスタMT-04」('64年/昭和39年)。タコメーターですが、真紅のボディが'70年代を先取りしています
こちらは日産自動車向けの組み立てキット(F15-Iが'78年/昭和53年からスタートした初代)。バッテリ電圧チェック、バッテリ充電電流チェック、RPM測定機能を持ち、日産自動車専用のキットとして長く活躍しているそうです
「ドラムスケール式テスタR-1000CB」('70年/昭和45年)。ロータリースイッチを回すと、使用レンジに対応した目盛りが現れ、計測値(指示値)を直接読み取れるというアナログマルチテスターです。本来は立てて使いますが、撮影のため寝かせてあります
R-1000CBのロータリースイッチを回すと、このようにレンジに合った目盛りが現れます。一般的なアナログマルチテスターよりも計測値が読み取りやすい=読み間違えが起きにくいのがメリットです
30チャンネルのFET電子テスターEM-1000('72年/昭和47年)。幅広い計測レンジを持ち、感度の自己補正も可能な高級機です。風格がある外観でメーターも美麗。サイズは252×191×107mm(幅×奥行き×高さ)、質量は約2.5kgで、最大級のアナログマルチテスターです
世界初の液晶目盛り式アナログマルチテスターLCD-900('76年/昭和51年)。測定モード/レンジを切り替えると、それに応じた目盛りが液晶表示され、そこを指す針から計測値を直読するという製品です。前述のR-1000CBのデジタル進化版、といった雰囲気です
デジタルとアナログの両表示ができるDA-250C('79年/昭和54年)。アナログ表示もできるDMMで、アナログメーターを使い慣れたユーザーでもDMMに移行しやすいように開発された機種とのことです

 歴代のテスターについてお話をいただいた後、現在販売されているテスターについて訊いてみました。

 sanwaをはじめ各社から多数のテスターが発売されていますが、ユーザーにとっては「どれを選べばいいの?」という疑問がつきまといます。これに対し「初心者の方ですと、デジタルならPM3、アナログならCP-7Dをおすすめします。理由はいくつかありますが、まずは価格が安いことですね。ただ、安いと言っても趣味の電子工作に必要な機能はおおよそ揃っていますし、精度も十分にあります」とのことでした。

sanwaのPM3。表示約4,000カウントのデジタルマルチメーターで、直流/交流電圧、抵抗値、静電容量、周波数、デューティ比を計測できます。ポケットサイズ。実勢価格は3,000円前後
sanwaのCP-7D。小型のアナログマルチテスターで、直流/交流電圧、直流電流、抵抗値、電池電圧などを計測できます。実勢価格は4,500円前後

 PM3は我々も使用しています。確かにその小ささと安さは魅力です。どこでも気軽に使える利便に加え、さほど高価ではないので「計測器を壊さないように使わなくては」といったストレスもあまりありません。

 ただ、PM3のようなポケットサイズのDMMはみな、電流計測モードがありません。それはなぜなのでしょう?

 「電流を計測する場合、テスターを回路に直列でつなぐので、安全のためにヒューズを入れる必要があります。技術的にはポケットサイズのDMMにヒューズを内蔵することはできますが、そうすると安全規格にマッチしないので製品化できません」といったお答えでした。なるほど、電流計測モードを持つテスターはある程度のサイズが必要なんですね。

開発技術部の藤井元氏。以前は実際に技術者として計測器を多用する立場にあり、テスターについて“ユーザーの視点”で説明してくださいました
開発技術部の髙橋秀典氏。テスターの使い分けなどをわかりやすく解説してくださいました。後述の最新テスターについても、発売前実機の性能をご紹介いただきました

 ところで、ショップや書籍によって、初めての人に勧めるテスターの種類(アナログかデジタルか)が違っています。メーカーとして初心者に推奨するのはどちらのタイプでしょう?

 まずデジタルについては「デジタル式とアナログ式のメリットを知っておくと選びやすいでしょう。たとえばデジタル(DMM)なら、計測すれば結果が数字で表示されて読みやすいです。また、電池電圧の計測をした場合、本来は正しく極性を見て測るのがベストですが、極性を逆にしても±が逆になるだけで数値は出ます。デジタルは、一見してわかりやすいことと簡単なことがメリットです。昔のデジタルは表示までが非常に遅かったのですが、現在ではこれも大きく改善されています」とのことでした。

 それから、アナログについては「デジタル式と比べると計測モード変更や計測結果の読み取りがやや面倒だとか、使用前の調整が必要な機種があるなど、少し手間はかかります。でも、たとえば電圧の変化などを針の動きから感覚的に読み取れるというのは大きな利点です。デジタルだと数値がめまぐるしく変わって読み取れませんが、アナログならその変化を目で追えます」とのこと。数値の直読がやや面倒なかわりに、電圧等が時間軸でどう変化していくのかがだいたいわかるのは、確かにアナログ式テスターの良さですね。

2台目やステップアップにオススメのDMMとしてCD771が挙がりました。趣味の電子工作に必要な計測機能を全て備えた中級機です。実勢価格は8,000円前後
ステップアップ用のアナログ式としてはCX506aが挙がりました。コンデンサ容量やトランジスタのhFT値測定も可能です。実勢価格は8,500円前後

 さらに、我々が日頃疑問に思っている事柄をいくつか質問してみました。これらを以下にQ&A形式でまとめてみます。

Q:「テストリードの先端が凹んでいるのはナゼ? リード部品を計測しやすくするため?」

A:「テストリード先端に別売のクリップリードを装着したときに外れにくくする窪みです。クリップリードは、たとえば-側にワニグチクリップ(CL-11)を付ければ、これをGNDに付けたまま、テストリードの+側で各所の電圧を測れるというアダプタです」

Q:「テストリードの先端が汚れたらどうすれば?」

A:「汚れると、たとえば抵抗値などの計測値が変わってしまったりします。拭いてきれいになるようでしたら大丈夫ですが、テストリードは消耗品と考えてください。汚れを落とすために擦るなどして先端のメッキが剥がれると、計測値が本来のものとは異なってしまいます。ある程度使って汚れが落ちなくなったら新品と交換してください」

Q:「テストリードの持ち手部分の出っ張りが邪魔なんですが」

A:「確かに細かな作業のときには邪魔ですよね(笑)。あの出っ張りはバリア(つば)と言って、高電圧の回路などを計測したときに感電を防ぐためのものです。テストリード先端からバリアまでの距離などが国際規格で決められていて、安全のためその規格に従ったバリアがあるのです」

テストリード先端付近にあるバリア。人差し指近くに輪のような出っ張りがありますが、これは感電を防ぐための形状だそうです
バリアの手前に指を置くのが基本的な持ち方。この前方まで指を伸ばすと、(計測対象によっては)感電の危険性があります。ただ、「電池を使った電子工作などなら、そういった電圧による感電などの心配も少ないのでは?」とのことでした

Q:「DMMのカウント数ってなんですか?」

A:「表示できる最大の数値や桁です。たとえば5V付近の電圧を測った場合、4,000カウントなら5.12Vなどと表示されます。5.120Vと表示されないのは、表示が4.000Vまでだから、桁が減って表示されるというわけです。なので、5,000カウントでも5.12Vと表示されます。これが6,000カウントになると、6.000Vまで表示できるので、5.123Vなどといった表示になります。より細かく計測結果が出るわけですね。……でも5.12Vと5.123Vの違いは、電池ベースの電子工作などではあまり大きな意味がないかもしれません。ちなみに、50,000カウント表示などに対応したDMMは、研究室や学校など、より詳細に計測値を知る必要のある場で使われることが多いようです」

Q:「DMMで“これをやったらダメ”という点、ありますか?」

A:「説明書のとおりにお使いいただければ大丈夫ですが、よくあるのが“電流計測モードで電圧を計測する”というケースです。たとえばsanwa製DMMのCD771を例に挙げますと、計測対象によってはヒューズが飛んで故障します。なので、使用前には“DMMが電流計測の状態になってないこと”を確かめるといいかもしれません。また、ヒューズが飛ぶことを前提に、予備のヒューズを用意しておくといいでしょう」

sanwaのCD770の裏面(CD771もほぼ同様)。このシリーズでは、裏面にヒューズの定格が印刷されており、その部分を開くとヒューズを交換できます。メーカーの方は「違う定格のヒューズは絶対に使わないでください」と念を押されました。

Q:「テスターの定格を守れば、テストリードをコンセントにさし込んで電圧を測ったり、家電製品とコンセントの間にテストリードを入れて電流を測っても大丈夫ですか? 消費電流から、機器の消費電力を計算してみたいんです」

A:「定格と正しい計測方法を守れば大丈夫です。ただ、家電製品とコンセントの間にテスターを入れるのは危ないですね。電流の値を計測したい場合、クランプメーターが安全なのでお勧めします。クランプメーターとラインセパレーターLS-10を使えば、家電に流れる電流を容易に計測できます」

クランプメーターの例。赤いクランプに電線を通し、そこに流れる電流の量を調べる計測器です
ラインセパレーターLS-10。交流の家電などに流れる電流を計測する場合、たとえば2本束ねられている電源線をクランプメーターで挟んでも計測できません(各電源線がお互いの磁場を打ち消してしまうため)。ラインセパレーターを使えば、電源線の片方だけをクランプメーターで計測できるようになります

 細かな質問を終え、我々がクランプメーターに興味を示していると「たとえばこんな製品が……」と実機を出してくれました。この10月中旬に発売された最新型DMMのPM33です。

DMMにクランプメーターの機能が加わったPM33。クランプ部分を使うとこのように立ちます
クランプを伸ばせばクランプメーターとして使えます
クランプやテストリードは収納式。持ち運びにも便利そうです。実勢価格は11,700円程度

 PM33はポケットタイプのDMMにクランプメーターの機能を入れたハイブリッド計測器で、電子工作にも便利そうです。外観もよく、コンパクトで机上にも置きやすいギミックを持っています。

 気に入ったので少し触らせてもらいましたが、我々はその計測値表示の速さに驚かされました。ポケット~ハンディなタイプのDMMでここまで速く計測できる機種をほかに知りません。この“速さ”を以下に動画でご紹介します。

【動画】PM33で100Ωのカーボン抵抗を測った様子。赤いテストリードを付けるとすぐ、計測結果が示されます