秋葉原のショップでもらったサンハヤトの新しいカタログを見ていたとき、驚くべき新製品を発見しました。高機能ブレッドボードのSRX-32PSです。さっそく我々は取材を申し込み、詳しいお話を伺ってきました。
サンハヤトの方が組んだLEDいっぱいの回路が載っているSRX-32PS。一見、ちょっと大きいだけのブレッドボードに見えますが、上部に電源やテスター用の端子が用意されています |
SRX-32PSの最大の特徴は、専用の電源を内蔵している点。ACアダプタを接続するだけで、ジャンプワイヤーでつながなくても、ブレッドボードの電源レール(横方向の長い配線)に電力が供給されます。電圧は±15V、±12V、+5Vが使用可能。こういう製品はこれまでありませんでした。
サンハヤトにとってブレッドボードは学校がおもなユーザー。教育の現場では、外部の電源をつながなくても使えるブレッドボードに対するニーズがあったようです。我々もときどきやりますが、電源をうっかり逆向きに接続してしまうのが、もっとも起きやすい失敗。よくある間違いであっても結果は深刻で、たんに動かないだけでなく、部品が壊れてしまい先に進めなくなることもあります。そうした事態を防ぐために、ブレッドボードに小さな電源を組み込み、あらかじめ内部で配線しておくことで、挿し間違えを防いでいるわけです。
±15Vという電圧を採用したのは、OPアンプを使った増幅回路の実験をしたいという要望に応えてのこと。ブレッドボード上には-15V、GND、+15Vの3本の電源ラインが用意されています(その他に+5Vも常時供給されます)。電池で15Vを作るのは大変ですし、ACから作るとしても正(+)と負(-)の両電源を用意するのは手間です。これまで避けてきた、±15Vを使った回路作りを試してみたくなりました。
背面の電圧切り替えスイッチ。±15Vと±12Vを選択できます。+5Vは専用の電源レールに対して常に出力されています |
右側の液晶のようにも見える窓は電源回路(DC/DCコンバータ)。汎用部品を使っていることを示しています |
SRX-32PSの開発は約10年前にスタートしたとのこと。それを聞いて、我々は驚きました。「難産だった」そうです。長年の試行錯誤を経て生まれたSRX-32PSにはいろいろな工夫が詰まっています。
SRX-32PSと同時に発売されたブレッドボード関連製品がいくつかあります。
電流測定アダプタSBM-001はブレッドボードに挿して使うアダプタで、テスターを使って回路上の電流を測定したいときに便利です。トランジスタの増幅率を調べる実習で使いたいという学校からの要望が開発の元になっているとのこと。
よりシンプルな測定用オプションがテスター棒用ジャンプワイヤーSUP-200です。こちらは先端がブレッドボードの穴に適した形状になっているアダプタで、ブレッドボーディングの効率アップに貢献してくれそうです。
もう1つ、同時に発売されたブレッドボード関連製品がVportアダプタSMB-002です。Vportは星野俊行さんが提唱するマイコン実習装置のインターフェイス規格で、機材のムダをなくし、自由度の高い実験ができるよう工夫がされています。詳しくは星野さんのページ「ブイポートラボ」を参照してください。
それではここで、取材中にお答えいただいたブレッドボード関連の質問と回答をまとめておきます。
Q:「ブレッドボードが壊れてしまうような間違った使い方ってありますか?」
A: 壊れることはほとんどないのですが、太すぎる足を挿さないということだけ守ってください。サンハヤトでは、部品のリード線の直径は0.3mmから0.8mmまでと規定していて、これよりも太いとバネがダメになってしまいます。
Q:「サンハヤトには穴が5個並んでいるタイプと6個並んでいるタイプのブレッドボードがあります。この使い分けはどう考えればいいのでしょう?」
A: デジタル回路を組むときは6穴(ケツ)のほうが便利でしょう。マトリクスLEDのような大型の部品の場合、6穴でないと載らないこともあると思います。
Q:「人気のブレッドボードを教えてください」
A:SAD-11とSRH-21です。近年はこうした比較的小型のものが好まれるようです。
Q:「初心者が最初に一式揃えるとしたら、どの製品を選べばいいのでしょうか?」
A: ブレッドボードについては先ほどあげたSAD-11やSRH-21がいいと思います。ジャンプワイヤーは堅い単線のSKS-140と、柔らかい撚り線のSKS-290を1つずつ持っておくと便利です。
サンハヤトは'62年創業の会社です。最初のヒット商品は接点復活剤。そもそも「接点復活剤」という造語を生み出したのはサンハヤトだそうです。
接点復活剤はTVのチャンネル切り替えに使われていたロータリースイッチの補修用として広く普及しました。'70年頃のことです。その後、接点復活剤という言葉は一般用語化し、現在のサンハヤトはポリコールキングという商品名でラインアップを揃えています。
我々は、接点復活剤という薬品は使い方が難しいと思っていました。しかし、詳しく話を伺ううちに、接触型の端子に対しては、かなり自由に使っていいという印象に変わりました。たとえば、ガリが出た可変抵抗や接触が悪くなったメモリカードの端子などに使っても大丈夫とのこと。気をつけなくてはいけないのは、接点以外に付着した液剤にホコリが付着して、熱や湿気の問題を生じる可能性がある点です。ハケ付きミニボトルタイプを使用して、ピンポイントで塗布するようにすれば、この問題は避けられます。不織布に染みこませたあと、拭くようにして塗るのも確実な方法だそうです。
「接点復活王 ポリコールキング」のスプレータイプ。塗りすぎには注意しましょう |
最新のミニボトルタイプ「接点復活王 ニューポリコールキング」。防錆効果を強化し、接点をより長期間保護します。我々の間では、これを塗布するのがプチブーム化しています |
ケミカル系の製品は話を伺ってみるとどれも面白く、発見がいろいろありました。もう1つ新製品の中から説明していただいたケミカル系は、急冷剤のキューレイ(QREI)QRK-S480です。
QRK-S480はスプレーです。冷却剤を吹き付けることで、対象を-55℃まで冷却することができます。企業において、電子製品の動作テスト等に使われるようです。たとえば、動作中のマイコンを冷却してクロックが停止せずに動き続けるかどうかをテストしたり、温度センサーの低温時の動作を確認したりできます。特別な設備がない状況でも、温度を上昇させることは比較的容易ですが、低下させるのは難しいため、急冷剤の需要があるようです。なお、嫌いな虫を退治するときにも効果的とのことでした。
サンハヤトといえば、電子回路の試作に欠かせないユニバーサル基板やプリント基板材料のメーカーでもあります。今年、もっとも反響が大きかったのはクイックポジ感光基板のリニューアルだったようです。
クイックポジ感光基板は写真の現像に似た手順で使います。まず、インクジェットプリンタでパターンを印刷したフィルムを用意し、それと基板を重ねて光を当て感光させます。感光した基板を現像液に付けるとパターンが浮き上がり、次にエッチング液に入れて余分な銅箔を溶かします。その結果出来上がるのがプリント基板で、この工程は一般家庭でも実行可能です。
今年リニューアルされたクイックポジ感光基板は、従来型よりも短い露光時間で済み、経年変化の影響が少ないため、よりカンタンに使えるようになったとのこと。我々が訪問する1時間半前に作成したという基板を拝見しましたが、急いで作ったにもかかわらず美しく緻密な出来映えでした。それを見ていたら、これまで敬遠していたエッチングによる基板作りに、我々も挑戦してみたくなりました。
手前がインクジェットプリントで印刷した版下。中段は現像後の基板。パターンがわかります。一番上は穴開けや部品のハンダ付けまで終わったプリント基板。教育機関のほかに、機器メーカーの小ロット生産や、機密保持が重要な研究開発などにも利用されているそうです |
今回お話を伺ったサンハヤトの皆さん。ありがとうございました |