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GPDにまず敬礼。Ryzen AI 9 HX 370で佳境を迎えたUMPC「GPD Pocket 4」

GPD Pocket 4

 GPD TechnologyのUMPCへの飽くなき挑戦は2024年も続いていた。10月末に発表となった「GPD Pocket 4」は、AMDのモバイル向けフラグシッププロセッサであるRyzen AI 9 370 HXを、WQXGA(2,560×1,600ドット)表示対応の8.8型のディスプレイと組み合わせ、206.8×144.5×22.2mmというサイズと、約770gの筐体に押し込んだ意欲的な製品だ。

 「GPD Pocket」シリーズは、同社の主力であるモバイルゲーマー向けの「GPD WIN」シリーズとは対象的に生産性を重視したビジネス向けのシリーズである。初代はAtom x7-Z8750というプロセッサを搭載し、やや非力なスペックであったが、2代目の「GPD Pocket 2」ではCore m3-7Y30となり実用的な性能のマシンへと変貌した。

 2021年に投入した3代目「GPD Pocket 3」はCore i7-1195G7となり、メインストリームばりの性能を達成しつつ、モジュール構造を採用することで機能の充実も図ってきたが、そこから3年間を経て登場した本機は、ついにプロセッサをAMDに切り替えるに至った。それ以外にも新要素がたくさんあるので、気になるユーザーも少なくないだろう。早速貸与されたマシンでチェックしていきたい。

 ちなみに執筆している11月27日現在、Indiegogoで出資を募っており、以下のような構成が出資リターンとして用意されている。今回入手したサンプルはこの中の構成にはない、Ryzen AI 9 HX 370+メモリ32GB+ストレージ1TB SSDの構成である。

  • Ryzen 7 8840U/メモリ16GB/1TB SSD - 12万6,896円
  • Ryzen AI 9 365/メモリ32GB/2TB SSD - 16万1,806円
  • Ryzen AI 9 HX 370/メモリ64GB/2TB SSD - 20万4,347円

4代目でシリーズ最大の筐体になった

 GPD Pocketシリーズが登場したのは2017年のこと。Windowsタブレットのブームがいったん去った後に、タッチタイピングが行なえるサイズのキーボードを搭載した7型のクラムシェルUMPCとして颯爽と現れ、UMPC好きの界隈を賑わせた。ちなみに本体サイズは180×106×18.5mm、重量は約480gというスペックだった。

 そこに多くのユニークな要素を取り入れたのが、前代となるGPD Pocket 3で、液晶が180度回転してピュアタブレットとしても利用可能になっているほか、モジュールを着脱できる機構を取り入れ、工業機器制御に使えるシリアルポートや、モニターがないサーバーを管理する際に便利なKVMモジュールを用意するなど、“ニッチなニーズに応える”製品となった。GPD Pocket 4は、このGPD Pcoket 3の特徴をほぼ踏襲しつつ進化させた。

 ポイントの1つ目はCPUの大幅な強化で、Tiger Lake世代のアーキテクチャで4コア8スレッドだったCore i7-1195G7がZen 5アーキテクチャ12コア/24スレッドのRyzen AI 9 370 HXとなった。正直、Core i7-1195G7は2024年でも十分通用するレベルの性能だとは思うが、CPUコア数がこれだけ異なればアプリケーションによっては大きな差が生まれそうだ。

 2つ目は、液晶ディスプレイが1,920×1,200ドット(WUXGA)からWQXGAに高解像度化し、なおかつ8.8型へと大型化している点。情報量が増えるので、小さい画面でも情報量を妥協したくないユーザーにはうれしいだろう。また、リフレッシュレートが144Hzとなったことで、スクロールといった動きがスムーズになり、マウスポインタを見失いにくくなったのも良い改善点だ。

GPD Pocket 3(左)との比較。明らかに一回り大きくなった

 3つ目はモジュール機構の刷新だ。左右2点ネジ止め+ポゴピンで接続する仕組み自体は変わってないのだが、装着部の空間を大型化。従来はUSB 3.2 Gen 1(標準搭載)、シリアルポート、KVMだったが、GPD Pocket 4ではmicroSDカードスロット(標準搭載)、シリアルポート(出資リターン価格2,144円)、KVM(7,356円)、4G LTEのモジュール(1万6,855円)となった。

GPD Pocket 4のモジュール構造
今回入手した2つのモジュール。下が標準装備のmicroSDカードスロット、上が4G LTEモデム。技適付きモジュールとなっているため使えそうなのだが、残念ながらAPN入力欄が出ず使えなかった
GPD Pocket 4のモジュール部は従来の28ピンから20ピンとなった。サイズも異なり、互換性は失われた

 GPD Pocket 4を初代と比較すると、体積は88%、重量は60%ほど増え、シリーズ最大になってしまったが、既にGPD Pocket 3で大きな路線転換が図られているので、もはや同じ土俵の上で比較すべきではない。一方、GPD Pocket 3と比較すると体積は22%増、重量は6%増に抑えられている。CPUコア数が3倍になったし、液晶解像度も2倍近くなったので許せ!ということかもしれない。

歴代のGPD Pocketシリーズとの比較。GPD Pocket 4は最大となった

 ちなみにGPD Pocketシリーズでは最大というサイズなのだが、実は先立って発表された13.3型2画面ノート「GPD DUO」のちょうど半分ぐらいのフットプリントになっているので、UMPCかと言われれば間違いなくUMPCだ。

ブラック筐体に変更。インターフェイス周りは?

 続いて実機の本体をチェックする。外観デザインとしては基本的にGPD Pocket 3を踏襲している。スペック上では幅が6mm、奥行きが7.5mm、厚さが2.2mmの違いとそこまで大差ないように思えるが、意外にも厚さですぐに違いに気付ける。それよりもオールブラックとなっているのが一番大きい違いかもしれない。

 インターフェイスは、右側面がUSB 2.0と3.5mm音声入出力、ヒンジ部の角にストラップホール、左側面がUSB 3.2 Gen 2とHDMI出力、リセットボタンのホール、背面が2.5Gigabit Ethernet、USB4、USB 3.2 Gen 2 Type-C、着脱可能なモジュール(標準ではmicroSDカードスロット)となっている。UMPCとしては異例とも言える豊富なインターフェイスだ。

オールブラック筐体になったGPD Pocket 4
右側面にUSB 2.0と3.5mm音声入出力装備
左側面にUSB 3.2 Gen 2とHDMI出力、リセットボタンのホール
背面は2.5Gigabit Ethernet、USB4、USB 3.2 Gen 2 Type-C、着脱可能なモジュール

 指紋兼電源ボタンは前モデルにもあったのだが、キーボード面から前側面に移動した。これならタブレット形状の時いちいち画面を起こさなくても電源を投入できるのは良い。電源ボタンの高さはフレームとツライチになっているが、周りにはくぼみが用意されているため、押しやすさを確保しつつ、置いた時に誤操作にならないような工夫がされているのが分かる。

 ちなみに指紋センサーはUSB接続となっている。このためWindows上からは“外部の”指紋センサーとして認識され、Windows Helloでの利用には設定でオンにする必要があった。製品版ではデフォルトでオンになっている可能性もあるが、設定に躓いたユーザーは試してみてほしい(GPD DUOも同様)。

前面の電源ボタンは形状が工夫されている
本体底面はファン吸気口のみ

 画面左部分にはWebカメラが内蔵されている。画質はまずまずだが、本体の正面に座っても左寄りに写ってしまうので注意したい。ちなみに本来はWindows Studio Effectsなどが使えてもおかしくはないのだが、残念ながらBIOSやドライバの対応が必要であり、現時点では使えなかった。

天板はGPDのロゴ

キーボードやディスプレイの使い勝手は?

 キーボード面は従来と同様、タッチパッドを右奥、ポインティングデバイス用の左/センター/右クリックボタンを左に置いた配置。残念ながらタッチパッドにGPD DUOで用いられたハプティクスフィードバックなどはないが、ジェスチャー操作は可能だ。

 キーボードはGPD Pocket 3とほぼ共通で、キーピッチ約16.5mmを確保するため少し変わった配列となっている。たとえばセミコロン(;)やシングルクオーテーション(')はカーソルの左側だし、カギカッコ(「」)やハイフン(-)などは最上段。特に日本語では音引きでハイフンを多用するので、最初は戸惑うだろうが、幸いキーとして独立はしているし、GPD Pocketシリーズの“伝統”となっているので、慣れるまでの辛抱だと思う(ちなみにGPD P2 MaxはFn+Iだったのは最後まで慣れなかった)。

 一方、F1が「Fn+1」ではなく「Fn+`」で、F2が「Fn+1」、F3が「Fn+2」……というまどろっこしい組み合わせはGPD Pocket 4も同様だった。このあたりは人によると思うが、刻印を見ずに打てる自信があるのなら、PowerToysといったユーティリティを使って割り当て直した方が幸せになれるかもしれない。

キーボードの配列は一部がいびつとなっている
キーピッチは約16.5mmだった

 キーボードのタッチ感はまずまず。キートップがグラつくためか、若干甲高い打鍵音が気になるが、製品版では改善されているかもしれない。キーバックライトが付いているため、暗所でもキートップが確認できるのが心強い。

基本的にはGPD Pocket 3のキーボードそのまま、と言ってもいいだろう。GPD Pocket 3ユーザーなら学習コストはほぼゼロだ
タッチパッドは約61×36mmといったところ。物理押下はできず、左側のボタンと併用するか、タップでクリックを行なう

 液晶ディスプレイはT型ヒンジで、キーボードに対して180度開けるほか、水平に180度回転する。輝度は500cd/平方m、色域はDCI-P3 97%などと謳われている通り、美しく視認しやすい。弱点といえば光沢であるため映り込みが激しいことだろうか。

 ちなみにリフレッシュレートは144Hzのほかに60Hzも選択できるが、一度144Hzのヌルヌルさ加減に慣れたら、60Hzには戻れないとは思う(消費電力が増えるが……)。小さい画面ではマウスカーソルを見失いやすいので、少しでも追従性が高い144Hzの方がうれしい。なお、液晶はネイティブポートレートであるため、一部古いゲームとは相性が悪いが、GPD Pocket 4はゲーム向けではないため問題はないという判断からの採用だろう。

T字型ダブルヒンジで回転する液晶。タブレット形状やスタンド形状などでも利用可能だ
液晶の表示品質は高い
視野角も大変広く見やすいが、映り込みややや激しい

 駆動時の騒音だが、アイドル時はほぼ無音だと言ってよいものの、負荷時には大きめの軸音が発生する。GPD Pocket 3までは“UMPCの範疇”と言えたのだが、GPD Pocket 4はゲーミングノートレベルだ。ファンの回転を抑制する静音モード(Fn+=で切り替え)が用意されているので、深夜や会議中など「今ブンブン回されると困る!」というシーンでうまく使いたい。

Ryzen AIによる性能向上は伊達じゃない

 続けてベンチマーク結果を見ていこう。今回はいつも通り純粋なCPU性能を見る「Cinebench R23」、PCの総合性能を見る「PCMark 10」、3D性能を計測する「3DMark」、実ゲーム性能として「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のフィナーレ ベンチマーク」を実施した。比較用として、より高いTDP(56W)が標準で設定されている「GPD DUO」と、前世代にあたるCore i7-1195G7を搭載する「GPD Pocket 3」(標準のPL1=15W/PL2=20W設定)を(一部データは以前のレビューより流用)用意した。

【表】ベンチマーク環境
機種GPD Pocket 4GPD Pocket 3GPD DUO
CPURyzen AI 9 HX 370(28W)Core i7-1195G7Ryzen AI 9 HX 370(56W)
メモリ32GB LPDDR5X-750016GB LPDDR4-373364GB LPDDR5X-7500
SSD1TB NVMe SSD1TB NVMe SSD1TB NVMe SSD
ディスプレイ2,560×1,600ドット表示対応8.8型1,920×1,200ドット表示対応8型2,880×1,800ドット表示対応13.3型×2
OSWindows 11 24H2Windows 10 Home 21H1Windows 11 24H2

 まずはCPU性能だが、GPD Pocket 3からは隔世の感がある結果となった。シングルコア性能が43%向上しているだけでなく、マルチコア性能は実に約4.5倍近くに達する。ここまで高速であれば、特に重い処理をさせるような用途ではまるで別のマシンを扱っている感じになる。

Cinebench R23の結果

 一方で最大性能はGPD DUOの77%程度。さすがに筐体の大きさがまったく違うので、Ryzen AIは消費電力を抑えてもさほど性能が落ちない電力効率に優れたプロセッサであると捉えた方が良いだろう。というより、むしろ8.8型でこの性能なのだから文句なしだ。

 PC全体の性能を計測するPCMark 10の結果を細かく見ていくと、一般的な操作感に直結するEssentialsスコアはGPD Pocket 3と大差はない。主に差がついているのはOpenCLを使って演算するSpreadsheets Scoreや、CPU/GPUの絶対性能がスコア直結するDigital Content Creation回りだ。このあたりはCPUコア数が圧倒的に増え、GPUも強力なRyzen AIのメリットが強く出ている。

PCMark 10の結果

 3D回りの性能は概ねGPD Pocket 3の2倍~3倍程度。Core i7-1195G7では、3DMarkのPort Royal/Speed Way/Solar Bayといったレイトレーシングを使ったテストを実行すらできないので、GPUが強いRyzenの優位性が現れている。一方、GPD DUOとは大差がないので、電力上限の差は主にCPU性能だ。

3DMark Speed Wayの結果
3DMark Port Royalの結果
3DMark Solar Bayの結果
3DMark Steal Nomadの結果(GPD Pocket 3はWindows 11 23H2で取得)
3DMark Steal Nomad Liteの結果(GPD Pocket 3はWindows 11 23H2で取得)
3DMark Time Spyの結果
3DMark Night Raidの結果
3DMark Fire Strikeの結果
3DMark Wild Lifeの結果
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のフィナーレ ベンチマークの結果(GPD Pocket 3はWindows 11 23H2で取得)

 試しにMMORPGの「黒い砂漠」もプレイしてみたが、AMD FidelityFX Super Resolutionを併用すれば、リマスター画質で何ら問題なくプレイできた。画質も解像度も最低に落としてなんとか走らせられるCore m3の「GPD Pocket 2」や「GPD WIN 2」の世代からすれば、驚異的な進化だ。

 バッテリ駆動時間だが、輝度を40%に設定した状態でPCMark 10のModern Officeバッテリテストを実行したところ、残量6%まで6時間52分駆動した。GPD Pocket 3が4時間22分だったので、CPUが多コアになって液晶が大型/高速化したのにもかかわらず延びた、ということになる。GPD Pocket 3のバッテリ容量は38.5Whだったが、GPD Pocket 4では45Whへと大容量化している。これとCPUの省電力化などが相まって達成できたのだと思われる。

UMPC史上最強パワーは誰のためのものか

 初代GPD Pocketのような価格の手軽さや、GPD Pocket 2のような軽快さが失われているのは若干惜しい。しかしついに一般的なノートPC、下手したら現行のミニPCをも凌駕するような性能を手に入れたGPD Pocket 4。Libretto 20からUMPCを追い続けて来て、Crusoeで谷底にいるような性能を経験してきたユーザーにとって、GPD Pocket 4が達成したマイルストーンは夢に見た佳境のようなものだろう。

 あとはユーザーがこの性能をどう生かすかにかかっているのだが、ここまでUMPCを追ってきた愛好家なら、既にその使い道を思いついていることだろう。ちなみに筆者は自腹でGPD Pocket 3を購入したのだが、会社で通常通り業務をこなした実績はあるので、GPD Pocket 4も同様に“メインマシンとして使う”には、なんら支障のないレベルになるのは間違いない。

 個人的にそんなことよりも、一回“死んだ”と思われたUMPC市場に、2016年に再び命を吹き込んでくれたGPDが、8年間もちゃんと新製品を出し続けてくれたことにまずは感謝したい。中国語には「何事も最初が難しい」という言葉があるのだが、PC業界においてはむしろ「継続することの方が難しい」ことは、過去の技術や製品で証明済みだ。GPDがちゃんとそれを継続できる理由は、確固たるロードマップと、ニッチしか狙わないビジネス規模を維持し続けるビジョンゆえだろう。GPD Pocket 5はどこへ向かうのか、もう今から楽しみでならない。