Hothotレビュー

一般的なノートの使用感に一歩近づき、コスパに優れた8.9型UMPC「GPD P2 Max」を試す

GPD P2 Max(左手前)

 深セン・GPD Technologyの「GPD P2 Max」(以下P2 Max)は、8.9型の液晶ディスプレイを採用し、“真のUltrabook”を謳うクラムシェルノートだ。7月現在クラウドファンディングIndiegogoで出資を募っており、下位モデルは57,181円、上位モデルは75,993円の出資で製品を入手できる。

 今回、GPDより上位モデルの試作機が送られてきたので、レビューをお届けしたい。試作機であるゆえ、製品版とCPUが異なるほか、将来的に仕様の相違が発生する可能性がある点を予めご了承いただきたい。

ほぼiPad mini 4のサイズでキーボード搭載

 P2 Maxは、2018年夏に投入した「GPD Pocket 2」(以下P2)の大型版とも言える製品。P2では1,920×1,200ドット(WUXGA)表示対応の7型液晶ディスプレイを採用していたが、P2 Maxでは2,560×1,600ドット(UQXGA)表示対応の8.9型に大型化しており、解像度の向上とともに大型化が図られている。

 キーボードのピッチは、従来はQの列が約16.5mm、Aの列が約17mm、Zの列が約15.5mmと異なっていたが、P2 Maxでは主要キーで17.5mmで統一された。また、P2では光学式ポインティングデバイスを採用していたが、P2 Maxは小型ながらタッチパッドを搭載し、一般的なノートPCにより近い操作感を実現している。

 性能面では、メモリが上位モデルで16GB、ストレージが512GBのNVMe SSDとなった。メモリが拡大したことで、より多くのアプリケーションを同時に起動したり、複数のタブをまたいだWebブラウジングが快適になる。ストレージの高速化でアプリの起動も速くなり、容量も窮屈な128GBから512GBへと4倍となったことで、利用用途が大きく広がったと言える。

P2(上)と比較すると二回りほど大きい
開いた印象もずいぶん異なる
液晶が大型化され、タッチパッドがついた
OneMix 3(右)と比較しても一回り大きい
3台並べてみたところ

 さらに指紋センサーやWebカメラ、Micro HDMIポートの搭載など、利便性・機能性の向上も図られている。その一方で省かれたのがmicroSDカードスロットで、デジカメやスマートフォンのデータを取り込みたい、もしくはストレージを拡大したいユーザーにとって残念なポイントとなりそうだ。

 メモリ容量2倍、ストレージ容量4倍ということで危惧される価格だが、クラウドファンディングで約76,000円、日本国内で取り扱っている天空での予約価格は8万円台半ばとなっており、この点はP2に対してのアドバンテージのみならず、競合の「OneMix 3」シリーズに対しても脅威になりそうだ。ちなみに天空によると、9月以降の通常価格は9万円を超えるとのことで、(それでもOneMix 3よりは安価になりそうだが)予約したほうがお得だ。

200万画素のWebカメラをヒンジ部に搭載
電源ボタンは指紋センサーを兼ねている

大きくなったキーボードは一長一短

 P2と比較して大きく変わったのがキーボードである。キーピッチは、P2が各列バラバラであったのに対し、P2 Maxは17.5mmで統一され操作しやすくなり、窮屈な印象もなくなった。また、ペチャっとしたタイピング音も収まり、静粛性が向上している。ストロークやタッチ感も上々で、ミスタイプや入力抜けはほとんど起きない。

 その一方で、配列は要改善点が多い。キーピッチとキーキャップが大型化したP2 Maxだが、従来の6列から5列に減っているため、一部キーはFnキーとのコンビネーションで入力しなければならなくなってしまっている。

 そのなかでもとりわけ致命的なのは音引きで、英語配列モデルでは「Fn」+「I」となってしまっている。P2では「9」の上に独立して用意されていたため、一般的ではないものの1キーアクションで入力できるが、P2 Maxではコンビネーションとなってしまうので、外来語が多い分野の文章入力で苦労をさせられることだろう。これも慣れと言えば慣れなのだが、本体が大型化したのにもかかわらず不便になってしまったのはもったいない。

 また、PrintScreenキーが「Fn」+「ESC」なのだが、「Windows」+「PrintScreen」でスクリーンショットを保存できないほか、「Del」キーが「Fn」+「BackSpace」のため、Ctrl+Alt+Delが「Ctrl」+「Alt」+「Fn」+「BackSpace」という4キーコンビネーションになってしまう、といった不都合や操作の違いも出る。せっかく大型化して余裕が出たのだから、実用に沿ってキー配列を再考してもらいたかった。

 GPDのWade社長によれば、P2 MaxのキーボードはiPad mini向けに作られているキーボードをそのまま移植したものだといい、「iPad miniのキーボードを使い慣れたユーザーが親しみやすいようにした」のだという。それはそのとおりかもしれないが、iOS向けのキーボードがWindowsに適しているわけではないのも確かだ。

 P2 Maxはサイズ感とタイピング感、静粛性に優れているキーボードを装備だけに、配列だけが惜しい。次期モデルでは改善を望みたいところだ。

iPad mini用に慣れ親しんだユーザー向けに設計されたというキーボード。従来の6列から5列に減っている
キーピッチは約17.5mmであった
音引きはファンクションキーと同時押しなのがネック。また、一般的な日本語入力のオン/オフトグルもAlt+Fn+Tとなってしまうため、Shift+CapsLock操作を覚えておいたほうがいいかもしれない

小型ながらジェスチャにも対応したタッチパッド

 その一方でほかのUMPCと大きく異なるのが(タッチパネル以外の)ポインティングデバイス。初代の「GPD Pocket」ではスティック型、P2では光学式のものを搭載していたが、P2 Maxではついにタッチパッドとなった。このため、一般的なノートPCのように操作できるのが特徴だ。

 Windows 7以降、OS自体がタッチ操作に対応しているとは言え、その対応はあくまでもドライバやシステムレベルの話であり、UIや最適化そのものはまだまだ不十分だ。とくに本製品のような小型/高解像度液晶を採用している場合、狙っているものをタッチしても、なかなか思いどおりに反応せず、イライラさせられることが多い(だからWindowsタブレットが廃れてきたとも言う)。

 そこでやはり従来のポインティングデバイスが必要になってくるわけだが、P2に搭載された光学式ポインティングデバイスは細かい操作に向かないという弱点があった。P2 Maxでは大型化したフットプリントを使い、タッチパッドを内蔵することで、操作性の難点を解消している。

 P2 Maxに搭載されているタッチパッドのサイズは約62×35mm。小型ながら複数本指のジェスチャ操作に対応しており、2本指のタップで右クリック、上下スワイプでスクロール、ピンチイン/アウトで縮小/拡大操作、3本指の上スワイプでタイムライン表示、下スワイプですべてのウィンドウの最小化、左右スワイプでタスク切り換えに対応する。

 タッチパッドは小型ながらキビキビ動作し、タッチパッド底面にスイッチも内蔵されているため物理クリックが可能。操作感は至って上々だ。光学式ポインティングデバイスの場合、ポインティングデバイスを使う作業を10分以上やると外付けマウスが欲しくなってくるのだが、P2 Maxのタッチパッドなら「しばらくこのまま作業してもいいかな?」と思える。

 タッチパッドはフットプリントを消費するので、P2 Maxはキーボード1列と引き換えに装備したとも取れるわけだが、本体のみで完結できる作業が増え、使い勝手がより一般的なノートに近づいたのは、歓迎しても良いのではないだろうか。

タッチパッドは約62×35mm。精度やポーリングレートはよく、面積は小さいがキビキビ動く。複数本指のジェスチャにも対応する

本体、液晶の品質は上々。インターフェイスも必要十分

 本体は従来どおりアルミ合金製となっている。剛性は十分であり、少し力を入れてひねってもびくともしない。ちなみに塗装は下位モデルがシルバー、上位モデルがスペースグレイ。丁寧に処理されている印象で質感は高い。

 なお、本体の重量は667gと十分に軽量で、iPad miniとほぼ同じフットプリントのため、小さめのカバンにもすっと入るサイズ。可搬性は非常に高いと言える。

 液晶は2,560×1,600ドット表示対応の8.9型で、OneMix 3に搭載されている8.4型と比べるとサイズの違いは一目瞭然だ。画素密度は339dpiと、OneMix 3の359dpiと比べると余裕がある。Windows 10標準では200%スケーリングを推奨してくるが、150%のスケーリングでも十分実用的だと感じた。

 液晶はHDRに対応しており、Windows HD Color設定で「HDRビデオのストリーミング」の項目が「はい」となっていた。色味/色相ともに正確な印象で、写真/ビデオ鑑賞に耐えうる品質となっている。

 なお、P2 Maxに採用されている液晶はJDI製だ。このサイズのパネルはみなMIPIインターフェイスのため、本機は東芝製のeDP→MIPI変換チップ「TC358860XBG」を用ている。この液晶自体はランドスケープタイプのようで、フルスクリーン表示を行なう古めのDirect3D/Direct Drawアプリも問題なく表示できるのは評価していいだろう。

重量は実測667gだった
採用されている液晶はJDI製。明るく、コントラストも高い
表面は強い光沢で、タッチに対応するため指紋が気になる
OneMix 3の液晶はポートレートタイプのため、Direct 3D/Direct Drawアプリをフルスクリーンで表示させると回転して正常に表示できないが、P2 Maxならランドスケープモードのため問題ない

 インターフェイスは左側面にUSB 2.0(青く9ピンが用意されているが、速度的にUSB 2.0)と音声入出力、右側面にUSB 3.0、USB 3.0 Type-C(DisplayPort出力/USB PD充電対応)、Micro HDMI出力を搭載する。Micro HDMIは初代にあってP2で省かれたものだが、P2にあったmicroSDスロットはP2 Maxで省かれている。

 電源ボタンは指紋センサーを兼ねており、Windows Helloを利用してすばやくWindowsにログインできるのはポイント。また、ヒンジ部にWebカメラを備えるため、Web会議や知人/家族間コミュニケーションにも利用可能になった。

 NVMe SSDの採用で気になる熱だが、本体の大型化も手伝って一般的な利用シーンではP2より熱いと感じることはない。ただ、高負荷が続くと、右のパームレストがそれなりの熱を帯び不快になる。P2やOneMixではパームレストがないので気にならないが、それがある本機は気になるだろう。

 また、ヒートシンクやファン自体はP2から大きく進化したわけではないうえ、静音モードを備えていないので、CPU使用率に応じてすぐにファンの回転速度が上がったり下がったりして、静かな環境ではやかましい印象を受けた。製品版ではファンの回転数を抑えたうえで、P2同様の静音モードの搭載を強く望みたい。

製品パッケージ
内容物はシンプル
P2 Max本体
液晶が開く最大角度
右側面はMicro HDMI、USB 3.0 Type-C、USB 3.0
左側面はUSB 2.0と音声入出力

洗練された内部

 本機の底面カバーは9本のネジで留められており、外せばすぐに内部にアクセス可能だ。底面から見て本体左にメイン基板、右中央にバッテリ、右端にサブボード、手前にスピーカーを搭載するという、シンプルなレイアウトを採用している。

 P2では最大メモリが8GBだったが、P2 Maxは最大メモリが16GBとなっているため、2倍(4枚)のメモリチップを搭載する必要があり、そのため基板面積が増えている。ストレージもeMMC 1チップからM.2 2280となったため、その分のスペースも必要になった。P2からの大型化は必然の結果だとも言える。

 ちなみに本体底面のカバーの一部の素材が金属ではなくなっているが、これは底面に無線LANアンテナを1基搭載しており、電波の通りを良くするためだと推測される。もう1基のメインアンテナは液晶側に搭載されているので、本機はアグレッシブなダイバシティアンテナ構造を採用することで通信の質を上げていると言える。

 底面のアンテナはプラスチックのフレームに貼り付けられており、これがM.2 SSDの上に載っている。OneMix 3やMiniBookのように、底面の部分カバーを外すだけでM.2スロットにアクセスできないため注意されたい。

 メイン基板に接続されているケーブルは、バッテリ、サブ基板ブリッジ、CPUファン、ディスプレイ、電源ボタン/指紋センサー、無線LANアンテナのみとなっている。スピーカーは接点で接続、キーボードのタッチパッドはサブ基板に接続されているため、総合的に見ても本機はメンテナンスはしやすい部類に入る。

本体底面は9本のネジで留められている。中央のみ素材が金属ではないが、これはアンテナがあり、電波を通しやすくするためだ
本体を開けたところ
M.2 SSDは換装できるが、さきにアンテナつきのフレームを外す必要がある
メモリはSamsungのK4E8E304EBEGCGだ
ITEのスーパーI/Oチップも見える
東芝のeDP→MIPI DSI変換チップ
無線LANモジュールはIntel製の7265だ

期待どおりの性能を発揮

 それでは最後にベンチマークテストに移りたい。先述のとおり本機は試作機であるため、量産機では選択できないCore i5-8200Yが搭載されている。GPDによれば、テストしたところCore i5-8200YとCore m3-8100Yの性能差はほとんどなかったとしているが、スペック上、CPUベースクロックで200MHz/Turbo Boostクロックで500MHz、GPUの最大動作クロックで50MHzの差があるので、本機のスコアはあくまでも参考としていただきたい。

GPD P2 MaxOneMix 3GPD Pocket 2
CPUCore i5-8200Y(試作機のみ)Core m3-8100YCore m3-7Y30
メモリDDR3L-1866 16GBDDR3L-1866 8GBDDR3L-1333 8GB
ストレージM.2 NVMe SSD 512GBBGA NVMe SSD 512GBEMMC 5.1
液晶2,560×1,600ドット表示対応8.9型2,560×1,600ドット表示対応8.4型1,920×1,200ドット表示対応7型
OSWindows 10 Home
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)213×149.5×14.2mm204×129×14.9mm181×113×14mm
重量(PC Watch計測値)667g670g517g
PCMark 10
PCMark 10 score27382,6702317
Essentials63196,1574886
App Start-up Score80907,3365033
Video Conferencing Score55815,7055183
Web Browsing Score55895,5784473
Productivity45564,8894495
Spreadsheets Score41806,0695413
Writing Score49683,9393733
Digital Content Creation19361,7181538
Photo Editing Score24402,1341873
Rendering and Visualization Score11191,007899
Video Editing Score26612,3602164
3DMark
Fire Strike802758621
Graphics score892836699
Physics score3,7583,1683,251
Combined score274268204
Sky Diver2,5382,4842,532
Graphics score2,4792,3992,480
Physics score2,8693,1893,028
Combined score2,5572,3382,334
Cloud Gate4,9884,2374,007
Graphics score6,6315,6005,297
Physics score2,6722,2882,164
Ice Storm Extreme29,15624,13314,570
Graphics score28,75423,33613,629
Physics score30,65727,41519,216
ドラゴンクエストX ベンチマーク
最高品質(1,920×1,080ドット)2,9362,6311,942
標準品質(1,920×1,080ドット)3,6873,2432,446
CrystalDiskMark 6.0.1 UWP x64 (500MiB/1回)
Seq Q32T1 Read1,633.51,425.9192.2
4KiB Q8T8 Read573.3348.127.82
4KiB Q32T1 Read322265.929.8
4KiB Q1T1 Read39.9836.930.48
Seq Q32T1 Write1,429.9420.3116.1
4KiB Q8T8 Write83.8297.553.79
4KiB Q32T1 Write95.9197.753.76
4KiB Q1T1 Write61.9473.2937.69
Cinebench R20
CPU562531未計測

 結果からすると、P2 Maxは期待どおりの性能を発揮していると言える。競合のOneMix 3より高性能なのはCPUとSSDの違いであり、量産機では同じCPUが採用されることを踏まえると、演算性能については同等、ストレージ性能についてはシーケンシャルライトで優れると見ていいだろう。

 競合は上位の「OneMix 3S Platinum Edition」でCore i7-8500Y/メモリ16GB/512GB SSDを搭載するため、P2 Maxの優位性はなくなる。ただP2 Maxはその分価格が抑えられているので、コストパフォーマンスで勝負することになりそうだ。

 気になるバッテリ駆動時間だが、輝度50%/高パフォーマンス設定でPCMark 10 Modern Officeのバッテリテストを実施したところ、バッテリが残り19%になったところで4時間4分駆動してテストが終了した。バッテリ切れまでは5時間といったところだろうか。UMPCとしては短く、液晶の大型化、メモリ/SSDの大容量化が影響していると思われる。

選択肢が増えた中国製UMPC

 もともと7型で2機種しかなかった中国製のビジネス向けUMPCだが、ここにきて急激にバリエーションが増えた。どのように製品を選択すれば良いか、筆者の目線でアドバイスしたい。

 まず、7型以下と8型以上は明確な線引きができる。ジャケットやズボンのポケットに入るのが7型以下、入らないのが8型以上だ。完全とまでにはいかないが、7型ならスマホのように持ち運べ、スマホより高速にタイピングできる。また、立ったままの操作もラクだ。文書作成やWebブラウジングといった用途ならP2、ペンや2in1といった機能がほしいなら「OneMix 2S」だろう。

 一方8型以上はポケットに入らないため、カバンに入れて持ち運ぶことになり、感覚としてはノートPCに近い。また、立ったままの操作もきつくなるので、机がある環境での使用が前提となるだろう。

 そのなかでもテキスト入力作業が多いのならMiniBookだ。フルピッチキーボードや、クセが少ない配列は唯一である。安いCeleronモデルもあり、選択の幅も広い。ペンを使うクリエイティブな作業なら、OneMix 3シリーズしかない。4,096筆圧レベルのSurfaceペンに対応するほか、上位モデルでは16GBも選択でき、お絵かき用にはもってこいだろう。

 一方P2 Maxは突出した特徴はないものの、もっともノートPCに近いユーザーインターフェイスを備えているほか、ディスプレイも広々しており、UMPCながらゆったり使える。キーボードは弱点だと言えるが、ポインティング操作がもっとも快適で、一般ユーザーにもとっつきやすい。総合的な操作感としてはMiniBookとOneMix 3を上回る。

 「ポケットに入るWindows PCがほしい」、「どこでも快適にテキストエディタを使いたい」、「外出先に気軽に持っていけるお絵かきデバイスがほしい」といった明確な用途が決まっているのであれば、他製品を選ぶべきだと思うが、そうでないのであれば、P2 Maxがベストだ。スペックの割には安価で、サブ機としてはまたとない選択肢になるだろう。