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「ROG Ally X」はただのマイナーチェンジじゃない。より速く、そしてより使いやすく

ASUS「ROG Ally X(RC72LA-Z1E24G1T)」。直販価格は13万9,800円

 ASUSは7月24日より、ポータブルゲーミングPC「ROG Ally」の最新モデル「ROG Ally X(RC72LA-Z1E24G1T)」を販売開始する。AMDのハンドヘルドPC向けプロセッサ「Ryzen Z1 Extreme」を搭載する点は従来の上位モデルと変わらないものの、メモリの高速化および増量やストレージ容量の増加に加え、本体スティックやボタン位置の調整、さらにバッテリ容量が2倍となるなど、既存モデルのフィードバックを受けて各部をブラッシュアップしたモデルだ。

 SoCが据え置きとはいえ、既存モデルで不足が囁かれていたメモリ容量が1.5倍に増え、動作クロックも上がったことで総合的なパフォーマンスが向上。本体重量が70gほど重くなった反面、充電ができない環境での稼働時間も大きく伸びたことを考えれば、ハンドヘルドPCでヘビーにゲームをプレイしたいユーザーにとってはこれまで以上に魅力的なモデルと言えそうだ。

 この記事ではASUS JAPANから貸与されたRC72LA-Z1E24G1Tの製品サンプルをもとに、製品の外観や特長、ゲームベンチマークによる性能評価などを紹介しよう。

メモリの高速化/大容量化でパフォーマンスアップ

【表】ROG Ally Xのスペック
型番RC72LA-Z1E24G1T
CPURyzen Z1 Extreme(8コア、16スレッド、 3.3/5.1GHz、24MBキャッシュ)
GPURadeon Graphics(最大8.6TFLOPS/FP32)
メモリ24GB (LPDDR5X-7500)
ストレージ1TB (PCI Express Gen4 x4 SSD)
ディスプレイ7.0型 1,920×1,080ドット タッチパネル液晶 光沢
OSWindows 11 Home
ネットワークWi-Fi 6E(IEEE 802.11ax/ac/a/b/g/n)
本体サイズ280.6×111.3×24.7~36.9mm
重量約678g
バッテリ駆動時間約11.7時間
価格13万9,800円
【表】従来のROG Allyのスペック
型番RC71L-Z1E512RC71L-Z1512
CPURyzen Z1 Extreme(8コア、16スレッド、 3.3/5.1GHz、24MBキャッシュ)Ryzen Z1(6コア、12スレッド、3.2/4.9GHz/ 22MBキャッシュ)
GPURadeon Graphics(最大8.6TFLOPS/FP32)AMD Radeon Graphics(最大2.8TFLOPS FP32)
メモリ16GB(LPDDR5-6400、8GB×2)
ストレージ512GB(PCI Express Gen4 x4 SSD)
ディスプレイ7.0型 1,920×1,080ドット タッチパネル液晶 光沢
OSWindows 11 Home
ネットワークWi-Fi 6E(IEEE 802.11ax/ac/a/b/g/n)
本体サイズ280.0×111.38×21.22~32.43mm
重量約608g
バッテリ駆動時間約10.2時間
価格10万9,800円8万9,800円
「Ryzen Z1 Extreme」の情報を「CPU-Z」で取得。これまでのROG Allyの上位モデルと同様だ
「GPU-Z」で取得したGPU情報。本体のメモリ容量が増えたことで、内蔵グラフィックスに割り当てられるメモリ容量が従来の2倍になっていることは無視できない

 冒頭で述べている通り、RC72LA-Z1E24G1Tの搭載SoCは8コア/16スレッドのRyzen Z1 Extremeで、これまでROG Allyの上位モデルに搭載されていたものと同等だ。当然ながら内蔵グラフィックスも変わらず、12CU版のRadeon Graphics(最大8.6TFLOPS/FP32)を利用することになる。

 反面、メモリやストレージ周りに大きな仕様変更が入っているのが、RC72LA-Z1E24G1Tのスペック面における大きな特徴と言えるだろう。特にメモリは24GB LPDDR5X-7500となり、ROG Allyの16GB LPDDR5-6400から速度/容量ともに大幅アップした。

 実際は24GBのうち、8GBが内蔵グラフィックスのメモリとして割り当てられており、利用できるVRAM容量は従来の2倍となる。近年の高画質ゲームタイトルがフルHD解像度の描画であっても多くのVRAM容量を要求しがちなことを思えば、ゲームの快適さに与える影響は少なくないだろう。動作クロックの向上についても同様で、間接的にSoCのポテンシャルを引き出しやすくなるスペック変更となっているわけだ。

ROG Allyは2モデルともM.2 2230のSSDを採用していたが、ROG Ally Xのストレージ規格はより一般的なM.2 2280に変更された。大容量化もしやすいがメーカー保証が失効する点には注意

 ストレージに関しても、容量は512GBから1TBとほぼ2倍になっており、近年の1本で100GBを超えるような大容量化したPCゲームを多くプレイしたい場合にも余裕が生まれやすくなっている。PCI Express 4.0 x4接続である点は変更がないが、内部的にはSSD自体の規格がM.2 2280に変更されているのも、地味ながら一部ユーザーにとってはありがたい点だろう。

 従来モデルで採用されていたM.2 2230はカード長が短い規格で、デスクトップPCやノートPCで一般的に利用されているM.2 2280よりも調達しにくく、容量2TB(2,048GB)を超える製品も現時点では存在しない。要するに自分でストレージを交換して大容量化したい、というユーザーにとっては少しハードルが高かったわけだ。自分で交換した場合はメーカー保証が失効してしまうものの、より大容量化したい場合は覚えておくといいだろう。

バッテリ容量は80Whと、従来から約2倍に。以前は満充電でも重いゲームだと1時間半程度でバッテリが切れていたので、ちょっとした持ち運びにも対応しやすくなった

 もう1つ、直接的な性能アップに関わることではないが、内蔵バッテリが従来の2倍となる80Whに増加していることも大きなトピックと言える。従来モデルは高負荷なゲームをプレイすると2時間未満でバッテリ切れになるなど、充電できない環境での稼働時間の短さが課題となっていた。筆者は今回、実際にRC72LA-Z1E24G1Tで「Cyberpunk 2077」を遊んでみたが(パフォーマンスモードは「Turbo」)、充電100%の状態からおよそ2時間45分ほどプレイできた。体感として、旧モデルのNintendo Switchと同じぐらいには長く扱えるようになった感じだろうか。

 なお、通信機能はWi-Fi 6E、Bluetooth 5.4が利用可能で、こちらは従来と変わらない。

本体カラーはブラックに変更。再設計された本体形状やボタン/スティック類にも注目

 本体の外観はパッと見だとカラーが変わった程度に見える上、解像度フルHD・リフレッシュレート120Hzの7型液晶タッチパネルは性能据え置きだが、そのほかの多くの箇所が再設計されているのは見逃せない。

本体右側面。一見従来モデルとほとんど変わらないが、バンパー・トリガー部分の角度などが調整されている
本体左側面
本体背面。2つのマクロボタンはかなり小型化している
実測での重量は約680gだった

 まず、本体サイズは280.6×111.3×24.7~36.9mmで、従来(280×111.38×21.22~32.43mm)から特に高さ(厚み)が増しているのが目立つ。主にバッテリを変更したことによる影響と思われるが、重量も約678gと、過去のモデルから70gほど増加した。

 このあたりは人によって捉え方も変わってくるかと思うが、筆者はこの70gの変更が結構腕にズッシリ来るように感じた。デスクや膝で自分の腕を支えながらプレイするぶんには問題ないが、中空に腕を固定してプレイする時は辛さを感じやすい。「重い」と言われがちだったLCD版のSteam Deck(669g)よりわずかに重量があるわけで、このあたりは諸々のスペックアップとトレードオフな点として受け入れる必要がありそうだ。

グリップ形状が握り込みやすいように形状変更された。マクロボタンも誤って押し込みにくい位置に調整されている

 また全体としては、左右グリップ部分がより一般的なゲームコントローラに近しい丸みを帯びた形状となり、握り込みやすくなっている。同時に、背面に備える2つのマクロボタンは意図しない押下を減らせるよう若干小型化された。

 実際に本体を持ってみるとこの変更の意図は分かりやすく、容易に指は届くが間違って押し込むことは極力なさそうな、絶妙な位置にマクロボタンが配置されている。操作のストレスを減らせるという意味で、このあたりは非常に好印象だ。

ジョイスティックは高耐久になり、D-Padも8方向入力がしやすいようサイズ/形状が変わっている
A/B/X/Yボタンはぐらつきが少なく、押下感がはっきりしている

 同時に、左右トリガー/バンパーやD-Padは使いやすくなるよう形状/角度が変更されており、特にD-Padは斜め方向の押下がしやすくなった点が目立つ。加えてA/B/X/Yボタンは形状こそ据え置きだが、よりぐらつきが少なく、パチパチと小気味よく押せるようになっている印象だ。フィーリングには大きな影響はないものの、ジョイスティックの耐久性が従来の200万回から500万回へ向上しているのも安心感がある。

上部にまとまったインターフェイス。外部GPU接続専用だった「ROG XG Mobile インターフェイス」は廃止となり、代わりにUSB4ポートが配置された。結果的にUSBポートが2つ利用できるようになったのは嬉しい
本体底面

 インターフェイス類にも若干の変更が入っている。まず、従来採用されていた外付けGPU接続用ポート「ROG XG Mobile インターフェイス」は廃止となった。代わりにUSB4 Type-Cポートが新設されており、外部GPUとの接続はこちらを使うことで可能となる。USB 3.2 Gen 2 Type-Cポート、microSDカードスロット、ヘッドフォン・マイクジャックといった装備は据え置きだが、結果的にUSB Type-Cポートが2つ利用できるようになったことで、取り回しは良くなったと言っていいだろう。

上部中央に追加された通気口もあり、エアフローが改善している
付属品として本体スタンドになるパーツがパッケージに同梱されている

 内部的にはマザーボードやファンを再設計し、排熱性を高めているのもポイント。冷却ファンの小型化、フィンの薄型化といった改良を施した反面、本体上部に通気孔を増やしたことで排熱性能が向上し、エアフローが約10%改善、タッチパネルの温度が6℃低下したとしている。実際、背面や上部の通気口付近はそれなりに熱くなるものの、コントローラーのグリップをしっかり持ってプレイしているぶんには本体の発熱はほぼ気にならなかった。

統合管理アプリ「Armoury Crate SE」の最新バージョンはカスタマイズ性が向上
従来通りコントロールモードからはボタン割り当てやマクロ設定、各種アップデートの一括適用、ボタン1つで呼び出せるコマンドセンターのメニュー編集などに対応する
キーマッピングで表示される本体ビジュアルがROG Allyのままなのはご愛敬

同一SoCでも従来モデルよりハイパフォーマンスに

 では、実際にベンチマーク検証に移ろう。今回はRC72LA-Z1E24G1Tに加え、一部のベンチマークでは過去に取得したROG Ally上位モデルのRC71L-Z1E512、下位モデルのRC71L-Z1512の結果を併記している。なお、ベンチマーク中はROG Ally本体にACアダプタを接続し、専用ユーティリティ「Armoury Crate」の「オペレーティングモード」を最大パフォーマンスとなる「Turbo」に設定している。

 まずは「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」の結果からだ。画面解像度は本体の最大解像度である1,920×1,080ドットに固定し、映像品質は「中」に設定。フレームレート上限を「120」、垂直同期は「OFF」としている。序盤のミッション「テスターAC撃破」で一定コースを移動した際の1分間のフレームレートを、「CapFrameX」で計測した。

ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON

 従来モデルは過去の計測結果なので厳密な比較でないことには留意いただきたいが、同じSoCを載せているはずのROG Ally上位モデルRC71L-Z1E512と比べても、RC72LA-Z1E24G1Tの結果は目に見えて良好であるのが興味深い。

 メモリ周りの改善が効いているためだと推測できるが、特に最小フレームレートが大きく改善している点は大いに評価できるだろう。実際にプレイしていても読み込み由来のカクつきなどはほとんど感じられず、終始快適にゲームを堪能できたのは驚きだった。

 もう1つ、比較的高負荷なオープンワールドゲームである「ホグワーツ・レガシー」の結果も見てみよう。画面解像度は1,920×1,080ドットに固定し、全体の品質プリセットは「中」に設定。そのままでは負荷が高すぎるため、アップスケールタイプに「AMD FSR2」、アップスケールモードに「AMD FSR2クオリティ」を設定した状態での計測を実施している。ホグワーツ魔法学校内の一定コースを移動した際の1分間のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。

ホグワーツ・レガシー

 こちらも従来モデルに比べ、平均/最小フレームレート共に上回る結果を出している。筆者のテストでは移動中にホグワーツ魔法学校の校舎内から中庭へ出ていく工程を挟んでいるのだが、従来モデルは屋外に出る際のマップデータ読み込み時にフレームレートを大きく下げていたところ、RC72LA-Z1E24G1Tはフレームレートを維持したまま移動できたことが優れた結果につながったようだ。

 いずれにせよ、これだけ高負荷なタイトルで50fps近い平均フレームレートが出せれば、ハンドヘルドPCとしては十分ではないだろうか。

 最後に「Cyberpunk 2077」の結果を見てみよう。こちらはRC72LA-Z1E24G1Tのみで、ゲーム内ベンチマークモードを使用してフレームレートを計測している。解像度は本体の最大解像度である1,920×1,080ドットで、画質設定はプリセット「Steam deck」/「中」/
「ウルトラ」の3パターンを選択し、それぞれの結果を比較してみた。

Cyberpunk 2077

 いずれの解像度でも結果はそれほど悪くないが、特に「Steam deck」および「中」プリセットでは平均フレームレートが40fps台に到達し、ハンドヘルドのゲーミングPCとしては抜群に快適に映像を描画できていることが分かる。相当な高負荷である「ウルトラ」でさえ平均フレームレートは29.3fpsと、極端にカクつかない状態でプレイ可能だ。

 従来モデルのパフォーマンス的な課題をかなりの部分で改善したのがRC72LA-Z1E24G1T、と言っても差し支えないだろう。

高価にはなったが満足度も高し

 ここまで見てきた通り、RC72LA-Z1E24G1Tは従来モデルの性能/機能面を大幅にブラッシュアップし、ハンドヘルドゲーミングPCとしての完成形に近づいた製品と言っていいだろう。

 実際に利用してみないとイメージしにくいかもしれないが、ポータブルゲーム機の小さな画面で解像度フルHD、なおかつ60fps近いフレームレートが出ていると、映像はかなり美麗な印象になるし、プレイ時の満足感も高い。現行のNintendo Switch、あるいは過去の携帯ゲーム機を触った経験がある人ほど、この種の驚きは感じやすいだろう。自宅にゲーミングPCを置けない人にとっては、ぼちぼちメインのPCゲーム用端末として利用することを検討してもいい段階に入ってきているように思う。

 一方で直販価格はほぼ14万円と、購入のハードルが少々高めであるのは悩ましい点だろう。ROG Ally上位モデルとは3万円、下位モデルとは5万円の価格差がある。しかし、いざROG Ally Xの実機を見てしまった今となっては、従来モデルは細かい部分で粗が目立つ印象も否めない。今から購入するのであれば、ROG Ally Xをオススメしたい。

新たな王者となるか?「ROG Ally X」をライブ配信で実機解説!【7月22日(月)21時より】

 注目のゲーミングPC新モデル、「ROG Ally X」をライブ配信で解説します。特徴やスペックの解説はもちろん、実機の細部を4K画質で余すことなく伝え、実動デモで使い勝手もレポート。気になるベンチマーク結果もチェックします。解説は劉デスク、MCはPADプロデューサーの佐々木がつとめます。