Hothotレビュー

なるほどMax化したらそうなるか。5型スマホ「Jelly Max」を試す

Jelly Max

 ユニークなスマートフォンを輩出するUnihertzの最新作「Jelly Max」が、クラウドファンディングを開始した。今回、製品出荷に先立ってサンプルを入手したので、簡単にレポートしていきたい。

 なお、今回入手したサンプルは、カメラ周りの実装が未完のため評価から省く。またソフトウェアの一部仕様も実際の製品版とは異なる可能性がある。あくまでも「製品版と同等のハードウェアを備えているもの」と捉えていただきたい。

同社を代表する小型スマホ「Jelly」シリーズが“Max”化

 JellyシリーズといえばUnihertzを代表するスマートフォン。初代にあたる「Jelly Pro」は2018年に日本国内で販売開始され、2.45型ディスプレイという異色の小ささで、ガジェットマニアの間で一躍話題になった。「Jelly 2」はディスプレイが3型と大型化されたが、Helio P60という実用十分スペックにFeliCaを搭載したことも日本で高い人気を博した。

 2023年に投入された後継の「Jelly Star」は、Jelly 2のサイズをほぼ維持しながらプロセッサがHelio G99となったことで性能が大幅にアップ。FeliCaは残念ながら非搭載となったが、透明な筐体でガジェット好きの物欲をそそる仕上がりだった。そして今回投入された最新版が、Jelly Maxというわけだ。

 今回はスマートフォン業界の慣例に習った名前“Max”の通り、ディスプレイが大型化された。そのサイズは5型ということで、Jelly Proと比較するとふた回りほど大きくなっている。そのためJellyシリーズの小ささに期待を寄せていたユーザーから見れば、失望するかもしれない。

 しかし5.05型という数字は、格安SIMフリースマートフォンの黎明期の「ZenFone 5」や「Liquid Z530」と同じだが、Jelly Maxのほうが細長くなおかつ上下も大きく削ぎ落とされているので、それらと比較すれば小さく感じられるのも確かだ。

 一方、Jelly Starで取り入れられた透明感のある筐体はJelly Maxでも受け継がれた。また、側面から除くアンテナのパターンや、NFCのコイルや回路パターンをあしらっているなど、他社のスマートフォンにはないUnihertzらしいユニークなデザインは残している。

Jelly Max(左)とJelly Star(右)
意外にも薄くなっている
過去の小型スマートフォンとの比較。広告を見た当初「iPhone 4ぐらいかなぁ」と思っていたがほぼビンゴ。ただし厚みがある。ちなみにiPhone 4は3.5型だ
透明な背面など、Jelly Starの要素を踏襲している

 ティザーなどで「最小の5Gスマートフォン? 」と謳われているが、この答えは「否」となる。日本では4.9型の「BALMUDA Phone」があるし、「iPhone SE(第3世代)」も4.7型だからだ。そしてJelly Maxは何よりも厚くて重い。実機を測ったところ、厚さは約17mmと一般的なスマートフォンの2倍ほど(ただJelly Starからは意外と薄型化している)。重量も実測で184gと普通のミドルレンジスマートフォン並み。どこからどうみても「最小」とは言い難い。

 ただ本機は背面が茶碗のようになだらかにすぼんだフォルムをしており、手に握った際に「エッジに当たっている感」がどこにもなく、ある程度使い込んだ石鹸を手にしているかのような感じで、手のひらへのフィット感が極めて良い。

 このフィット感の良さからか、試用したこの数日、スマートフォンに用がなくても握ってみたいという衝動に駆られて何回も手にしてしまった。おそらく、ハンドスピナーに似た、ストレス解消グッズ的な何かがJelly Maxにはあるのだろう。この「つい握りたくなる衝動に駆られること」こそが、最小や最軽量や最薄といった既成概念にとらわれない、Jellyシリーズが目指したアイデンティティなのかもしれない。

重量は実測184gと、普通のスマートフォンになってしまった
手にするとこんな感じ
なめらかなフォルムで、使わなくてもついつい手にしてしまう

赤外線ブラスターなどJellyの特徴的な機能を継承

 続いては機能的なところを確認していこう。本体右側面は下の黒いボタンが電源、赤いボタンがプログラマブルボタン。左側面は音量調節とSIMカード/microSDカードスロットを装備。底面にはUSB Type-Cがあり、上部には赤外線ブラスターがある、といった具合だ。

右側面は電源ボタンとプログラマブルボタン
左側面は音量調節ボタンとSIMカード/microSDカードスロット
上部。赤外線ブラスターを搭載
底面はUSB Type-C
SIMトレーは3つの機能から2つを選択する形式

 このうちプログラマブルボタンや赤外線ブラスターはJelly 2から一貫して搭載されており、代表的な機能となっている。筐体の小ささを生かして万能ツールのように常にポケットに忍ばせておき、ボタン一発でLEDライトを付けて暗所を照らしたり、ソファでくつろぎながらさまざまな家電やAV機器を操作することを想定しているのだろう。180gという重量を常にポケットに入れておくかという話ではあるのだが。

 ディスプレイは1,520×720ドット表示対応の5.05型。リフレッシュレートは60Hz止まりだ。ディスプレイ占有率を高めるために、上部左側はパンチホール式のカメラとなっているほか、下部の従来からあったハードウェア的なナビゲーションボタンは廃止され、ソフトウェア表示またはジェスチャー操作となった。

 ただ筆者が試した限りでは、下部からのスワイプインによるタスクの切り替えやアプリ終了はやや鈍く反応しないこともあったため、ここは従来のJellyシリーズに倣って3ボタンナビゲーションのほうが無難そうだ。

 一方でディスプレイの大型化によって実用性は大きく高まった。Jelly Star程度のサイズだと、Webブラウジングでもメールでもスクロールをしなければならないが、本機ではその操作が大幅に減る。また、ソフトウェアキーボードの操作やゲームのプレイも、従来のように指先を立てることなく行なえるようになった。

 背面には指紋センサーとNFC、通知LED(左右)を搭載している。指紋センサーの認識精度はまずまずだったが、本機は顔認証もサポートしているため、使用頻度は低いかもしれない。一方NFCは搭載されているものの、FeliCa対応はなくなった。Jelly 2以外では搭載されていないため、残念ながら今後も搭載される可能性は低いだろう。

 筐体はかなり大型化されたのだが、その一方でバッテリ容量も2,000mAhから4,000mAhに倍増した。この容量は現代的なごく一般的なスマートフォンと同等である。実際に3Dゲームをプレイしていても、急激にバッテリが減るといったようなことはなかった。

 バッテリの大容量化に伴い、付属の充電器が66Wに強化されたのもトピック。同社によれば20分で90%まで充電できるとのこと。実際にACアダプタの仕様を確認したところ、USB PD 3.0 PPSなどをサポートしている多機能なものであった。Jelly Maxに充電するプロトコルや電力は、手元のテスターでは正しく確認できなかったが、充電がかなり早かったのは確かだ。

付属ACアダプタの対応充電プロトコル

 なお、カメラは評価しないがスペックだけ述べると、背面が1億画素メイン+800万画素望遠、3,200万画素前面。ソフトウェアから取得したセンサーの情報は順にOmniVisionの「OVA0B」、SK hynixの「Hi-847」、Samsungの「ISOCELL GD1(S5KGD1SP)」だ。

背面カメラ/指紋センサー部のアップ
付属のACアダプタは66Wのため大きめ

Dimensity 7300搭載で、性能がまたジャンプ

 本製品のもう1つのトピックは、プロセッサにMediaTekが5月末に発表したばかりのDimensity 7300を搭載していることだ。製品名の7000番台から分かる通り、ミドルレンジをターゲットにした8コアのCPUではあるのだが、TSMCのこなれきた第2世代4nmプロセスを利用して製造されており、まずまずの性能を低消費電力で実現している。

 このプロセッサは時系列的にDimensity 7200シリーズの後継なのだが、アーキテクチャ的に一進一退となっているので、整理していこう。

 CPUのbigコアには2.5GHz駆動のCortex-A78を4つ、LITTLEコアには2GHzのCortex-A55が採用されている。Cortex-A78はARMv8-A命令アーキテクチャで、さすがにARMv9命令のCortex-A710を備えたDimensity 7200と比べると見劣りする。しかし2021年のハイエンドスマートフォンに採用されたSnapdragon 888のうちの3つのコアと同等で、今なお十分といえる性能だ。

 一方GPUは、2022年にArmが発表した第4世代ValhallアーキテクチャのMali-G615を2コア搭載する。こちらもDimensity 7200のMali-G610 MC4と比較すると世代こそ進化したものの、コア数は2つ減ってしまった。このため性能的にはローミドルの域を出ないのだが、Jelly Maxのディスプレイは解像度は1,520×720ドットとフルHDよりも大幅に低くGPU負荷も相対的に軽くなるので、UnihertzとしてもDimensity 7300でいいと判断したのだろう。

 ミドルレンジ帯としては比較的下位の性能ではあるのだが、Jelly Starに搭載されたHelio G99と比較すると5G対応にもなったほか、性能が一段とジャンプしており、3Dを含む現代的なアプリケーションもまずまず動作するレベルに引き上げられているのがトピックと言える。なお、Dimensity 7200は「Redmi Note 13 Pro+ 5G」や「Nothing Phone (2a)」に採用された実績があり、Dimensity 7300は先日発表された「CMF Phone 1」に採用されている。

 というあたりで実際にベンチマークで性能をチェックするために、「Antutu Benchmark V10.2.9」、「PCMark」、「3DMark」、「Geekbench 6」を実施してみた。比較用に、以前レビューしたJelly Star(Helio G99搭載)の結果を並べた。なお、Jelly StarはAntutuの通常の3Dベンチマークが実施できず、「3D Lite」になっているため直接のスコアは比較できない。

【表】Jelly MaxとJelly Starの仕様比較
Jelly MaxJelly Star
CPUDimensity 7300Helio G99
メモリ12GB8GB
ストレージ256GB256GB
ディスプレイ1,520×720ドット5.05型854×480ドット3.03型
OSAndroid 14Android 13
Antutu Benchmark V10のスコア
PCMark for Androidのスコア
Geekbench 6 CPUスコア
Geekbench 6 GPUスコア
3DMarkスコア

 結果、Dimensity 7300はHelio G99を大きく上回り、現代的なミドルレンジ帯らしい結果を残した。特にCPUの性能的にはCortex-A78相応で、日常的な処理には十分な性能。Webブラウジングや動画視聴でもたつくことは一切なかった。

 一方GPUは確かに弱いには弱いのだが、それでもHelio G99の約2倍という結果を残した。軽めの3Dゲームや、重い最新3Dタイトルでも画質の設定次第ではプレイ可能である。おそらく1,520×720ドットという“低解像度”が、GPUの描画負荷を軽減しているのだろう。

 実際に3D描画負荷が高い「崩壊スターレイル」などをプレイしてみたが、上限60fpsに設定した上で画質設定を「中」に設定したところ、戦闘シーンによってはフレームレート低下が見られるものの、十分にプレイ可能なレベルだった。読み込みなどもスムーズで、フラグシップのゲーミングスマートフォンと遜色ない。

崩壊スターレイルは画質を抑えれば普通にプレイ可能だった

 また、プレイ中の熱は比較的抑えられているのもポイントで、1時間ほどプレイしても表面温度は40℃未満であり、熱も背面で均一に拡散されていて不快感はない。バッテリ消費も20%程度で、これなら5時間近くプレイ可能な雰囲気だ(負荷によると思うが)。欲張らなければ、案外ゲーミングサブ機としてもイケるのではないかと思うほどだ。

ゲームプレイ中の表面温度は40℃程度。プラスチックのため熱く感じることもない

趣味か実用かの狭間

 旧機種のJelly 2やJelly Starと比べると、Jelly Maxは趣味性よりも実用性を重視した端末だ。Jelly 2やJelly Starは確かに誰にでも自慢できるほど小さいのがウリだが、何に使ったの?と言われると、メールやメッセージの確認、ちょっとした動画/音楽程度には使う程度だった。

 それがたとえばメッセージ返信--筆者のように、音声入力もしたくなければ、ソフトウェアキーボードでもフリックではなくQWERTY入力を使いたがるようなキーボード依存症のような人--には、Jelly Starはいささか辛い。また、Helio G99である程度ゲームはプレイできることにはできるのだが、操作性はどうか?と言われれば微妙だったのは否めない。

 その操作性を改善することで、限定的だった使い道を広げたのが今回のJelly Maxである。そういう意味では、「後継機」ではなく同じシリーズ名を冠した「姉妹機」という表現が正しい。「iPhone 12 mini」と「iPhone 15 Pro Max」ぐらいの関係性だろう。もっともJelly Starも併売するようなので、好きな方を選択すればよい。

 Jelly Maxは現在Kickstarterで出資を募っており、リターン(製品)が得られる出資額は263ドル、つまり約4万2,000円といったところ。価格で選ぶと、「OPPO Reno11 A」や「motorola edge 40」、「AQUOS sense8」など、本機よりサイズは大きいのに軽いという実用的な端末は存在する。しかし“Jelly Starぐらいに小さいとちょっと使い道は思い浮かばないけど、ありきたりなサイズのスマホは嫌だ”というニッチなニーズを満たしてくれる1台であるのには間違いないだろう。