Hothotレビュー
M3 MaxのMacBook ProをM2/M1 Maxと比較。世代を重ねて性能はどれだけ上がったのか?
2023年11月28日 06:24
Appleは「M3」チップファミリーを搭載したプロフェッショナル向けノートブック「MacBook Pro」シリーズを10月30日に発表し、11月7日に発売した。
M3は、個人向けPC用としては初となる3nmプロセスで製造されたプロセッサ。今回はM3、M3 Pro、M3 Maxの3グレードを搭載したモデルを初めて一度に投入。M3搭載の14インチMacBook Pro、M3 ProまたはM3 Max搭載の14インチ/16インチMacBook Pro、そしてM3搭載のiMacがラインナップされている。
今回Appleより、M3 Maxを採用し、メモリ、ストレージを最大容量搭載した16インチMacBook Proを借用したので、実機レビューをお届けしよう。
個人向けPC用として初めて3nmプロセス製造のM3を採用
今回の「MacBook Pro(16インチ, Nov 2023)」の進化、変更点は下記の通りだ。
- 初期OS : macOS Ventura → macOS Sonoma
- プロセッサ : M2 Pro/M2 Max → M3 Pro/M3 Max
- メモリ : 16GB/32GB/64GB/96GB → 18GB/36GB/48GB/64GB/96GB/128GB
- ディスプレイ : SDR輝度500cd/平方m → SDR輝度600cd/平方m
- 重量 : 約2.15kg(M2 Pro) → 約2.14kg(M3 Pro)
- カラー : シルバー、スペースグレイ → シルバー、スペースブラック
上記以外のスペックについては変更なし。ご存じの通り、Apple Siliconは「ユニファイドメモリアーキテクチャ」を採用しており、パッケージ内にメモリも収められている。基板自体になんらかの変更が加えられている可能性はあるが、2021年10月26日発売「MacBook Pro(16インチ, 2021)」、2023年2月3日発売「MacBook Pro(16インチ, 2023)」から、主にSoCを載せ換えることで進化してきたわけだ。
このほかの細かなスペックについては下記の表を参照してほしい。
MacBook Pro(16インチ, Nov 2023) | MacBook Pro(16インチ, 2023) | |
---|---|---|
OS | macOS Sonoma バージョン14 | macOS Ventura バージョン13 |
プロセッサ | M3 Pro(12コアCPU、18コアGPU) M3 Max(14コアCPU、30コアGPU) M3 Max(16コアCPU、40コアGPU) ※NeuralEngineはすべて16コア | M2 Pro(12コアCPU、19コアGPU) M2 Max(12コアCPU、30コアGPU) M2 Max(12コアCPU、38コアGPU) ※NeuralEngineはすべて16コア |
メモリ | M3 Pro:18GB/36GB M3 Max(30コアGPU):36GB/96GB M3 Max(40コアGPU):48GB/64GB/128GB ※ユニファイドメモリ(LPDDR5) | M2 Pro:16GB/32GB M2 Max(30コアGPU):32GB/64GB M2 Max(38コアGPU):32GB/64GB/96GB ※ユニファイドメモリ(LPDDR5) |
ストレージ | 512GB/1TB/2TB/4TB/8TB SSD (8TBはM3 Maxのみ) | 512GB/1TB/2TB/4TB/8TB SSD |
ディスプレイ | 16.2型(3,456×2,234ドット、光沢、SDR輝度600cd/平方m、最大120HzのProMotion、ミニLEDバックライト) | 16.2型(3,456×2,234ドット、光沢、SDR輝度500cd/平方m、最大120HzのProMotion、ミニLEDバックライト) |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3 | |
インターフェイス | Thunderbolt 4×3、HDMI、SDXCメモリーカードスロット、3.5mmヘッドフォンジャック、MagSafe 3ポート | |
外部ディスプレイ | Pro:最大2台、Max:最大4台 | |
カメラ | Webカメラ(1080p) | |
バッテリ容量 | 100Wh | |
バッテリ駆動時間 | 最大15時間のワイヤレスインターネット 最大22時間のApple TVアプリのムービー再生 | |
本体サイズ | 355.7×248.1×16.8mm | |
重量 | M3 Pro:約2.14kg M3 Max:約2.16kg | M2 Pro:約2.15kg M2 Max:約2.16kg |
セキュリティ | Touch ID(指紋認証センサー一体型電源ボタン) | |
同梱品 | 140W USB-C電源アダプタ、USB-C - MagSafe 3ケーブル(2m) | |
カラー | シルバー、スペースブラック | シルバー、スペースグレイ |
M3チップファミリー最大のトピックは、個人向けPC用としては初めて3nmプロセスで製造されていること。また新世代のGPUが採用されており、リアルタイムにローカルメモリの使用量を割り当てる「Dynamic Caching」、光の反射を正確に計算・描画する「ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング」、ジオメトリ処理を効率化する「ハードウェアアクセラレーテッドメッシュシェーディング」などの機能が追加されている。次世代GPUに対応したゲームでは、リアルな照明、陰影、反射などが表現可能となるわけだ。
M3 Maxのパフォーマンスの目安は、今回のプレスリリースや製品公式サイトからは読み取りにくい。というのもM3世代がM2世代ではなく、M1世代と比較されているからだ。M3 MaxとM2 Maxの性能差についてはベンチマークで確認してみよう。
プロセッサ | M3 | M2 | M1 |
---|---|---|---|
製造プロセス | 3nm | 第2世代5nm | 5nm |
トランジスタ数 | 250億 | 200億 | 160億 |
高性能CPUコア | 4コア | 4コア | 4コア |
高効率CPUコア | 4コア | 4コア | 4コア |
GPUコア | 8または10コア | 8または10コア | 7または8コア |
最大メモリ | 24GB | 24GB | 16GB |
プロセッサ | M3 Pro | M2 Pro | M1 Pro |
---|---|---|---|
製造プロセス | 3nm | 第2世代5nm | 5nm |
トランジスタ数 | 370億 | 400億 | 337億 |
高性能CPUコア | 6コア | 6または8コア | 6または8コア |
高効率CPUコア | 6コア | 4コア | 2コア |
GPUコア | 18コア | 16または19コア | 14または16コア |
最大メモリ | 36GB | 32GB | 32GB |
プロセッサ | M3 Max | M2 Max | M1 Max |
---|---|---|---|
製造プロセス | 3nm | 第2世代5nm | 5nm |
トランジスタ数 | 920億 | 670億 | 570億 |
高性能CPUコア | 12コア | 8コア | 8コア |
高効率CPUコア | 4コア | 4コア | 2コア |
GPUコア | 30または40コア | 30または38コア | 24または32コア |
最大メモリ | 128GB | 96GB | 64GB |
なお価格については円安の影響を受けており、「MacBook Pro(16インチ, 2023)」のM2 Max搭載モデルは50万円をぎりぎり切っていたが、「MacBook Pro(16インチ, Nov 2023)」のM3 Max搭載モデルは下位が55万4,800円、上位で64万4,800円となった。またメモリ128GB、ストレージ8TBを搭載した最大容量構成では109万2,800円と大台を大きく超えている。
SoC | M3 Pro | M3 Max | ||
---|---|---|---|---|
CPU | 12コア | 14コア | 16コア | |
GPU | 18コア | 30コア | 40コア | |
メモリ | 18GB | 36GB | 36GB | 48GB |
ストレージ | 512GB | 1TB | ||
価格 | 39万8,800円 | 45万4,800円 | 55万4,800円 | 64万4,800円 |
SoC | M2 Pro | M2 Max | |
---|---|---|---|
CPU | 12コア | ||
GPU | 19コア | 38コア | |
メモリ | 16GB | 32GB | |
ストレージ | 512GB | 1TB | |
価格 | 34万8,800円 | 37万6,800円 | 49万8,800円 |
筐体デザインや優れたディスプレイは変わらず
MacBook Pro(16インチ, Nov 2023)の外観は前モデルと同様。キーボード、トラックパッド、ディスプレイ、スピーカー、Webカメラなどのスペックは同一で、打鍵感やクリック感などのフィーリングについても違いはない。
しかし使い勝手に関わる変更がひとつある。それはスペースブラックに限るが、ボディ表面に手脂、皮脂が付着しにくくなっていること。実際に本体を触ってみると、まったく付かないわけではないが、確かにあまり目立たない。
しかし、キートップは相変わらず手脂、皮脂が目立つ。ボディ表面に付着しにくくなっていても、キートップが汚れてしまっては台無しだ。かといって頻繁にクリーニングティッシュで拭いていると、キーボードのテカリが目立つようになってしまう。多くのWindowsノートPCで施されているように、すべてのMacのキーボードにも防指紋加工が採用されることを強く望みたい。
ミニLEDを採用した16.2インチLiquid Retina XDRディスプレイの画質は非常に優れている。締まった黒の表現については有機ELディスプレイには及ばないが、輝度、正確な発色、最大120HzのProMotionなどにより総合性能は文句なしに高い。今回は色域を計測できなかったが、プロの要求に応えるディスプレイだ。
また、フォースキャンセリングウーファーを備えた6スピーカーサウンドシステムは、空間オーディオに対応しているというだけでなく、そもそもの素の音がよい。2021年モデルに6スピーカーサウンドシステムが初めて採用されたが、現時点でも本シリーズを超える音質のノートPCは登場していないと思う。
M3/M2/M1 Maxで性能比較
最後にパフォーマンスをチェックしよう。今回は下記のベンチマークを実施している。バッテリ駆動時間以外のベンチマークはすべて、「エネルギーモード」を「高出力」に設定して行なっている。
- CPUベンチマーク「Cinebench R23.200」
- CPUベンチマーク「Cinebench 2024」
- CPUベンチマーク「Geekbench 5.3.1」
- CPUベンチマーク「Geekbench 6.2.1」
- 3Dグラフィックスベンチマーク「GFXBench Metal」
- ストレージベンチマーク「Blackmagic Disk Speed Test」
- ストレージベンチマーク「AmorphousDiskMark 4.0.1」
- メモリベンチマーク「AmorphousMemoryMark 3.0」
- 「Adobe Premiere Pro CC」で実時間5分の4K動画を書き出し
- 「iMovie」で実時間5分の4K動画を書き出し
- 「Adobe Lightroom Classic CC」で100枚のRAW画像を現像
- YouTube動画を連続再生
なおベンチマークスコアは、M2 Max搭載「MacBook Pro(16インチ, 2023)」、M1 Max搭載「MacBook Pro(16インチ, 2021)」と比較している。ただし一部ベンチマークは実施されていない点をご了承いただきたい。検証機の主な仕様は下記の通りだ。
MacBook Pro(16インチ, Nov 2023) | MacBook Pro(16インチ, 2023) | MacBook Pro(16インチ, 2021) | |
---|---|---|---|
SoC | Apple M3 Max | Apple M2 Max | Apple M1 Max |
CPUコア構成 | 高性能コア×16、高効率コア×4(計20コア) | 高性能コア×8、高効率コア×4(計12コア) | 高性能コア×8、高効率コア×2(計10コア) |
GPU | 40コア | 38コア | 32コア |
Neural Engine | 16コア | 16コア | 16コア |
メモリ | 128GB | 96GB | 64GB |
ストレージ | 8TB | 4TB | 2TB |
OS | macOS Sonoma バージョン14.1.1 | macOS Venture バージョン13.2 | macOS Monterey バージョン12.0.1 |
まずCPU性能だが、M3 Max搭載モデルはM2 Max搭載モデルに対して、Cinebench R23.200のCPU(Multi Core)で162%相当、CPU(Single Core)で116%相当、Geekbench 5.3.1のMulti-Core Score(Apple Sillicon)で151%相当、Single-Core Score(Apple Sillicon)で116%相当のスコアを記録している。マルチコア性能だけでなく、シングルコア性能も着実に向上している。
M3 Max搭載モデルをM1 Max搭載モデルと比較すると、Cinebench R23.200のCPU(Multi Core)は194%相当、Geekbench 5.3.1のMulti-Core Score(Apple Sillicon)は180%相当だ。Appleは「M3 MaxのCPU性能はM1 Maxより最大80パーセント高速」と謳っているので、それが裏付けられたことになる。
一方3Dグラフィックス性能については、M3 Max搭載モデルはM2 Max搭載モデルに対して、GFXBench Metalで94~110%相当、Geekbench 5.3.1のCompute(Metal)で112%相当、Compute(OpenCL)で123%相当。そして、M1 Max搭載モデルに対しては順に、100~151%相当、137%相当、143%相当のスコアを記録した。
Appleは「M3 MaxのGPU性能はM1 Maxより最大50パーセント高速」としているので、おおむねそれに近いスコアを記録したことになる。M3 Max搭載モデルのGFXBench MetalのスコアがM2 Max搭載モデルより一部下回っているのは、OSやベンチマークソフトのバージョン違いが原因である可能性がある。今回はあくまでも参考値としてほしい。
ストレージ速度については、M3 Max搭載モデルはM2 Max搭載モデルに対して、Blackmagic Disk Speed TestのWRITEで116%相当、AmorphousDiskMark 4.0.1で最大117%相当のスコアを記録している。
しかし、Blackmagic Disk Speed TestのREAD、AmorphousDiskMark 4.0.1の「RND4K QD1ランダムライト」で一部スコアの逆転が見られた。複数回実行しても結果は変わらなかったので、M3 Max搭載モデルの8TBストレージは全体的に性能が向上しているものの、一部項目でそのような特性を持っているようだ。
続いて実際のアプリの処理速度を見てみよう。まず「Premiere Pro」、「iMovie」で実時間5分の4K動画を書き出したところ、あまり大きな差は表われなかった。一方、「Lightroom Classic」で100枚のRAW画像を現像したところ、M3 Max搭載モデルはM2 搭載モデルに対して72%相当の所要時間で処理を終えている。
プロセッサの性能が向上していても、アプリによってはそれが反映されない場合がある。しかしプロセッサの性能を最大限まで引き出すように作られているアプリであれば、大きな恩恵を受けられるわけだ。
なお今回のM3 Max搭載モデルは128GBの大容量メモリを搭載している。大容量データをメモリ上に展開する3D CADなどのアプリでは、複雑なプロジェクトを編集する際のプレビュー、レンダリング速度が向上するだけでなく、メモリ不足に起因するクラッシュのリスクを大幅に低減してくれるはずだ。
バッテリ駆動時間については、エネルギーモードを「自動」に設定して、ディスプレイの明るさ6/16、音量6/16でYouTube動画を連続再生したところ、15時間41分55秒動作した。カタログスペックでは「最大15時間のワイヤレスインターネット、最大22時間のApple TVアプリのムービー再生」とされており、ストリーミング動画の再生においてスペック通りのスタミナ性能を記録したことになる。
適切な構成を選べば一般ユーザーにとっても魅力的なハイエンドモデル
今回のM3 Maxを搭載した「MacBook Pro(16インチ, Nov 2023)」はAppleのノートブックの最上位モデル。ベンチマークではM3 MaxがCPU、GPU性能を着実に向上していることを確認できた。また最大搭載メモリ容量が増やされたことも、3D CADを日常的に扱うプロフェッショナルユーザーから歓迎されていることだろう。
メモリ128GB、ストレージ8TBを搭載した最大容量構成は109万2,800円と大台を大きく超えており、高価であることは確かだ。しかし、最大容量はプロフェッショナルユーザーをターゲットにした構成だ。それが誰でも購入できる場所で売っているにすぎない。
さすがに最小構成の512GB SSDでは辛いという場合もあろうが、M3 Pro/18GBメモリ/1TB SSDで42万6,800円という構成であれば、ほかのスペックや品質を考えると納得感はある。適切な構成を選べば、一般ユーザーにとっても魅力的な製品になると言えよう。