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Windowsおじさん、MacBookを使ってみる。そして案外代替アプリがあることを知る
2024年7月31日 06:21
Windows一筋30年の筆者の手元に編集部所有のMacBook Proが届いた。しばらくこれで仕事しろと言われたら実際どうなるのか。今回はそんなお話だ。Mac上級者からすれば「そこは設定でなんとかなるぞ」、「こっちのアプリほうが○○に近いぞ」みたいな助言があるかもしれない。ただまあ、そこは生暖かい目で読んでいただければ幸いだ。
実際のところ、筆者はまったくのMac未経験者ではない。雑誌の編集部のMacでDTP作業などをしたことがあるからだ。ただ、編集業務以外は特に操作しておらず、UIや基本的な操作をうっすら覚えている程度。
WindowsからMacへの移行で問題になるのは、使用するアプリだろう。OSのインターフェイスについては慣れの問題だが、アプリについてはきちんと代替先を見つけなければならない。今回はそこを中心に話をしていきたい。
普段使っていたアプリのMac版を導入してみる
ジャンルにもよるだろうが、PC系ライターの仕事は、原稿を執筆するだけでなく、検証データを集計してグラフ化したり、写真を撮って補正をしたり、映像を撮って編集したりもする。そこで、まずはMacでも共通のアプリがある以下のものを導入してみた。
- Microsoft Office(今回はExcelのみ)
- Photoshop
- Lightroom
- DaVinci Resolve Studio
それぞれMac版アプリをダウンロード&インストール、起動したらWindowsの時に使っていたものと同じアカウントでログイン、あるいは同じレジストレーションキーを入力することで問題なく認証された(認証上限数や同時ログイン、同時利用等の条件は個別に確認したい)。
これらのアプリ導入についてはそんな具合でスムーズだった。驚いたのは導入したアプリを起動してみて、その速度がとにかく速いこと。今回MacBook Pro、比較対象が2018年モデルのWindowsノートPCだからというのもあるが、普段十数秒待たされていたPhotoshopがほんの2、3秒で起動するのは感動した。
こんな時、Windowsなら「SSDが高速なのかな」と思うのだがMacBook ProのSSDの転送速度はそこまで超高速というわけではないらしい。SSDではないとなるとメモリ、そのメモリがオン・パッケージになるM1のアーキテクチャあたりに起因しそうだ。Macに触れることはこのようなところでも新鮮だ。
一方、ここでユーザーインターフェイスの違いにも直面することになる。ウィンドウの最小化、最大化、閉じるボタンの位置などはまだ優しいほう。もっと困惑するのはメニューバーだ。ウィンドウとは切り離され、画面の一番上に表示される。最大化していない時はアプリのウィンドウとメニューが完全に離れているので違和感しかない。
また、Excelについては、Mac版の場合一部の関数が使えない。WindowsのOS機能に依存しているためで、ENCODEURL、WEBSERVICE、FILTERXMLがあるとのこと。Webサービスからデータを取得するための関数ということで、利用している方もいたのではないだろうか。ただ、筆者の集計&グラフ作成用Excelでは使っていないので影響はなかった。
操作でも若干の違いがあるとのことを編集から知らされていたが、そのあたりは人それぞれ影響の大小がある。筆者の「普段の」作成法で1つ集計&グラフ作成を行なってみたが、その範囲では影響ないといった感じだ。
このほか、使っていくと細かなところで違いがある。その都度Web検索などで解決法を探っていく感じだ。ただ、昔のように書籍に頼っていたことと比べればサッと答えにたどり着ける。
普段使っていたシェアウェア/フリーウェアの代替を探す
さて問題はWindows版しか提供されていないアプリだ。Windowsでは秀丸エディタで原稿を執筆していたが、秀丸にMac版はない。そのほか「かゆいところに手が届く」フリーウェアもいくつか使っていたが、いずれも個人作でMac版がないものだった。これらについては代替アプリを見つけなければならない。
まず、おすすめをWeb検索するのも1つの手。ただ、まわりにMacユーザーがいれば助言をもらうのが手っ取り早い。筆者がおすすめしてもらったのは以下のものだ。これらはApp Storeからダウンロード&購入する。
- テキストエディタ :CotEditor(無料)
- 写真ビューア :EdgeView 3(1,000円)
- ファイルリネーム :Rename X(400円)
CotEditorは軽量なテキストエディタということでおすすめされた。確かに軽量だ。しかし軽量というだけでなく、ハイライト表示なども正規表現が利用でき、結構原稿を書きやすいと感じた。使い込めばいい感じになりそうな感触だ。
写真ビューアのEdgeView 3。単純に写真ファイルを開くだけならFinderで十分と言われたのだが、前の写真、次の写真といったように複数の写真を比較したいということで導入した。
ファイルリネームについては、正規表現を使える点を重視してRename X。シンプルなUIながら高機能だったので筆者のニーズは十分に満たしてくれた。
テキストエディタ以降の2つは、いわゆるユーティリティ的なものである機能に特化したタイプのものだ。そのため、Windowsで使っていたものと機能的にはほとんど同じものが見つかりやすい。
一方、文筆業やプログラマーはテキストエディタへのこだわりも強いと思われる。筆者の場合は秀丸エディタだが、Macに秀丸エディタがない以上、100%納得できるアプリが見つかる可能性は低い。優先度の高い機能をリストアップした上で、これをできるだけ多く包括するアプリを探すのが建設的だろう。
どんな方も、さまざまなアプリを使い比べて紆余曲折を経て現在のアプリに落ち着いたのではないだろうか。移行でこれをまたやると考えると気が重くなるだろうが、もしかしたら現在のアプリよりもさらに良いものが見つかるかもしれない。
このような感じで原稿を書き、写真を補正し、リサイズ、リネームして記事の作成を完了できた(ExcelとDaVinci Resolveは今回の原稿では不使用。別のデータで表示・操作を確認した)。
ハードウェアの違い。キーボードは慣れるまで時間を要しそう
実際に現行のMacBook Proに触れて「ここがいいな」と感じたのは「MagSafe 3」充電ポート。USB PDの時代になってACアダプタ時代よりも便利になったが、結局、抜き差し頻度が高いので摩耗による劣化が早い。摩耗の心配がないマグネット式は良いアイデアだ。それに猫がチョイチョイしても外れることがあってももげはしない点で安心だ。
インターフェイスでMacBookらしいのがUSB Type-Aナシ、Thunderbolt 4(Type-C)のみというところ。筆者はまだType-Aデバイスが山ほど残っている。過去のType-A周辺機器を接続することを考えるとUSB Type-Cハブが必要だ。こうしたところも移行コストとして計上する必要がある。
外観でWindowsと違うのはキーボード。JISだから似ていると言えば似ているが、Windowsキーに相当するのが「Command」、Altキーに相当するのが「Option」と名称が変わり位置も違う。
なお、Macに久しぶりに触れて最初に戸惑ったのが日本語/英語入力の切り換えだった。正解は「英数」、「かな」キー。ところがGoogle検索しても上位に来るのは「USキーボード」での切り換えばかりで、正解にたどり着くのは容易ではなかった。ただ、ここでいろいろと調べたところ、Apple公式のドキュメントがかなり豊富で、Web検索からもすぐリーチできる感じだった。
MacBook Proのタッチパッドは大きい。WindowsノートPC(16型クラス)でもここまでの大面積は珍しいと思う。タッチパッドは大きいほど正確な操作をしやすい。また、ジェスチャー操作もMacが先行していた分野だ。
Macのマウスは1ボタン。Windowsの右クリック相当の操作はControlキーを押しながらクリックすることになる。少し面倒だと思っていたが、今回Apple純正マウスは借りていない。USB Type-Cハブを介して市販のマウスをつないでしまったので普通に独立した2ボタンで操作した。そうなるとWindowsと変わらない。
MacBookで感じたレスポンスとディスプレイの良さ
さて、原稿1本分を作成したことで分かったMacBook Proの良さを紹介したい。
第一にパフォーマンスだ。まず断っておくが、原稿1本分の作業時間は、おそらくWindowsで書いたほうが速かっただろう。それは慣れだ。WindowsからMacに移行してすぐにWindowsの時の同じパフォーマンスが発揮できると思ってはいけない。Windowsへの染まり具合でも変わってくるだろう。30数年、体に染み付いた操作系を数日で切り換えるなど無理なことだ。
ここでパフォーマンスというのは、Photoshopで補正をする、映像編集時にDaVinci Resolveでプレビューをするといった際のレスポンスだ。
MacBook Proがウルトラハイエンドクラスだから筆者の少し古いWindowsモバイルノートと比べれば当然というのはある。ただ、M1のアーキテクチャも関係しているだろうと予想しているのは先でも書いた。そちらのほうが大きいように思われる。
その上で、Macを使い続け、操作に慣れていけば文章を書いたり写真を補正したりといった作業の速度は向上していき、いつかWindowsの際と同じレベルまで到達できるはずだ。そしてそこまで達することができれば、写真を開く、フィルタを適用するといったところのAppleシリコンのパフォーマンスによって、業務効率がアップしていくと思われる。
2つ目がディスプレイだ。よく言われるところだが、Macのフォントは見やすい。dpiが高いからか、スムージングがよりキレイなのか、歳をとって老眼が出始めた筆者としてはここがよかった。
もう1つディスプレイ関連では、色再現性が良いところが挙げられる。カメラマンではないけれど、写真を撮る必要がある筆者としてはここがよかった。もちろんWindowsノートPCでもカラーマネジメントを謳う製品はあるので、MacBook Proだけではないと思う。純粋に今現在使っているWindowsノートPCと比べると結構色味が違うなと感じたところだ。
そして最後は検証時というよりは検証前。MacBookの操作について事前に調査していたが、この点Appleが結構豊富にドキュメントを用意してくれているということを実感した。基本操作やWindowsからMacへの移行をサポートするような、まさに今回の企画にマッチするようなものまで用意されていた。
また、Web検索をしてもAppleのドキュメントが比較的上位にヒットする。もしかするとユーザー数の少なさが影響しているのかもしれない。同じように移行を検討している方には助けになるだろうということでここに書き留めておく。
Windowsの魅力は選択肢が多くコスパが良い
一方、Windowsの良さもあらためて感じた。WindowsノートPCは数多くのメーカーから製品が出ているために多種多様。サイズ薄さ軽さを追求するモデルがあれば、ディスプレイにこだわるモデルもあり、パフォーマンスを追求するモデル、キーボードにこだわるモデルとさまざまだ。その中から好みのものを選べるが、MacBookはAppleの1社のみだ。その信念はゆらぎないものかもしれないが、当然、ユーザーのニーズに合う合わないが出てくる。
また、WindowsノートPCは(基本的に)やはりコスパが良いと感じた。価格競争もある。M.2 SSDや一部モデルではSO-DIMM、今後CAMMが登場するかもしれないが、汎用規格を採用していることもある。
MacBookの購入を検討する際の一番のネックが価格と言っても良い。最小構成ならまだ納得できるが、メモリを増やし、ストレージを増やそうとすると一気にコスパが悪くなる。メモリをCPUパッケージに入れる、SSDはオンボードといったあたりだ。
AppleはAppleシリコンのアーキテクチャによってパフォーマンス志向を明確にしており、SSDをオンボード実装することでスリムさやデザイン性を高めているのだからトレードオフなのだろう。
移行あり?なし?いや……案外ありかも
さて、3週間近くMacBook Proを借り、1本原稿を仕上げ、筆者はMacBookに移行するのか。結論を言うと、今すぐには移行できないが「移行してみたい気持ち」は高まった。大変ではあったが当初思っていたほどではなかったし、後半は操作ミスも減ってきた。あと1カ月あればもっと上達していたと思う。レスポンスも速かった。ディスプレイもMagSafeも良かった。代替ソフトウェアもおおよそ目処がついた。
そしてやはりAppleシリコンのアーキテクチャには興味がある。Intel/AMDのCPUはずっと触れてきた。ただ、時代によってアーキテクチャのトレンドも移り変わる。今リードしているのはAppleシリコンなのかもしれない。そしてOSも。30年Windowsを使ってきた。一度macOSに浮気したって良いだろう。あるいはWindowsとMacの両刀使いでも良いし、Macに移行した後にまたWindowsに戻ってきても良い。今の時代、昔ほど移行のハードルが高いものではなくなったのだ。
ただまあ、最後にWindowsの良さのところでも指摘している通り、ネックなのは価格だ。筆者にとって簡単に予算をつけられるものではない。当面は仕事に集中して、余裕ができたらMacBook Airの最小構成か中古を探してみようと思う。あまり似合うものではないが、1年後もしかしたらどこかの喫茶店でMacBookを開いて原稿を書いているかもしれない。