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第12世代Core Hシリーズの実力検証! P/Eコアで最強のゲーミングノートが誕生
2022年2月2日 07:35
2022年1月4日、Intelは開発コードネーム「Alder Lake」こと第12世代CoreのノートPC向け「H」シリーズ、「P」シリーズ、「U」シリーズを発表した。ここでは、「H」シリーズの最上位モデル「Core i9-12900HK」を搭載するMSIのゲーミングノート「MSI GE76 Raider」を試用する機会を得たのでさっそく実力を試していきたい。
ノートPC向けの第12世代Coreついて、ラインナップは発表時の「Intel、性能が4割向上したノート向け第12世代Core」、技術的な解説については笠原氏の「モバイル版第12世代Coreは、M1 MaxやRyzen 9を超える性能を発揮」で確認してほしいが、ここでは特徴について簡単に説明しておきたい。
最大のポイントは、デスクトップ向け第12世代Coreの上位モデルと同じく、性能を重視した「Pコア」と効率を重視した「Eコア」を組み合わせた“ハイブリッドデザイン”を採用していることだ。コア自体の性能向上に加えて、重要度の低い処理やバックグランドタスクをEコアが担当、ゲームなどパワーが重要となる処理をPコアが担当することで、効率化を高めて性能を底上げしている。デスクトップ向けで見せた高い性能は“強いIntelが帰ってきた”という印象を与えたほどだ。
MSI GE76 Raiderに搭載されている「Core i9-12900HK」は、Pコアが6基、Eコアが8基と14コア20スレッド仕様だ(Eコアには1コアで2スレッド処理できるハイパー・スレッディングがないため)。Pコアの最大クロックは5GHz、Eコアは最大3.8GHz。ベース電力となるPBT(Processor Base Power)は45W、最大電力となるMTP(Maximum Turbo Power)は115WとノートPC用のCPUとしてはなかなか強烈な消費電力と言える。対応メモリはDDR4/LPDDR4およびDDR5/LPDDR5だ。
第12世代CoreのHシリーズは、ゲーミングノートに最適と言える設計も特徴だ。外部GPU向けのPCI Express 4.0を8レーン、ストレージ向けにPCI Express 4.0を4レーン×2をCPU直結で用意しており、ハイエンドGPUと高速なストレージが性能を発揮しやすいようになっている。
今回試用したMSI GE76 Raiderの見どころはGPUにもある。2022年1月4日に発表されたNVIDIAのノートPC向けGPUとしては最上位になる「GeForce RTX 3080 Ti Laptop GPU」を搭載。CUDAコアは7,424基、メモリはGDDR6が16GB、ブーストクロックは1,125~1,590MHz、カード電力は80~150Wというモンスターだ。これまで最上位だったGeForce RTX 3080 Laptop GPUのCUDAコアは6,144基だったので、一気に1,000基以上増えたことになる。
ただし、こちらのブーストクロックは1,245~1,710MHzと、クロックだけ見ると若干下がった。さすがにCUDAコアを強烈に増やしているだけに、高クロックを維持するには難しかったと見られる。
なお、MSI GE76 Raiderはブーストクロック1,590MHzと公式スペックにおける最大値、カード電力は175Wと公式スペック以上のセッティングになっている。それだけ冷却性能に自信があるということだろう。GeForce RTX 3080 Ti Laptop GPUの性能を最大限引き出せる設計だ。
Core i9-12900HK+GeForce RTX 3080 Ti Laptop GPUは、原稿執筆時点で最高峰のCPUとGPUの組み合わせとなり、MSI GE76 Raiderを使えばゲーミングノートがどこまでの性能を搭載できるのか垣間見られると言ってもよいだろう。
そのほか、今回試用したMSI GE76 Raiderのスペックは以下の通りだ。
【表】MSI GE76 Raiderの仕様 | |
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CPU | Core i9-12900HK(3.8GHz~5GHz) |
メモリ | DDR5-4800 32GB |
ストレージ | 1TB NVMe SSD×2 |
GPU | GeForce RTX 3080 Ti Laptop GPU |
液晶 | 1,920×1,080ドット表示対応17.3型 |
OS | Windows 11 Home |
インターフェイス | 2.5Gbps有線LAN、Thunderbolt 4×1、USB 3.1 Gen2 Type-C(DisplayPort出力対応)、USB 3.1 Gen2×1、USB 3.0×2、Mini DisplayPort、HDMI、SDカードリーダ、Webカメラ、ステレオスピーカー、音声入出力端子 |
無線 | IEEE 802.11ax、Bluetooth |
本体サイズ | 397×284×25.9mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約2.9kg |
注意していただきたいのは、これと同じ仕様のモデルは原稿執筆時点で日本での販売は予定されていないということ。近いスペックになるのが、Raider GE76 12U(GE76-12UHS-222JP)だ。ディスプレイがWQHDのリフレッシュレート240Hz、ストレージが1TB(NVMe SSD)となる以外は試用したMSI GE76 Raiderと外観を含めて同じ。今回のテスト結果を見て、同スペックのゲーミングノートがほしいと感じた場合は、こちらをチェックするとよいだろう。実売価格は50万円前後だ。
性能が気になるところではあるが、外観やインターフェイス類をまずはチェックしておこう。ディスプレイは17.3型のフルHD。リフレッシュレートは最大360Hzと非常に高い。視野角の広さからIPSパネルと見られる。また、ディスプレイ上部にはWebカメラ、マイクも備えている。
インターフェイスは左側面にUSB 3.1、USB 3.1 Type-C(DisplayPort出力対応)、ヘッドセット端子、右側面にUSB 3.0×2、SDカードスロット、背面にMini DisplayPort出力、HDMI出力、Thunderbolt 4、2.5Gbps対応の有線LANを用意。また、無線LANはWi-Fi 6E対応だ。
キーボードはゲーミングブランドとして知られるSteelSeriesのものを採用。専用アプリでRGBバックライトのコントロールが可能だ。前面部分にもRGB LEDが内蔵されている。試用したMSI GE76 Raiderは英語配列だったが、上記で紹介したスペックが近いRaider GE76 12Uは日本語キーボードが採用されている。
本体のサイズは、397×284×25.9mm(幅×奥行き×高さ)で重量は2.9kgだ。ACアダプタは280Wと大出力ゆえに巨大で、筆者の実測で1,029gだった。
ここからは本題と言えるベンチマークテストに移ろう。今回は比較用として、CPUに第11世代CoreのHシリーズで最上位のCore i9-11980HK(8コア16スレッド、最大5GHz)、GPUにGeForce RTX 3080 Ti Laptop GPUが発表されるまでは、NVIDIAのノート用としては最上位だったGeForce RTX 3080 Laptop GPUを搭載するMSI GE76 Raiderを用意した。メモリの容量はDDR4-3200が32GB搭載されている。つまるところ、見た目は同じでCPUとGPU、メモリが異なるものを用意したいというわけだ。Core i9-11980HK+GeForce RTX 3080 Laptop GPUの組み合わせは、2021年末まではゲーミングノートとして最高クラスの組み合わせだった。それが世代交代したことでどこまで性能が伸びたのか注目したい。
なお、MSI GE76 Raiderはアプリの「MSI Center」で複数の動作モードを選べるが、今回はどちらのモデルでも「バランス」に設定。GPU Switchも「ディスクリートグラフィックモード」に統一してテストを行なっている。
まずは、CGレンダリングでCPUパワーを測る「Cinebench R23」とPCの総合的な性能を測定する「PCMark 10」から見ていこう。
Core i9-12900HKは14コア20スレッドなのでCinebench R23のMulti Coreスコアが高いのは当然として、Single Coreの性能もCore i9-11980HKから大きくアップしている。Pコアの優秀さが見える部分だ。マルチタスクにもシングルタスクにも強いと言える。
PCMark 10はWebブラウザなど一般的なアプリを実行する「Essentials」とクリエイティブ系アプリを実行する「Digital Content Creation」ではCore i9-12900HKが順当にスコアを伸ばした。一方で、オフィス系アプリを実行するProductivityでは誤差レベル。ただPCMark 10のProductivityは、オープンソースのLibreOfficeを使用しているため、より一般的なMicrosoft Officeを実際に動作させてスコアを出す「UL Procyon Office Productivity Benchmark」も試してみた。
すべてのテストでCore i9-12900HKのスコアが上回った。14コア20スレッドのCPUパワーはダテではないということだろう。Core i9-12900HKはMicrosoft Officeにも十分効くことがわかった。
次はAdobeのフォトレタッチアプリ「Photoshop」と写真編集&整理アプリの「Lightroom Classic」を実行してスコアを出す「UL Procyon Photo Editing Benchmark」を試す。
Photoshopでの処理がメインになる「Image Retouching」では大きな差は出なかったが、Lightroom Classicでの処理を実行する「Batch Processing」では約18%もスコアが上昇した。CPUパワーの違いもあるが、Lightroom Classicはメモリの帯域幅が影響しやすく、DDR5-4800の効果も大きいと見られる。
続いて、Adobeのビデオ編集アプリ「Premiere Pro」で編集、エンコードを行なう「UL Procyon Video Editing Benchmark」を試してみよう。
Video Editing Benchmarkでは、2種類のプロジェクトをH.264とH.256にエンコードを実行する。総合スコアでは違いが分かりにくいので、実際のエンコード時間も掲載することにした。注目はH.265(4K UHD)1/2の項目だ。H.265は高圧縮の形式なので、変換にはCPUパワーが重要になるが、Core i9-12900HKはCore i9-11980HKに比べて15分以上も早く処理が終わっている。そのほかのエンコード時間もCore i9-12900HKのほうが早く完了しており、動画編集でも強さを見せた。
ここからはゲーミング性能に迫ろう。まずは定番の3DMarkからDirectX 11ベースの「Fire Strike」とDirectX 12ベースの「Time Spy」を実行した。
Core i9-12900HK+RTX 3080 Tiの組み合わせが順当にスコアを伸ばしているが、どちらもGraphicsのスコアは微増。前述したとおり、RTX 3080 TiはRTX 3080よりもCUDAコア数は大幅に増えたが、動作クロックは少し下がってるためだろう。動作クロックよりもCUDAコア数が効きやすいアプリではまた変わってくるはずだ。また、CPUの性能を測るFire Strikeの「Physics」とTime Spyの「CPU」を見ると、どちらも大幅にスコアがアップしている。Core i9-12900HKのパワーが総合スコアの上昇に効いたと言ってよいだろう。
続いて、実ゲームを試そう。軽量級として「レインボーシックス シージ」、中量級として「レインボーシックス エクストラクション」、重量級としてレイトレーシングにも対応する「ファークライ6」と「Forza Horizon 5」を用意した。すべてゲーム内蔵のベンチマーク機能でフレームレートを測定している。解像度はすべてフルHDだ。
軽めのFPSである「レインボーシックス シージ」は、Core i9-12900HK+RTX 3080 Tiなら最小fpsでも356fpsと360Hzのリフレッシュレートをほぼ常に活かせるフレームレートを出せている。eスポーツに最適と言えるだろう。そして、ファークライ6は美しいグラフィック描画ゆえにレイトレーシングまで有効にするとかなり重いゲームだが、それでも最高画質設定で93fpsと高いフレームレートを出した。レイトレーシングを効かせた重量級ゲームでも余裕で対応できると言ってよいだろう。
ちょっと面白いのがForza Horizon 5だ。総合やGPUのフレームレートはCore i9-12900HK+RTX 3080 TiとCore i9-11980HK+RTX 3080とほとんど変わらない。しかし、CPUパワーを見るCPUシミュレーションとCPUレンダリングのフレームレートはCore i9-12900HK+RTX 3080 Tiが上。CPU性能の向上がここでも見て取れる。
Core i9-12900HKはハイブリッドデザインを採用することで、マルチタスクに強いことも特徴だ。そこで、動画配信アプリの「OBS Studio」を使って、NVENCでYouTubeに8Mbps(レート制御:CBR、プリセット:Quality、プロファイル:high)で配信、CPUエンコードでPCに15Mbps(レート制御:CBR、プリセット:fast、プロファイル:main)で録画しつつ、ゲームのベンチマークを実行することでフレームレートがどう変化するのか試して見た。ゲームは「レインボーシックス エクストラクション」と「ファークライ6」を使用している。
レインボーシックス エクストラクションを見ると、Core i9-12900HKは配信&録画をしていない場合に比べて平均が28fpsの低下に留まっているのに比べ、Core i9-11980HKは40fpsも低下。しかも、全体で3.1%のエンコードミスが発生しており、録画された動画を見ると時折コマ落ちして引っかかるような映像になっている箇所が見られた。一方でCore i9-12900HKはエンコードミスが0%と完璧だ。
ファークライ6は、どちらのCPUもエンコードミスは発生しなかったが、Core i9-12900HKは配信&録画をしていない場合に比べて平均が25fps低下だったが、Core i9-11980HKは40fps低下と差は大きかった。快適なプレイの目安となる平均60fpsを大きく下回ってしまうのは厳しいところ。この結果からCore i9-12900HK+RTX 3080 Tiの組み合わせなら、重量級ゲームでもフルHDなら最高画質でプレイしつつ、配信と録画までこなせるだけの性能があると言ってよいだろう。
ここまで高い性能があると消費電力も気になるところ。アイドル時、Cinebench R23のMulti Core実行時、3DMarkのTime Spy実行時の消費電力をラトックシステムのREX-BTWATTCH1で測定した。
性能も向上しているが、消費電力もアップしているのが分かる結果だ。Cinebench R23はGPUに負荷がかからないので、それほど高い消費電力になっていないが、3DMarkのTime SpyはCPUとGPUの両方に負荷がかかるので消費電力は大きくなる。Core i9-12900HK+RTX 3080 Tiは、280WのACアダプタで最大274Wまで上昇するのはけっこうギリギリ感があるなと正直思うところだ。
最後にCore i9-12900HK+RTX 3080 Tiのゲームプレイ中の動作クロックと温度をチェックしておこう。「サイバーパンク2077」を10分間プレイしたときのCPUとGPUの動作クロックと温度をHWiNFO64 v7.16で追っている。
CPUに関しては2分過ぎまではPコアは4GHz前後、Eコアは3GHz前後で動作しているが、それ以降はPコア2.9GHz前後、Eコアは2.3GHz前後まで下がる。温度のほうを見ると91℃まで上がったタイミングだ。このあたりまでCPU温度が上昇するとクロックを下げる作りなのではないだろうか。クロックが下がった後は温度は72℃前後で安定と不安のないレベルになった。
GPUはほぼ1.6GHz前後で安定。仕様上のブーストクロックよりも若干上回ったクロックで動作していた。温度は緩やかに上がっていき、最大でも69℃とまったく問題のないレベル。MSI GE76 Raiderの冷却システムは優秀だ。
Core i9-12900HKは非常に魅力的なCPUに仕上がっている。ノートPCで14コア20スレッドのメニーコアを実現し、オフィス系、クリエイティブ系、ゲーム系のすべてで前世代のCPUを上回る性能を見せた。GeForce RTX 3080 Ti Laptop GPUとの組み合わせならば、重量級ゲームをプレイしながら同時に配信や録画までこなせる、まさに現役最強のゲーミングノートになる。その性能を活かしてクリエイティブ系のノートとして活用するのもアリだろう。今回試用したMSI GE76 Raiderとほぼ同スペックで50万円前後、昨今のGPU価格の上昇を考えると決して悪くないように思える。