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ペルチェ+水冷の威力はいかほどに?「MasterLiquid ML360 SUB-ZERO」を試す

Cooler Master MasterLiquid ML360 SUB-ZERO

 Cooler Masterのオールインワン水冷クーラー「MasterLiquid ML360 SUB-ZERO」は、Intel Cryo Cooling Technologyと、室温以下の冷却を可能にする熱電変換ユニット(TEC、ペルチェ素子)を採用した、LGA1200専用CPUクーラーだ。

 今回、このユニークなCPUクーラーを試す機会が得られたので、Rocket Lake-Sの最上位CPU「Core i9-11900K」に搭載して、その冷却性能をテストしてみた。なお、価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5万3,680円前後となっている。

ペルチェ素子搭載のIntel Cryo Cooling Technology対応オールインワン水冷

 Intel Cryo Cooling Technology対応オールインワン水冷クーラーであるCooler Master MasterLiquid ML360 SUB-ZEROは、52mm四方のTECユニット(ペルチェ素子)を内蔵したウォーターブロックの他、DIY水冷(いわゆる本格水冷)で用いられる独立型のポンプと、360mmサイズ(120×3)のラジエーターで構成されている。

 対応CPUソケットはLGA1200のみとなっている。これはIntel Cryo Cooling Technologyに対応するCPUが、第10世代Core(Comet Lake-S)と第11世代Core(Rocket Lake-S)のKモデルに限られるためだ。

ウォーターブロック。52mm四方のペルチェ素子を内蔵している
銅製のベースプレートにはグリスが塗布されており、外周部にはソケット周辺への空気の流入を阻害するエアフローカバーを搭載している
ポンプ。最大13.8Wで動作する独立型のポンプを採用している
ポンプは、PCケースのフロント側への固定を想定しており、120mmファンと同じ間隔のねじ穴が設けられている
120mmファンを3基搭載できる360mmサイズのラジエーターを採用している
標準で3基の120mmファンを搭載している。ファン回転数は最大1,900rpm。
リテンションキットと冷却ファン・ポンプ用の固定ねじ。LGA1200専用であるためリテンションキットの部品点数は少ない
PC接続用のUSBケーブル。ウォーターブロックのMicro USB端子と、マザーボード上のUSB 2.0ヘッダーを接続する

 ペルチェ素子を搭載するMasterLiquid ML360 SUB-ZEROは、最大で200Wもの電力を消費するとされており、750W以上の電源ユニットを使用することが推奨されている。200Wという数字には、最大で13.8Wを消費するポンプのほか、冷却ファンの消費電力も含まれているが、大部分はペルチェ素子が消費する電力だ。

 ペルチェ素子の大消費電力をまかなうため、ウォーターブロックにはPCI-E 8ピン補助電源コネクタが搭載されている。また、ポンプと冷却ファンの電力供給用として、SATA電源コネクタから分配する専用ケーブルが付属している。この分配ケーブルにはファン回転数検出用のコネクタが付属しているが、PWM制御などには対応しておらず、冷却ファンやポンプは基本的にフルスピードで動作する仕様となっている。

ペルチェ素子へ電力を供給するためのPCI-E 8ピン補助電源コネクタ
SATA電源から、冷却ファンとポンプに電力供給を行うための分配ケーブル

3つの動作モードが用意されたIntel Cryo Cooling Technology

 MasterLiquid ML360 SUB-ZEROが搭載するペルチェ素子は、Intel Cryo Cooling Technologyによる制御で動作する仕様となっており、その冷却性能を発揮するにはMasterLiquid ML360 SUB-ZEROをマザーボードとUSB接続した上で、Intel Cryo Cooling Technologyのユーティリティを利用する必要がある。逆に言えば、これらが揃わなければペルチェ素子は有効に機能しない。

ウォーターブロックに搭載されたMicro USB端子と、マザーボード上のUSB 2.0ヘッダーを付属ケーブルで接続する必要がある
Intel Cryo Cooling Technologyのユーティリティをインストールする必要がある。対応OSはWindows 10 64bit版のみ

 セットアップが完了すると、Intel Cryo Cooling Technologyのユーティリティはタスクトレイに常駐し、ユーザーが選択した動作モードに基づいてペルチェ素子の制御が行われる。

 用意されているモードは、ペルチェ素子をオフにする「Standby」、負荷に応じてペルチェ素子を制御して結露の発生を回避する「Cryo」、ペルチェ素子を最大限活用する「Unregulated」の3つ。通常の使用で推奨されるモードはCryoで、Unregulatedは結露のリスクを負うことになる。また、ペルチェ素子を使用しないStandbyでも、定格動作のCPUを動作させるのに十分な冷却性能は得られるとしている。

 実際に各動作モードを試してみたところ、Unregulatedではペルチェ素子のパワーが150~166W程度で動作する一方、Cryoでは温度に応じてパワーは0~166Wの範囲で変化していた。これにより、Unregulatedではクーラー温度が氷点下まで下がるのに対し、Cryoは露点温度(Dew Point)を下回らないようにコントロールされていた。なお、Standbyは温度に関係なく、ペルチェ素子のパワーは常に0Wのままだった。

Unregulatedモードで動作中。露点温度を下回ってもペルチェ素子は152Wで動作しており、クーラー温度は-8.7℃まで低下している
Standbyモードで動作中。温度に関係なく、常にペルチェ素子の電源はオフ(=0W)になっている
▼Cryoモードでの動作中
露点温度18.5℃に対し、クーラー温度が30.8℃という条件では、ペルチェ素子を最大限(166W)に動作させている
クーラー温度が20.3℃になると、ペルチェ素子のパワーは25Wになっており、露点温度を下回らないよう出力を調整していることがわかる
推奨モードであるCryoには「Remember Cryo Mode」が用意されており、チェックを入れてからCryoモードを選択すれば、次回の起動時から自動でCryoモードが適用される
Remember Cryo Modeを用いない場合、Windows起動時にStandbyモードが自動選択される

CINEBENCH R23で冷却性能をテスト

 ここからは、定番CPUベンチマークのCINEBENCH R23を使った冷却性能テストの結果を紹介していく。

 MasterLiquid ML360 SUB-ZEROで冷却するCPUは、Rocket Lake-Sの最上位モデル「Core i9-11900K」で、ASUSのIntel Z590チップセット搭載マザーボード「ROG MAXIMUS XIII HERO」との組み合わせで使用する。

Rocket Lake-S最上位の8コア16スレッドCPU「Intel Core i9-11900K」
ASUSのIntel Z590チップセット搭載マザーボード「ROG MAXIMUS XIII HERO」

 今回使用するROG MAXIMUS XIII HEROは、14+2フェーズの電源回路を備えたハイスペックなマザーボードであり、デフォルトで電力リミットが開放(PL1/PL2共にUnlimited)されている。このため、Core i9-11900Kは電力リミットの制約を受けることなくブースト動作を継続できる。

 今回のテストでは、ROG MAXIMUS XIII HEROの標準動作「電力リミット無効」のほかに、同動作を実現しているASUS MultiCore Enhancementを無効にして電力を制限した「電力リミット有効」と、電力リミット無効のままAdaptive Boost Technology(ABT)を有効化した「ABT有効」の3条件でベンチマークテストを実行する。

 そのほかの検証機材については以下の通り。

【表】テスト機材一覧
テスト機材一覧
動作設定電力リミット無効電力リミット有効ABT有効
CPUパワーリミットPL1=Unlimited、PL2=Unlimited、Tau:56秒PL1:125W、PL2:250W、Tau:56秒PL1=Unlimited、PL2=Unlimited、Tau:56秒
ABT無効無効有効
CPUCore i9-11900K
CPUクーラーCooler Master MasterLiquid ML360 SUB-ZERO
マザーボードASUS ROG MAXIMUS XIII HERO [UEFI:0707]
メモリDDR4-3200 16GB×2 (2ch、22-22-22-52、1.20V)/Gear 1
GPUGeForce RTX 3080 Founders Edition
システム用SSDSamsung SSD 980 PRO 500GB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源Thermaltake Toughpower Grand RGB 1050W Platinum
iGPUドライバGeForce Game Ready Driver 466.27 (27.21.14.6627)
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 20H2 / build 19042.964)
電源プランバランス
モニタリングソフトHWiNFO64 Pro v7.02
ワットチェッカーラトックシステム RS-BTWATTCH2
室温約24℃

電力リミット無効 (PL1=Unlimited、PL2=Unlimited、Tau=56秒)

 電力リミットを無効にしたCore i9-11900Kで、CINEBENCH R23を実行した際のモニタリングデータから、CPU温度のデータをまとめたものが以下のグラフだ。

 CryoとUnregulatedの最大CPU温度はどちらも89℃で、平均温度はCryoが82.7℃で、Unregulatedが81.4℃。Standbyモードの平均温度は89.5℃となっているが、最大CPU温度がCore i9-11900Kのジャンクション温度である100℃に達しており、サーマルスロットリングが作動した上での温度であることがわかる。

 最低CPU温度に関しては、クーラー温度を氷点下にまで冷やせるUregulatedでは、CPU内蔵センサーが測定できる下限の0℃を記録。Cryoも室温を下回る23℃で、32℃のStandbyより9℃低い温度となっている。

CINEBENCH R23「Multi Core」実行中のCPU温度(電力リミット無効)

 各モードのベンチマークスコアをみてみると、CryoとUregulatedの間には2%ほどの差がついているが、これは誤差の範囲内と言えないこともない。一方、StandbyについてはCryoとの間に約13%もの大差がついており、サーマルスロットリングによって大きくパフォーマンスが低下していることが伺える。

CINEBENCH R23「Multi Core」のベンチマークスコア(電力リミット無効)

 ワットチェッカーで計測した消費電力では、UnregulatedとCryoが最大500W弱の消費電力を記録している。平均消費電力についても、Cryoの475.1Wに対して、Unregulatedは480.3Wであり、ほぼ差がついていない。これは、どちらのモードでもベンチマーク実行中はペルチェ素子がフル稼働しているためだ。

 ペルチェ素子を使用しないStandbyの最大消費電力が316.4Wと、CryoとUnregulatedの最大消費電力より177Wほど低い数値となっていることからも、ペルチェ素子が最大パワーの166W前後で動作していることが伺える。

 最低消費電力については、StandbyとCryoが87W前後でほぼ同等である一方、Unregulatedは160W以上高い251.1W。結露が生じない範囲でペルチェ素子を制御するCryoと、温度に関わらずペルチェ素子を最大限に活用するUnregulatedでは、低負荷時の消費電力が大きく変わってくることが伺える。

CINEBENCH R23「Multi Core」実行中の消費電力(電力リミット無効)

 動作モード毎にモニタリングデータをまとめたものが、以下のグラフだ。

 CryoとUnregulatedでは、CPUが終始4.7GHzで動作しており、CPUの消費電力であるCPU Package Powerは最大で200W前後となっている。

 一方、Standbyについては、テスト開始から30秒ほどでCPU温度が100℃に達して以降、サーマルスロットリングによってCPUクロックは4.1GHz前後に低下し、消費電力も135Wほどに低下している。テストがループするタイミングで一瞬サーマルスロットリングが解除されているようだが、即座に100℃に到達して再作動するため、結果としてスロットリングが作動したまま推移したようなグラフになっている。

「Cryoモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット無効)
「Unregulatedモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット無効)
「Standbyモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット無効)

電力リミット有効(PL1=125W、PL2=250W、Tau=56秒)

 続いて、ASUS MultiCore Enhancementを無効化し、電力リミットを有効にしたさいのデータを紹介する。

 各モードの最大CPU温度は、Cryoが73℃、Unregulatedが70℃、Standbyは100℃で、Standbyのみサーマルスロットリングが作動している。平均CPU温度はそれぞれ、50.9℃、49.9℃、91.0℃。

CINEBENCH R23「Multi Core」実行中のCPU温度(電力リミット有効)

 ベンチマークスコアは、13,760のCryoと、13,775のUnregulatedが横並びとなっており、Standbyは約7%差の12,914だった。

CINEBENCH R23「Multi Core」のベンチマークスコア(電力リミット有効)

 CryoとUnregulatedの最大消費電力は480W前後、平均消費電力は約391Wで横並びとなっている。ペルチェ素子を用いないStandbyの最大消費電力は314.2Wで、平均消費電力は217.3W。

 電力リミット無効時に比べ、CryoとUnregulatedの平均消費電力が大きく低下しているが、これはテストの大部分でCPUの消費電力が125Wに制限されているためであり、どちらのモードでもペルチェ素子はフル稼働状態にあるようだ。

CINEBENCH R23「Multi Core」実行中の消費電力(電力リミット有効)

 モニタリングデータから作成した推移グラフでは、CryoとUnregulatedでは消費電力が125Wに制限されて以降、CPUは4.2~4.3GHzで推移していることが確認できる。

 一方、Standbyでは、テスト開始直後の250Wが許容されるPL2ブースト中にサーマルスロットリングが作動しているほか、テストがループするタイミングでも瞬間的に作動している。結果的にCPUクロックは約4.0GHzで推移しており、これがCryoおよびUnregulatedとのスコア差につながっているのだが、動作中の消費電力は電力リミット上限の125Wに達している。これは、CPUの消費電力は同じでありながら、よりCPUを低温で動作させたCryoとUnregulatedの方が高クロック動作を実現できているとも言える結果だ。

「Cryoモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット有効)
「Unregulatedモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット有効)
「Standbyモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Multi Core│電力リミット有効)

 ところで、ペルチェ素子を使用しないStandbyとは言え、125Wの電力リミットが機能している状態でCPU温度が90℃前後に達するというのは、360mmラジエータを備えたオールインワン水冷としては高すぎると思われるだろう。

 これには、CPUと接するベースプレートと、冷却液と接する熱交換部の間に挟み込む形でペルチェ素子を搭載した、MasterLiquid ML360 SUB-ZEROのウォーターブロック構造が影響しているものと考えられる。

 このような構造では、ペルチェ素子を作動させない場合や、ペルチェ素子の冷却能力を大きく超える熱をベースプレートが受け取った場合、ペルチェ素子自体が熱交換部への熱伝導を阻害するボトルネックとなってしまうためだ。

ウォーターブロックの構造。ペルチェ素子がベースプレートと熱交換部の間に挟み込まれている

Adaptive Boost Technology有効

 電力リミットを無効にした状態でAdaptive Boost Technologyを有効化してCINEBENCH R23を実行した結果、どのモードでも最低実行時間の10分を超えてテストを完走することはできなかった。

 CPUの消費電力(CPU Package Power)が最大で300W前後に達するこの条件では、どのモードでも遅かれ早かれサーマルスロットリング作動温度の100℃に達し、数回100℃にするとブルースクリーンが発生してしまうためだ。

 300W級の発熱を抑え込むのは、どんなCPUクーラーでも困難なものだが、発熱量がペルチェ素子の最大パワーを大きく超えるこの条件では、Standbyモードと同じようにペルチェ素子自体が熱伝導を阻害するものになってしまう。Core i9-11900Kの全コアをフルに使ったさいの大発熱を処理するというのは、MasterLiquid ML360 SUB-ZEROの得意とするところではないということだ。

CINEBENCH R23「Single Core」

 CINEBENCH R23を使ったテストの最後に、1スレッドのみで処理を行なうSingle Coreを実行した結果を紹介する。CPUの動作設定は「電力リミット無効」で、ABTは無効にしている。

 各モードの最大CPU温度は、Cryoが54℃、Unregulatedが42℃、Standbyが78℃で、平均CPU温度はそれぞれ47.0℃、31.9℃、73.0℃だった。

 これまでのテストでは、CryoとUnregulatedのCPU温度はほぼ同等だったが、より低負荷なSingle Coreテストでは明確にUnregulatedの方が低い温度を記録している。

CINEBENCH R23「Single Core」実行中のCPU温度(電力リミット無効)

 各モードのベンチマークスコアは1,631~1,665の範囲で横並びとなっており、CPU温度の差はベンチマークスコアにほとんど反映されていない。

CINEBENCH R23「Single Core」のベンチマークスコア(電力リミット無効)

 各モードの最大消費電力は、Cryoが245.3W、Unregulatedが398.8W、Standbyは213.4W。平均消費電力はそれぞれ157.7W、305.5W、143.9W。

 Cryoの消費電力は、UnregulatedよりStandbyに近いものとなっており、ベンチマーク実行中もペルチェ素子をフルパワーで動作させていないことがわかる。

CINEBENCH R23「Single Core」実行中の消費電力(電力リミット無効)

 モニタリングデータから作成した推移グラフをみると、Cryoでは58W前後の電力を消費しながら5.1GHz前後のクロックで動作している一方、Unregulatedは63W前後の電力を消費しながら5.12GHz前後のクロックで動作している。平均すればクロックの差は僅かだが、Unregulatedの方が動作クロックのブレが小さくなっている。

 一方、Standbyの消費電力は66W前後で推移しており、CPUクロックは5.04GHz前後となっている。これらの差は、ベンチマークスコアにはっきり反映されるほどのものではないが、CPU温度が低い方が安定して高いブーストクロックを実現できるようだ。

「Cryoモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Single Core│電力リミット無効)
「Unregulatedモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Single Core│電力リミット無効)
「Standbyモード」のモニタリングデータ(CINEBENCH R23 - Single Core│電力リミット無効)

ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークで冷却性能をテスト

 ここからは、ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークで冷却性能をテストした結果をみていこう。CPUの動作設定は、ABT無効にした場合とABT有効した場合の2パターンで、いずれも電力リミットは無効にしている。

 ABT無効時のCPU温度は、Cryoが最大45℃で平均39.0℃、Unregulatedが最大36℃で平均25.8℃、Standbyが最大93℃で平均78.6℃。Unregulatedの平均温度は室温の24℃に近いものであり、このような温度を実現できるのはペルチェ素子を使ったクーラーならではだ。

 ABT有効時のCPU温度は、Cryoが最大62℃で平均48.2℃、Unregulatedが最大44.5℃で平均60℃、Standbyはブルースクリーンが発生してテストを完走できなかった。ABTの利用によってCPUの発熱が増大すると、Cryoもペルチェ素子の出力を引き上げるため、Unregulatedの差が縮まっている。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」実行中のCPU温度

 ベンチマークスコアについては、ABT無効時は24,297~24,402、ABT有効時は25,070~25,088で、それぞれ横並びとなっており、ABT時にテストを完走できなかったStandbyを除けば、CPU温度の差はスコアに反映されていない。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」のベンチマークスコア

 ABT無効時の消費電力は、Cryoが最大608.7Wで平均436.7W、Unregulatedは最大680.5Wで平均566.1W、Standbyは最大541.1Wで平均407.9W。CPU温度のデータからも読み取れた通り、Cryoはペルチェ素子の出力を絞っているようで、UnregulatedよりStandbyに近い消費電力となっている。

 ABT有効時は、Cryoが最大798.2Wで平均616.0W、Unregulatedは最大733.9Wで平均610.2W。何故かCryoの方が60W近く高い最大消費電力を記録しているが、平均消費電力の差は6W弱であり、トータルの消費電力はそれほど変わらない。今回の構成では、瞬間的に800W近い電力を消費することもあるということだろう。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」実行中の消費電力

 ABT無効時のモニタリングデータをみてみると、CryoとUnregulatedが終始4.8GHz動作を維持しているのに対し、Standbyは途中から4.7GHzで動作している。その上、StandbyでのCPU消費電力は、ほかのモードより20Wほど高いものとなっており、温度の上昇がブーストクロックの低下と消費電力の増大を招いていることがわかる。

「Cryoモード」のモニタリングデータ(FF14ベンチマーク│ABT無効)
「Unregulatedモード」のモニタリングデータ(FF14ベンチマーク│ABT無効)
「Standbyモード」のモニタリングデータ(FF14ベンチマーク│ABT無効)

 ABT有効時のモニタリングデータでは、CryoとUnregulatedの両方が終始5.1GHzの動作を維持できている。テスト序盤で、UnregulatedのCPU温度が25℃を超えるまでの間のCPU消費電力は、Unregulatedの方が低くなっており、このあたりの消費電力差が平均消費電力に影響しているものと考えられる。

「Cryoモード」のモニタリングデータ(FF14ベンチマーク│ABT有効)
「Unregulatedモード」のモニタリングデータ(FF14ベンチマーク│ABT有効)

最適なオーバークロック設定を探り出せる上級者向けCPUクーラー

 MasterLiquid ML360 SUB-ZEROの冷却能力は、一般的な空冷CPUクーラーやオールインワン水冷とは全く異なるものだ。その特性を最大限に活かすためには、ペルチェ素子の能力を超えない範囲でCPUの性能を最大化するオーバークロック設定を探り出す必要がある。5万3,680円前後という価格からしてそうだが、明らかに自作PC上級者向けの製品だ。

 今回の検証の中でもいくつか見られたように、CPUは低温で動作させると同じ電圧と消費電力で高クロック動作を実現できるという特性があり、電力リミットやThermal Velocity Boostなどを駆使しながら上手くチューニングすれば、ゲームなどの用途において、単なる放熱しかできない普通のCPUクーラーよりも高いパフォーマンスを引き出せる可能性がある。

 単に「よく冷えるCPUクーラーが欲しい」というユーザーに勧められる製品ではないが、特定の条件下でパフォーマンスを追及できるMasterLiquid ML360 SUB-ZEROの価値を理解できる上級者であるのなら、ペルチェ素子を用いたオーバークロックチューニングを楽しむことができるだろう。