Hothotレビュー
8.4型“大画面”の衝撃! ポータブルWindowsゲーム機「ONEXPLAYER」を試す
2021年5月10日 06:55
深センONE-NETBOOK Technologyの「ONEXPLAYER」は、8.4型液晶を備えたスレート型のポータブルWindowsゲーム機だ。Indiegogoで出資を募ったあと、夏にも出荷を開始する予定。続けて日本正規代理店のテックワンでも販売を開始する予定だ。
今回、Indiegogoのローンチに先立って、最上位であるONEXPLAYER Ultimate Editionのサンプルをお借りできたので、レビューをしていきたい。
過去最大級の8.4型ディスプレイを搭載した圧倒的な存在感
ポータブルWindowsゲーム機の先駆けといえば、同じく中国・深セン発の「GPD WIN」シリーズが有名なのだが、そちらは基本的に5型前後というサイズを踏襲している。シリーズの姉妹機にあたる「WIN Max」でも8型だ。
一方、2021年に新たにこの市場に参入したRyzen搭載の「AYA NEO」は、GPD WINより一回り大きい7型液晶を搭載しているものの、それでもONEXPLAYERには及ばない。それだけに本機に搭載されている液晶は大きいのだ。
大きいとは言うものの、実は同じサイズと解像度の液晶OneMix 3にも採用されている。それにもかかわらず、製品としての存在感は、同じ液晶サイズのOneMix 3や、さらに一回り大きい10型液晶搭載のOneMix 4を含め、いわゆるUMPCを圧倒している。本体の横幅が実測で約284mmと13型モバイルノート相当なので、当たり前と言えば当たり前だ。
この大きさである理由は、液晶左右にコントローラを備えた「ニンテンドースイッチ」スタイルだからである。後述するが、本製品のコントローラは据え置き型ゲーム機のコントローラに勝るとも劣らない操作感を実現できていて、それゆえこのサイズになっているのだ。ここまで来るともはやUMPCとは言えない。ただ、PCとしてはかなりコンパクトかつ軽量であることに変わりはなく、ポータブルであるのも事実だ。
2,560×1,600ドットの高解像度液晶はやっぱり使いやすい
というわけで、まずは注目の液晶から述べていくが、やはりGPD WIN 3とは別物だという印象が強い。大きさが二周りほど大きいので当然と言えば当然だが、2,560×1,600ドットがもたらす情報量と使いやすさは圧倒的だ。
例えばGPD WIN 3の1,280×720ドット表示の液晶では、ちょっとしたWebブラウジング程度では問題ないのだが、Cinebenchではウィンドウが見切れてしまう状態だし、一部ゲームのランチャーも縮小表示が強いられる。「ファイナルファンタジーXIV」ではステータスバーの一部が見切れてしまい、手動で大きさや位置を調整しなければならない。一方ONEXPLAYERなら問題なく使えるといった具合だ。
ただ当然だが、その分ネイティブ解像度でのゲーム性能がネックになる。本機もGPD WIN 3もCPU内蔵のGPUを使っているのだから、メモリ帯域幅不足のため解像度向上に伴う性能損失はより顕著だ。
しかし、2,560×1,600ドットなら、ちょうど1,280×800ドットの2倍なので、Tiger Lakeに内蔵されるIris Xe Graphicsの整数スケーリングを使えば、エッジがぼやけず綺麗に拡大できる。目を凝らして見るとジャギーが確認できるが、画面から30cmほど目を離した位置で、画面が動いているならあまり気にならない。普段使いで実用的な解像度であるのに加え、解像度の選択肢の幅が多いというのもONEXPLAYERならではの魅力だと言える。
ゲームによっては工夫が必要
もっとも、本機に採用されている液晶はポートレートタイプ(縦表示がデフォルト)である点がややネックではある。記事執筆時点(4月末)では、こうした液晶でゲームをフルスクリーン表示させると、妙に設定より解像度が低くなるバグが、IntelのGPUドライバに存在する。よって、正しく表示させるためには「ボーダレスウィンドウ」か、「ウィンドウ表示」を行なうしかない。
ただ、ボーダレスウィンドウ表示でそのままだと、2,560×1,600ドットの解像度で描画されるので、性能が低下してしまう。一方解像度を指定したウィンドウ表示だと、せっかくの没入感がスポイルしてしまう。
ボーダレスウィンドウモードを持つゲームでも、「レンダリング解像度」を設定できるゲームなら、性能低下する問題を解消できる。例えばこの設定を50%などにすれば、実質1,280×800ドットで描画されるので、ディスプレイ解像度で描画するより負荷が低くなり、よりスムーズにプレイできる。
問題は、この機能を持たないゲームの場合だろう。こうしたゲームをプレイする時、Windowsのディスプレイ設定でデスクトップ自体の解像度を落として、その上でボーダレスウィンドウモードにすると良い。一方、フルスクリーンモードしか持たない古いゲームの場合はやや厄介で、dllをフックしてゲームを無理やりウィンドウ化するツール(DxWnd)などを利用することになる。
願わくばAYA NEOと同様、ランドスケープネイティブの液晶を当初より採用してほしかったところではあるが、ユーザーの工夫次第で対処可能ではある。
余裕のあるコントローラで使い勝手は上々
本機のもう1つの要であるコントローラの使い勝手についても見ていこう。インタビューでもお伝えしているが、ONEXPLAYERは「ゲーム体験を最重要視した」との通り、もっとも力を入れている部分の1つであるからだ。
まずコントローラとしてのグリップ感だが、これは上々だ。本機は実測817gとUMPCとしてはかなり重い部類なのだが、大画面と相まってそこまで意識することはなかった。少なくとも、ソファに座ってくつろいだ姿勢でプレイする分にはまったく問題ない。試用中に1日2時間、合計1週間ほど本機で「ファイナルファンタジーXIV」をプレイしているのだが、重さが気になったことはなかった。
一方、立ったままプレイするというのは、同じく8型クラスの「GPD WIN Max」と同様ややつらく感じられることだろう。電車の中で立ったままプレイするというのは、さすがに現実的ではない。画面が大きい分プレイ中のゲーム画面が隣の人に丸見えな点も、やや恥ずかしい。家でやるか、他人との距離が取れるカフェでプレイするのがお薦めだ。
各ボタンやジョイスティックの操作感も、さすがこだわっているだけあってかなり良かった。OneGx1シリーズのコントローラは、ややチープな印象は否めなかったし、とくにLT/RTが押しにくかったが、ONEXPLAYERはそういったこととは無縁だった。
また、据え置きゲーム機コントローラばりのボタンストロークの深さも特徴。PSPにしろニンテンドースイッチにしろ、また競合のGPD WINシリーズにしろ、ボタンのストロークは比較的浅く、クイックな反応をするのだが、ONEXPLAYERはそれらとは別格だ。もちろん個人の好みもあるが、据え置きゲーム機と遜色のないボタンの操作感に魅力を感じる人は多そうだ。
ちなみにGPD WIN 3では左右のアナログスティックがともに上部にあり、これについてGPDはA/B/X/Yボタン操作時に親指がスティックに当たるのを防ぐためだと説明している。一方ONEXPLAYERはアナログスティックが下に配置されており、ほとんどのゲームでより自然な持ち方ができる。
一方バイブレーションだが、ポータブルゲーム機としてはかなり強い印象だ。しかし、レーシングゲームなどで振動しっぱなしの状態になると、スピーカーから出ているエンジンやタイヤが軋む音よりも、バイブレータの音のほうが気になって仕方ない時もあった。このあたりはヘッドフォンをして対処するなり、ゲームによっては振動を切るなりして工夫をしてほしい。
インターフェイスは最小限。熱は気にならず
そのほかのインターフェイスなどの使い勝手について見ていく。
ONEXPLAYERを手にして少し戸惑ったのはハードウェアUI周り。一見どこにも電源ボタンがないが、実は背面上部の円形に掘られた指紋センサーが電源ボタン兼となっている。コントローラの「Start」や「Select」もないと思いきや、Startは三本線アイコンのボタン、Selectはウィンドウが2つ重なったようなアイコンのボタンだ。普通に解釈するなら、前者はアプリケーションキー、後者はウィンドウ切り替えだと思うのだが……。
一方で左下のオレンジのボタンは、全ウィンドウを瞬時に最小化してデスクトップを表示する機能。「ボスが来た」的な使い方を想定しているのかもしれないが、ゲームプレイ中に攻略サイトを調べる時などにも便利に使えそうだ。
インターフェイスは上部に集中しており、USB 3.0×3(うち2基はType-C、給電兼用)、microSDカードスロット、3.5mm音声入出力と、最小限にとどまっている。用途を考えれば十分だ。
スピーカーの音量は十分だが、サイズから想像できるとおり低音は期待できず、カマボコレンジだ。音でも没入感を得たいと思うなら、ヘッドフォンをした方が得策だろう。ちなみに音量の調節およびミュートは本体背面、トリガーボタンの近くですぐに行なえる点は良いと感じた。
ONEXPLAYERでは、ハードウェアキーボードをバッサリ切り捨てている。では普段の入力はどうするのかというと、右側にあるキーボードアイコンのボタンを押すと、Windows 10標準の「スクリーン キーボード」が立ち上がるので、それを使う仕組みだ。
なお、この「スクリーン キーボード」は、タブレット端末で入力フォームにフォーカスを当てると起動する「タッチ キーボード」とは別物である点に注意したい。タッチ キーボードでは、カーソルがあるウィンドウを自動的にその上に移動させて、入力箇所が見える状態で入力できるのだが、スクリーン キーボードはどこに入力フォームがあろうと問答無用でその上に覆い被さる形で表示する。入力内容がさっぱりわからない時もあるわけで、ウィンドウを移動させながら使うことになる。
もっとも、タッチ キーボードだったとしても、ゲーム画面やゲームランチャーの入力欄を自動でずらすことはできない。また、タッチ キーボードだと起動時に日本語入力がオンになっているので、英数字しか使わないID入力で煩わしかったりする。このあたりは、Windows 10もそろそろAndroidやiOSを見習ってほしいところではある。
話が少し脱線したが、本機は、MOBAやFPSのようなキーボード+マウスを組み合わせて使うことが前提のゲームや、ゲーム内で友人と多くテキストチャットを交わすような用途には向かない。ただ、マグネットで着脱可能なキーボードを用意しており、そちらを装着すればノートPCのような使い方も可能ではある。今回キーボードを入手できなかったので試していないが、こちらを装着すれば欠点はある程度カバーできるだろう。
なお、キーボードボタンはスクリーン キーボード起動のほかに、長押しするとジョイスティックとボタンがマウスに早変わりする機能も備えている。GPD WINシリーズでも備えているこのモードだが、ONEXPLAYERではより高解像度な液晶を搭載しているゆえに、スケーリング100%表示ではタッチが非常に操作しにくくなるため、さらに有用な機能となる。ちなみにAボタンが左クリック、Bボタンが右クリックとなるが、それ以上の機能はないようだ。
本機は強化プラスチックまたは樹脂製と思われる筐体を採用しているが、強力な排熱機構と相まって、ゲームプレイ中に熱くなって不快になることは一切なかった。Cinebenchといった高負荷時の騒音はそこそこするのだが、GPU負荷が中心のゲームではほとんど気にならなかった。
キーボードボタンの下部には、「Turbo」ボタンがあるが、実は本機は標準ではTDP 20Wで動作している。Turboボタンをオンにして初めて、Tiger Lake-Uの本来の実力である28Wに引き上げられる。このあたりは後ほど検証したい。
Core i7-1185G7搭載で期待を裏切らない高性能
それでは最後にベンチマークを行なっていこう。恒例通りベンチマークには「PCMark 10」、「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」、「CINEBENCH R23」を実施した。比較用に、GPD WIN 3でのベンチマーク結果も掲載している。
なお、今回試用したモデルは最上位の「Ultimate Edition」で、Core i7-1185G7、メモリ16GB、ストレージ1TBの構成。実際にはCore i5-1135G7やCore i7-1165G7といった下位のオプションも用意されていて、そちらが主流になる可能性はあるため、参考程度としていただきたい。
機種名 | ONEXPLAYER | ONEXPLAYER | WIN 3 |
---|---|---|---|
設定 | ノーマル | Turbo | PL1=20W PL2=25W |
PCMark 10 | |||
PCMark 10 Score | 4,752 | 4,838 | 4,651 |
Essentials | 9,776 | 9,772 | 9,685 |
App Start-up Score | 12,843 | 12,586 | 13,526 |
Video Conferencing Score | 7,881 | 7,906 | 7,707 |
Web Browsing Score | 9,231 | 9,378 | 8,717 |
Productivity | 6,550 | 6,611 | 6376 |
Spreadsheets Score | 5,920 | 5,987 | 5,780 |
Writing Score | 7,248 | 7,301 | 7035 |
Digital Content Creation | 4,548 | 4,758 | 4,423 |
Photo Editing Score | 7,442 | 7,485 | 6,571 |
Rendering and Visualization Score | 2,530 | 2,812 | 2,725 |
Video Editing Score | 4,997 | 5,118 | 4,835 |
3DMark | |||
Fire Strike | 4,677 | 5,047 | 4,385 |
Graphics score | 5,379 | 5,541 | 4,868 |
Physics score | 10,588 | 12,747 | 12,242 |
Combined score | 1,661 | 1,961 | 1,621 |
Night Raid | 14,618 | 16,443 | 15,364 |
Graphics score | 18,656 | 20,386 | 18,717 |
CPU score | 6,566 | 7,846 | 7,625 |
Time Spy | 1,606 | 1,737 | 未計測 |
Graphics score | 1,456 | 1,569 | 未計測 |
CPU score | 3,859 | 4,457 | 未計測 |
Wild Life | 11,566 | 11,599 | 未計測 |
ドラゴンクエストX ベンチマーク | |||
1,280×720最高品質 | 15,385 | 16,163 | 14,735 |
1,280×720標準品質 | 15,733 | 16,402 | 14,860 |
1,920×1,080最高品質 | 11,034 | 13,238 | 計測不可 |
1,920×1,080標準品質 | 12,099 | 12,509 | 計測不可 |
ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク | |||
1,280×720ノートPC標準品質 | 10,104 | 11,237 | 10,411 |
1,280×720最高品質 | 6,520 | 7,590 | 未計測 |
1,920×1,080ノートPC標準品質 | 6,942 | 7,619 | 計測不可 |
1,920×1,080最高品質 | 3,893 | 4,442 | 計測不可 |
Cinebench R23 | |||
CPU(Multi core) | 4,131 | 4,979 | 4,080 |
CPU(Single core) | 1,431 | 1,388 | 1,321 |
結果を見れば分かる通り、本機は期待通りのスコアを残した。同じTDP 20Wの制限下でもCore i5-1135G7搭載のWIN 3以上のスコアを記録したのは当然だとして、TDPが最大28WのTurboモードでは数%、テストによっては最大20%ほどスコアを伸ばしている。
GPD WIN 3でもBIOSでTDP 28Wを設定できるし、上位モデルではCore i7-1165G7を採用しているので、このスコア差は縮まり、ONEXPLAYERにとって決定的なアドバンテージだというわけではないが、少なくとも性能面で不満を感じることはないだろう。
バッテリ駆動時間だが、屋内での利用に十分な輝度50%の状態で、PCMark 10のバッテリ駆動時間テストで、残量7%までGamingでは1時間51分、Modern Officeでは8時間21分駆動した。ゲームに没頭できるほどの時間ではなく、ポータブルゲーム機として見るとやや物足りないが、外出先で息抜きでゲームをやるには十分。また、液晶サイズや重量などのバランスを考えればかなり頑張っている方だ。
より高い没入感と汎用性を求めるユーザーに
「ONEXPLAYERは優れたゲーム体験を実現することを目指して開発されたデバイス」、というJack社長の言葉の通り、ポータブルでもゲーム体験を求めるユーザーに最適な製品だ。大型で没入感の高い液晶はもちろんのこと、据え置きゲーム機並の使い勝手を実現したコントローラ、モバイルで考えうる最高の性能を詰め込んでいる。WIN 3のような極限の小型化というロマンを追求したマシンではないが、そこにはONE-NETBOOKならではの哲学がある。
また、2,560×1,600ドットの液晶や、着脱可能なキーボードカバー、キックスタンドの内蔵など、ゲーム用途のみならずオフィスやエンターテインメントにも利用できる汎用性の高さも本機の魅力。値段はそこそこ張るだろうが、それゆえに用途を限定したくないユーザーにもオススメできる1台だと言えるだろう。