特集

8.4型のゲーミングUMPC「ONEXPLAYER」はどこを目指したのか

ONEXPLAYERを手にするJack Wang氏

 深センONE-NETBOOK Technologyの8.4型ゲーミングUMPC「ONEXPLAYER」がIndiegogoで出資を募り始めると予告された。日本では、テックワンから今年(2021年夏)にも販売開始される見込みだ。

 同社は3月にもTiger Lake搭載の7型ゲーミングUMPC「OneGx 1 Pro」を出荷開始したばかりだが、間をそれほど置かずに、新ラインナップを投入することになる。液晶が7型から8.4型へと大型化するとともに、搭載されるプロセッサも低電力重視のTiger Lake-Yから、性能重視のTiger Lake-Uとなり、大幅な性能向上が期待される。

 そして最大の特徴は、同社得意のヒンジ付きの2in1やクラムシェルではなく、完全なスレート型となったこと。ポゴピンと磁石で着脱できるキーボードも用意しており、2in1の使い勝手も残しているが、ONE-NETBOOKにとって大きな転換点になっているのは間違いないだろう。

 今回、事前に同社CEOであるJack Wang氏(以下敬称略)にインタビューをする機会を得た。新製品を投入する意図と、その意気込みを語ってもらった。

2019年から構想し、1年かけて開発

Jack Wang氏

――ONEXPLAYERはONE-NETBOOKにとって初のスレート型ですね。御社と言えばヒンジ付きの2in1やクラムシェルが得意だと思うのですが、スレート型を開発するきっかけについて教えてください。

Wang: 1つにモバイルゲーミング市場の拡大の流れがあります。OneGx1シリーズもこの流れに沿って生まれたものでした。その上でONEXPLAYERは、市場のニーズを汲み取り、反映したものです。

 特に、我々のファンの方々から、パームトップでスレート型UMPCが欲しいという声が多く上がりました。その中でも大型液晶を搭載して、高い没入感を得たいといったニーズや、使いやすいコントローラを搭載して欲しいといったニーズが上がってきました。

 我々は中国国内のみならず、日本や海外でも多くのファンを抱えていますが、それらのファンの声を融合させたのがONEXPLAYERだと言えます。

――構想はいつ頃から始まり、開発に着手したのでしょうか。

Wang: スレート型という構想自体は2019年頃からありましたね。そして2020年3月頃に開発に着手し、約1年かけて開発した感じです。

 当初よりIris Xe Graphicsが実現できる高いゲーム性能を目指そうとしましたから、Tiger Lake-Uの採用は決めていました。

――スレートのゲーミングPCは、これまでもAMD DiscoveryやALIENWARE UFOのようなプロトタイプや構想はあったのですが、なかなか製品化にこぎつけなかったですね。これらが実現できなかった理由は何か思い当たりますか。

Wang: UMPCの開発は、CPU性能のみならず、PCを小型化するノウハウが必要です。AMDやDellが最終的に製品化できなかった理由はわかりませんが、我々にはそういったノウハウがこれまでの製品で蓄積されてきたので、製品化を実現できたのだと思います。

至高のゲーミング体験を目指す

――ONEXPLAYERが目指したポイントや、特にこだわった点を教えて下さい。

Wang: ONEXPLAYERはゲーミングにおける実際のユーザー体験を重視して開発しました。近年は、コロナ禍で仕事が忙しくなった体験をしたユーザーも数多くいると思いますが、その仕事のスキマ時間にONEXPLAYERでゲームを楽しんで、少しでもストレス解消になったらと思ってます。

 また、ONEXPLAYERはパームトップPCを再定義し、業界の新しいスタンダードとなることを目指しました。すなわちパームトップPCでゲームをするならONEXPLAYERがリファレンスとなることを睨み、業界をリードする設計にしています。

 もちろん、我々のハードウェアも重要ですが、その上で走るエンドコンテンツも重要だと考えています。これまでPCゲームに馴染みがなかったようなユーザーが、ONEXPLAYERを通して初めてPCゲームに触れ、それによってPCゲームの面白さに気付いてほしいと思います。

――ONEXPLAYERの開発においてもっとも苦労した点を教えてください。

Wang: 先述の通り、我々はゲーム体験を最重要視しました。いかに人間工学に基づいてデザインするのか、もっとも苦心しましたし、実際には妥協なく実現する点にも苦労しました。

 例えば長時間駆動を実現するためのバッテリ容量と、手にした際にストレスを感じないような重量バランス、コントローラ個々のボタン配置やパーツ選定、バイブレータの部品選定や最適化、BIOSやドライバといったソフトウェア周りの設定などです。

 ちなみに今回は59Whのバッテリを採用しました。これは標準的なモバイルノートとほとんど同じ容量を達成できています。

――OneGx1シリーズと比べて、CPU以外にどのあたりに違いや進化/強化がありますか。また、過去にユーザーからさまざまなフィードバックを得ていると思いますが、実際に製品に反映したポイントなどがあれば教えて下さい。

Wang: 実際に手にすればわかりますが、大手のゲームコンソールと違和感のない使い勝手を実現しているのが特徴です。例えばアナログジョイスティックやA/B/X/Yといった主要部分では、ボタンの押し心地など、Xboxシリーズに近くなるよう設計していて、違和感のないようにしています。今回はジョイスティックもボタンも日本のアルプス製となっており、eスポーツグレードのものを採用しています。

 また、CPUが性能を引き出せるよう、ソフトウェア部分も改良したり、放熱機構の最適化も行ないました。フォースフィードバック(振動)もこれまでOneGx1にはなかった要素で、優れた振動特性のリニアアクチュエータを採用しています。

 ちなみに今回は日本製部品を多く採用していますが、コロナ禍の影響で、その選定と購入にも苦労しました。

8.4型を採用した理由

――今回は2,560×1,600ドットという高解像度な8.4型液晶を採用しましたが、その理由はなんでしょうか。

Wang: まず、大きさが重要であると考えています。PCゲームの多くは大画面でかつ近距離でのプレイを想定してUIが作られているため、基本的文字の大きさが小さいです。これが5~7型程度の液晶だと小さすぎて見えにくいという声が多く上がってきました。

 一方で2,560×1,600ドットという解像度は、ゲーマーにより多くの選択肢を与える上で重要だと考えています。例えば軽いゲームであれば高解像度で楽しめますし、重いゲームであれば1,280×800ドットのちょうど2倍なので、Iris Xe Graphicsの整数スケーリングを使い、綺麗に拡大しながら性能を犠牲にせずプレイできます。低解像度の液晶ではこのような選択肢がありません。

 また、今回採用した8.4型液晶は色再現性や輝度といった面でも優れています。こうしたさまざまな観点からこの液晶となりました。

――OneGx1 ProもTiger Lake-Y搭載モデルをリリースしたばかりですが、こちらとの棲み分けは、画面サイズとCPU性能のみになりますか。

Wang: OneGx 1 ProはYシリーズのプロセッサですので、どちらかといえばビジネス寄りになります。ONEXPLAYERは大画面でより高性能なので、よりゲーム寄りになります。

 今回、製品背面に備え付けられた65度のチルトが可能なキックスタンドが最大の特徴になっています。フットプリントを抑えながら、そのまま机の上に立たせることができます。2,560×1,600ドットの液晶と組み合わせて、ビデオ再生にも好適で、Netflixといった動画配信サービスで、ドラマや映画を楽しむことも想定しています。つまり、ホームエンターテインメントにも適していると言えるでしょう。

――確かにコントローラの内蔵やキックスタンド、着脱式キーボードなど、これまでONE-NETBOOKにはない要素ですね。

Wang: 我々はこれまでの2in1での経験やノウハウを活かして、ゲーマーが求める機能にプラスアルファの部分を、最小限のコスト増で実現しています。機能を増やしたとしてもゲーム体験に影響を与えず、なおかつより多くのシーンに適用できるようにしました。

 例えば、PCゲームにおいてどうしてもハードウェアキーボードが必要だというユーザーはいるでしょう。着脱式であれば、そういったニーズに応えられます。

TencentやIntelから強力なサポート。ライバルに対しても自信

――今回の製品には、中国でゲームパブリッシャーとしても有名なTencentからも協力を得たとしていますが、どのような点で協力してもらえたのでしょうか。

Wang: Tencentからは、多くのゲーマーへの調査結果を提供してもらうことができました。つまり、実際にゲームをプレイしているゲーマーからどういった要望があるのかといった生の声ですね。こういった声を大量に頂くことができ、製品に反映できています。また、マーケティング面でも協力してもらえています。

 Tencentからのみならず、Intelからも強力なサポートを得ることができました。例えば技術面では、「Cyberpunk 2077」がIris Xe Graphicsでクラッシュする問題も、協力によって修正してもらうことができました。マーケティングの側面で言えば、ONEXPLAYERはIntelのProduct Innovation Awardも獲得しています。

――ライバルのGPD WIN 3やAYA NEOといったデバイスに対し、もし考えがあればお聞かせください。

Wang: 実際に体験してみれば、どのデバイスがもっともゲーム体験に優れているのか一目瞭然だと言えます。先述の通り、ONEXPLAYERは業界の新しいスタンダードを定義したデバイスです。大型の液晶ディスプレイ、優れた放熱機構、特に手にした際のフィット感などに自信を持っています。その優位性は、我々の開発に多くのユーザーが支持していることからも明らかです。

 ゲーマーの方々からしてみれば、この半年の間に3機種も投入されるということは、ゲーミングUMPCも多元化していると実感できることでしょう。

 我々はすでに中国国内で5回もユーザー体験会を実施していますが、いずれも製品への評価は上々でした。細かいフィードバックや、今回の製品で実現できなかったものは、次世代製品に取り入れ、さらに業界のスタンダードの水準を引き上げて、市場をリードしていくつもりです。

――新型コロナウイルスの影響で、ゲーミング市場はかつてないほどに成長を見せていますが、そこに参入しているONE-NETBOOKとしても見通しは明るいですか。

Wang: はい、確かにゲーム市場は拡大していて、人材の招聘も拡大、会社としての投資も増えています。実際弊社も、招聘を増やしています。また、ゲーマー、市場に新たに参入するプレイヤーも増えています。2020年ノートPC市場は50%拡大しました。弊社も35%ほど売上が伸びています。この市場で、さらに成長する自信はあります。

――旺盛なマイニング需要に加え、業界では半導体不足が問題となっていますが、御社としてはどのような対策をしていますか。

Wang: はい、弊社でも半導体不足の影響はあります。これについては、現在発注スケジュールの前倒しで対応しています。例えば本来のスケジュールより1カ月前、場合によっては半年ほど先を見越して発注をするといったところですね。

 また、半導体不足問題の長期化を見据えて、製品SKUの調整を行なう予定もあります。例えばこれまで同じ製品で、異なるCPUのSKU(例えばCore i3/i5/i7)で横展開してきましたが、このSKUを絞るといった対策も行なって行く予定です。

――今後、会社としてどの部分を強化していく予定ですか。

Wang: まずは製品の品質ですね。部品の品質管理はもちろんのこと、製品の開発において品質問題が出にくいシステムを構築し、開発体系を強化しました。

 また、すでに製品の刷新サイクルが短くなっていますが、これからもこのリードタイムを短縮し、業界をリードしていきたいと考えています。


 GPD WIN 3、AYA NEOに続いて登場した第3のスレート型となるONEXPLAYERだが、話を伺っていくうちに、これらとはやや異なる、ゲーマーファーストの視点で開発されたデバイスであると感じた(前2者はどちらかといえばガジェットギークでゲームも好きなユーザー向けだろう)。そしてそれは、モバイルPCゲーミングにおける新しいスタンダードを定義するものだということもわかった。

 さてそのONEXPLAYERだが、実はPC Watchはサンプルも入手できている。近日中にレビューをお届けする予定なので、こちらもお楽しみにしていただきたい。