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コナミが作ったゲーミングパソコン「ARESPEAR C700+」。“コナミっぽさ”を醸し出すはじまりの1台
2020年10月23日 06:55
ゲームのコナミがeスポーツ向けパソコンを作った
コナミグループでアミューズメントマシンを担当するコナミアミューズメントが、eスポーツ向けのパソコンおよびデバイスを扱う「ARESPEAR」シリーズの展開を開始した。
コナミは老舗のゲームメーカーで、家庭用ゲームやアーケードゲームなど幅広い分野に展開している。eスポーツへの取り組みにも積極的で、「ウイニングイレブン」、「実況パワフルプロ野球」、「beatmania IIDX」といったタイトルではプロリーグも開催されている。
そんな状況を加味しても、ゲームメーカーがパソコンを作り、一般販売するというのは異例だ。6月には「esports 銀座 store」をオープンしており、eスポーツに関わるソフト・ハード・箱(建物)を総合的にプロデュースしたいという思いがあるのかもしれない。
「ARESPEAR」シリーズのゲーミングパソコンは現在3モデル展開で、今回試用する「ARESPEAR C700+」は最上位機種となる。かなりユニークなマシンに仕上がっているので、順を追って見ていこう。
サウンドカード別付けで音へのこだわりが見える
「ARESPEAR C700+」のスペックは下記のとおり。
【表1】ARESPEAR C700+ | |
---|---|
CPU | Core i7-9700(8コア/8スレッド、3~4.7GHz) |
チップセット | Intel Z370 |
GPU | GeForce RTX 2070 SUPER |
メモリ | 16GB DDR4-2666(8GB×2) |
SSD | 512GB(M.2 NVMe) |
HDD | 1TB |
光学ドライブ | なし |
サウンドカード | ASUS Xonar AE |
電源 | 750W |
OS | Windows 10 Home 64bit |
汎用ポート | USB 3.1×2(1基はType-C)、USB 3.0×6、USB 2.0×2 |
カードスロット | なし |
映像出力 | HDMI 2.0b、HDMI 1.4b、DisplayPort v1.4×3、DisplayPort 1.2、DVI-D |
有線LAN | Gigabit Ethernet |
その他 | 音声入出力、S/PDIFなど |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 230×575.3×501.5mm |
重量 | 約17kg |
直販価格 | 33万8,000円(税込) |
CPUはCore i7-9700、GPUはGeForce RTX 2070 SUPERという構成。ハイエンドからは1ランク落ちるものの、コストパフォーマンス的にはいい。CPUには水冷ユニットを搭載する。メモリやストレージなどの構成は標準的なラインだ。
ユニークなのは、サウンドカードとしてASUS Xonar AEを搭載している点。最近はオンボードのサウンド機能も高性能になり、他社のゲーミングパソコンでもサウンドカードを追加しているものは滅多にない。音楽ゲームの「beatmania IIDX」をeスポーツタイトルとして扱う上では、妥協できない部分だということだろうか。
価格は税込で33万8,000円となっている。下位モデルのうち、「ARESPEAR C700」は「ARESPEAR C700+」と基本スペックは共通で、LED装飾がないものとなる。さらにその下の「ARESPEAR C300」は、Core i5-9400F(空冷クーラー)、8GBメモリ、GeForce GTX 1650などに変更される。
他社製品とスペックだけで比較すると、価格はかなり高額と言わざるを得ない。ではその価格差はどこから生じるのか、という目線も含めつつ実機を見ていきたい。
ハイエンドに迫る性能でフルHDのゲーミングは万全
次は実機の検証に移る。まずはベンチマークテストを試してみた。利用したのは、「PCMark 10 v2.1.2506」、「3DMark v2.13.7009」、「VRMark v1.3.2020」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」、「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」、「Cinebench R20」、「CrystalDiskMark 7.0.0」。
ウルトラハイエンドな構成ではないものの、スコアはなかなか健闘している。「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」では、4Kでも「普通」の評価となり、画質を少々下げれば実用的なレベルになりそうだ。ただ製品の位置づけを鑑みるに、4KよりフルHDクラスでの安定性や高リフレッシュレートを意識しているだろうとは思う。
CPU系のベンチマークスコアを見ると、Core i7-9700がハイパースレッディング非搭載となるため、8コアのわりにマルチコア処理の性能はそこまで高くはない。ただゲームにおいては物理8コアで足りないということも考えにくく、ゲーム系のベンチマークスコアでも不利を感じさせる値はなかった。
【表2】ベンチマークスコア | |
---|---|
「PCMark 10 v2.1.2506」 | |
PCMark 10 | 6,756 |
Essentials | 10,316 |
Apps Start-up score | 15,473 |
Video Conferencing Score | 7,756 |
Web Browsing Score | 9,149 |
Productivity | 8,389 |
Spreadsheets Score | 9,406 |
Writing Score | 7,482 |
Digital Content Creation | 9,671 |
Photo Editing Score | 11,703 |
Rendering and Visualization Score | 12,273 |
Video Editing Score | 6,298 |
「3DMark v2.13.7009 - Time Spy」 | |
Score | 9,652 |
Graphics score | 10,137 |
CPU score | 7,597 |
「3DMark v2.13.7009 - Port Royal」 | |
Score | 5,988 |
「3DMark v2.13.7009 - Fire Strike」 | |
Score | 20,372 |
Graphics score | 24,148 |
Physics score | 18,017 |
Combined score | 10,307 |
「3DMark v2.13.7009 - Night Raid」 | |
Score | 52,181 |
Graphics score | 108,072 |
CPU score | 13,276 |
「3DMark v2.13.7009 - Sky Diver」 | |
Score | 44,687 |
Graphics score | 79,652 |
Physics score | 15,472 |
Combined score | 30,613 |
「VRMark v1.3.2020 - Orange Room」 | |
Score | 12,667 |
「VRMark v1.3.2020 - Cyan Room」 | |
Score | 9,657 |
「VRMark v1.3.2020 - Blue Room」 | |
Score | 3,204 |
「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」(高品質) | |
3,840×2,160ドット | 4,308 |
1,920×1,080ドット | 9,544 |
「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(最高品質) | |
1,920×1,080ドット | 18,182 |
「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」(簡易設定6) | |
1,920×1,080ドット | 100,467 |
「Cinebench R20」 | |
CPU | 3,056pts |
CPU(Single Core) | 471pts |
ストレージはSSDに東芝製「KXG60ZNV512G」、HDDに東芝製「MG04ACA100N」が使われていた。SSDはシーケンシャルリードで約3.3GB/sと高速で、読み込み速度の不満が出ることはないだろう。
オリジナリティあふれる背面カバーの是非
続いて実機を見ていきたい。初見で抱く感想は、ほぼ誰もが「どっちが前なんだ?」に違いない。その理由は、筐体の前後に取りつけられた、水玉模様に穴が開けられたカバー。前後のどちらから見てもほぼ同じに見えるデザインとなっている。
背面にカバーが取りつけられたパソコンは極めてめずらしい。背面は通常、各種ケーブルの接続場所であり、排気口となることが多いので、極力塞ぎたくない。そうでなくてもパソコンの背面が見える状況は少なく、装飾の価値も高くない。それでも背面にカバーを取りつけたのは、観戦を前提としたeスポーツでの使用を考えたものだろう。
背面カバーにより使用感はどうなるか。背面カバーを外すと一般的なパソコンと同様のデザインで、各種ケーブルを接続できる。ケーブルは下部にある取っ手部分を通して接続することで、すべてのケーブルが本体の底面近くから出てくるかたちになる。これでカバーをつけてもケーブル類が綺麗にまとまって外に出てくることになる。
ケーブル類が自然とまとまるのはスマートでいいと思うのだが、各種ケーブルの長さには注意が必要だ。たとえばおもにキーボードやマウスを接続すると思われる最上部のUSBポートだと、そこから下部の取っ手部分をくぐって底面から出てくることになると、ケーブル長を数十cm消費する。筆者の検証環境でも、本機をテーブル横の左足元、キーボードをテーブル右側に置くと、ケーブル長が1.5mのキーボードだと少し届かない。
排気については、水玉部分の裏に、さらに小さな水玉状の穴が開いた黒のプレートが貼られている。カバーのほぼ全体で通気できるため、エアフローの心配はなさそうだ。
背面カバーには賛否あると思うが、実物を見た筆者としては、ケーブルが届かなくなる問題に対処できさえすれば、とてもいいアイデアだと思う。家庭内でも、リビングなどで目に入りやすい場所にパソコンを置きたい人はいるだろう。本機であれば横向きに置いても違和感なく置けるし(サイズ的な存在感はあるが)、どの方向から見てもすっきりした外見なのは結構ありがたい。
カバー以外の部分も見ていこう。前面はカバーのみでボタン類はなく、天面に電源とリセットボタン、アクセスランプ、ヘッドフォンとマイク端子、USB端子が用意されている。USB端子は通常時はカバーが装着されており、引き抜くと端子にアクセスできる。
それ以外に操作に関わるものはない。光学ドライブは非搭載で、後付けできそうな5インチベイも存在しない(内蔵用の5インチベイは2つあり、1つ空きがある)。また端子類は一般的に筐体前面に近いところにまとめてあるが、本機は天面中央から奥に向かって縦方向に並べられている。ユニークなデザインで、使い勝手も悪くないが、机の下などに置きたい人は注意が必要だ。
最上位機種のド派手なLEDライティング
本機の電源を入れると、筐体の左右を囲むように配置されたネオンサイン状のLEDバーと、左側面のアクリルパネルから見える筐体内部に配置されたLEDが輝く。過去にLEDライティングを採用したゲーミングパソコンはいろいろあるが、ここまで派手な装飾を施したものは記憶にない。仕事をする筆者の横でさんざんゲーミングパソコンを見てきたはずの妻が、「えっ、何これ!」と声を上げたほどだ(笑)。
LEDライティングの色や演出はカスタマイズが可能で、製品サイトにある「AREPSEAR LED EDITOR」というWebアプリを使う。ライティングは左右のLEDバーと筐体内部のLED、3部位を個別に設定可能で、色はRGBフルカラーで調整できる。指定した色の光る時間やループのタイミングなどをかなり細かくカスタム可能だ。
設定が終わったら、画面上部の「down load」ボタンを押して設定ファイルをダウンロードし、通知領域に常駐している「ArespearLED」アプリから読み込むことで、本体に設定が反映される。保存した設定を「AREPSEAR LED EDITOR」側に読み込ませる「up load」も可能だ。
「AREPSEAR LED EDITOR」によるカスタマイズ機能は非常に細かく強力なのだが、操作方法が独特で、直感的とは言いにくい。そもそもWebアプリを経由して設定ファイルを書き出すという仕組みが煩雑だ。そう頻繁にいじる設定ではないかもしれないが、せめてローカルで完結できるかたちに収めておいてほしかった。
本機はどうしても外見に気を取られるが、それ以外の使用感もチェックしよう。アイドル時は各種ファンが緩く回っている音がする程度で、動いているのはわかるが(音以前に光でわかるのだが)騒音が気になるというほどではない。
ベンチマークテストで高負荷をかけてみると、ファンからのホワイトノイズに似た音がじょじょに大きくなっていく。CPUは水冷式なので音の変化が緩やかだが、GPUのファンは数十秒でそこそこ回転しているのがわかる。
数分経つとCPUファンの騒音レベルも大きくなってくる。音質はCPUのファンと同様のホワイトノイズ系の風切り音で、耳触りな高音はほぼない。GPU単体の騒音と比べて劇的にうるさくなったということもなく、スピーカーからの音もそれほど邪魔しない範囲で収まっている。
設計や使用パーツから妥協のなさが見える
次にケース内部も見ていく。内部にアクセスするには、まず背面パネルを引っ張って取り外し、続いて同様に前面パネルも外す。次に天面パネルを前にスライドさせて外すが、電源ボタンなどへのケーブルがつながっているので完全には外れない。
次は背面の下部に接続されているLEDライトのコネクタを引き抜く。その次に背面にある左サイドパネルのネジを緩めて、後方にスライドすると外せる。これでようやく内部にアクセスできる。
内部はとてもすっきりしている。CPU周りは水冷式で高さのあるヒートシンクなどはなく、筐体前方もドライブベイなどを極力置かないことで大きな空間がある。配線も積極的に裏面に回しており、非常に美しい。左側面から内部が見えることや、LEDライティングを搭載していることもあり、かなりがんばっているようだ。
ファンは前方に巨大な吸気ファンが2基。背面にはファンが1基。天面に装着されたCPU冷却用のラジエータにはファンが2基あり、エアフローは前面から吸気して、背面と天面から排気するかたちだ。天面のカバーには穴はないのだが、カバーと筐体のベースになるフレームの間には隙間があり、筐体の前後から空気が排出されている。
その他のパーツを眺めてみると、真っ先に目についたのが電源ユニットに書かれたSeasonicのロゴ。スペックシート上では750Wとだけ書かれ、とくにメーカーや製品の指定はないのだが、今回搭載されていたのはSeasonic製の「FOCUS-GX-750」。市場価格で2万円以上する高級品だけに、ここだけで実質1万円は製品コストが高くなっている。
ビデオカードはMSI製で、シングルファン搭載のもの。その下にASUSのサウンドカード、Xonar AEが搭載されている。ビデオカードとサウンドカードは3スロット分空けてあり、排熱処理への配慮も見える。
右サイドパネルも開いてみた。裏面に通した配線以外はとくに何も見当たらないのだが、最低限に絞られた配線を適切に結束して、最短距離でケーブルを伸ばしている。エアフローにもほとんど影響しない場所なので、裏面配線はごちゃごちゃしているものも多いが、本機はこちらも非常に美しくまとめてある。このあたりがコナミアミューズメントのノウハウなのだろうか。
コナミにしかできないゲーミングパソコンを体現
ひととおり触ってみた感想としては、設計から組み上げまで、とても丁寧に作られたマシンだと感じた。本業ではないパソコン作りの初期型なのだから、何かしらボロがあるだろうと身構えていたのだが、洗練された設計と丁寧な組み立てで、逆に驚かされた。使用上の不具合も一切なく、ほかのパソコンメーカーとも十分に張り合える品質だ。
背面パネルやLEDライティングといったオリジナル要素も褒めねばならない。あらゆるデザインは好みが分かれるもので、本機のデザインも予備知識なしで見れば過剰なほど派手というしかない。しかしこれは「beatmania IIDX」をプレイする筐体なのだと思うと、あちこちがピカピカ輝くド派手なアーケード筐体がイメージされ、なるほどと腑に落ちる。
「ARESPEAR」という名前は、ギリシア神話に登場する「戦」を司る神である「ARES」と、その代表的な武器である槍「SPEAR」を組み合わせた名前だそう。そこだけ聞くと、おおよそパソコンにつけるネーミングセンスとは思えない。しかしロゴと一緒に見ると、いかにもゲームメーカーらしいデザインで、そのままシューティングゲームのタイトルロゴにできそうに思えてくる。
同意してくれる方は多くないかもしれないが、筆者が本機を眺めると、「スーファミから初代プレステの頃のコナミっぽさ」が端々から漂ってくる。古臭いと言いたいのではなく、脈々と受け継がれるコナミのDNAみたいなものを否応なく感じさせてくるのだ。製品が梱包されたダンボールですら、開けたら「ARESPEAR」というゲームの特別限定版が出てきそうな気がしてくる。
ゲーミングパソコンがLEDでピカピカ光るという流行はもはや廃れていると思うが、本機にかぎってはゲーマーのワクワク感を呼び起こすという、コナミにしかできない演出になっていると思う。「アーケードゲームを知る人がゲーマーに向けてパソコンを作るとこうなるのか!」と驚かされる部分は多い。
というわけで、本機にはゲームメーカーならではの唯一無二の魅力と、確かな設計開発力による完成度の高さがあるのは間違いないのだが、そうは言ってもお値段はかなり高価と言わざるを得ない。現状だと、よほどデザインを気に入ったか、コナミへの愛にあふれる人かでないと、なかなか購入に踏み切るのは難しいと思う。しかし本機はまだブランドの第1弾製品。eスポーツ全体への関わりの一環として、今後の展開にも期待していきたい。