Hothotレビュー
Kaby Lake-Gを搭載した2in1の実力を「HP Spectre 15 x360」で見る
2018年8月7日 11:00
日本HPから登場した「HP Spectre 15 x360」(以下Spectre 15 x360)は、15.6型液晶を搭載した液晶回転型の2in1である。
2in1としてはかなり大きいが、本製品の最大の特徴は、IntelのCPUにAMDのGPUを統合した「KabyLake-G」を搭載していることだ。従来のIntel製GPUを統合したCore iシリーズに比べて、格段に描画性能が高いことが魅力であり、さまざまな用途に対応できる。
今回、Spectre 15 x360を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、試用したのは試作機であり、製品版とは性能や細部が異なる可能性がある。
アルミニウム合金を削り出した堅牢で高級感のあるボディ
まずは外観から見ていこう。Spectreシリーズは、HPのプレミアムブランドであり、ラグジュアリーなデザインと質感が魅力だ。本体色は、アッシュブラックと呼ばれるやや茶色がかったブラックで、ヒンジや側面はシャンパンゴールドを採用。2色のコントラストが美しい。材質はアルミニウム合金で、CNCによる削り出しでボディが作られており、薄さと堅牢さを両立させている。
本体のサイズは、約359×249×21mm(幅×奥行き×高さ)で、15.6型液晶搭載モデルとしてはフットプリントは小さい。重量は約2.13kgであり、常に携帯するにはやや重いが、オフィスで自分の机から、会議室に持って行くといった使い方なら、あまり苦にならないだろう。
AMD製GPUを統合したクアッドコアCPU「Core i7-8705G」と16GBメモリを搭載
Spectre 15 x360は、搭載SSDの容量の違いによって、2モデルが用意されている。上位モデルは1TB SSDを搭載し、下位モデルは512GB SSDを搭載しているが、それ以外のスペックは同一である。今回は、512GB SSDを搭載した下位モデルの15-ch011TXを試用した。
Spectre 15 x360は、CPUとしてCore i7-8705Gを搭載している。Core i7-8705Gは、第8世代のCore iシリーズであるが、これまでのCore iシリーズと異なり、AMD製のGPU「Radeon RX Vega ML」を統合していることが特徴だ。Radeon RX Vega MLは、AMDの最新アーキテクチャ「Vega」を採用したGPUであり、20基のコンピュートユニットを搭載。SP数としては、1,280基となる。
Core i7-8705GはクアッドコアのCPUであり、Hyper-Threadingテクノロジーにより、最大8つのスレッドを同時に実行できる。CPUの定格クロックは3.1GHzだが、TurboBoostテクノロジーにより、クロックは最大4.1GHzまで向上する。CPU、GPUともにかなり高性能といえるだろう。
なお、IntelのGPU「Intel HD Graphics 630」も統合されており、アプリケーションに応じて、自動的に切り替わるようになっている。
メモリは標準で16GB実装しており、それ以上増設はできない。16GBあれば、大抵の用途で不足することはないだろう。ストレージとしては、NVMe対応の高速SSDが搭載されている。試用機には、東芝製のSSDが搭載されていた。
ヒンジが360度回転可能な15.6型4K液晶を搭載
Spectre 15 x360は、3,840×2,160ドットの4K表示に対応した高解像度液晶を搭載していることも高く評価できる。フルHDの縦横2倍の解像度であり、一度に表示できる情報量は、フルHDの4倍に達する。ベゼルも含めたディスプレイ面全体がガラスで覆われているため、フラットですっきりした外観を実現している。
IPS液晶を採用しており、視野角も広く、発色も鮮やかだ。ただし、表面が光沢仕上げなので、外光の映り込みが気になることがある。表面のガラスは、強化ガラスのコーニングゴリラガラスが使われているので、傷がつきにくい。液晶上部には、約200万画素WebカメラとIRカメラ、デュアルマイクが搭載されている。IRカメラはWindows Hello対応の顔認証に使われる。
液晶のヒンジは2軸で360度回転するため、いわゆるクラムシェルノートPCとして使うだけでなく、330度程度開いてヒンジを上にして置くテントモードや、液晶を360度開いて反対側に折り返すタブレットモードの3とおりのスタイルで利用できる。テントモードは、動画の視聴に向いており、タブレットモードはペン(詳しくは後述)で絵を描いたりするのに向いている。
テンキー付きキーボードを採用、指紋センサーも搭載
キーボードは、テンキー付きの全105キーであり、配列も標準的で使いやすい。キーストロークはやや浅めだが、剛性感は高く、中央部を強く押してもたわむようなことはない。テンキーがついているので、Excelなどで数値を多く入力する場合も効率良く入力できる。
また、キーボードバックライトも装備しているので、暗い場所でもタイプミスを防げる。ポインティングデバイスとしては、パッドタイプのイメージパッドが搭載されている。イメージパッドは、クリックボタンとパッドが一体化したタイプだが、サイズが大きめで、操作はしやすい。
インターフェースも充実している。USB 3.1 Type-C(Gen2対応、Thunderbolt 3対応)×2とUSB 3.1 Gen1のほか、HDMI出力やSDカードスロットも備えている。3つあるUSBポートはすべて、電源オフUSBチャージ機能に対応しており、電源オフ時でも接続した機器へ給電できる。
さらに、右側面にはWindows Hello対応の指紋センサーが搭載されており、指紋認証でのログオンなどが可能だ。
前述したように、本製品はWindows Hello対応の顔認証陽IRセンサーも搭載しており、顔認証でも指紋認証でもどちらでもすばやく本人認証が行なえることが魅力だ。また、ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11a/b/g/n/ac対応無線LAN機能とBluetooth 4.2を搭載する。
筆圧検知対応のアクティブペンが付属、バッテリ駆動時間も長い
Spectre 15 x360は、ペン入力をサポートしていることも魅力だ。標準で「Spectreアクティブペン2」というアクティブペンが付属しており、ペンでメモをとったり、スケッチを描くことができる。
Spectreアクティブペン2は、1,024段階の筆圧検知と傾き検知に対応した高性能なもので、Microsoft Penプロトコルに対応する。バッテリは充電式となっており、後ろの部分をひねって引っぱることで、充電用のUSB 3.1 Type-Cポートが現れる。充電用USBケーブルも付属しており、フル充電で約10時間の利用が可能だ。ペンの反応もよく、書き心地も快適だ。また、Spectreアクティブペン2には、サイドボタンとトップボタンが用意されており、消しゴムなどの機能を割り当てることができる。
ACアダプタは19.5V/7.7Aの150W仕様であり、サイズもやや大きい。ACアダプタの重量(ケーブル込み)は実測で435gであった。
公称バッテリ駆動時間は約11時間とされている。そこで、実際にバッテリベンチマークソフトの「BBench」を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス(IEを利用)、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ(電源プランは「HP推奨」、液晶輝度は「中」)、10時間24分という結果になった。
Webブラウザしか動かしてないため、Radeon RX Vega MLではなく、IntelのGPUが使われていたと思われるが、ほぼ公称とおりの駆動時間を実現しているのはすばらしい。筐体が大きく、重量もそれなりにあるので、常に携帯するには向かないが、いざというときにバッテリでも長時間駆動ができることは心強い。
ミドルハイGPUを搭載したモバイルワークステーションに迫る性能
Radeon RX Vega MLを統合したKabyLake-Gを搭載したSpectre 15 x360の性能がどれくらいなのか、気になるところだ。そこで、参考のためにベンチマークテストを行なってみた。
利用したベンチマークソフトは、「PCMark 8」、「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K」、「ファイナルファンタジー XIV 紅蓮のリベレーターベンチマーク」、「CrystalDiskMark 5.1.2」である。比較用として、マウスコンピューター「MousePro NB9」、ASUS「B9440UA」、Microsoft「Surface Laptop」、LG電子「LG Gram 15Z970-GA55J」の値も掲載した。
なお、デフォルトの設定だと、ベンチマークプログラムによってはRadeon RX Vega MLではなく、Intelの統合GPUが使われてしまうことがあるので、電源オプションの「切り替え可能なダイナミックグラフィック」と「Radeon Graphics Power Settings」の設定を変更して、常にRadeon RX Vega MLが利用されるようにして、ベンチマークを計測した。
結果は下の表のとおりで、Spectre 15 x360のPCMark 8のスコアは、デュアルコアのCore i7やCore i5を搭載した製品に比べて、約1.2~1.6倍になっている。MousePro NB9は、ほかの製品とはジャンルが異なり、いわゆるモバイルワークステーションで、クアッドコアのCore i7を搭載しているが、そのMousePro NB9と比べてもSpectre 15 x360のほうが高速だ。
また、ゲーム系ベンチマークでは、Intel製GPUを統合した3製品との差はさらに大きくなり、ファイナルファンタジーIXVでは6倍以上のスコアが出ている。モバイルワークステーション向けGPUの中でもミドルハイに位置する「Quadro P3000」を搭載しているMousePro NB9には多少及ばないものの、単体GPUを搭載したゲーミングノートPCのエントリーモデルと互角以上の性能を持っているといえるだろう。
Spectre 15 x360ベンチマーク結果 | Spectra 15 x360 | MousePro NB9 | B9440UA | Surface Laptop | LG Gram 15Z970-GA55J |
---|---|---|---|---|---|
CPU | Core i7-8705G(3.1GHz) | Core i7-7700HQ(2.8GHz) | Core i7-7500U(2.7GHz) | Core i5-7200U(2.5GHz) | Core i5-7200U(2.5GHz) |
GPU | Radeon RX Vega ML | Quadro P3000 | Intel HD Graphics 620 | Intel HD Graphics 620 | Intel HD Graphics 620 |
PCMark 8 | |||||
Home conventional | 4098 | 3346 | 2509 | 2518 | 2714 |
Home accelerated | 4795 | 3965 | 3256 | 3024 | 3330 |
Creative conventional | 4432 | 3338 | 2684 | 2658 | 2747 |
Creative accelerated | 6408 | 4939 | 4054 | 3885 | 4103 |
Work conventional | 3540 | 3455 | 3010 | 2725 | 3125 |
Work accelerated | 5193 | 5144 | 4540 | 3789 | 2534 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K | |||||
1,280×720ドット 最高品質 | 18718 | 17583 | 5556 | 6622 | 5145 |
1,280×720ドット 標準品質 | 19325 | 17862 | 6139 | 7254 | 6347 |
1,280×720ドット 低品質 | 19189 | 18603 | 7132 | 8352 | 7203 |
1,920×1,080ドット 最高品質 | 14844 | 16684 | 3185 | 3988 | 2609 |
1,920×1,080ドット 標準品質 | 14844 | 16772 | 4135 | 4925 | 3534 |
1,920×1,080ドット 低品質 | 16548 | 18137 | 4482 | 5976 | 4147 |
ファイナルファンタジーIXV 紅蓮のリベレーターベンチマーク | |||||
1,280×720ドット 最高品質 | 8360 | 12786 | 1332 | 1844 | 未計測 |
1,280×720ドット 高品質(デスクトップPC) | 9217 | 13161 | 1443 | 1947 | 未計測 |
1,280×720ドット 高品質(ノートPC) | 12688 | 14075 | 2224 | 2554 | 未計測 |
1,280×720ドット 標準品質(デスクトップPC) | 14205 | 14934 | 2885 | 3373 | 未計測 |
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC) | 14262 | 14885 | 2870 | 3395 | 未計測 |
CrystalDiskMark 5.1.2 | |||||
シーケンシャルリードQ32T1 | 1555.5MB/s | 3455MB/s(Cドライブ)、555.5MB/s(Dドライブ) | 531.3MB/s | 648.0MB/s | 547.8MB/s |
シーケンシャルライトQ32T1 | 524.6MB/s | 1622MB/s(Cドライブ)、456.4MB/s(Dドライブ) | 462.8MB/s | 241.7MB.s | 383.2MB/s |
4KランダムリードQ32T1 | 345.8MB/s | 530.8MB/s(Cドライブ)、147.3MB/s(Dドライブ) | 246.3MB/s | 105.0MB/s | 277.2MB/s |
4KランダムライトQ32T1 | 276.3MB/s | 436.0MB/s(Cドライブ)、281.5MB/s(Dドライブ) | 270.1MB/s | 41.00MB/s | 264.0MB/s |
シーケンシャルリード | 62.25MB/s | 1648MB/s(Cドライブ)、518.1MB/s(Dドライブ) | 504.6MB/s | 401.2MB/s | 500.2MB/s |
シーケンシャルライト | 44.48MB/s | 1366MB/s(Cドライブ)、423.2MB/s(Dドライブ) | 416.1MB/s | 231.8MB/s | 386.1MB/s |
4Kランダムリード | 13.90MB/s | 40.73MB/s(Cドライブ)、20.21MB/s(Dドライブ) | 27.75MB/s | 6.660MB/s | 21.95MB/s |
4Kランダムライト | 33.05MB/s | 155.4MB/s(Cドライブ)、61.91MB/s(Dドライブ) | 103.5MB/s | 36.00MB/s | 72.80MB/s |
さまざまな用途に対応できる魅力的な逸品
Spectre 15 x360は、Intelの最新CPUである「Core i7-8705G」と16GBの大容量メモリ、NVMe対応の高速SSDを搭載した高性能な2in1ノートPCであり、最新ゲームも十分遊べるだけの3D性能を実現している。日本HPの製品のなかでもプレミアムブランドに位置するSpectreシリーズだけあり、筐体のデザインや質感も優れており、所有する喜びが感じられる。
通常通販価格は22万円程度とやや高価ではあるが、純粋なモバイル用途を除く、ほとんどの用途に対応でき、それだけの価値はある製品といえる。ペンの性能も高いので、サイズを活かして、イラストレーターが液晶タブレット的に使うのにも向いているだろう。