大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2026年、PCを値上げする?しない?13社にアンケートを取ってみた

ビックカメラのノートPC販売コーナー

 国内PCメーカー13社を対象に、PC本体の値上げに関する緊急アンケートを実施した。これによると、「すでに値上げを実施している」、あるいは「2026年1~3月までに値上げを実施する」と回答したPCメーカーは6割以上にのぼる一方、値上げを予定していないと回答したPCメーカーも3割強あることが分かった。各社へのアンケートをもとに、PC本体の値上げ動向について追ってみた。

 今回の緊急アンケートは、国内PCメーカー13社を対象に実施した。そのうち、11社から回答を得ている。ただし、価格戦略は、各社の事業戦略の根幹に関わる部分であることから、アンケートでは無記名での回答も有効とした。そのため、今回の記事においては、各社ごとの回答は、社名を出して回答することが可能な部分に限定している。また、集計値についても、設問ごとに回答社数が異なること、丸めた数字になっていることもご了承いただきたい。

値上げの方針

 まずは、各社のPC本体の値上げに関する方針を聞いてみた。

 2025年12月時点で値上げを実施しているPCメーカーと、2026年1~3月に値上げ実施を予定しているPCメーカー、2026年春と回答したPCメーカーを含めて、「値上げを実施する」と回答したPCメーカーは6割以上となり、多くのPCメーカーの製品が値上げの対象になることが示された。

 値上げの計画を明らかにしたDynabookでは、「部材価格の高騰により、業界全体で非常に厳しい環境が続いており、価格改定は避けられない状況にある」と前置きしながら、「品質や性能、そしてDynabookならではの価値をさらに高め、これからもお客様に満足してもらえる製品を届ける。ユーザーの背中を後押しできるように、どんな壁も共に乗り越えていきたい」と語る。

 富士通クライアントコンピューティングでは、「個人向けPCでは、発売済み製品の値上げは、現時点では予定していない。しかし、今後投入予定の新製品については、部材コストの高騰など現時点の想定を踏まえ、価格設定に影響が及ぶ可能性がある」と語る。

 また、企業向けPCが中心となるPCメーカーの1社は、需要が集中する企業の年度末までは現在の価格体系を維持しながら、2026年春以降での値上げを想定していることを明かした。

 一方で、値上げを予定していないと回答したPCメーカーも3割強に達している。

 あるPCメーカーからは、「短期的には、代替部品やパーツの早期確保などによって、できるだけ価格維持を図りたい」といった声が挙がる。

 値上げを予定していないと回答した1社がVAIOである。

VAIOの生産ライン

 VAIOでは、「現時点で値上げの予定はない。パートナーとの契約により、部品の安定的な調達ができるようになっていることに加えて、コストを抑えるための取り組みを強化していく」と語る。

 また、レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータでは、「個別製品の対応についてはコメントできないが、中長期的には価格調整やコスト管理を通じて、競争力と利益率を維持できるよう、柔軟かつ戦略的な対応を継続する」としている。

部材の高騰が原因

 PCの値上げの背景にあるのは、やはり部材価格の高騰である。

 Dynabookでは、「DRAMの価格がこれまでにない急激な幅で値上がっており、さまざまな経営努力で補える範囲を超越し、マイナス影響が出ている。健全な経営を持続させるための本体価格値上げの実施を検討している」と語る。

 マウスコンピューターでは、「為替の変動と部材の軽微な調達コスト上昇は、物流費の低減、生産コストの低減などの企業努力でカバーしてきたが、ここにきて、メモリやSSDの価格が2倍以上に高騰している。今後も、価格低下や価格の安定目途が立たないため、企業努力だけでカバーすることが困難になった」とコメントする。

マウスコンピューターのWebページより

 そのほかにも、「メモリやストレージを中心とした部材コストの上昇が企業努力でカバーできる範囲を超えている」「長期的なメモリおよびSSDのパーツの価格上昇が見込まれるため、価格上昇が避けられない」とするPCメーカーの声が相次いでいる。

値上げ幅は20%程度。中には値上げしないメーカーも

 では、値上げ幅はどれぐらいなのだろうか。

 回答を通じて分かったのは、値上げ率については、PCメーカー各社も頭を悩ませているという点だ。

 値上がり率が「11~15%」としたPCメーカーが2割弱、「16~20%」としたPCメーカーが同じく2割弱を占めたものの、「調整中」「まだ読めない」「答えられない」と回答したPCメーカーが6割以上を占めた。

 「11~15%」と回答したPCメーカーの1社では、「あくまでも現時点の想定であり、今後の部材価格の高騰や為替の変動、供給状況によっては、価格上昇率は変動する」と指摘する。

 ただ、4割弱のPCメーカーが、11%~20%の値上げ率を示す一方、今回の調査では、「0~5%」「6~10%」との回答がなかったことから、2026年春までの値上げ率は、これまでに比べて、2桁以上という高い値上げ率になる可能性が高いといってもよさそうだ。

 PCメーカーの立場から、ユーザーに対して、値上げを前にした早期購入を勧めるかどうかについても聞いた。

 4割強のPCメーカーが、「2025年中の購入」「2026年1~3月の購入を勧める」と回答。ただし、6割弱のPCメーカーが、「どちらともいえない」「PCメーカーの立場からの判断は難しい」などと回答している。

 Dynabookでは、「個人および企業のお客様には、適切なタイミングで、適切なPCをご購入いただくことを勧めている」とする。

 また、別のPCメーカーでは、「Windows 10を搭載したPCを利用しているユーザーや、価格重視のユーザーは、早期購入を推奨する」と語る。

 その一方で、「メモリやストレージは供給面の問題がある。企業などにおいて、PC導入が先送りできないような場合には早期の購入を勧める」とし、価格上昇への対策とは別に、部材の供給不足の観点から、早期購入を勧めるPCメーカーの声もあった。

 また、レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータでは、「部品コストや為替の影響により、今後価格が変動する可能性がある。そのため、購入タイミングについてはお客様自身の利用計画や予算に応じて判断いただくことを推奨する」としている。

2026年全体の需要の後退につながる

 業界動向という観点からも質問をしてみた。

 PC本体価格の上昇が、2026年のPC需要に影響するかどうかについては、「需要にはマイナスの影響がある」との回答が全体の6割強を占め、「需要に影響しない」との回答は1割強に留まった。また、「分からない」や「答えられない」は2割強となった。

 あるPCメーカーでは、「10%を超える水準の値上げとなった場合には、買い替え時期を見送るお客様がいると想定される」と需要への影響を指摘する声があがったほか、「価格上昇によって、企業での導入台数を制限したり、買い替えのタイミングを先送りしたりすることにつながるだろう」とみるPCメーカーもある。

 マウスコンピューターでは、「2026年はAI PCへの切り替えが進展し、PCの単価が上昇すると見られる中、部材価格の上昇でさらに価格が高まることになる」と指摘した上で、「2026年からの値上げを見込んで、2025年12月にはすでにPC需要が急激に高まっている。この反動が2026年1月以降の需要の急激な低下につながり、2026年には一定期間、これが継続すると予測している」と需要低迷の長期化を懸念する声もある。

 マウスコンピューターでは、12月16日に、2026年1月以降、値上げを順次実施する予定であることを公表。さらに、工場のひっ迫やパーツ不足が発生して、一部製品の販売停止ならびに出荷納期遅延が発生する見込みを明らかにしていたが、12月23日付で、想定を大きく上回る注文によって、納期遅延が発生していることを発表。適切な対応と製品品質の維持を目的として、同社公式サイト上で販売している mouse、NEXTGEAR、G TUNE、DAIVを、2026年1月4日まで販売停止としている。

 その一方で、あるPCメーカーでは、「値上げがあっても、需要には影響しないだろう。各社の値上げが相次いだ時期には一時的な落ち込みはあっても、年間トータルの出荷台数でみれば、ある程度、相殺されるかもしれない」といった見方をしている。

 2026年は、Windows 10のサポート終了に伴う買い替え特需の反動が見込まれる1年になる中で、値上げは、それを加速する厳しい逆風になるのは明らかだ。PCメーカーにとっても、需要の落ち込みを最低限に留めるためにも、できれば値上げは避けたいという本音が見え隠れする。

アンケート結果

 今回の緊急アンケートの回答を得たいくつかのPCメーカーからは、値上げに関する公式コメントも得ている。順不同で紹介する。

レノボ・ジャパン/NECパーソナルコンピュータ

 「AIの普及が加速するなか、部品不足やコスト上昇は需要増加に伴う自然な結果であり、業界全体で珍しいことではありません。レノボグループは、同業他社と比較しても柔軟に対応できる体制を整えております。

 レノボの強みは、規模の大きさ、卓越したオペレーション、複数調達戦略(マルチソース)にあります。これにより、安定供給と競争力のあるコストを確保しつつ、市場変化に迅速に対応し、利益率を維持しています。今後の市場需要についても自信を持っており、次の2四半期ではPCおよびISGの両事業で二桁成長を見込んでおります。収益性を損なうことなく成長を実現してまいります」

富士通クライアントコンピューティング

 「FCCLは、個人向けPCにおいて、発売済み製品の値上げを現時点では予定しておりません。一方、今後投入予定の新製品については、部材コストの高騰など現時点の想定を踏まえ、価格設定に影響が及ぶ可能性があります。当社は今後も市場動向を注視し、お客様に安心して、FMV製品をご利用いただけるよう、柔軟かつ迅速な対応を進めてまいります」。

日本HP

 「HPはさまざまな外部環境の変化に対応してきた経験を通して、レジリエンス(耐久力)を高めてきました。私たちは常に調達、生産、物流を含むサプライチェーン全体の最適化を進めています。これらの取り組みに加えて、製品の機能や最先端の技術搭載などにより、付加価値の高い製品、コストパフォーマンスの良い製品をご提供することに注力しています」。

Dynabook

 「部材価格の高騰により、業界全体で非常に厳しい環境が続いております。価格改定は避けられない現状ですが、こうした中でも、品質や性能、そして当社ならではの価値をさらに高め、これからもお客様にご満足いただける製品をお届けしてまいります。ユーザーの皆様の背中を後押しできるように、当社は、あらゆる人の挑戦に寄り添いながら、可能性を追い続け、どんな壁も共に乗り越えていきたいと思います」。

デル・テクノロジーズ

 「デル・テクノロジーズは、必要に応じてターゲットを絞った価格調整を行ないながら、供給の継続性とお客様の価値へのコミットメントを維持しています。当社のサプライチェーンは堅固で、グローバルに多様化されており、マクロ経済、規制、貿易の動向に対応するために必要な柔軟性を備えています」。

VAIO

 「部材の動向や市場環境を見極めながら判断を行なってまいりますが、現時点で値上げの予定はありません。VAIOは高い成長を遂げており、その成長を見越して、事前に部材の確保を進めています。長期的な戦略契約によって、パートナーから安定して供給してもらえる体制を敷いており、先んじて部材確保ができる体制を確立しています」。

マウスコンピューター

 「この度は、パソコン製品で使用する部材(メモリ/SSD等)の価格高騰および供給不足により、お客様には多大なるご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ありません。1月以降であっても価格に見合った製品をご提供できるよう、製品開発および生産性の改善などさまざまな企業努力でお客様が求める製品が提供できるよう最善を尽くしてまいります。

 また、部材価格が安定した際には、適正な価格で販売ができるよう、最善を尽くしてまいりますので、引き続き、弊社製品をご愛顧いただけますよう、何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします」。

サードウェーブ

 「PCの価格は部材価格のほかに為替の要素もあり、そのような複合的な影響の中で、先行きの不透明さが大きく増しています。非常に難しい状況ではありますが、当社としては、可能な限り供給の面でお客様にご迷惑をおかけしないように努めていきます」。

エプソンダイレクト

 「メモリやストレージを中心に部材コストがこれまでにない急激な幅で上がっており、企業努力ではカバーしきれない状況となっています。部材の動向や市場環境を勘案し、お客様への安定的な供給を最優先に複合的な要因を見極めながら判断を行なってまいります」。