特集
AI巡るメモリ争奪戦――2026年はPC、スマホに“冬”が到来
2025年12月24日 06:03
今月のこぼれ話の冒頭でも少し触れたが、DRAMだけでなくSSDやHDDまで高騰と品薄が続いている。
ただその一方CPUは人気のある特定製品のみやや値上がり傾向にあるが、DRAMのような高騰や品不足とは無縁である。
もうこの一点で、今回のDRAM高騰はPanic Buy(パニック買い、必要以上の買い占め/買いだめ)であると断言してしまって構わないと思う。
というかここまで高騰していると、筆者宅に落ちてるベンチマーク用に買ったメモリが金塊に見えなくもない(写真1)。などと捕らぬ狸の皮算用をしていたら、改めて記事を起こしてほしいという依頼が編集部からやってきた。
DRAM急騰の原因とは
もともとの話は、10月3日にOpenAIがSamsungおよびSK Hynixとの間でDRAMの供給契約を結んだ事を発表したことに端を発する、という話が有力視されている。
この契約では、SamsungとSK Hynixが両社合計で毎月ウェハ90万枚分のDRAMをOpenAIに供給するとなっている。ただしこれは今すぐではなく「将来」の話である。リリースにも明確に“targeting 900,000 DRAM wafer starts per month”とされており、今後両社はこの契約に向けてDRAMの生産能力を引き上げていく計画になっている。
実際SK Hynixは2026年のDRAM生産量を今年の8倍にする計画があることを、韓国の韓経ドットコムの11月21日の記事で報じている。
ところがこれを「今すぐこうなる」と早とちりしたベンダーがどこかにあったらしい。11月になって突如DRAMのスポット価格が高騰した。要するに10月にこのニュースが報じられて、慌てたどこかのベンダーが急遽DRAMの契約の積み増しを掛けたらしい。
それも1社でなく複数社がこの動きをしたと思われるのだが、そもそもSamsungとSK HynixはOpenAIの契約分を賄うための増産で手一杯であり、積み増しが行なわれた契約をこなせる余力は少ない。そうなると、契約先はOpenAIと「契約を結ばなかった」Micronに集中するのはやむを得ない。
この結果がMicronによるCrucial事業の閉鎖と、記録的な2026年第1四半期決算である。
Micronの業績が急に上がった原因
もうちょっと深掘りしてみると、12月18日に公開されたForm 10-QのP29から抜粋した、事業部別の売上がこちら(図2)。Micronは大きく4つの事業部門がある。
- CMBU(Cloud Memory Business Unit): ハイパースケールのクラウド向けのDRAMと、HBMを使うすべての顧客(AIプロセッサとGPU)が対象
- CDBU(Core Data Center Business Unit): 中堅のクラウド/エンタープライズとOEMのデータセンター向けDRAM、それとすべてのデータセンター向けストレージが対象
- MBCU(Mobile and Client Business Unit): モバイル(つまりスマートフォン)およびクライアント向けのDRAMとストレージが対象。CrucialはこのMBCUのブランドである
- AEBU(Automotive and Embedded Business Unit): 自動車、産業機器および民生機器(PC/スマートフォン以外)に向けたDRAMとストレージが対象
となっている。その上で改めて図2をちょっと見直してほしいのだが、前四半期(2025年第4四半期)からの売上の伸び率を計算すると
- CMBU: 16.3%
- CDBU: 50.9%
- MCBU: 13.2%
- AEBU: 19.9%
ということになっている。このCDBUの大幅な伸びが、Micronの決算が好調だった最大の要因であり、そしてこれは現在のDRAM不足が招いたうれしい誤算である。
CDBUのこの売上は、HBM以外の契約が大幅に伸びた事を意味する。単に件数だけでなく、価格もかなり跳ね上がったのだろう。
このCDBUの数字でいえば、2025年第4四半期の売上は15億5,700万ドル、営業利益3億9,100万ドルなので粗利益率は24.8%ほど。ところが今季は売上23億7,900万ドルに対して営業利益8億9,000万ドルで、粗利益率は56.4%まで跳ね上がっている。これはCMBUの63.5%にはやや劣るが、MCBUの53.6%とかAEBUの43.7%を凌ぐ優秀な成績だ。
そしてここまで粗利益率が急増するというのは、契約の金額(つまりDRAMチップ単価)を猛烈に上げる契約が結ばれまくった、ということである。
さて、こうなるとMicronではこの契約を最優先にせざるを得ない。もともとHBMの需要は十分にあるから、HBMはある程度の割合製造することを確保して、残りをDDR5とLPDDR、GDDRなどで分け合う形になるが、CDBUの契約は当然DDR5だから、ここに製造ウェハの割り当てを相応に積み増す必要がある。しわ寄せはMBCUやAEBUに行くわけだ。
結果、Crucial事業向けのウェハを生産する余地がないほど、Micronの生産能力が逼迫してしまったのがCrucial事業終了につながったわけだ。
これは別のところにも書いたが、この逼迫が1~2四半期で終わる程度なら、あるいは一時的にCrucialブランドを休止するという選択肢もあったと思う。ところがMicron的にはこの状況が2026年一杯は間違いなく続くとみているようだ。
12月17日に行なわれたEarnings Callにおける説明の市場予測の中でも
We believe that the aggregate industry supply will remain substantially short of the demand for the foreseeable future.(当面の間、業界全体の供給は需要を大幅に下回ると見込まれる)。
Together, these demand and supply factors are driving tight industry conditions across DRAM and NAND, and we expect tightness to persist through and beyond calendar 2026.(こうした需給要因が相まって、DRAMとNANDの両分野で業界全体の逼迫状態を招いており、この逼迫は2026年以降も継続すると予想される)。
Micron is working hard to support our customers’ demand during this time, and we expect to grow our DRAM and NAND bit shipments approximately 20% in calendar 2026. Despite significant efforts, we are disappointed to be unable to meet demand from our customers, across all market segments.(Micronは現在、顧客の需要の増加に対応するため、2026年のビット出荷量を20%増加させる見込みである。こうした努力を行なっても、すべての市場セグメントにおける顧客の需要を満たせない状況は残念である)。
といった記述が並んでおり、2026年中は供給が間に合わない状況が続くと判断している。Micronですらこれなので、SamsungやSK Hynixは言うに及ばずである。
最大の理由は、現在の需要が全部契約ベースで積みあがっていることで、これはもう事前契約に基づくものだから、実際に顧客のところで余ろうが何しようが、確実に出荷される。もちろん違約金を支払って契約を破棄することは不可能ではないが、現状そうしたことが行なわれる可能性は低いだろう。
筆者が今回の騒動を「パニック買い」とする理由
ここで冒頭の話に戻る。つまりなぜ今回の話がPanic Buyだと判断できるかである。
端的に言えば「本当にAI需要が加速しているなら、CPUも不足しないとおかしい」からだ。
そもそも現在のAIデータセンターの使われ方はCPU+GPUの構成のサーバーを大量に並べる方式になるわけだが、台数で言えばCPUサーバーよりGPUサーバーの方が圧倒的に多いのは間違いない。
ところがGPUサーバーにはDDRもSSDもHDDも必要ない。もちろん、より大量のデータを扱えるようにするためにストレージプールを増強するというニーズは存在するだろうし、そこに向けてSSDやHDDを大量に確保するというデマンドは考えられなくもないが、既存のAI向けGPUサーバー向けのストレージプールを2倍~3倍に増強するといった話はそんなに多くない。
もっと謎なのがDRAMである。GPUサーバーはチップ上のHBMを使うからDDR5は不要であるし、たとえばNVIDIAのGH200とかGB200/GB300などは、CPUもNVIDIAのGraceだから、基板上にはんだ付けされたLPDDR5Xなので、そもそもDDR5は使わない。
そのため可能性としてあるのは、H200やB200、あるいはMI300X/355Xなどをキャリアボードに載せたGPU「だけ」のユニットに組み合わせるx86ベースの汎用サーバー向けということになるが、これが大量に必要になるということは、その数倍の規模でGPUが供給されるという話になる。
ところが実際にはGPUの供給は逼迫している(これはそもそもGPUチップの供給が追い付いていないという話であり、TSMCのN3プロセスの供給能力、あるいはCoWoSの供給能力に起因する)から、明らかに辻褄が合わない。なにより本当にこうした汎用サーバーが大量に必要になっているのであれば、間違いなくサーバー向けCPU(Xeon/EPYC)も増産を掛けなければならず、当然コンシューマ向けCPUの供給にも影響が出るはずだ。
これは特にAMDで顕著で、現状のEPYC 9005シリーズのダイはRyzen 9000シリーズと共通だから、DDR5同様にコンシューマ向けのRyzenに供給不足が出ても不思議ではないというか、供給不足や価格高騰が起きてしかるべきである。
ところが秋葉原ではそんな動向はまったくないし、これは海外でも同じである。ということは、現在のDDR5とかSSD/HDDは、サーバーメーカーなどが「今後需要が急増しても良いように在庫を積み増している」のが価格高騰と品不足の理由、と考えて良いかと思う。
要するにOpenAIのウェハ大量契約に起因してメモリ調達を焦ったメーカーが「メモリも足りなくなるならストレージも足りなくなるんじゃね?」と早合点した結果SSDが不足気味になり、「SSDも足りないならHDDも足りなくなるだろう」と、さらに早合点を積み重ねた結果が現状である、と筆者は考える。
残念ながら2026年はPCを買う時期ではない
では、この問題はいつ解消するか?
まずDDR5に関しては、おそらく1年程度は変わらないだろう。なぜかといえば、全部契約に基づくからで、そしてMicronが2026年中は解消しないとみているということは、1年程度の相対的に長期な契約が多いということだ。
つまり買い漁っていたメーカーが実際には「やっぱ要らなかった」と判断しても、契約期間が終わるまでは、毎月契約した分量がメモリメーカーから届くことになり、その間は市場に出回る分量は当然減らざるを得ず、品不足と高騰は収まらないことになる。
昨今だと米、コロナの時期のマスク、古い話ならオイルショック時のトイレットペーパーと同じ構図で、冷静に考えればこんなに在庫しなくても困らないよな、と思っても市場に出回ってないとなると「念のためもうちょいと積み増すか」となる。みんながそう考えている間は絶対に品不足は解消しないので、市場に潤沢に製品が出回るまで高騰は収まらない。
幸いというか不幸にもというか、米と違って置いておいても劣化したりはしないので、余計に貯め込みやすいという、高騰を助長しやすい傾向にある。なので現在の契約が終わるであろう来年末~2027年第1四半期末あたりから、市場に流れる分が急激に増えると思われる。
なんで「急激」かといえば、サーバーなど向けに現在メーカー各社が貯め込んでいるDDR5とかSSD類は、おそらく2026年中には消費しきれず、なので2027年は相当契約を減らすと考えられるためだ。ところがメモリメーカーは生産能力を2026年中に増強しており、もちろんこのいくらかは(いくら作っても足りないと言われる)HBMに振り分けるほか、やはり契約ベースのGDDR7やLPDDR5X/LPDDR6も増産に転じるだろうが、多分それだけでは生産能力が過剰になるので、DDR5の生産量も必然的に増えるだろう。その頃にはSSD/HDDの在庫もメーカーに十分積みあがることで、やはり市場への流通が急に増えると考えられる。
そして品余りになれば価格下落につながるわけで、DRAMメーカーは現在この2027年以降に到来するであろう市場価格への下落のインパクトをどう抑えるか、頭を抱えているのではないかと思う。
そんなわけで、大原的な見立てで言えば、2026年はちょっとPCを買うには不適切な時期である。もちろんそうは言っても必要、という方は当然いるわけで、ちょっと高値に付くであろうことは覚悟するしかない。待てるなら2027年まで待つのが得策だとは思う。
問題はこれがPCだけでなくスマートフォンやゲーム機などにも波及しそうなことで、その意味でも2026年はいろいろ厳しい年になりそうだ。















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