大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
25年目の節目を迎えたパナソニックの神戸工場を訪ねる
~神戸工場認定の中古PC事業もスタート
(2015/9/1 06:00)
レッツノートやTOUGHBOOK、TOUGHPADなどの生産を行なっているのが、兵庫県神戸市のパナソニック ITプロダクツ事業部神戸工場である。神戸工場の特徴は、実装から組み立てまでの一貫生産を行なう生産拠点である点。高い品質を実現するとともに、一品一様のカスタマイズにまで対応できる多品種少量変動生産を実現。パナソニックの自社開発および自社生産体制を支えている。
1990年の操業から、ちょうど25年目の節目を迎えた神戸工場では、神戸工場でリフレッシュさせた認定中古PCの流通を開始したほか、製造業のノウハウを外販する自主ビジネスへの展開など、新たな挑戦を開始している。パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部プロダクトセンターの清水実所長に話を聞いた。
パナソニック ITプロダクツ事業部神戸工場は、神戸市内の西神工業団地内にある。最寄り駅は、神戸市営地下鉄の西神中央駅で、そこから車で約5分の距離だ。
同じ敷地内には、IHクッキングヒーターを生産するアプライアンス社のキッチンアプライアンス事業部神戸工場があり、それと区別するために、ITプロダクツ事業部神戸工場と呼んでいる。
ITプロダクツ事業部神戸工場は、1990年6月に操業。今年(2015年)で25年目を迎えている。57,000平方mの敷地内に、27,000平方mの延床面積を持つ生産棟、倉庫などで構成。マザーボードの実装からPCの組み立てまでを行なう一貫生産拠点である。
HDDやメモリ、カラー天板など、2,000種類におよぶカスタマイズを実施できるほか、オプションの設定やソフトウェアのインストールなど、ユーザーの要望に合わせてコンフィグレーションする体制を整えており、「1台からの多品種少量変量生産に対応。ユーザー企業の手元に届いた時点で、箱を開けて、すぐに使えるような環境を実現している。現在、全体の3~4割がコンフィグレーションを行なって出荷している」(清水所長)という。
必要な部材を保管する工場直結の材料倉庫に加えて、生産品目をすぐに変更できるセル生産方式を採用。コンフィグレーションサービスは、個人情報取り扱いに関する認定試験を受けたスタッフが実施し、急な発注への対応や、個別企業の要望にも柔軟に対応することができる。
工場全体は、同社独自の製造情報ネットワークによる品質管理システム「KISS(Kobe Intranet Solution of Super-Production)」により、部品単位で管理。不良および障害情報を自動的に知らせる仕組みや、品質を保証する製品履歴書の作成、生産プロセスごとの点検と修正、ネットワーク化や情報のWeb化による生産品質情報の共有などを行なうことで、品質を管理しているのも特徴だ。
さらに、数々の試験設備を有しているのも、神戸工場の特徴の1つである。
加圧振動試験、局部加圧試験、ヒンジ耐久試験、キーボード打鍵試験、防滴試験、振動試験、防塵試験などの専用検査設備を自前で持っており、熱衝撃試験機では、54℃の暑さの中と、マイナス25℃の寒さの中での耐久試験を実施。防水試験機では、毎分1.8Lの水を360度から散水するといった試験を行なっている。また、落下試験機では、90cmの高さから落下させて、本体26カ所への衝撃を加える耐久試験を行なっている。モバイル端末用に2mの高さから落下する機器も導入している。
さらに、敷地内には10m法で測定が可能な電波暗室を設置。屋外の電波の影響を受けずに、短時間で正確な測定結果を得ることができ、世界各国の電磁波規制に対応した製品作りを行なえるようにしている。
こうした数々の検査設備が、モバイル環境での厳しい使用環境にも耐えうる製品作りを下差さえしている。
ITプロダクツ事業部神戸工場では、昨年から今年にかけて、新たな取り組みをいくつか開始した。
1つ目は、これまでのレッツノートやTOUGHBOOK、TOUGHPADの生産だけに留まらず、モバイル端末の生産を開始したほか、今後は、今年1月に発表したモバイルPOSの生産も開始。生産品目を拡大していくことになる。
パナソニックでは、5型ディスプレイを搭載したAndroid搭載の「FZ-X1」と、Windowsを搭載した「FZ-E1」を製品化しているが、これらは神戸工場で専用ラインを設けて生産されている。モバイル機器の生産に適した治具も独自に開発し、これを活用することで効率的な生産および高い品質を実現しているというわけだ。
品質検査においては、1.5mの水の中に水没させて、防水性を検査する機器や、気圧を変えることで本体に歪みや防水性に問題がないことを確認する検査機を新たに導入。生産品目の拡大に合わせて、検査設備を強化。徹底した品質管理を行なっている点も見逃せない。
同社では、TOUGHPADに衛星電波受信モジュールや1周波RTK-GNSS機能を拡張した独自の衛星測位技術を搭載し、10cm程度の精度で測位が可能な製品を投入する予定だが、こうした高い品質が求められるソリューション型の製品も、神戸工場において最終的なソリューションの組み込みが行なわれる。
2つ目は、昨年10月からスタートしたPCのリフレッシュ事業だ。
これまでにも神戸工場には修理部門があり、その機能を活用することで、一部のユーザー企業が使用していたPCをリフレッシュさせ、再度、納品するといった例があった。
だが、昨年10月からは、リース会社やレンタル会社と連携し、リースアップしたPCを神戸工場の品質基準のもとでリフレッシュ。これを認定した製品として再販する仕組みに乗り出した。これはパナソニックが直接、中古PCの販売に乗り出すものではなく、提携先の企業が販売を行なうというもの。既にPCフレンズが、楽天のサイトで「LET'S TOWN」を開設。パナソニックの神戸工場でリフレッシュしたPCを「パナソニック リフレッシュPC」として販売している。主にリースアップした4年前の製品などが対象となっており、月500台程度と規模は限定的だが、今後は、需要に合わせて規模の拡大を検討していくほか、神戸工場でリフレシッシュしたことを示すシールの貼付なども検討していくことになるという。
神戸工場が直接リフレッシュした中古PCへの安心感は大きい。レッツノートを安く入手する手段の1つになりそうだ。
3つ目には、神戸工場が持つノウハウを外販していくというものだ。これは、神戸工場の自主ビジネスとも言えるものになる。
これまでにも触れてきたように神戸工場では、基板実装からPCの組み立て工程までの一貫生産体制を持つ。多品種少量変動生産を実現している生産体制や管理体制のほか、ロボット技術を活用した自動化への取り組みでも先進的だ。そして、生産ラインでは、タブレットも多数活用されており、これも生産性向上や品質向上を実現する上では、重要な役割を果たしている。
例えば、品質管理においては、タブレットを活用することで、部品などに関する情報を写真とメモを通じて、日勤者と夜勤者が共有。これによって、情報の伝達をスムーズにし、トラブルを未然に防ぐほか、週1回行なわれるメンテナンス時にも、分厚いマニュアルを持たずに現場で作業を行なったり、必要な部分は拡大表示して効率性を高めるといったことができる。
「タブレットの活用によって、入社2、3年目の社員と、ベテラン社員が同じ水準で品質管理を行なうことができる。神戸工場においては、20%の業務効率化が図れている」(清水所長)という。こうしたノウハウを外販していくことになるのだ。
「日本のモノづくりが注目を集める中で、この分野の成長は今後大きいと見ている。将来的には、ITプロダクツ事業部の売上高全体の1割程度を目指していきたい」とする。
このように、ITプロダクツ事業部神戸工場は、生産品目の拡大、PCリフレッシュへの取り組み、そしてファクトリーオートメーションのソリューションの外販を開始するといったように、新たな挑戦に取り組んでいるところだ。
ところで、25周年の節目を迎えているITプロダクツ事業部神戸工場だが、現時点では、25周年記念モデルなどの発売は計画していないという。だが、今後は、何かしらの企画を検討する可能性もあるとのこと。節目において、どんな企画が考案されるのかが楽しみだ。