大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「Windows 10はレッツノートの追い風になる」
~パナソニック・原田秀昭事業部長インタビュー
(2015/8/3 06:00)
「2018年度の堅牢IT市場において、シェア30%を目指す。それに向けた第1歩を踏み出すのが、2015年度になる」。パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部・原田秀昭事業部長はこう切り出した。2014年度は、業界全体が低迷する中、パナソニックのITプロダクツ事業は前年実績を上回る好調ぶりを見せた。「ユーザーニーズを捉え、他社にはない差別化点を評価していただいた」と原田事業部長。堅牢PCや堅牢タブレットが市場から評価を得ているという。
2015年度は、2桁成長の目標を掲げ、「Windows 10の投入も、2-in-1にシフトしてきたレッツノートにとっては追い風になる」とする。そして、2017年度には、同社ITプロダクツ事業の過半数をタブレットが占めると見込んでおり、それに向けた体制づくりにも余念がない。2015年度のパナソニックのPC/タブレット事業戦略をパナソニックの原田事業部長(以下敬称略)に聞いた。
--2014年度における、パナソニックのPCおよびタブレット事業は、どんな1年でしたか。
原田 2014年度を振り返ってみますと、Windows XPのサポート終了に伴う特需の反動もあって、業界全体は大変厳しい環境にありましたが、当社のPC、タブレット事業は成長を遂げることができた1年でした。これは、ユーザーニーズを捉えた、他社と差別化できる商品が揃っていたことが背景にあると思っています。
特に、2012年度から事業を開始した「タフパッド」は、ここに来て事業の柱へと成長し始め、既に全体の20%を占めるところにまで拡大しています。特に欧州では、自動車メーカーや鉄道などへの導入が促進され、過去最高の実績となりました。
日本においては、やはり「XPの反動」はありますが、昨年(2014年)9月に発売したレッツノートRZ4は、非常に高い評価を受けており、企業や大学への納入が相次いでいます。かつてのR1のイメージとダブらせるユーザーもいて(笑)、モバイルPCの決定版と言えるものを市場投入できたと考えています。企業におけるビジネスモバイルの標準モデルとしては、既にSXやNXが定着していますが、よりモバイルを重視したいというユーザーにとっては、RZ4が最適なPCとなっているからです。
パナソニックでは、PCおよびタブレット事業において、2014年度は2桁増の成長を見込んでいましたが、年度末に、米国市場などでやや失速したこともあり、前年度の72万台に対しては、1桁増といったところに着地しました。しかし、市場全体が落ち込む中、成長ができたことは、我々の事業戦略に間違いがなかったという点で自信に繋がっています。
--2015年度におけるパナソニックのITプロダクツ事業の基本戦略について教えてください。
原田 2015年度も2桁成長の目標を掲げ、持続的な事業成長を目指します。そのためにも、ユーザーニーズを的確に捉え、他社と差別化できる商品を、継続的に投入する必要があると考えています。秋以降には、「レッツノート」の新たなモデルを投入したいと考えていますし、2016年初頭には、「タフブック」やタフパッドも大きくモデルチェンジをしたいと考えています。Windows 10という新たなOS環境へと移行する1年でもありますから、積極的に展開していきたいですね。
レッツノート、タフブック、タフパッドに共通しているのは、さらなる薄型化、軽量化を図っていきたいという点です。今年(2015年)2月に海外で発売した「タフブック CF-54」は、従来の「CF-53」に比べて、薄さを半分にし、大幅な軽量化を実現。それでいてバッテリ駆動時間は変わらないという点が高い評価を受けています。
一方で、堅牢スマートフォンとして投入した5型ディスプレイを搭載した「FZ-X1」、「FZ-E1」も、国内および海外で高い評価を受けていますし、それらの実績やフィードバックをもとに、第2弾と言えるモデルを市場投入したいと考えています。
さらに、今年1月に発表したPOS機能を搭載したモバイルPOSの「タフパッドFZ-R1」は、まずは米国およびカナダ市場に試験的に投入を開始しましたが、検証段階であるにも関わらず、まとまった単位での商談も出始めていますし、いい手応えがあります。パートナーを通じた販売も開始しており、米国での実績をしっかりと上げてから、日本および欧州市場への投入を検討していきたいと考えています。
--タブレットでは、Windows版では、5型、7型、10型がラインアップされていますが、Android版では5型と7型だけですね。ここにも10型が用意される可能性はありますか。
原田 そうですね。詳しいことはいえませんが、そうしたことも視野に入れたいと思います(笑)。
--一方、2015年度における国内のレッツノート戦略のポイントはどこになりますか。
原田 国内企業におけるPCのモバイル利用が拡大しています。その中で、レッツノートに対する期待はますます高まっています。世界最軽量を始めとするハードウェアのスペック面への評価だけでなく、さまざまなセキュテリィソリューションの提供によって、安心して使ってもらえるという点でも評価が高まっています。今年度は、トータルバリューを提供するという「面」という観点からの訴求に力を注いで行きたいですね。
--7月29日からWindows 10の提供が開始されましたが、レッツノートではどう対応していきますか。
原田 レッツノートは、2-in-1へのシフトを積極的に進めてきましたが、これはWindows 10を利用するという点では最適な環境を実現しています。また、Windows 8で初めて採用したタイルは、法人ユーザーにとっては、戸惑いも多かったようですが、Windows 10では、デスクトップ画面での利用にも最適化していますし、キーボードやマウスだけでなく、よりモバイルで活用しやすいタッチ操作についても進化しています。その点でも、私自身、高い期待を持っています。レッツノートで、Windows 10を本格展開していくのは、今年秋以降の商品からということになります。
--4Kタブレットへの手応えはどうですか。
原田 20型という画面サイズと、高精細な表示が行なえるという点で、接客の際に活用したいといった企業からの商談が出ています。例えば、銀行窓口など、インタラクティブな顧客対応を行なうケースで導入されていますし、建設業界では、詳細図面をペーパーレスでレビューするといった紙の図面の置き換え用途で活用されています。ノートPCや一般的なタブレットではできないような、4Kタブレットならではの提案が受けているというわけです。
8月25日から、第5世代のCore i5-5300U vProプロセッサ 2.30GHzを搭載するとともに、新たに4K入力に対応したHDMI 2.0を搭載した「FZ-Y1CH」などを投入します。4K入力は、ユーザーからの要望が多かった機能で、映画制作や報道現場、あるいは医療、教育現場での利用などへと広げることができると考えています。
実は、大阪・南門真のAVCネットワークス社の役員会議室には、約20台の4Kタブレットを導入し、会議資料などを表示しています。このように会議室においても4Kタブレットを活用するといった動きも進むことになりそうです。
--パナソニックは、2018年度に創業100周年を迎えます。その時の事業イメージはどうなっていますか。
原田 2018年度の創業100周年という節目を捉えた時に、2015年度はそれに向けた新たなファーストステップの1年であると考えています。現在、パナソニックのPCおよびタブレットを取り巻く環境を見てみますと、ITプロダクツ事業部が持っている堅牢技術、パナソニックシステムネットワークスが持つ決済技術、そして、パナソニックモバイルコミュニケーションズによる移動体通信技術といった3つのコア技術があります。この3つの技術を融合した形でものづくりができるのはパナソニックだけです。モバイルPOSは、その成果の最たるものですが、特定の領域、特定の業界において、圧倒的な強みを発揮するというビジネスモデルは、2018年においても変わりません。それに向けた商品が、1つずつ、形になっていくというのが2015年度になります。
2018年度には、全世界の堅牢IT機器と呼ばれる市場領域において、30%のシェア獲得を目指したいと考えています。この分野は、PCだけでなく、タブレットやスマートフォンも含まれ、全世界ではモトローラが高いシェアを持っています。パナソニックは、既に堅牢タブレットの市場領域においては、2013年にナンバーワンシェアを獲得し、2014年には46%のシェアへと拡大。トップを堅持しています。いわば、2015年度は、堅牢IT機器という領域において存在感を持つために、最初の1歩を踏み出す年になります。
また、2018年度には、タブレットの販売台数が、PCを上回るということも想定されます。当社のビジネスを見た場合、欧州では、既に2014年度の時点でタブレットが半分以上となっていますし、米国においても製造業や政府関連でタブレットを活用する動きが増えており、販売比率が高まっています。早ければ、2017年度には、パナソニックのビジネスにおいて、タブレットが半分以上を占める可能性があると考えています。
今後日本のPC、タブレットメーカーとして、どう立ち位置を築くかということを考えていく必要があると思っています。自分たちがどんなところに価値を発揮できるのか、そこでどんな存在感を持つのかということが大切になります。レッツノート、タフブック、タフパッドといったラインナップを通じて、そうしたことを確立する大切な1年として、2015年度のITプロダクツ事業の成長に取り組んでいくつもりです。