大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

パナソニック、PCとタブレットで過去最大の製品数に

~5型タブレット「FZ-E1」、「FZ-X1」の初期動向は?

FZ-E1とFZ-X1

 パナソニックのPC事業が、前年比2桁増に向けて事業を強力に推進している。消費増税による特需の反動や、Windows XPのサポート終了に伴う特需後の影響もあり、国内PC市場は減速感が漂うが、パナソニックでは強気の姿勢を崩さない。

 その背景にあるのはタブレットビジネスの事業拡大だ。欧米でのTOUGHPADの販売が前年比2桁増と好調であり、事業拡大を牽引。5型タブレットの投入に続き、さらにラインナップを強化することで、同事業始まって以来の製品ラインナップ数へと拡大させる。また、国内市場向けには、下期に新たなLet'snoteの投入を計画しており、これによって計画達成に向けて弾みをつける考えだ。

 「パナソニックのPC事業は、オセロの四隅を取るような戦略。それが効を奏している」と、パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部・原田秀昭事業部長は語る。そして、同時に、「単なるPCメーカー」からの脱却を目指すという。原田事業部長にITプロダクツ事業部の最新の取り組みについて聞くとともに、7月に発売した5型タブレットである「FZ-E1」、「FZ-X1」の動向について聞いた。

原田秀昭事業部長

--パナソニックの2013年度のPC出荷実績は前年比6%増の72万台。2014年度はこれを2桁増とする計画を掲げていますね。

原田 上期の動きを振り返ると、欧米では2桁以上の高い成長率を達成していますし、日本国内においても2桁増の達成に向けて邁進しているところです。日本では確かにPCに対する需要が落ちています。しかし、その一方で、この1年間で、パナソニックに対する安心感が醸成され、Let'snoteを選択していただける企業が増えています。国内で自社生産していることで、品質のみならず、納期やカスタマイズの柔軟性などが評価されており、これが国内での販売増加に繋がっています。2014年度は、国内でもなんとか2桁増の計画を達成し、国内外を合わせた全体でも2桁増を達成したいと考えています。

--7月下旬から出荷を開始した5型タブレットの「FZ-E1」、「FZ-X1」の反応はどうですか。

原田 出荷台数に関して言えば、それほどまとまった台数は出てはいません。ただ今は、それでもいいと思っているんです。「FZ-E1」、「FZ-X1」に関して言えば、「今年は何万台を出荷するぞ」というような大きな目標を掲げ、それに対して、邁進していくという時期ではないと思っているからなんです。まだ市場に投入したばかりの製品ですから、広げるというよりも、国内外の特定ユーザーに集中的に使っていただき、そこから出てきた要望を徹底的に聞いて改善することに力を注ぐところですね。そうすれば、次の製品の形が見えて来ます。次の製品の形が見えると、発売前にも関わらず、次の製品はぜひ買いたいという話が出てきます。TOUGHBOOKで起こっていたサイクルと同じになるのです。

 また、ある業界において、導入成果が分かると、競合他社もそれを使いたくなります。特定業界において、圧倒的なシェアを獲得できる地盤が整うことにも繋がるのです。オセロゲームで言えば、四隅を取ることに力を注ぐと表現すればいいでしょうか。それが2014年度の取り組みです。盤上の真ん中が、相手に埋められてしまっているように見えると、「まったく勝っていないじゃないか」ということになりますが(笑)、勝負の最後は四隅を取った方が強い。ですから、今はFZ-E1、FZ-X1では、まとまった台数はでていなくても、逆に四隅が取れそうだ、という手応えがあります。

 そして、駒をひっくり返せそうな手応えもあります。2014年度は四隅を押さえて、2015年度にはこれをもとに成長させたい。これがパナソニックのPC事業のスタイルです。お客様とともに製品を進化させ、お客様のビジネスに貢献する。むやみにシェアは追い求めません。最初は試験的に10台、100台導入するが、翌年には1,000台、1万台を導入するというような企業もあります。特定の業界で圧倒的な強みを発揮したい。FZ-E1、FZ-X1でも同様のビジネス展開を進めます。注文書がたくさん来るのは2015年度でいいので(笑)、今はしっかりとした案件を獲得するところから始めています。

--FZ-E1、FZ-X1は、音声機能を搭載したわけですが、これは導入検討の際の重要なポイントになっていますか。

原田 正直なところ、音声機能への反応はまちまちです。あった方がいいというお客様もいますし、無くてもいいというお客様もいる。ただ、一番大きな反応は、5型だからこその大きさですね。これまでにはなかった筐体サイズ、画面サイズで、堅牢性を実現したという点が評価されている。このサイズで、堅牢だから、こんな使い方ができるのではないか、という点に着目されるお客様が多いですね。

 そして、その次に高い評価として、通信環境や音声機能に対する評価があるということになります。今まではパナソニックからTOUGHBOOK、TOUGHPADは購入したことがなかったが、5型であれば話は違う。ぜひ持ってきてくれという声もありますね。

--昨年からタブレットに力を注ぐ姿勢が明確になっていますね。今後もこの姿勢は変わりませんか。

原田 欧州では、TOUGHPADの構成比は来年(2015年)には半分を超えると考えています。米国でも近い将来に、同様の構成比になる可能性があります。日本の場合には、Let'snoteがありますので、そこまで上昇することはありませんが、10型、7型、5型、そして4K20型という製品群のラインナップとともに、「TOUGHPAD増販プロジェクト」を社内でスタートさせました。2015年度から2016年には、Let'snoteの年間販売台数に対して、TOUGHPADが2~3割を占めるところにまで持って行きたいと考えています。つまり、年間10万台程度のTOUGHPADを国内で売りたいわけです。

 これからPC市場全体は大きな成長は見込めません。仮にLet'snoteが横ばいになったとしても、TOUGHPADの成長によって、国内全体で2桁増の成長を維持できる。それに向けて、今仕込みをしているわけです。TOUGHBOOKは、特定の業界をターゲットとした販売が成功しましたが、TOUGHPADはさまざまな業界に対して展開できる製品。成長するチャンスが大きい商材だと言えます。

--10月から始まる2014年度下期はどんな取り組みに力を注ぎますか。

原田 国内は、消費増税に伴う特需の反動や、Windows XPサポート終了に伴う特需の反動が、より深刻化するという見方が支配的ですが、景気動向は徐々に回復しつつあり、年度末における需要はそれなりに期待できます。また、大学をはじめとする文教市場も期待できます。さらに、海外は堅調に推移していますし、TOUGHBOOKを中心に商談も積み上がってきています。そして、TOUGHBOOKも海外の自動車産業や官公庁向けを中心に好調に推移している。日本における来年1月からの春商戦をうまく乗り切れば大崩れせず、事業計画を達成できると考えています。

F2-M1
JT-B1
Let'snoteシリーズ

--下期は、具体的にはどんな製品が登場しますか。

原田 Let'snoteの新製品も投入しますし、これによって国内市場を活性化させたいですね。素晴らしい仕上がりの製品が投入できますから、ぜひ期待していてください。

 また、海外でもTOUGHPADの製品ラインナップの拡充に乗り出しますので、それによって当社製品が利用される裾野を広げていきたい。これによって、前年比2桁増の達成に向けた製品群が揃うことになると考えています。中でも、TOUGHPADのラインナップ強化は、今年度の重要な取り組みの1つで、パナソニックのPC事業として過去最大の製品ラインナップが揃うことになります。

--タブレットの比重が増えることで、パナソニックのPC事業は中長期的に大きく変化していきますね。

原田 パナソニックのこれからの強みは何か。それは、堅牢技術、決済機能、移動体通信技術の3つのコア技術を持っているということです。これらを活用して、お客様の最大限お役に立つことで、事業を展開していきたい。パナソニック全体では、2018年度にBtoBソリューションで2兆5,000億円の売上高を目指す中で、PCやタブレットを軸としたモビリティ事業が牽引役になる必要があります。そのためには、PCメーカーという切り口だけでは厳しいのは確かです。単なるPCメーカーではなく、3つの技術の価値を最大化することが、これからの我々の強みになると考えています。

 例えば、2013年4月には、事業部化に合わせて、POS、決済端末などを担当するターミナルシステムビジネスユニットとの一体運営を開始しましたが、PC事業を行なう組織の中に、決済機能の技術を持っているのはパナソニックだけであり、他のPCメーカーにはないものです。これは別の角度から見ても同じことが言えます。つまり、決済端末メーカーには、PCやタブレットの技術を持っているところはありません。我々がやるからには、固定した端末に決済機能を搭載するいう製品ではなく、決済機能を持ったタブレットや、決済機能を持ったノートPCといったものになります。それを持ち運びながら使うことで、お客様の利便性や効率性を高められます。ただ持ち運んで使うとなると、当然、堅牢性が必要になります。ここでパナソニックの強みを発揮できる。これは、PCメーカーという範疇を超えた取り組みになると言えるのではないでしょうか。2015年度以降に、こうしたものがTOUGHPADブランドの製品の1つとして登場することになります。

 日本では、決済用カードリーダでは7割のシェアがありますが、海外での実績はゼロです。だからこそ、そこにはビジネスチャンスがあります。決済端末という提案だけでは勝てないが、堅牢性を活かして、雨の中でも決済できる端末というような付加価値が提案できれば戦えます。堅牢技術、決済技術、移動体通信技術の3つの技術を持った製品を連打していくことで、2桁成長の維持や、年間100万台の出荷という目標を達成することができると考えています。

 PCメーカー各社は、厳しい環境にあり、どの方向に行くべきかを迷っているのではないでしょうか。それに対して、パナソニックには明確な道筋ができている。たくさんのお客様から話をお聞きし、製品を強化すれば、貢献できるという手応え感がある。そこに成長のチャンスがあると思っています。

(大河原 克行)